ウルトラマンカイナ
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過去編 ウルトラゼファーファイト
前書き
◇今話の登場ウルトラマン
◇江渡匡彦/ウルトラマンゼファー
別次元の地球を守護している宇宙警備隊の一員であり、遥か遠くの世界から新人ウルトラマン達を見守っていたレッド族のウルトラ戦士。頭頂部の長めのスラッガー、ツリ目で横長な六角形の黄色い目、胸部に伝う楔模様のプロテクターが特徴であり、必殺技はエネルギーを帯びたスラッガーで相手を斬るゼファードスライサー。ザインが居る地球に訪れた際は、BURKの新人隊員・江渡匡彦の身体を借りていた。
※原案はクルガン先生。
テンペラー軍団の襲来という、この世界史上最大の侵略が始まる運命の日から、約4年前。
地球の防衛という大任を担うBURKとウルトラマンザイン――椎名雄介は、日本を揺るがす大事件に直面していた。
『くそッ……! なんとしても、こいつらを発電所に入れるわけには行かないッ!』
――都心部からは遠く離れた山中に設けられている、原子力発電所。
日本のインフラを担うその発電所を背にしているウルトラマンザインの前には、2体の怪獣が立ちはだかっているのだ。
複数の怪獣を相手にしたことがなかった当時のザインにとっては、非常に苦しい状況なのだが――この戦いだけは、一歩たりとも退くわけには行かないのである。
発電所を稼働させているウランを狙っている、「ウラン怪獣」ガボラ。電気を餌としている「透明怪獣」ネロンガ。
その2体の怪獣の暴走だけはなんとしてでも阻止せねば、原子力発電所は甚大な被害を被ってしまう。そうなればインフラへの損害のみならず、最悪の場合――この一帯が放射能によって汚染される可能性もあるのだ。
核の恐怖を知る人類の1人として、その守り手たるウルトラマンとして。ザインは今、かつてない窮地に陥っている。
そんな彼に続くべく、弘原海隊長と駒門琴乃も光線銃を手に必死に応戦しているのだが、彼らの攻撃など怪獣達は気にも留めていない。
「くそったれッ! やっぱりBURKガン程度じゃ蚊が刺す程度にも効かねぇってことかよッ……!」
「しかし、今から退却してもザインが敗れれば我々も助からないでしょう……! 隊長、ここは腹を括るしかありませんッ!」
「分かってらァッ! 駒門、ここまで来たらお前も覚悟を決めやがれッ!」
「元より私は……そのつもりですッ!」
彼らの戦闘機もすでにネロンガが放つ電撃によって撃墜されており、もはや光線銃での白兵戦に挑むしかない状況であった。
放射能汚染の懸念があるこの状態で戦闘を続けるのは本来得策ではないのだが、今さら撤退したところで万一ザインが発電所の防衛に失敗すれば、汚染から逃げ切れる可能性も低いのだ。
こうなれば、もはや一連托生。弘原海達はザインと運命を共にしつつ、ただ貪欲に勝利を目指すしかないのである。その時、発電所内の火災現場から職員達の悲鳴が響き渡って来た。
「隊長、発電所内にはまだ逃げ遅れた職員達が居る模様です! 自分が避難誘導に向かいます!」
「江渡……!? 済まん、危険な任務になるが……頼んだぞッ!」
「いいか、決して無理はするなよ! 入隊早々死なれては寝覚めが悪いからなッ!」
「分かってますよッ!」
彼らの悲鳴を耳にした、BURKの新人隊員――江渡匡彦は光線銃での迎撃を中断すると、燃え盛る発電所内に向かって走り出して行く。
入隊から間も無い新人だろうが、こうなれば彼にも頼るしか無い。そう判断した弘原海と琴乃は敢えて制止することなく、職員達の救助を匡彦に任せていた。
「……しかしあいつ、ここ最近は異様に勇敢なんだよなぁ。ついこの間までは、ちょっと頼りないくらいだったんだが……」
「もしかしたら彼も雄介に……ウルトラマンザインに刺激されているのかも知れませんね」
「ハハッ、俺達も負けていられねぇなッ!」
発電所を目指し、ネロンガの電撃を掻い潜りながら走り続けている匡彦。その背中を一瞥する弘原海と琴乃は、不思議そうに顔を見合わせている。
BURKに入隊したばかりである彼は、ほんの数日前までは新人らしい臆病さもあったはずなのだが――最近はまるで、歴戦の勇士であるかのような佇まいで、勇敢に怪獣達に立ち向かっているのだ。その変貌に小首を傾げつつも好意的に受け取っている2人は、江渡の成長と活躍に期待しながら、光線銃を撃ち続けていた。
「くッ、火災がどんどん激しくなって……うあぁッ!?」
一方、発電所に到着した匡彦は、職員達の悲鳴が聞こえる方向へと走り続けていたのだが――行手を阻む火の勢いに思わず足を止めていた。そして、次の瞬間に起きた爆発に巻き込まれ、激しく吹っ飛ばされてしまう。
「しまった……!」
その弾みで彼の懐からは、スティック状の「装置」が落下していた。火の海の中に落ちてしまったその「装置」を目にした匡彦は、焦燥の表情を浮かべて顔を上げる。
『ジュアァ、ァァアッ……!』
「ザイン……!」
一方、彼の眼前――発電所の門前では、ザインがネロンガとガボラの猛攻に晒され、防戦一方となっていた。
ネロンガの角から飛ぶ電撃と、ガボラの大顎から吐き出される放射能火炎。その両方から発電所を守るべく身を挺している彼のカラータイマーは、すでに激しく点滅している。ザインのピンチを目にした匡彦は、険しい面持ちで拳を握り締めていた。
(ネロンガに遅れを取るようなあいつではない……! やはりガボラかッ……!)
すでに多量の電気を喰らったことで透明状態を維持出来なくなっているネロンガは、それほど脅威ではない。電気に対する高い耐性を持っているザインならば、耐え凌ぐことも出来るだろう。
問題はガボラだ。放射能火炎の威力はかなりのものであり、加えてガボラ自身も体内に大量のウランを含有している。ザイナスフィアで撃破しようものなら、その瞬間にこの一帯を巻き込む核爆発が起きてしまう。
その2体に同時攻撃を仕掛けられているザインは、全く反撃に転じることが出来ずにいるのだ。ネロンガから先にザイナスフィアで始末しようにも、2体が肩を並べているこの状況では、どうしてもガボラを巻き添えにしてしまう。
文字通りの爆弾を抱えているガボラが相手では、本来のペースで戦うことは非常に難しい。その窮地に立たされているザインはまさに、絶体絶命となっていたのだ。
(やはり……俺がなんとかするしかないッ! 済みませんクライム教官、俺にはあいつを放っておくことなんて出来ないッ!)
そんなザインのピンチを目の当たりにした匡彦は、意を決して火の海の中に飛び込むと――戦闘服に付いた火を消すために激しく地を転がり、素早く立ち上がる。火の中からスティック状の「装置」を取り戻した彼の眼は、不退転の決意に燃え上がっていた。
「弟弟子の窮地に……熱いとか苦しいとか、言ってられるかよッ!」
――そう。彼の肉体には数日前から、ウルトラ戦士が憑依していたのである。
かつては共にウルトラマンクライムの元で修行を積んでいた、ザインの「兄弟子」。それが匡彦と一心同体になっていた、ウルトラ戦士の正体だったのだ。彼が火の海に飛び込んでまで取り戻したスティック状の物体は、本来の力を呼び覚ますための「起動点火装置」だったのである。
「……ッ!」
彼は意を決して、スティック状の変身アイテム――「ゼファードスティック」のスイッチを押すと。その先端部を点灯させ、空高く突き上げる。
そして、次の瞬間。眩い閃光がこの一帯に迸ると、その中から現れた巨大な真紅の拳が、匡彦の全身を頭上から包み込んでいく。やがて発電所を飲み込む火の海を突き破るように、光の巨人が「ぐんぐん」と拳を突き上げ、この戦場に顕現するのだった。
「あれは……!」
「新しい、ウルトラマン……!? 一体あそこで何が起きてるんだ、江渡は無事なのかッ!?」
その光景に瞠目する弘原海と琴乃は、思わず射撃の手を止めてしまう。
部下が走り去った先に現れた、レッド族のウルトラ戦士。その勇姿を目にした彼らは、匡彦の安否を気に掛けていた。果たして彼は無事なのだろうか……と。
一方、その匡彦が変身した真紅の巨人――「ウルトラマンゼファー」は、ザインの背後で深く息を吐き出し、戦闘態勢を整えている。
頭頂部に備わっている長めのスラッガーや、ツリ目がちで横長な六角形の黄色い眼は非常に攻撃的なデザインであり、胸部に伝う楔模様のプロテクターも、彼の雄々しさに彩りを添えている。
『ジョワァアァッ!』
彼はその紅い両手から放つ「ウルトラ水流」で、発電所を飲み込む炎の海を一瞬で鎮火すると――九死に一生を得た職員達が顔を上げている間に、地を蹴って高く飛び上がっていた。
やがてガボラの顔面に鋭い飛び蹴りを叩き込んだ彼は、怪獣が怯んでいる隙に弟弟子の傍らに着地する。予期せぬ兄弟子の参戦に、ザインは思わず仰け反っていた。
『ゼファー先輩、どうしてこの次元の地球に……!? 別の次元の惑星に正規配属されたはずでは……!』
『有給使って、弟弟子のツラを拝みに来てやったのさ。クライム教官からは手を貸すなと言われたが……生憎俺は昔から、聞き分けのない問題児だったからな。さっさとこいつらを片付けるぜ、ザインッ!』
『……はいッ!』
兄弟子の心意気に胸を打たれたザインは高らかに声を上げると、ゼファーと肩を並べて怪獣達の方へと向き直って行く。怪獣達の目線に合わせるかのように腰を落とした2人のウルトラ戦士は、猫背のような低姿勢でのファイティングポーズを取っていた。常に重心が低い怪獣達のタックルで、足元を掬われないようにするためだ。
一方のネロンガとガボラは、ゼファーの登場に怯むどころか、獲物が2人に増えたと言わんばかりに闘争心を剥き出しにしている。けたたましい彼らの咆哮は、全面対決の始まりを告げていた。
『ジュァアッ!』
『ジョオワァァアッ!』
次の瞬間。双方は真っ向から激しく組み合い、苛烈な格闘戦へともつれ込んで行く。チョップやキック、尻尾による殴打が乱れ飛ぶ大混戦となっていた。
やがてザインはネロンガへ、ゼファーはガボラへと狙いを絞って行く。怒涛の打撃によって弱った2体へと、とどめの「必殺技」を叩き込む瞬間が迫ろうとしていた。
『ゼファー先輩、そいつは体内に……!』
『分かってるさッ! ……そういう時はな、こうするんだよッ!』
だが、体内に大量のウランを抱えているガボラに光線技を叩き込むことは出来ない。その懸念を訴えるザインを他所に、ゼファーは頭頂部のスラッガーに自身のエネルギーを収束させていく。
『ゼファード……スライサーッ!』
そして、高エネルギーを帯びて光り輝くスラッガーを手にした彼は、ガボラの放射能火炎をかわしながら――勢いよくその刃を投げ飛ばすのだった。
猛火を斬り、空を裂く光刃は瞬く間にガボラの首を、頭部の襟もろとも刎ね飛ばしてしまう。体内のウランには全く傷を付けることなくガボラの命を刈り取った刃は、素早くゼファーの元へと戻って来るのだった。
『す、凄い……! ガボラのウランは首のすぐ下にまで詰まっていたのに、それを一切傷付けずに頭部だけを……!?』
確かに頭部だけを切断してしまえば、誘爆の危険性はない。だがガボラの体内に蓄積されていたウランはすでに、頭部の手前にまで達していたのだ。僅か数センチの誤差でも命取りになるような、危険過ぎる手段であることには違いない。
そのウランを一切傷付けることなく本当に頭部だけを切り落とすなど、並のウルトラ戦士に出来る芸当ではない。飛翔しているミサイルの起爆装置だけをピンポイントで切断しているようなものだ。
怪獣の首を一瞬で切断出来る光刃の精製と、念力によるスラッガーの精密操作。その両立が為せる妙技を目の当たりにしたザインは、驚嘆の声を上げる。
『ザイン、一気に決めるぞッ! ガボラを倒した今なら……もう遠慮はナシだッ!』
『……分かりましたッ! 全力で行きますッ!』
だが当のゼファーは己の技術を奢ることなく、ガボラの死体を背にするようにネロンガの方へと向き直っていた。そんな彼と頷き合うザインは、敬愛する兄弟子と共に決着を付けるべく、二つのスペシウムエネルギーの球体を出現させる。
ゼファーも、両腕を胸の前で交差してエネルギーを集中させると。右腕を天に、左腕を水平に伸ばし――やがてL字に組んだ両腕を、ネロンガに向けていた。
『ザイナ……スフィアァッ!』
『セフィニウム……光線ッ!』
スペシウムエネルギーを纏う球体の一撃。L字の腕から飛び出す眩い光線。その両方が同時に閃き、ネロンガへと炸裂する。
天を衝くような爆炎が立ち昇り、この戦いに終幕が訪れたのはその直後であった。ウルトラ戦士達の勝利に、弘原海と琴乃が喜びを噛み締めてガッツポーズを決める中、ザインとゼファーは固く握手を交わしている。
『……成長したな、ザイン。これからもしっかり頼むぜ? この星の未来は今、お前に懸かってるんだからよ』
『もちろん、そのつもりですよ。……応えて見せます、必ず』
やがて、ガボラの死体を持ち上げたゼファーが勢いよく地を蹴り、そのまま空の彼方へと飛び去って行く。ザインもそんな彼に続き、発電所の職員達や弘原海達が手を振る中、両手を広げて飛び立って行くのだった。
「やれやれ、今回もウルトラマンザインには助けられちまったな。それにしても、あの紅いウルトラマンは一体……んっ!?」
「弘原海隊長、あそこ!」
そして、2人のウルトラマンが人々の前から消え去った後。胸を撫で下ろしていた弘原海と琴乃の視界に――こちらに向かって駆けて来る青年の笑顔が映り込んで来た。
遠くから手を振り、「おーい!」と叫んで走って来る江渡匡彦。彼の姿を目の当たりにした弘原海と琴乃は目を見合わせ、安堵の笑みを浮かべる。
「江渡隊員、無事だったか! 良かった、本当にっ……!」
「バッカ野郎ォ、心配掛けやがってッ! あの紅いウルトラマンが来てくれなかったら、今頃どうなってたと思ってやがんだッ!」
「あははっ! 自分は不死身ですよ、隊長っ!」
そんな江渡匡彦こそがウルトラマンゼファーであることなど、露も知らない弘原海と琴乃は、歓喜の笑みを浮かべて部下の肩を叩いていた。一方、国彦の身体を借りているゼファーも、弟弟子に頼もしい仲間達が居るのだと知り、優しげな微笑を浮かべている。
いずれ彼は匡彦の身体を離れ、依代となっていた男の記憶を消し去ると。一人前のウルトラ戦士に成長したザインと共に、この地球を去って行くことになるのだが――それはまだ、もうしばらく先のことになる。
ザインの「後輩」となるウルトラマンエナジーがこの地球に降り立つ、約1年後まで。ゼファーは兄弟子として、かけがえのない弟弟子を支え続けて行くのだった――。
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