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デート・ア・ライブ〜崇宮暁夜の物語〜

作者:瑠璃色
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真実は時に残酷で

〈氷結傀儡〉により生み出された銀色の世界に無数の黒と白の羽が舞っている。更には禍々しい程に紅黒色に染まった六本の槍を背に浮かせ、片手に剣を装備した男とも女ともとれるような中性的な外見をした人ならざる存在が君臨していた。

「・・・精霊?」

上空にて日下部やAST隊員達と共に待機していた折紙は、視界を妨げる銀世界に突如現れた存在を見て呟く。その姿は〈プリンセス〉や〈ハーミット〉といった精霊の姿に似ていた。然し、今までで1度も見た事がない。恐らく、日下部でも知らないだろう。もしかしたら、暁夜なら知っているのでは・・・そう思い、折紙は通信を繋げる。

「・・・暁夜? 聞こえる?」

『・・・・・』

声は帰ってこない。代わりに砂嵐のような耳障りな雑音だけが響いてくる。普段ならすぐに返事をしてくれるはずだった。なのに返事がない。精霊と戦闘中なのか、それともただ通信機器が壊れただけなのか。いずれにせよ不穏な事に変わりはない。突如、現れた見たことの無い精霊といい、 暁夜の安否不明。偶然にしてはタイミングがよすぎる。折紙は何度も通信で呼びかけるが返ってくるのは静寂。こうなったらと、折紙は暁夜にプレゼントしたアクセサリーに仕込ませておいたGPSマーカーを自身の携帯で確認する。そしてそのGPS座標を見つけた折紙は目を見開いた。それは無理もない。

「・・・あの精霊と同座標に? なぜ?」

少し近くとかそういう些細な誤差ではない。綺麗にズレひとつなく見知らぬ精霊のいる超ど真ん中に重なった暁夜のGPS座標があった。その瞬間、折紙の頭に嫌な予感が過ぎった。

「暁夜が死・・・そんなことはありえない」

直ぐにその最悪な考えを否定し、一旦、冷静さを取り戻す為に深呼吸する。そして対精霊高周波ブレード《ノーペイン》を強く握り、見知らぬ精霊の元へと下降していく。否定した。それでも不安は消えない。いつも最後は笑って帰ってくる暁夜が死ぬわけが無い。折紙にとっての崇宮暁夜という人間はそういう存在だ。徐々に見知らぬ精霊に近づくにつれ、銀世界が気にならないくらいに視界がクリアになる。それに伴う様に、死の匂いが身体に纏わりついてくるような感覚が折紙を襲う。

「--!?」

不意に見知らぬ精霊の視線が折紙へと向けられた。そのひと睨みだけで金縛りにあったかのように動きが止まる。

「・・・・・」

見知らぬ精霊は暫く折紙を見つめた後、視線を外す。その動きは『こいつじゃない』と思わせる。この精霊は誰かを探しているのだろう。幸いにも自分ではないと安堵する折紙だが、そんな事よりも暁夜の安否が最優先だ。

「どこにいるの?暁夜」

ポツリと呟いた言葉。一瞬、見知らぬ精霊が反応した。単に小さな雑音を捉えたのかもしれない。もしくは暁夜という単語に反応したのか。どちらにせよ、GPSマーカーは見知らぬ精霊の元から微動だにしていない。という事はこの精霊が暁夜を見つける手がかりとなる。折紙は息を吸い、そして吐く。身体を支配する恐怖心を誤魔化すように。落ち着かせるように。

「・・・・」

折紙はその場から微動だにしない見知らぬ精霊とその付近を観察する。そして見つける。暁夜の手掛かりを。最悪な形で。

「アレは--私があげた…」

見知らぬ精霊の腰帯に引っ掛かっている銀色の欠けたハート型のネックレス。それは折紙にとって見覚えのある物。暁夜とのデートの日にプレゼントした自身が持つハート型ネックレスの片側。血が付着しているものの見間違えるわけが無かった。然し、それでも折紙は見間違いだと思いたかった。でなければ、最悪な答えが真実となってしまうから。

「・・・あの精霊が--」

嘘だと言って欲しい。そう信じて。

「--暁夜を?」

その問いかけに。見知らぬ精霊は何も答えない。もう興味はないと。その場を離れていく。遠さがっていく。目的地が何処なのかは折紙には分からない。ただ、残酷にも最悪な答えは真実となる。
見知らぬ精霊の腰帯に引っ掛かっていたアクセサリーが落下する動きと共にGPSマーカーも動いているという証拠として。



遡ること数分前。士道は尻もちをついた状態で先程の光景を思い出していた。前に建物内で殺そうとしてきたノルディックブロンドの女性と親友の暁夜の仲間割れ。そして、四糸乃の天使による冷気の奔流と黒い球体。更には消えた暁夜と入れ替わる様に現れた見知らぬ精霊。それに存在しないハズの〈鏖殺公(サンダルフォン)〉の出現と〈氷結傀儡(ザドキエル)〉を操り、逃げ出した四糸乃。余りにも濃い出来事が数分の間に起きすぎて、頭の整理が追いつかない。耳元のインカムから妹の琴里の声が聞こえてくるが、何を言っているのか分からない。それ程に情報量が多過ぎた。そんな彼の元に身体の要所が美しい光の膜で揺れている十香が降りてきた。

「シドー!」

士道は自身の名を呼ばれて、ハッと目を見開いた。

「えっと・・・十香? お前…その姿」

「ぬ?」

士道の言葉に、十香は目をぱちくりとさせて自分の身体に視線を落とした。

「おお!? なんだこれは! 霊装か!?」

指摘されて初めて自分の様子に気づいたらしい。十香が驚きの声を上げる。そしてしばしの間、光の膜を興奮した子供のように触った後、ハッと顔を上げて、士道へと視線を戻してきた。

「そんなことより--シドー、無事か?怪我はないか?」

「あ・・・ああ」

士道は突然消えた親友の背中を思い浮かべながら答えた。あの時、暁夜が駆け寄ってきた気がしたのだが、視界がはれた頃には彼の姿はなく、後に現れた見知らぬ精霊も姿を消した。

「聞こえるか?琴里」

ズボンに着いた砂埃を払いながら士道は立ち上がる。そして、インカムに向かって声をかける。

『やっと反応したわね、バカ!!今後は直ぐに返事しなさい!さもないとアンタの全黒歴史を世界中に流すわよ!』

グワァンッと琴里の怒声が士道の耳に響く。あまりの大きさに鼓膜が破れたんじゃないかと錯覚してしまう。それはともかく、黒歴史を世界中に流されるのは流石に死にたくなる士道は必死に琴里を宥める。暫くして、何とか怒りを鎮めてくれた琴里は士道に現状起きている事を全て分かりやすく伝える。あの見知らぬ精霊の正体や、十香と〈鏖殺公(サンダルフォン)〉について、四糸乃の居場所等を。

「暁夜が・・・精霊!? どういうことだよ!アイツはどう考えたって人げ--」

士道は最後まで言葉を言いきれなかった。ふと思い出したのだ。彼がいつもASTが装備しているCR-ユニットを使用せずに十香やリンレイと戦っていた事を。その理由が精霊の力を持っているからだというのなら納得ができる。ならば何故、彼は憎んでいる精霊の力を手にしたのか。それは暁夜自身から聞き出すべきことなのだろう。いや、聞くべきだ。

(アイツを・・・救うにはそれしかない)

士道には暁夜の本心なんて分からない。これがエゴだと言われたら否定できない。ただエゴだとしても、親友の暁夜にこれ以上、血で手を染めて欲しくない。

「なぁ、琴里。暁夜の居場所は分かるか?」

『えぇ、一応ね。それで?もしかして彼も救いたいとか強欲なこと言わないわよね?』

琴里の言葉に、士道は苦笑いする。流石は妹というべきか。兄の気持ちを察するのが得意だ。

「はは…悪いな、琴里。俺は四糸乃も暁夜もどっちも救いたいんだ」

『はぁ…。いい?両方救うなんて絵空事は誰でも口に出来る。でも、両方を本当に救える人なんてその中のごく少数の人間だけよ』

それは士道も理解している。戦う力なんて自分にはない。あるとすれば不思議な治癒能力と精霊の力を封印することだけ。だからといって諦める道理にはならない。1人で無理なら、2人で。二人が無理ならその倍だ。要するに全部救いたきゃ、その絵空事を叶えれるだけの仲間に頼ればいい。

「確かに俺だけじゃ無理だ。でも俺には、十香やフラクシナスの皆、そして頼りになる妹がいるだろ?だから、1人じゃなんも出来ないお兄ちゃんを助けてくれないか? 琴里?」

『・・・・・』

士道の言葉に琴里は歯噛みする。自分から士道を精霊対処の為に利用したとはいえ、辛くないわけが無い。暁夜との対話の時に、『平気なのか?』と問われた時、『平気』と答えた。然し、それは嘘。

(大好きなお兄ちゃんを危険な目に遭わせて平気なわけが無いでしょ)

琴里はあの時のことを思い出して、拳に力を込める。ただ士道は止めたところで止まらない。

『・・・分かったわ。全力でサポートする。だから、ちゃんと帰ってきてね。お兄ちゃん』

「あぁ。ありがとな、琴里」

士道は感謝を告げたあと、深呼吸する。ここから先は1度の失敗も許されない。士道は十香に視線を移動させ、手を差し出す。そして--

「十香!二人を救う為にお前の力を貸してくれ!!」

「・・・う、うむ!任せろ!」

十香はその手を勢いよく掴む。

「さぁ、俺達のデートを始めようか!」

士道はそう告げて、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉をボートのように倒した十香と共に銀世界を滑走し始めた。 
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