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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第十話

 小十郎を散々気の済むまで泣かせた後、城へと戻ったところで小十郎が風邪を引いてダウンした。
元々体調も良くなかったところに重ねて寒いところにいたもんだから、結構な熱をひっさびさに出してがっつり二週間は寝込んでいた。
お陰で小十郎の分の仕事が全部こっちに回ってきて、日中はろくに見舞ってやれる暇すら取れなかった。
っていうか、食事だってきっちり摂る暇が無くてさ、執務室でおにぎり握ってもらって食べながら仕事してたくらいだし。
はしたないって言われたけど、それくらいやらないと溜まる一方で本当に終わらなかったもん。

 織田の後ろ盾になっていたのはやはり羽州で、同盟を秘密裏に組んでいたらしい。
関東攻略をする前に奥州に来たのは、どうやら西国側と東北側から合わせて挟み撃ちにする算段だったようだ。
で、濃姫と蘭丸が連れて来た兵達は羽州の兵で、熨斗をつけてきっちりと送り返してあげました。
政宗様が、次こんなことをやりやがったら、テメェの妹の命はねぇ、なんて一筆添えてたけどね。
いやぁ~、自分の母親を人質に使うなんて、流石政宗様。外道ですね。
つか、この人の母親も大抵凄いから、政宗様だけを責められたもんじゃないんだけどね~……。

 ちなみに濃姫と蘭丸は織田の方へと戻っていて、蘭丸は一命を取り留めたらしい。
あそこまでやれば弓なんか二度と持てなくなるかと思ったんだけど、どうも後遺症もなく治っちゃったらしくてさ。
そんな回復力を考えると、あの子も婆娑羅者だったのかもしれないわね。
不思議な力が使えるばかりでなく、異常な身体能力の高さと回復力、こんなのも特徴だったりするからさ。
ま、婆娑羅者でもなけりゃ、あの歳で戦場になんか出てこないか。

 「しかし、織田か……奥州に手を回してくるのはまだまだ先の話かと思ってたんだがなぁ……」

 「こちらとしても予想外でした。奥州にまで手を伸ばす余裕はないと油断をしていたところを、
あっさりと突かれてしまいましたね」

 羽州の狐の企みをしっかりと見抜いた上でのこの行動。
きちんと調べ上げて行動をした、ということは考えなくても分かっちゃう。

 しかし、これからどうしたものかねぇ……
この調子じゃ、そう遠くない先には奥州へまたちょっかいをかけてくるかもしれない。
なら先手必勝で叩き潰せばいいじゃない……ってなわけにはいかない。
尾張と奥州じゃとんでもなく距離があるし、何より尾張に攻め込んだ留守を狙って他の軍勢に攻め込まれても困る。
特に羽州なんか虎視眈々と狙ってるわけだしさ。奥州を奪う隙を。

 「……こうなっちまった以上、このまま奥州内で留まっているわけにはいかねぇか」

 こんなことを言い出した政宗様に、私達は揃って目を丸くした。

 「天下獲り、正直なところそこまで興味は無かったんだが……
こうなっちまった以上は、名乗りを上げねぇわけにはいかねぇだろう。
俺は奥州の民が笑って暮らせる国を作りてぇと思ってきた。
だが、いくら奥州の状態を良くしたところで、他方から攻め込まれりゃ水の泡だ。
それに、奥州の外じゃ苦しんでる民も山ほどいるだろうよ。
……俺が天下を獲って世のあり方を変える。そうしなきゃならねぇ。小十郎、景継、異論はあるか」

 政宗様が天下を目指されることを決めた。いよいよ動き出すのか、天下へ向けて。

 心躍るものがあるけど……まぁ、BASARAの世界とはいえここは戦国時代。
政宗様が天下獲れるかどうかは怪しいけどね。史実じゃ伊達がそうなったってのはないわけだしさ。

 「おめぇら、俺についてきてくれるか?」

 「無論、地の果てまでも」

 「しっかり付いて行きますよ」

 こんな私達に政宗様は笑って自分の膝を叩いた。

 「竜の右目、おめぇらはどちらも俺の目だ。しっかり働いてくれよ? 俺はこの通り一つ目だ。
俺の潰れたこの右目に変わって、おめぇらはしっかりと目を凝らして見てくれ。俺が天に昇る為の道をな」

 「はっ!」

 私はクールに返事をしたけど、小十郎は大分感極まっているみたいだった。
……まぁ、政宗様命の忠臣がこんなこと言われりゃあ嬉しいことこの上ないわよねぇ。

 少しずつだけど動き出した運命が一体何処へと転がっていくのか、それは私にも分からない。
何故ならBASARAは未プレイだから。無双のパクリじゃね? って話はよく聞いてたから毛嫌いとまでは言わないけど、
無双派の私は手を出さなかったんだよね。



 年が明けて雪解けの季節を迎え、いよいよ天下獲りの為に奥州の外に飛び出そうかって時にいつきちゃんが現れた。
何人かの農民も一緒にいて、山で獲ったという熊をおすそ分けに持って来てくれた。
丁度今くらいの頃だと冬眠中の熊がのそのそと起きて来る頃合いで、狩猟がやりやすいんだとか。
で、これから戦に出ようって言う私達に力をつけてもらおうと持って来てくれたらしいんだけど。

 「兄ちゃんと姉ちゃんのこと、きちんと話をしてやっとみんなに納得してもらえただよ。
兄ちゃん達は竜で、鬼じゃねぇって話をして」

 そうしたら、竜に供え物をと熊を持って来てくれたらしいんだけど……流石にこれには頭が痛くなってしまった。
いつきちゃんも少し困ったように笑ってたけど、まぁ、悪いように言われてなければそれでいいかな。

 「政宗様、良ければ熊の皮をこの小十郎に下さいませんか」

 「熊の皮? んなもん何に使うんだ」

 「これだけふかふかであれば、きちんとなめして臭みを取れば暖が取れるようになるでしょう。
寒さを凌ぐには丁度良い」

 ……おいおい、雪解けで季節は春になろうってのに、まだ寒いのかい。
毛皮なんか被らなくても十分なくらいに温かいでしょうが。
もしかして、次の冬に使おうとでもしてるわけ?

 「Ah……OK、持って行きな。また風邪なんか引かれちゃ困るしな」

 とても嬉しそうな小十郎を見ながら、私はどてらでも買ってやるかと割と本気で考えていた。
まさかとは思うけど、毛皮のコートなんか作っちゃうつもりじゃないでしょうね。
そんなの着込んで戦場に向かうとかないわよねぇ? ……この子なら有り得る。
時折予想の斜め上を行く変なことやらかすし。天然ボケと言ってしまえば可愛いけれど、ねぇ……。

 「兄ちゃん、もう悲しんでねぇだか?」

 いつきちゃんのこんな気遣う言葉に、小十郎は苦笑していつきちゃんの頭を撫でている。
そりゃ、十二の子供の前であんだけしっかり泣いて見せたんだもん、心配されても仕方が無いわ。

 「大丈夫だ。ここは俺をしっかりと受け入れてくれる人がいる。だから、悲しむことはねぇさ。
……お前は大丈夫か? 村の連中に」

 「大丈夫だ! 皆優しいからな! 村のみんなはおらを受け入れてくれるだから……おらは悲しんだりしてねぇ」

 「そうか」

 小十郎が見せる穏やかな笑みに、いつきちゃんも笑っている。
こんな小十郎の様子を私と政宗様は顔を見合わせて笑って、たまたま見ていた兵達も鬼が笑ってるよ、なんてことは言わなかった。



 これから天下獲りが始まる。
奥州平定は政宗様が家督を継いでからあっという間に済んじゃったような気がしたけど、今度は長い戦いになるだろう。
きっと、いずれ織田ともぶつかることになるかもしれない。まぁ、羽州とぶつかる方が早いような気がするけどもさ。

 ずっと伊達家に留まって、政宗様の天下獲りを手伝うものだと思っていたけれど、
人生ってのは何があるか分からないもので伊達家を離れることになった。
本当、政宗様にあんなことされるとはね。ちょっとは常識があると思ってたってのに。
でもまぁ……それはまた別の話。私の気が向いて機会があったら語ってあげようかな? 
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