魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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GX編
第114話:三槍士の戦い
前書き
どうも、黒井です。
今回はキャスターvsビースト戦があります。
颯人は1人、S.O.N.G.本部の一室で考え事に耽っていた。椅子に腰掛け、机に足を掛けて椅子を後ろの足2本だけでバランスを取るくらいに倒している。その状態で体を前後に揺すりながら、視線は虚空を彷徨っていた。
そんな彼の対面には奏が椅子に腰掛け、机の上に肘をつき手を組んでその手の上に顎を乗せている。彼女の視線が向いているのは、机の上。そこにはチェスボードに将棋盤、トランプと色々なものが散らばっていた。
奏はそれらを一頻り眺め、次いでぼんやりと虚空を見つめる颯人に目を向け口を開く。
「随分悩んでるな、颯人?」
「悩みもするさ。何しろ相手方の狙いが分からない上に、こっちもこっちで問題抱えてんだからな」
エルフナインの話を聞き、敵についてある程度認識した後のミーティングでの事だ。
翼のあまりにも似ていないアルカノイズのイラストにクリスが苦言を呈したりする中、話が現時点で戦える者達へと移る。
現状戦えるのは魔法使い3人に、装者が奏と響の2人のみ。……なのだが、ここで響がシンフォギアを纏って戦う事に対して否定的な考えを口にしたのだ。そしてそれに対し、マリアが厳しい言葉を投げかけた。
曰く、響の話は力を持つ者の傲慢だ……と。
これは偏に響との付き合いの長さの違いも関係しているだろう。奏は響との付き合いも長いので彼女の戦う理由もよく理解している。
響が戦うのは偏に守る為だ。ジェネシスのメイジ達に対して力を振るえていたのは、彼らがすでに洗脳状態であり実質的にノイズと大差ない、話の通じない存在になっていたからだ。争いを好まぬ響きであっても、元より話の通じない相手に対話を持ちかけようとするほど愚かではない。
それに彼らを倒し無力化する事は、後に彼らを解放する事にも繋がる。故に響はジェネシスの魔法使いに対しては拳を向ける事が出来るのだ。
だがこれが、明らかに自らの意志で事を成そうとしている連中相手となると話は違ってくる。この度敵として立ちはだかる事になったキャロルと言う錬金術師。響は彼女と直接相対し対話する事になったのだが、キャロルには明らかに自分の意志がありそれにより戦いに赴いていた。
そのキャロルを相手に拳を向けるという事は、相手の意志を力でねじ伏せるという事に繋がる。響はそれが嫌だと言うのだ。
「ぶっちゃけて言うと、響ちゃんは今回あんまり戦わせるべきじゃないかもしれない。あの子には向かない仕事だ」
「甘いねぇ、颯人も」
「そういう奏はどうなんだよ?」
「アタシも同意見だよ。響は無理に戦わせるべきじゃない。そもそも響は――――」
「おっとストップ。その話はもう終わった事だろ?」
響が戦いに出る事になったのは自分の所為……そう口にしようとした瞬間颯人がそれを遮った事で、奏は喉元まで出掛かった言葉を飲み込んだ。
「……悪い」
「気にすんな。それに今考えるべきことは、前の事じゃなくてこれからの事だ」
徐に颯人は机から足を退け、チェスの駒に手を伸ばした。キングを手に取り、それを手の中で弄ぶ。
「キャロルっつったっけ? アイツは絶対に倒す。目にもの見せねえと気が収まらねえ」
「ビーストとか言う魔法使いじゃなく?」
「あぁ」
颯人がキャロルに対してここまで敵愾心を向けるのには理由がある。彼女は颯人が許容できない言葉を口にしたのだ。
それはずばり、奇跡を殺す……と言う言葉だ。
「この俺、奇跡の手品師の息子である俺が居る事を知ってて、アイツは奇跡を殺すと宣いやがった。これは俺への宣戦布告だ、間違いねえ。だったらその勝負受けてやるよ」
勿論これは颯人の勝手な解釈だ。キャロル本人にそんなつもりは毛頭ないであろうことは百も承知。だがしかし、例えそうであったとしてもその言葉は颯人には受け入れ難いものであった。
故に今回、颯人は本腰を入れて事件解決に向けて動くつもりだ。今までと違い、今回は全力で自分を押し出し戦いに臨む。
その為には、響の不調も何とかせねばと言う思いがあった。
――理想的なのは、響ちゃんが戦いに対してただ相手を傷つけるだけって言うのとは違う思いを持ってくれることなんだけどな~――
颯人が悩んでいると、唐突に室内に警報が鳴り響く。何かが起こった合図だ。颯人は奏と顔を見合わせると、即座に立ち上がり部屋を出て発令所へと向かう。
途中マリアにガルド、透とも合流し発令所への扉を潜ろうとした。瞬間、彼らが辿り着くよりも先に扉の方が勝手に開き中から慎二が飛び出してきた。
「おっとと! 緒川さんどうした?」
「敵の襲撃です! 響さんが襲われています!」
「何!?」
慌てて発令所に入りモニターを見ると、そこでは響と未来、そして友人達が複数のアルカノイズに囲まれている。その近くには青いオートスコアラー・ガリィの姿もあり、先日奏達に行ったのと同じシンフォギア装者への襲撃である事が伺えた。
それを見て奏・マリア・ガルドの3人が踵を返し慎二と共に響の救援に向かおうとした。透もそれに続こうとするが、それは颯人により止められる。
「ちょい待ち、透」
「!」
「俺達はここで待機だ。戦える人数が少ない今、一か所に全戦力を割くのは得策じゃない。だろ?」
「あぁ、颯人君の言う通りだ。どういう訳か今、響君は歌う事が出来ずシンフォギアを纏えない。この状況で本部の戦力を空にする訳にはいかないからな」
響が戦えなくなっているとは颯人も初耳だったので、目を見開いてもう一度モニターを見る。すると確かに、響はギアペンダントを手に持ってはいるがシンフォギアを纏う様子が無い。
どうやら響の精神的コンディションは、颯人が思っていたよりも悪いらしい。由々しき事態に颯人は鉛を飲み込んだような顔をした。
「不味いな……」
颯人の小さな呟きは静かに発令所の中へと消えていく。颯人はそのまま、発令所のモニターで事の次第を見守るのだった。
***
突如現れたオートスコアラーのガリィによる襲撃を受けた響達は、詩織の機転により一時はあの場を逃れる事に成功した。
「あんたって、変なところで度胸あるわよね!」
「去年の学祭もテンション違ったし!」
「さっきのはお芝居!?」
「偶には私達が、ビッキーを助けたって良いじゃない!」
「我ながら、ナイスな作戦でした!」
彼女達が、と言うか詩織がやった事は単純で、ガリィが響の友人を襲おうとしているのを見て取り咄嗟にただ帰り道が同じなだけの無関係を装ったのだ。あまりにも堂々としたその佇まいに、ガリィも役に立たない邪魔者を追い払う様にアルカノイズの包囲を緩め、その瞬間に5人は一斉に逃げ出したのである。
だがそこはガリィも織り込み済みであり、逃げられたと見るやその希望を潰すべくアルカノイズに追撃させた。
「――と見せた希望をここでバッサリ摘み取るのよね!」
即座に後から追いかけてきたアルカノイズが、解剖器官を振るって街灯やベンチ、路面を分解しながら迫る。アルカノイズ達が追いかけてきた事に響達は焦りの表情を浮かべ足る速度を上げようとするが、彼女達は所詮ただの小娘。響は鍛えているがそれ以外は精々少し運動をしている程度で限界はある。
「アニメじゃないんだから~!?」
弓美が悲鳴を上げながら走っていると、アルカノイズの1体が振り回した解剖器官が響の足元を抉る。幸いな事に響の足は無事だったが、靴と靴下が分解され更に足元が消失した事でバランスを崩し大きく転倒。その際に手に持っていたギアペンダントが響の手を離れて飛んで行ってしまった。
「ギアがッ!?」
飛んでいったギアペンダントを目で追うしかできない響。
そこに1台の車が乱暴な運転でスピンしながら停車し、同時に開いた扉からマリアが飛び出すと響の手から離れたギアペンダントを空中でキャッチした。
「Granzizel bilfen gungnir zizzl」
「マリアさんッ!」
そのまま空中で聖詠を口にし、響に代わりガングニールを纏う。その姿は以前に比べるとマントが無いと言う違いがある。恐らくはLiNKERを打っていない事によるものだろう。以前に比べて適合係数が低い状態で纏ったので、弱体化した姿になっているのだ。
その様子に、発令所で見ていた颯人は心の中でマリアに向けて十字を切った。
実のところマリアが現場に向かった事に関して、颯人は若干疑問を抱いていた。戦えないのになぜ向かうのかと。
だが現場には響の友人達が居る。慎二と共に彼女らの避難を手伝うのであれば、誰も文句は言わなかっただろう。
しかし現実にはマリアは響が手放したガングニールでシンフォギアを纏ってしまった。それも恐らく体に負担が掛かる形で、だ。
これは後で了子とアルドにより説教されるだろう。そう確信しての切られた十字であった。
そんな颯人の心配を他所に、現場ではマリアに続き奏とガルドも車から降りマリアに続いて響達を守るべく動いた。
「Croitzal ronzell Gungnir zizzl」
「変身!」
〈マイティ、プリーズ。ファイヤー、ブリザード、サンダー、グラビティ、マイティスペル!〉
マリアと同じくガングニールを纏った奏と、キャスターに変身したガルドが並び立つ。奏とガルドは、殆ど無許可でシンフォギアを纏ったマリアに目を向けずにはいられなかった。
「おいおいマリア、良いのか? 勝手にシンフォギア纏って……」
「後でアルドに怒られるぞ?」
颯人と全く同じ懸念を抱く2人だったが、マリアは少しも怯んだ様子を見せない。
「分かってる。それでも、戦わない訳には…………ッ!?」
意気込むマリアではあったが、次の瞬間ギアの各部から嫌なスパークが散った。やはりLiNKER無しで適合係数が低い状態でのギア装着は負担が大きいらしい。
言葉を詰まらせ、顔を顰めるマリアの姿に奏は溜め息を吐くと念の為にと予備で持っていた自分の分のLiNKERをマリアに手渡した。
「! これ……」
「使いな。無いよりはマシだろ?」
「良いの?」
「良くないよ。アタシ用の奴を勝手にマリアに使わせるんだ、アタシだって後で大目玉だ。それでも……この状況を治めるには必要だろ」
「……ありがとう」
一蓮托生、マリア共々叱られる覚悟で奏はLiNKERを与え、マリアはそれに素直に感謝すると首筋にLiNKERを注射した。それにより適合係数が上がり、負担が軽減したのかマリアの顔色が良くなる。
「これなら、戦える!」
「よっしゃ! 行くぞ2人とも!」
「あぁ!」
奏・マリア・ガルドと言う3人の槍使いが一斉にアルカノイズに挑む。
開幕、マリアの「HORIZON♰SPEAR」により先頭のアルカノイズが何体か薙ぎ払われ、それを皮切りに次々とアルカノイズ達が倒されていく。
『マリア君! 発光する攻撃部位こそが解剖器官、気を付けて立ちまわれ!』
唐突にマリアに弦十郎からの注意の通信が入る。今この場で戦っている者の中で、明確にアルカノイズの解剖器官に対する耐性が皆無なのはマリアが纏うガングニールのみ。戦えたとしても、マリアだけは殊更に慎重な立ち回りが要求されるのだ。
『奏、ガルド君! マリア君を可能な限りサポートしてやれ!』
「了解、旦那!」
「言われなくとも!」
反対に解剖器官による攻撃に耐性を持っている奏とガルドは、精神的に余裕があるので戦いながら絶えずマリアを視界に収めサポートできるように立ち回っていた。そのおかげもあって3人は危な気なくアルカノイズの数を着々と減らせていた。
ガリィが途中で追加のアルカノイズを召喚しても、それらも次々と倒されていく。その様子をガリィは静かに眺めていた。
「想定外に次ぐ想定外……捨てておいたポンコツが、意外な位にやってくれるなんて」
その口調はどこか嬉しそうでもあった。だがしかし、その視線が奏とガルドの方に向くと途端に表情が険しくなる。
「分かんないのはあの女の方。ファラちゃんの報告だとあの女のギアは分解できなかったみたいだけど……まぁそれはいいわ。それより邪魔なのはあの魔法使いの方ね」
〈サンダーエンチャント、プリーズ〉
ガリィの視線の先で、ガルドが雷属性を付与した槍で周囲のアルカノイズを一掃。邪魔する者が居なくなったのを見て、一直線にガリィに向けて駆けて行った。
「ここで終わらせる! 覚悟!!」
ガルドが飛び上がり、大きく振り上げたマイティガンランスをガリィの頭上に向けて振り下ろした。しかしガリィに回避も防御もする素振りはない。その事にガルドが若干の違和感を抱いた、その時である。
〈セイバーストライク!〉
「ッ!? ぐあぁっ?!」
「ガルド!?」
「誰だ!」
突如として何処からか飛んできた半透明に輝く隼が3羽、ガルドに突撃し撃ち落とした。奏とマリアが攻撃の飛んできた方を見ると、2人の頭上をオレンジの肩マントを右肩から靡かせたビースト……ハンスが飛来し撃ち落とされて地面に倒れたガルドをかっさらって何処かへと飛んで行ってしまった。
「ぐっ!? 貴様、ビーストとか言う!?」
「ウィザードから話聞いてなかったのか? 俺が居るって事忘れんな!」
奏・マリアから離れた所で解放されたガルドは、襲撃された時と同様唐突に手を離され成す術なく落下。地面に叩き付けられ、マイティガンランスを杖代わりに何とか立ち上がった。
「くそ、コイツッ!?」
「来い、遊んでやるよ」
〈カメレオン! ゴーッ! カカッ、カッカカッ、カメレオー!〉
ハンスは右手の指輪を別のものに交換し、ベルトの穴に嵌めて右肩のマントを変えた。肩当は緑色のカメレオンの頭部を模したものになり、伸びるマントも同色に変化する。
何をするつもりなのかは知らないが、こんな所でもたつく訳にはいかないとガルドはハンスが動く前に接近しマイティガンランスを振り下ろした。だが彼の攻撃が当たる直前、何とハンスの姿が景色に溶け込むように透明になり姿が見えなくなった。
「何ッ!?」
そのまま槍を振り下ろすが手応えはない。ガルドは突然の出来事に先程までハンスが居た場所を凝視してしまうが、次の瞬間背中を何かで斬りつけられ前方に転倒してしまう。
「がぁっ!? くそっ!!」
倒れながらも即座に立ち上がり、先程自分が居た場所の背後を薙ぎ払うもやはり手応えはない。次は何処から攻撃が来るのかと警戒するガルドだったが、警戒も空しく再び背後から攻撃を受け体勢を崩されてしまった。
「ぐぅっ!? くっ!?」
敵が何処から攻撃してくるか分からない。そのプレッシャーに、しかしガルドは負ける事無く打開策を編み出した。
「姿が見えないと言っても、存在しているなら!」
〈ファイヤーエンチャント、プリーズ〉
炎属性の魔法を付与したマイティガンランスを、ガルドは上空に向け砲撃モードにして引き金を引いた。放たれるのは火炎弾、それが火山の噴火の様に頭上に打ち上げられ、そして重力に引かれて落ちてくる。まるで絨毯爆撃の様に次々と地面で炸裂する火炎弾に、姿を消したハンスも身動きを制限される。
「くっ!? 無茶苦茶しやがる!」
とは言え直撃弾が無ければそれも意味はない。無駄な足搔きと、ハンスはガルドの行動を嘲笑った。しかしガルドの本当の目的は別にある。彼はこの攻撃でハンスを倒そうなどとは微塵も思っていないのだ。
「カナデ! 分かっているな!」
「あぁ!」
[STARDUST∞FOTON]
突如として降ってくる槍の雨。それは先程のガルドの攻撃によりギリギリ被害を受けなかった場所を狙って降り注ぎ、その内の一本がハンスに向けて飛んできた。
「何ぃっ!?」
咄嗟に飛んできた槍をダイスサーベルで弾くハンスだったが、それにより彼の居場所が露見してしまう。姿は見えなくても、そこに居る事が分かってしまえば攻撃は可能だった。
「そこだ!」
〈ブリザードエンチャント、プリーズ〉
ハンスが居るだろう場所に向け放たれるのは鋭い氷柱。氷属性の魔法を付与したガンランスの砲撃により放たれたそれは、一直線にハンスに向けて飛んでいた。
「させるか!」
〈フォー! セイバーストライク!〉
最早姿を隠しても意味が無いと、擬態を解いたハンスの放ったセイバーストライクが氷柱とぶつかり合う。4つの半透明に輝くカメレオンが伸びる舌で氷柱を受け止め、何とか防ぐことに成功した。
状況は振出しに戻った。ただ先程と違うのは、ガルドの隣に奏が来ている事だ。何故ここに奏が来れたかと言えば、恐らくそれは先程のガルドの攻撃を目印にしての事だろう。あの火山の噴火のような攻撃はハンスを炙り出す為の物ではなく、奏に位置を知らせる為の物だったのだ。
だがもう一つ、ハンスにはどうしてもわからない事がある。奏がここに来た時、彼女は既に状況を理解したような行動を取って見せた。ここに来た時点で奏の目にはハンスなど見えていなかったし、ハンスが姿を消す瞬間を見ても居なかった筈なのに何故即座にあんな事が出来たのか不思議でならない。
「お前、どうして俺がすでに姿を消してた事が分かった?」
「アタシには、頼りになる仲間が居るんでね」
そう言って奏が視線を向けた先には、颯人のレッドガルーダが居た。実は颯人は、本部に待機していながらも奏達のサポートにと使い魔を送り込んでいたのだ。その使い魔が、連れていかれたガルドの後を追い状況を観察。颯人の口から奏に通信でハンスが姿を消している事と、ガルドと奏にどう行動すれば対処できるかをこっそり通信で話していたのだ。
『これでロスでの借りは返したぜ、ビーストボーイ』
相手に聞こえても居ないのに、颯人は通信機に向かいそんな事を呟く。
「さぁ、今度はこちらから行くぞ!」
姿が見えるようになり、また姿を消されても対処できることが分かったガルドは反撃開始とばかりに一歩前に踏み出した。しかしその瞬間、彼の視界が歪み足から力が抜けその場に蹲ってしまった。
「うぐっ!? くっ!? くそ、これは……」
「ガルド!?」
奏が咄嗟にガルドの前に出て、ハンスとの間に入り壁となる。どうやら限界が来てしまったらしい。今だ不調の体で、寧ろここまでよく持ち堪えたと言ったところか。
もうこれ以上ガルドが戦えないと見て、奏を適当にあしらいガルドにトドメを刺そうかとハンスは考えた。だが、チラリと遠くを見ればガリィの方が状況があまり宜しくない。それはガリィが押されているという意味ではなく、”目的が果たせそうもない”と言う意味でだった。
「あいつ、どうした?」
その疑問の理由はマリアにある。遠目に見えるところで、突如としてマリアのシンフォギアが解除されその場に蹲ったのだ。
『いけない!? マリアさんのギアが!?』
「ッ!? あっちも限界か!?」
ここに来て一気に2人が戦闘不能になった事に、奏が焦りを浮かべる。今すぐマリアを助けに行くべきか? しかしここにガルドを放置していく訳にも……
と思っていたら、ガリィは何を思ったのかマリアにはトドメを刺さず奏の方へとやって来た。
「あの女がダメなら、せめてあんただけでも!!」
「チッ!」
何を考えているのか分からないが、マリアを見逃してくれると言うのであれば好都合。奏は自分が頑張って、颯人が応援に来てくれるまで持ち堪えようと身構えた。
しかし…………
「ウッ!? お、ぁ…………」
「はっ!?」
「何だ?」
突如としてハンスが頭を抱え大きくふら付いた。味方に続き今度は敵に起こった不調に、奏が困惑しているとガリィは奏を無視してハンスの元へ駆け寄った。
「ちょっとハンス! 大丈夫なの!?」
「気にするな……少し、疲れただけだ……」
「強がり言ってんじゃないわよ、ったく!」
ガリィは悪態を吐きながら、転移に使うテレポートジェムを取り出すとそれを地面に叩き付けハンスと共に姿を消した。
始まりと同じく、何が何だか分からぬ間に終わった戦いに奏は暫し周囲を警戒していたが、何事も起こらないのを見て肩から力を抜いた。
「ふぅ……一体何だったんだ?」
『さてな。どうやら向こうにも、戦いにおいて制約の様な物があるらしい。取り合えず、マリア君響君達と合流して戻ってきてくれ』
「あいよ~」
奏はシンフォギアを解除すると、同じく変身を解除したガルドに肩を貸してマリア達が居る方へと向かっていく。
「すまない、カナデ。俺が不甲斐無いばかりに……」
「気にすんなって。仲間ってのは迷惑を掛け合うもんだろ?」
「ふふっ……そうか。そうかもな……」
話しながら歩き続け、マリア達へと近付いていく奏達。
その視線の先で、立ち上がったマリアが響にガングニールを返そうとすると、響はマリアの手からガングニールをひったくる様に手に取った。
「私のガングニールです! これは、誰かを助ける為に使う力! 私が貰った、私のガングニールなんです!!」
響らしからぬ必死さを感じさせる言葉に、誰も何も言えなくなる。響の中で、誰かを助ける為の筈の力を纏えず剰え、戦いの為に使われた事は許せなかったのだろう。
だが同時に、何も出来なかった自分への不甲斐無さも感じている筈だ。その証拠に、言ってしまった後になって自分の言動を思い返したのか、申し訳なさそうに、だがそれでもどこか納得していない様子でマリアに謝った。
奏はそれを見て、何と言うべきか迷い顔を俯かせた。何だかんだ言っても、やはり奏にはどうしても響を巻き込んでしまったと言う負い目がある。その負い目が、響に必要以上に強く出る事を控えさせていた。
それを察した訳ではないのだろうが、奏の代わりにマリアが響に厳しい言葉を投げかける。
「そうだ、ガングニールはお前の力だ。だから……目を背けるな!」
「目を……背けるな……」
マリアの言葉を繰り返し、マリアからは目を背ける響の姿に2人への申し訳なさを感じずにはいられない。マリアの言葉は、本来であれば巻き込んでしまった奏が響に言うべき言葉だ。戦いに巻き込んでしまった以上、奏には響を導く義務がある。
その義務をマリアに押し付けてしまった。その事に対し奏は申し訳なさを感じずにはいられないのだった。
後書き
ここまで読んでいただきありがとうございました。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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