Dragon Quest外伝 ~虹の彼方へ~
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Lv68 破邪の刻印
[Ⅰ]
ヴィゴールは俺に悪態を吐くと黒い水晶球を取り出した。
本来の姿に変身するのだろう。
(さて……どうするか。ヴィゴールはここで変身するつもりのようだが、さすがにこの面子で、コイツと対峙するのは骨が折れるな。というか、まともにやりあうと、多分勝てん気がする。ここは隙をついて、ラーのオッサンが言ってた方法を取るとするか……)
俺はそこで背中に背負っている光の杖を手に持ち、奴に話しかけた。
「へぇ……結界ねぇ。言っとくけど、中途半端な結界じゃ持ち堪えられんと思うけどね。お前の主であるアシュレイアですら、強制送還されたんだから」
ヴィゴールはニヤリと笑った。
ちょび髭面のせいか、ちょっとムカつく笑い方だ。
【クククッ……良いこと教えてやろう。このラルゴの谷はミュトラの聖堂から少し離れている。だから、結界の力もその分、少し弱まるのだ。影響を全く無くすことは出来んが、多少は抗う事も出来る。今、その証拠を見せてやろう」
ヴィゴールはそう言うや、黒い水晶球を掲げた。
(よし、今だ!)
俺は準備しておいた光の杖を地面に付け、ラーのオッサンから習った呪文を素早く唱えた。
「ローシク……シーナ……ムトゥ・ノウン・リュビスト」
その刹那、光の杖の先端に取り付けられている水色の宝石が、閃光のように眩く光り輝いたのである。
ヴィゴールはあまりの眩しさに顔を歪める。
【グッ! なんだ一体、その光は!】
同行している魔導騎士達の驚く声も聞こえてきた。
「コータロー殿の杖が突然発光し始めたぞ!」
「こ、これは……」
アヴェル王子とウォーレンさんには事前に話してあるので、眩しそうにしているだけであった。
(そういや、彼等に説明するのを忘れてたわ……ま、いっか。結果は変わらんし。ン?)
すると次の瞬間、エドガー様達が捕らわれている魔法陣もそれと連動するかのように、青白く発光し始めたのである。
【なッ!? 馬鹿な! 魔法陣が勝手に動き始めただと! どうなってる! グアァァ……か、身体がァァァ動かないィィィ】
ヴィゴールの悲鳴にも似た叫び声が響き渡ると共に、魔法陣に捕らわれていた騎士達はバタバタと床に倒れていった。
そして、杖の眩い光は役目を終えたかのように、静かに消えていったのであった。
辺りに静寂が漂う。
ヴィゴールはエドガー様達と入れ替わるように、魔法陣の結界内で金縛りに遭っていた。
どうやらラーのオッサンの言っていた通り、魔法陣の結界を光の杖の影響下に置くことに成功したようだ。
つまり、この場で捕らわれているのはヴィゴールだけとなった。
ヴィゴールは言葉も発する事ができないくらい、身体が痙攣していた。
ちなみに、魔物と思われる他の神官達は、魔法陣の外にいるので影響はない。今やってるのは魔法陣の魔力供給源の乗っ取りであり、これを行使した者にその力が跳ね返っている状況だからだ。本当はまとめて捕縛したかったが、ヴィゴールの行動を封じる事が先なので、致し方ないところである。
まぁそれはさておき、俺はそんなヴィゴールに近づき、穏やかに話しかけた。
「ヴィゴール……お前の魔法陣は乗っ取らせてもらったぞ。残念だったな。お前の言う通り、この地域はリュビストの結界から離れてはいる。だが、ここは一応、リュビストの結界内だ。リュビストの加護を受けた魔導器を用いれば、こういう事も出来るんだよ。迂闊に行動したお前の負けだな」
【ヴギギギギッ……】
ヴィゴールは何かを言いたそうだったが、言葉にはできなかった。
俺は奴を無視して話を続ける。
「それと……その様子を見る限り、やはり、この魔法陣の結界を施したのはお前自身のようだな。今のお前の状態は、リュビストの力に押されて、魔法陣を行使した術者へと魔力が逆流した事によるものらしいよ。俺の協力者が昨日そんな事を言ってたからな。ま、そういうわけだ。観念するんだな」
ラーのオッサンの話を要約すると、人を呪わば穴二つといったところか。
何事も完全というのは無いものである。
と、その時であった。
【不味い……ヴィゴール様が奴等に捕まってしまった! に、逃げるぞ】
【ヒィイ】
【逃げろォ!】
ヴィゴールの号令と共に現れた数名の神官達は、この場から一目散に逃げだしたのである。
その逃げ足たるや、脱兎の如くであった。
神官達は奥にある通路へとあっという間に消えていった。
俺達はその様子をただポカンと眺めているだけであったが、肝心の黒幕は目の前にいるから問題はない。
(なんつー逃げ足の速さ……もしかしてアイツ等、メタルスライムかなにかじゃないだろうな)
アヴェル王子はそこで俺に視線を向けた。
「あの魔物達は逃げてしまいましたが、どうしましょう? 追いかけますか?」
「いや、放っておきましょう。昨日見せて頂いた神殿の見取り図には幾つか外部に通じる通路がございましたので、このまま追いかけても、多分取り逃がす確率の方が高いです。それよりも、まずはコイツの対処とエドガー様達の救出を優先しないといけませんね」
「確かに、まずはそれですね」
「ところで、魔法陣の中に我々はもう入っても大丈夫なのか? 一応、あのお方の話じゃ、大地の魔力が源になってるから、そこの流れを乗っ取れば術者に跳ね返るとはいってたが……」と、ウォーレンさん。
ウォーレンさんは昨日あったラーのオッサンの話を聞いて、眉唾に思っていたのだろう。
俺も多少はそう思っていたので、わかるところではある。
「恐らく、大丈夫だと思います。さっきの感じだと、エドガー様達は魔法陣の呪縛から解放されたように見えますし。今この魔法陣は、行使者と思われるヴィゴールにしか影響がないとみていいじゃないですかね」
「まぁ確かにそうだが……」
ウォーレンさんはそう言って少し困った表情をした。
この魔法陣の性質を考えれば、慎重になるのも無理はないところだ。
俺が言ってることも確証はないし。
アヴェル王子はそんなウォーレンさんの肩にポンと手を置いた。
「ウォーレン、ここはあのお方を信じよう。では我々はエドガー様達の救助に向かうとします。我々が無事でしたら、コータローさんも中に入ってヴィゴールの対処をお願いしますね。行こうか、ウォーレン」
「ええ」
アヴェル王子とウォーレンさん、そして他の魔導騎士達は魔法陣の中へと入ってゆく。
中に入っても王子達は普通に動けていた。やはり大丈夫のようだ。
アヴェル王子は俺に振り返り、笑みを浮かべると無言で頷いた。俺も頷き返す。
そして、俺も魔法陣の中へと入ったのである。
アヴェル王子達は早速、床に倒れ込むエドガー様達の介抱へと取り掛かった。
そんなアヴェル王子達を横目に、俺はヴィゴールの前へ行き、ラーのオッサンに教えてもらった破邪の刻印という秘法に取り掛かるのであった。
破邪の刻印……これはラーのオッサン曰く、邪霊に取り憑かれた者を救う古の秘法らしい。まぁ要するに、呪いを解く魔法の一種のようだ。
で、なぜこれを行使するのかというと、グアル・カーマの法に対抗する手段として、ラーのオッサンがこれを提案してきたからである。
言っている本人も上手くいくかどうかわからんが、やってみる価値はあるといっていた。
なんでも、この破邪の刻印を身体に刻まれた者は邪霊を追い出す以外にも、悪しき心があればあるほど厳しい戒めが身体に現れるようなのだ。
つまり、邪心を持つ者に罰を与える魔法でもあるらしい。
遥か昔は、この刻印を用いて人々の呪いを解く者達がいたそうだが、結構強力な秘法なので、呪いを解いた後は刻印を消していたそうである。たぶん、副作用が凄いのだろう。
まぁそれはさておき、俺は刻印を描く為のインクとペン、それと刻印を描いた見本の紙をそこで取り出した。
ちなみにこのインクは、毒消し草と濾過した綺麗な水、それから俺の血を少量混ぜて作られている。
なもんで、ちょいと痛い思いをしないといけないレシピのインクであった。
ラーのオッサン曰く、行使者の血液は必須との事だ。
(さて……それじゃあ始めるか。これを使って対象者の額に刻印を描くんだったな……面倒だけど、やるしかないか)
ラーのオッサンから教えてもらった刻印の下書きを見ながら、俺はヴィゴールの額にインクを付けたペン先を向けた。
刻印は幾つもあるので少々骨の折れる作業であった。
一応、見た目を言うと刻印自体はルーン文字のような感じだ。なので、古代リュビスト文字というモノに似ている。だがオッサン曰く、リュビスト文字では無いようだ。
これはミュトラの加護を受けたい時に用いられる神聖文字らしい。その昔は、ミュトラに認められた者にしか扱えないシロモノだったそうである。
(なんかよくわからん刻印だが、呪いを解くくらいだからかなり力のある文字なのだろう。ゲームでは教会の神父にお布施払うと呪いを解いてくれたけど、リアル再現するとこんな事してたのか……なんて、ンなわけねぇか。ゲームと今の世界を混同しすぎだな。まぁどうでもいいか。さてと……こんなもんかな)
刻印を全て描き終えた俺は、続いて仕上げに取り掛かる。
ヴィゴールの額に描いた刻印のとある箇所に人差し指を当て、俺は魔力を籠めたのである。
するとその直後、刻印は一瞬光を放ち、フッと消えていったのであった。
これで作業は終わりである。
(とりあえず、言われた通りにやったから、これで良い筈だ。あとは魔法陣の乗っ取りを解いて、破邪の刻印が上手くいったか確認するだけだが……アヴェル王子達はどんな感じだろうか)
礼拝堂内に視線を向けると、エドガー様達は安全な神殿の外へと大部分が退避できているようであった。
だが、まだ数人残っているので、彼等の避難が終わったところで解いたほうがよさそうだ。
と、そこで、アヴェル王子と目が合った。
王子はこちらへとやって来る。
「コータローさん、こちらはもう少しで終わりです。エドガー殿達は全員無事でした。とはいえ、3日程あの状態でしたので、エドガー殿達は少し衰弱していますね。そこが少し気がかりですが、一先ず危機は脱したとみて良いでしょう」
「それはよかったです。一応、こっちも今終わったところです。とりあえず、エドガー様達の避難が終わったら魔法陣の魔力を元の流れに戻そうと思いますんで、アヴェル王子達も念の為、ココから退避してください。流石に魔法陣を操る事は出来ませんから、また危険な状況に戻りますので」
すると王子は頭を振った。
「流石にそう言うわけにはいきませんよ。相手はヴィゴールですからね。コータローさんだけ危険な目に遭わせるわけにはいきません。とりあえず、私とウォーレンは残ります」
「そうですか。では気を付けてくださいね。一応、すぐに魔法陣を乗っ取れるようには準備しておきますけど、何事も不測の事態というのは起こりえますので」
「覚悟の上です」――
それから程なくしてエドガー様達の避難は完了した。
この礼拝堂内には俺とアヴェル王子とウォーレンさん、そして、ヴィゴールだけとなった。
俺はそこで、光の杖を用いて魔法陣の乗っ取りを解いた。
魔法陣から青白い輝きが消えてゆく。
するとその直後、ヴィゴールは拘束が解けたのか、床に手を着き、四つん這いになったのである。
ヴィゴールは肩で息をしていた。
そして俺を睨みつけ、悪態を吐いたのであった。
【ハァハァ……クソ! オノレェぇ、コータロー! グアァァァァ】
だがヴィゴールは悪態を吐いた瞬間、両手で頭を覆い苦しみだしたのであった。
ヴィゴールは床を転げ回りながら、もがき苦しんでいた。
その様はまさに、七転八倒という表現がピッタリの姿である。
【グアァァ、頭が割れるように痛い! な、なんだこれはァァァ。ウガァァァ!】
ウォーレンさんは顎に手を当て興味深そうに見ながら、ぼそりと呟いた。
「なるほど……これが、あのお方の言っていた刻印の力か。どうやら、邪悪な心が満ちているコイツには効果覿面だったみたいだな」
「た、確かに、効果覿面のようだ……怖いくらいに」
アヴェル王子は口元をヒクつかせ、若干引いていた。
たぶん、奴の痛がり方が半端ないからだろう。
「そのようですね。なんか気の毒になってきました」
俺は思わずそう言った。これは本心である。
悪い事を考える限りこれが続くと考えると、背筋に寒いモノが走るからだ。
(これはキツイな……悪い事を考えない奴なんてこの世には存在しない。ちょっと良からぬ事を考えただけで頭痛が起きるならば、ある意味地獄やわ……こわっ。その昔、破邪の刻印を行使する者達は呪いを解いた後、刻印を消していたとラーのオッサンは言ってたが、理由はコレなんだろう)
ヴィゴールは転げながら俺に視線を向けた。
【わ、我に一体何をしたァァ! グアァァ! 頭が痛いィィィ】
俺は少し哀れに思いながら、奴に答えた。
「ごめんなヴィゴール、然るお方から悪しき心を持つ者に効果がある魔法を教えてもらってさ、それを施したんだよ。だからそうなってるんだと思う」
【なんだってェェ! 貴様ぁぁ! グアァァァァァ、イタァァァイ】
ヴィゴールはまた頭を抱え込む。
俺は話を続けた。
「ヴィゴール、その痛みから解放されたいなら、あまり悪い事は考えんことだ。考えを改めれば痛みは消え去る筈だから」
【なんだとぉ、ふざけ……ギャァァァ】
ヴィゴールはまたもがき苦しむ。
なかなか考えを改めるのは難しいみたいである。まぁ当たり前か。
これから先、俺が刻印を解かん限り、これが続く事を考えるとかなり悲惨である。
ウォーレンさんが俺の肩にポンと手を置いた。
「さて……それじゃあ、エドガー様達は救出できたし、王都に帰るとするか。お前が持っているというアレでな。実はそれを楽しみにしてたんだよ。古代の文献でしか見た事がないんでな」
ウォーレンさんはそう言って微笑んだ。
「実は俺も楽しみにしてたんだよ。まだ体験した事がないんでね」と、アヴェル王子。
2人は初めての体験ができるので少し興奮気味であった。
そして、俺はそんな2人の期待に答えるべく、道具袋から瞬間移動の定番道具を取り出したのである。
「ええ、そうしますかね。このキメラの翼で帰るとしましょうか」――
[Ⅱ]
日の明るい内にキメラの翼で王都へと帰還した俺とアヴェル王子とウォーレンさんは、エドガー様達をサムエル様がいるイシュマリアの別邸に送り届けた後、任務の報告をする為、イシュマリア城のヴァリアス将軍がいる部屋へと向かった。
俺達が扉を開けると、室内には椅子に腰かけるヴァロムさんとヴァリアス将軍、それとディオン様がいた。
3人は、何かを話していたようである。恐らく、今後のイシュマリアについて話をしていたのだろう。
まぁそれはさておき、俺達は3人の前で任務完了の報告をした。
報告したのはアヴェル王子とウォーレンさんである。俺は場をわきまえて沈黙に徹した。
一通り報告が終わったところでヴァリアス将軍が口を開いた。
「そうか、ご苦労であった。エドガー様達が全員無事なら、サムエル様もさぞやホッとしているところであろう。しかし……魔物達は色々と暗躍してたのだな。ミュトラの結界を緩めて魔物をこちらに召還し、それを教団の船でラルゴの谷に送っていたとはな。コータロー殿が気付いたのか?」
「はい。コータロー殿が魚介類の取引に変動がないのに気付いたので、そこを調べたらこういう事態になっておりました。ちなみに、アウルガム湖の異変で魚は消えたのではなく、イスタドへと移動してしまったようです。ラー殿は昨日、リュビストの結界が緩んだことで、魔の世界の瘴気があの島から漂いだしたのが原因だろうと言っておりましたが……」と、ウォーレンさん。
「なるほどな。そして……それを誤魔化す為に教団は船で魚を秘密裏に漁師組合に卸していたわけか。色々と考えるモノだ。ところで、今言ったヴィゴールという者だが、どうなっているのだ?」
「それなのですが、今はとりあえず、アヴェル王子の指示でイシュマリア城の地下牢に入れてあります。さすがにあれだけ喚くと目立ちますので」と、ウォーレンさんが答えた。
「城内に魔物を入れた事になるが……そういう事情ならば仕方あるまい。今は地下牢に誰もいない。とりあえずは、それでいいだろう。その者については後で考えるとしよう……」
ヴァリアス将軍はそこで言葉を切ると、ヴァロムさんに視線を向けた。
「ヴァロム様、先程の話ですが、もう話してもよろしいので?」
「うむ。構わぬぞ」
「わかりました」
ヴァリアス将軍は俺達に向き直る。
「アヴェル王子……実は頼みがあるのです」
「頼み? 何ですか?」
「実はですね……九編あるミュトラの書の回収をアヴェル王子とコータロー殿、それとウォーレンにお願いしたいのです」
アヴェル王子とウォーレンさんはともかく、俺の名前が含まれているのがよくわからんところであった。
「え? 我々にですか。しかし、回収といってもイシュマリアは広いので、相当日数が掛かりますよ。コータロー殿が持っているキメラの翼も、それほどの数はないと聞きましたし」と、アヴェル王子。
するとヴァリアス将軍は苦笑いを浮かべた。
「それなのですが……実はアレサンドラ家の長女アーシャ様が、キメラの翼の力を持つ古代の魔導器を持っておられるらしいので、ソレス殿下を通じてアーシャ様に借用できるかお願いしたのです。そしたら、自分とコータロー殿を同行させてくれるならと返事が来たものですからね」
どうやらアーシャさんが原因のようだ。
まさか本当にこの条件をねじ込んでくるとは……さすがアーシャ様である。
退かぬ媚びぬ顧みぬといった感じだ。
「ああ、そういう事ですか。しかし、それならば、なぜ我々も?」
「ミュトラの書は今まで、八支族と王家の者以外には人目に触れさせぬよう厳重に管理されてきました。ですから、ここはアズラムド国王の嫡男であるアヴェル王子に行って頂かないと、示しがつかない部分もあるのですよ。多くの民達にとってはまだ禁断の書物になりますのでね。それに……今、王都に御出でになられている太守は知っていますが、その家族や側近達はまだその事を知りません。ですから、ここはどうしても王子に行って頂かなくてはならないのです」
「確かに……そういう事なら仕方ないですね。わかりました。私がミュトラの書を回収してまいります」
「帰って来られたばかりでお疲れのところ申し訳ありませぬが、よろしくお願いいたします。アヴェル王子」――
その後、今後の事を少し話した後、俺達3人は部屋を後にした。
部屋を出た俺達3人はとりあえず、城内にある憩いの場みたいな所で立ち止まり、そこの長椅子に腰を下ろした。
周囲に誰もいないので、話をしやすい環境だったからだろう。
まずアヴェル王子が口を開いた。
「ふぅ……エドガー様達を救出したら、次はアレの回収か……色々と仕事があるな」
「ですな。しかし、アレの回収はヴァリアス将軍の言う通り、王子が行かないと不味いでしょうな。表向きは今まで通りという事ですのでね」
「だな……でもまだまだやる事が山積みだ。頭が痛くなるよ」
アヴェル王子はそう言って溜息を吐いた。
「確かに山積みですな。ダーマ神殿の件もそうですが、石化した騎士達の事や魔物達の事も気になります。今日は上手くいきましたが、まだまだ魔物達の脅威はありますからな。これからも、気が休まらない日々が続きそうです」
ウォーレンさんも疲れたのか、溜息を吐いた。
と、そこで、ウォーレンさんが俺に視線を向けた。
「ところで、コータローはこれからどうするんだ? 何か用事でもあるのか?」
「え? 俺ですか。そうですね……まぁ用事というほどの事はないんですけど、仕事が片付いたら部屋に来てほしいと、あるお方から伝言がありまして」
「そうなのか。残念だな、少し手伝ってほしい案件があったんだが、また次回にするか。ところで、あるお方って誰なんだ?」
「シャールさんですよ」
俺がそう言った直後であった。
2人は突然、ヤバいモノを見るかのように目を見開き、口元をヒクつかせたのであった。
なんか知らんが、あまり良い感じの表情ではなかった。
「コータローさん……行くと返事したのですか?」
「ええ、まぁ……」
すると2人は顔を見合わせ微妙な表情になったのである。
(な、なんだ一体……なんかあるのか)
俺がそんな事を考えていると、アヴェル王子とウォーレンさんは苦笑いを浮かべ、こう告げたのであった。
「コータローさん……シャール様の所に行かれるのでしたら、薬草と毒消し草と満月草を持っていくことをお勧めします。あと、できれば長居はしない方が良いかもしれません」
「はは、まぁあれだ。あんま無理はするなよ、コータロー」と。
非常に不安になったのは言うまでもない。――
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