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イベリス

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第五十五話 速水の食事その七

「そうですよね」
「はい、医学の歴史に名を残す」
「そうした人でしたね」
「その彼に学び」 
 ドイツでそうしてというのだ。
「優秀で知られたのです」
「ドイツでもですか」
「それでエリート中のエリートとして日本に戻って」
「活躍したんですね」
「山縣有朋の派にも入り」
 日本陸軍の父と呼ばれた人物だ、嫌う者は当時から今も極めて多かったが一度見込んだ人物は決して見捨てなかったという。
「そして出世を重ね」
「遂に陸軍の軍医さんのトップになったんですぁ」
「まさにエリート中のエリートでした」
「お医者さんとして凄かったんですね」
「その地位は。ですが」
 それでもと言うのだった。
「優秀な成績でエリート中のエリートだっただけに」
「だからですか」
「プライドが高く己の学説に意固地で」
「こだわって」
「そして他の学説を認めず」
 そうしてというのだ。
「海軍が脚気は食事が原因と突き止めても」
「それでもですか」
「それを認めず」
 そうしてというのだ。
「あくまで白米にこだわり」
「陸軍では脚気が多かったんですね」
「そして多くの人が亡くなりました」
「そうだったんですか」
「小説家、翻訳家としての森鴎外の功績は素晴らしいです」
 速水はこのことは認めた。
「ですが」
「お医者さんとしてはですか」
「己の学説にこだわり多くの犠牲者を出した」
 そうしてしまったというのだ。
「それも戦局に影響を与えかねないまでの」
「そんなに沢山の人が亡くなったんですか」
「はい、ですから」
「お医者さんとしてはどうかっていう人だったんですね」
「最低かと」
 速水は厳しい口調で述べた。
「むしろ」
「そうした人でしたか」
「遂に陸軍でも彼の反対を押し切って麦飯を導入した程です」
「見限られたんですか」
「あまりにも頑迷に細菌説を主張したので」
 脚気の原因についてだ。
「その山縣有朋も彼と共に陸軍を預かっていた桂太郎も寺内正穀も」
「皆ですか」
「そうしたそうです」
 そもそも三人共海軍の状況を見て麦飯を導入すべきと言っていたのだ。
「これが医師としての森鴎外、本名である森林太郎です」
「何かイメージ狂いますね」
「そうですね、しかしこれもまた歴史であり」
 速水はさらに話した。
「人間というものです」
「何か森鴎外が小説家翻訳家して凄くてお医者さんでエリートでチートとか」
「その人生を見てですね」
「目を輝かせている文女の人いますよ」
 文学女子のことだ、世の中そうした趣味の女性もいるのだ。
「そうした人は」
「その一面を知らないのです」
 速水はきっぱりと言い切った。
「森林太郎の」
「そうなんですね」
「若しこのことを知れば」
 脚気の話をというのだ。
「そう言えるか」
「言えないですよね」
「そうかと」 
 その時はというのだ。 
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