人間にもわからない
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第一章
人間にもわからない
ふわりを散歩に連れて行って家に帰ってリードを外した彼女が自分からケージの中に入ったのを見届けてだった。
洋介は母の百合子に言った。
「ふわりって散歩も好きだけれどな」
「どうしたの?」
「俺達も好きだよな」
こう言うのだった、ケージの中から自分達をきらきらとした目で観て愛嬌よく座っている彼女を見て。
「そうだよな」
「それも大好きよね」
「ああ、それがわかるよ」
「一緒にお散歩に行ってわかるわね」
「こうして観ていてもな」
散歩に行かずともというのだ。
「わかるよ」
「そうなのね」
「ああ、ただな」
「ただ?」
「前の家族もだよな」
洋介は微妙な顔になって母に話した。
「百田さん達も」
「それどうかしたの?」
「いや、あの人達実は愛情なかったよな」
洋介はこのことを指摘した。
「そうだったよな」
「だから自分達の赤ちゃん出来たらよ」
「一日中ケージに入れて無視してだよな」
「鳴き声が五月蠅いって捨てたのよ」
「そうだよな」
「だからそれがどうかしたの?」
「いや、ふわりわからなかったんだな」
洋介は考える顔で言った。
「れ宙が愛情がないことに」
「おもちゃでしかなかったのが」
「ええ、だから凄く傷付いていたのよ」
「保健所に入れられてな」
「いらないって捨てられてね」
「そうだよな、犬ってわからないのか?」
洋介は首を傾げさせて言った。
「愛情を注がれていることとおもちゃって思われてるのが」
「それ犬だけじゃないわよ」
母は犬派そうかと考える息子に語った。
「人間だってでしょ」
「人間もか」
「そうよ、子供は最初親に愛してもらえるって思うでしょ」
「どんな親でもな」
「そうでしょ、人間も同じなのよ」
犬だけではないというのだ。
「可愛がってもらったらね」
「愛されてるって思うんだな」
「そうよ、おもちゃ扱いでもね」
その実はというのだ。
「子供もわからないでしょ」
「それで捨てられたりしてわかるか」
「そうよ、経験を積んだり」
百合子は真面目な顔で話した。
「周りを見てね」
「わかるんだな」
「そうよ、愛情を注いでもらっているかいないかは」
「そういうものか」
「それでふわりもよ」
彼女もというのだ。
「捨てられてね」
「あの二人が愛情を持っていないってわかったか」
「ドリトル先生も仰ってたでしょ」
「そうだったな」
「あの二人は自分達がとう思っていてもね」
「実はか」
「最初から愛情なんてなかったのよ」
ふわりに対してというのだ。
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