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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第119話『3つの戦場』

魔導祭が幕を閉じるかと思いきや、突然起こった"スサノオ"の襲撃。目的は"優勝杖の回収"と"魔術師の駆除"であり、どちらも到底看過できるものではない。
奇襲から免れた魔術師たちは己を命を護るべく、それぞれが戦闘を開始した。

戦場は主に3つ。
1つは正面で【花鳥風月】を筆頭に、重装兵たちを相手に戦闘するグループ。1つは後方で【日城中魔術部】を筆頭に、同じく重装兵たちを相手に戦闘するグループ。そして最後の1つは──影丸と雨男による決闘だった。


「うらァ! うらァ! うらァァァ!!!」

「動きが速くなったな。だがまだ遅い」


一際大きい雄叫びを上げながら、影丸が雨男に連撃を仕掛ける。"龍化"した彼は、変身前の気だるそうな動きからは予想もつかない程の機敏な動きを見せていた。
しかし肉を切り裂く鋭い爪の攻撃も、骨を砕く重い尻尾の攻撃も、雨男はすいすいと躱していく。


「焦れッてェなクソが! "黒龍の咆哮"!」

「ほう、ブレスまで吐けるのか。見た目だけじゃないらしい」


影丸から放たれたのは灼熱のブレス。龍の名にふさわしい攻撃だ。熱量が離れていても伝わってくる。当たれば骨まで溶かされて、跡形も残らなそうだ。


「──けど、当たらなければ何の障害にもならない」

「これも躱すか……!」


影丸の中では発生が早い方の技なのだが、それすらも雨男には通用しない。
尋常でない回避性能。それを攻略しなければ、一発喰らわせることも困難だろう。


「いいな、その表情。あれだけ息巻いておいて、この体たらくなんだ。格が違うって自覚したか?」

「けッ、今に吠え面かかせてやるからな」


自分よりも小さい子供に翻弄され、あまつさえ上から目線で煽られて、正直めちゃくちゃムカついている。
だが、その実力は認めざるを得ない。どんな手を使っているにしろ、こちらの攻撃を見切っているという事実は揺るがないのだから。


「さて、どうするかな……」


"龍化"状態の鱗ならば雨男の攻撃は防げる。しかし影丸の攻撃も当たらないので、この戦闘は長期戦となるだろう。そうなると、影丸の"龍化"のタイムリミットが先に来てしまう。だから、なるべくそれまでに決着を付けないといけない。

影丸は思案に暮れるのであった。






「"キラキラ星"!」


煌めく光線が敵軍の中心部に突き刺さる。爆発と共に閃光が放たれ、見た者の目を眩ませた。

今しがたの技を放ったのは、【花鳥風月】のリーダー、月。
彼女は"星にまつわる魔術"という強力な魔術を扱うが、それ以外にも擬似的だが召喚魔術も扱える。例えば今も、彼女の召喚した牛こと"モーさん"が、敵の重装兵数人を壁に押しつけて無力化していた。


「ひゅ〜! さっすが月!」

「気を抜かないで舞。相手は銃を持っているんだから、いつ狙われてもおかしくない」

「それはわかってるけど、ある程度は月と花織が抑えてるし、残りも全員月を狙ってるよ?」

「だったらなおさら安心できない。いくら月でも、魔術を同時に併用するのには限界がある。私たちも援護しないと!」


遠距離攻撃が行える月や花織と比べて、風香と舞は近距離攻撃を得意とするため、防御力の高い今回の相手は非常に分が悪い。とはいえ、仲間が命を狙われていると聞いて引っ込んでいられるほど、薄い関係ではない。まだ出会って間もないけど、絆は誰にも負けない。


「はぁっ!」


月を狙う重装兵の1人に果敢に突っ込む風香。相手がこちらに気づいた時には、既に懐に入り、持っていた銃を蹴り上げた。


「"旋刃"!」


そしてそのまま、武器を失った敵の顔面目掛けて鋭い蹴りを放つ。装備を突破できるとは思っていないが、倒れてくれるだけでも時間は稼げ──


「──しまった!」

「風香!」


銃を手放して焦ったところに追撃と思ったが、相手が思ったより冷静で、風香の脚を掴んで攻撃を防いでしまう。
それを見て、すぐさま舞が助けに向かった。


「その手を、離せっ!」


飛翔して高度をつけてからの踵落とし。風香を掴んでいた腕に直撃し、衝撃で敵の指が風香の脚から離れる。
風香はすぐさま距離を取り、【花鳥風月】の4人は一度合流した。


「ありがとう舞! 助かった!」

「もう無茶しないでよ! 怖かった……」

「月ちゃんどうします〜?」

「困ったなぁ。この屋根がある以上、"オリオン"も"ドッカン彗星"も出せないし……」


風香や舞の攻撃では重装に敵わず、花織の拘束にも限界がある。今のところ、有効打を持つのは月ただ一人。
しかし、そんな彼女の切り札はこの氷の天井によって制限されていた。"オリオン"はデカいから天井を下から突き破ってしまうし、"ドッカン彗星"は逆に上から突き破ってしまうからだ。
謎の雨の正体がわからない以上、この天井を無闇に壊すのは得策ではない。


「なら、もっといっぱい召喚して──」

「──私が力を貸そう」

「え……?」


どう動くべきか迷う【花鳥風月】の元に、1人の男性が現れた。
前後に尖った帽子を被り、軽装ながら腕と脚は革製の防具を身につけている。さながら、ファンタジー世界の"狩人"のようだ。


「あなたは……アローさん!?」


その名を呼んだのは風香。しかし、風香以外の誰もが彼を知っていた。
なぜなら、彼はあの【覇軍】のメンバーが1人、アローという人物なのだから。本戦の2回戦、3回戦と、アーサーや影丸の陰に隠れながらも活躍していた存在である。


「アーサーに大怪我を負わせたあの者を許しはしない。だが、今は影丸に任せる。私は私の責務を全うする」


そう言って彼は、静かな怒りを露わにしながら、空中から黄緑色に光る弓を出現させる。その弓を左手で掴み、右手は矢を番える──のではなく、さらに新たな弓を手にした。


「我が"双弓(そうきゅう)"、受けるがいい」


両手に弓を持って、一体どうやって矢を放つのか。そんなの答えは1つ。魔術を使うに決まっている。
アローが両手で構えた弓には、いつの間にか矢が伴っていた。ただの矢ではない。魔力がたっぷりと詰まった特製の矢である。


「"デュアル・ショット"」


自動的に放たれた双つの矢は真っ直ぐ敵へと飛来し、腹部に直撃した。
だが相手はアーマーでガチガチに防御を固めている。普通の矢であれば物理的に敵うことはないはずだが。


「──っ!?」


「鎧を貫いた!?」

「凄い……!」


だが魔力の矢であれば物理法則なんて関係ない。岩だろうが鎧だろうが、込められた魔力の量次第で容易く貫いてしまう。これがアローの能力(アビリティ)、"双弓"の真骨頂だ。


「1人倒しただけでは状況は変わらない。続けて行くぞ。いいか?」

「はい!」


強力な助っ人を得た【花鳥風月】は、再び多くの重装兵たちと対峙するのであった。







「どこから来る……?」


一方、【日城中魔術部】サイド。
こちらは緋翼が敵の銃を全て無効化したため、相手との近接戦闘が行なわれていた。銃を失ったとはいえ、まだ剣を持っている。気を抜けば真っ二つだ。

とはいえ、終夜や緋翼を筆頭として、多くの魔術師が敵を抑えている。よって晴登は結月の護衛に徹することができているが、問題は前方の敵ではなく、もう片方のゲートの敵。そちらからの狙撃は何としてでも防がねばならない。


「と言っても、風じゃ防げないだろうしな……」


向こう側の様子を見ると、月は能力で銃弾を防げているが、晴登の能力ではそれができない。"鎌鼬"であれば可能かもしれないが、実際に防ぐには刀で銃弾を切るような繊細な操作が必要だ。晴登にはそんな芸当はできない。


「かと言って、結月を動かす訳にもいかないし……」


結月を抱えて避けるだけなら何とかなるかもしれない。しかし、それで結月の集中が切れて天井が壊れてしまえば元も子もないのだ。彼女に触れずに、かつ銃弾から守るにはどうすればよいのか。


「とにかく、その時はその時だ。だからそのためにできること──"予知"しかない」


ここに来て確実性の低い手を取る行為ははばかられるが、逆にこれしか手がないのも事実。つまり、『弾道を予知して迎撃する』というのが晴登の結論だ。弾道さえわかれば、"鎌鼬"で防ぐこともできるかもしれない。


「だったら、集中──!」


"予知"の発動条件はわからないが、とりあえず勝つために極限まで集中していたのは確か。だから集中力を高め、ついでに目に全神経を注ぐ。あの"風の流れ"をもう一度視たいと、ただその想いで。


「──視えた!」


集中してから数秒後、晴登の胸元に向かう一筋の風が視えた。流れの元を辿ると、こちらに銃の照準を向けた重装兵を見つけた。
距離は50m程か。予知しなければ気づかなかっただろう。間一髪。
弾道も風を視てわかった。ちょうど晴登の心臓を狙って……いや、貫通して結月に当てることも狙っているらしい。


「狙われるのは怖いけど、弾道がわかれば防げる……!」


標的にされているとわかって心臓が波打つが、落ち着けと自分に言い聞かす。なに、後は"鎌鼬"を弾道上に撃つだけ。それで狙撃は防げる。


「"鎌鼬"!」


晴登は右手を振るい、風の刃を放つ。予知では、あとコンマ数秒後には発砲されていた。ならばあらかじめ"鎌鼬"を撃たないと間に合わない。

──発砲音。遠くに見える銃が火花を散らした。銃弾はすぐにこちらに届くだろう。

だが"鎌鼬"は既に放っている。途中で弾丸を斬るなり弾道を反らすなりしてくれればそれで良い。良いのだ。


「……あ」


──だが晴登の"鎌鼬"は、銃弾に当たらなかった。


「何で……」


当たらなかったのか。この短い時間で、晴登が呟けたのはこの疑問詞だけだった。
理由は明白。"鎌鼬"が弾道に沿っていなかった。それだけのことである。銃弾を刀で斬るという達人技は、弾を見切っても素人には無理だったというだけの話なのだ。

銃弾が眼前へと迫る中、まるで時が止まったかのような錯覚に陥った。何の音も聴こえず、身動き一つとることができない。

このままだと、心臓を射抜かれた晴登は間違いなく即死。晴登を貫通した弾を受けた結月は耐えるが、集中が切れて天井の氷は壊れ、この戦場そのものが謎の雨によって蹂躙されることになる。──そう、予知で視えた。


「……っ!」


晴登にはもう、何をすることもできないし、その時間も残されていない。唯一反射的にやったことと言えば、目を瞑り、身体に力を入れて銃弾の衝撃に備えたぐらい。


──ああ、ここで死ぬのか。


こんな感情になったのは2度目だが、今回こそ本当なのだと思う。だって予知までしたんだから、これで違ったらもうこの力は信用できなくなってしまう。まぁ、的中率100%の占いなんて聞いたこともないから、予知ってそういうものなのかもしれないけど。

何の役にも立てなかったことが心残りだが、せめて結月に弾丸が届かないで欲しいな……。



──。


────。


──────。


──おかしい。

いつまで経っても、来るはずの痛みと熱が来ない。

あ、もしかして即死したとか?

痛みを感じる間もなく死ぬって、こんなあっさりしたものだったのか。何だか拍子抜けだ。

もしかして、今目を開いたら三途の川とかお花畑だったりするのかな?

それはちょっと気になるかも──



「……え?」



目を開いた晴登は、ここが三途の川でもお花畑でもなく、目を瞑る前と何も変わっていない場所だと気づいた。銃撃音や爆発音が至るところで鳴り、再びけたたましい雨音が耳の中に響く。

ただ違うことを挙げるとすれば、晴登の前に黄金に輝く壁のようなものがあって、その足元に銃弾が転がっていた点だろうか。


「──間に合ったようですね」

「あ、あなたは……!」


背後から、聞いたことのある声と共にとある人物が現れる。それは2回戦の時に晴登と結月が戦った相手、【タイタン】の建宮だった。相変わらず、見上げるほどに背が高い。


「これは……バリア?」

「はい。私の能力(アビリティ)、"守護"の力です。大抵の攻撃ならば全てバリアで防ぐことができます」

「た、助かった……」


九死に一生を得るとはまさにこのこと。助けばなければ今頃死んでいたと思うと、背筋が凍る想いだ。


「助けてくれて、ありがとうございました!」

「いいんだ。この少女が戦況を土台から支えていることは誰の目から見ても明らか。それならば、攻撃も防御も彼女に集中するのは当然です」

「確かに……」


メガネをクイッと上げながら、建宮が言った。彼の言う通り、結月がこの戦場の要なのだ。敵から狙われやすいのは必然。


「しかし注意していたとはいえ、君が技を放っていなければ気づかなかったでしょう。こちらこそ助かりました」

「ど、どういたしまして……?」


謎に感謝されてしまうが、ここで違和感に気づく。

建宮が予め狙撃に気づいて防いでくれたとすれば、晴登が死ぬという予知は矛盾しているのだ。単純に未来が変わったということもありえるが、建宮が言うことを踏まえると、"晴登が未来を変えた"ということになる。

──つまり、予知は変えられるということだ。


「これは新たな発見……」

「どうかしました?」

「い、いや何でもないです!」

「そうですか。……ここで1つ提案なのですが、私が彼女の護衛を務めましょうか?」

「え、いいんですか!?」

「もちろんです」


紳士的な笑みを浮かべてそう申し出る建宮。護衛には力不足な晴登にとって、それは願ってもない話だった。彼ならば、護衛の任務を必ずややり遂げてくれるだろう。


「あなたの恋人のことは、この命に替えても守ると誓いましょう」

「ありがとうございます……って、え? どうしてそれを!?」

「見てればわかりますよ」


そう言って、ふふふと微笑む建宮。隠しているつもりはないが、いざこうしてバレると少し照れくさい。……バレた以上、もう恥ずかしがることはないな。


「結月のこと、お願いします!」

「任されました」


結月のことを建宮に託し、晴登はとりあえず終夜の元へと向かう。状況の報告と、次の指示を受けるために。


「部長!」

「三浦? ……なるほど。【日城中魔術部】集合! 作戦会議だ!」


遠距離から黒雷を放って迎撃していた終夜の元に、晴登は駆け寄る。すると彼は一瞬驚いた表情を見せたが、結月の方を一瞥してすぐに状況を理解したらしく、結月以外の魔術部を招集する。


「ちょっと、あんまり余裕ないのよ? 何話す気?」


終夜の呼び声を聞き、終夜の近くにいた伸太郎と前線から離脱した緋翼がこちらに来る。
彼女の言う通り、争う前から魔術師が多く倒されているため、戦線的にはあまり余裕がない。中学生の緋翼が離れるだけで前衛の負担が増してしまうぐらいには。


「もう一度ポジションを見直す。まず俺と辻は引き続き迎撃だ」

「わかったわ」

「三浦と暁には怪我した人たちの治療をしてもらう」

「えっと、わかりましたけど……俺治癒魔術なんて使えませんよ?」


納得の采配だが、そこには致命的な欠陥がある。晴登と伸太郎には治癒魔術が使えないということだ。専門知識のない2人に、治癒魔術なしでの治療もできる訳がない。


「そこは心配するな。この魔法陣が刻まれたカードを使え。これで治癒魔術を発動できる」


そう言って、終夜は懐から数十枚ほどで束になったカードを取り出した。大きさはトランプくらいで、両面に何かの魔法陣が刻まれている。


「ちょ……あんたこれ何枚持ってんの?!」

「いざって時のために、櫻井先輩に頼んでできるだけ作ってもらってたんだ。いっぱいあっても困りはしないからな」

「あんたねぇ……」

「何かマズいんですか?」


どうやらカードの枚数を見てか、緋翼が声を荒らげた。確かに量は多いと思うが、そんなにおかしなことなのだろうか。疑問に思って、緋翼に問いかける。


「治癒魔術自体、使い手がそう多くないから、治癒魔術のカードは凄く高価で取引されるのよ。それをこんなにいっぱい持ってたら、懐に宝くじの大当たりを忍ばせてるようなものよ」

「うわ……」


緋翼の説明に驚いて、危うく受け取ったカードを落としかける。
このカード1枚だけで数万円くらいの値があるとでもいうのか。治癒魔術って凄い。そして、それを作れる櫻井先輩って一体……。


「つべこべ言ってねぇで早く取り掛かるぞ! 使い方はカードを患部にかざして魔力を込めるだけだ! 能力(アビリティ)が扱えるなら誰でもできる! でも体内に銃弾が入ったらマズいから、あった時はどうにかして取れ! 後は流れ弾に注意! 1人でも多く生かせ! いいな!」

「は、はい!」


追及を嫌った終夜がまくし立て、作戦会議が打ち切られる。気にはなるが、戦況は一刻を争う。すぐに取り掛からなければ。


「うぅ……」

「だ、大丈夫ですよ! 今治癒しますから!」


晴登は早速、近くに倒れていた人に近づいた。銃傷が痛々しいが、まだ息はある。
声をかけながら、終夜に言われた通りにカードを傷口にかざして魔力を込める。すると、みるみるうちに血が止まって傷口が塞がっていった。


「凄い、本当に傷口が塞がった! でも、結構疲れるな……」


半信半疑だっただけに、実際に治療が成功したのを見て晴登は興奮する。しかし、その代償としてそれなりに魔力を消費したようで、一気に倦怠感が襲いかかった。

──GWで合宿を行なった時に、晴登のことを終夜が治療したと言っていたが、あの時の謎が今になって解けた。本当に、終夜には感謝しなければ。


「……キツくてもやるんだ。俺だってこれくらいは役に立つんだから!」


頬を叩いて気合いを入れ、晴登はすぐさま次の怪我人の元へと向かう。


──その時、ちらりと視界の端に映った光景に目を疑った。







「はぁ……はぁ……」

「うん? 疲れてきたか? まぁ全身変化をこれだけ使ってるんだから当然か」


"龍化"のタイムリミットが訪れてしまい、影丸は"龍化"を解く。結局、全ての技を避けられてしまい、まともにダメージを与えることさえできなかった。


「まさかここまで追い込まれちまうとはな。これじゃアーサーに顔向けできねぇ」

「随分と彼を慕っているんだな」

「あいつには世話になってるからな。この辺で借りを返しとかねぇと」

「美しい友情だな。だが──続きはあの世でやってくれ!」


"龍化"を解いた影丸には、雨男の攻撃は致命傷となるだろう。少しでも体力を回復するべく駄弁りで時間を稼ごうとするも、彼は5秒と待ってくれなかった。


「──なーんてな」

「!!」

「ようやく捕まえたぜ。雨男」


だが、その5秒さえ気をそらせれば十分。こちらに向かってきていた雨男の足がピタリと止まった。


「"影縫い"。いくら回避が得意でも、これは避けられなかったようだな」

「小癪な……!」


屋根と雨雲で日光が遮られて薄くなっているが、確かに影丸の影が伸びて、雨男の影を捕まえていた。

この瞬間を待っていた。いくら避けるのが得意だろうと、動けなければ意味がない。
5秒の時間と、"龍化"が解けたことによる相手の油断があって、ようやくこの状況を作り出せた。


「俺の勝ちだ。観念するんだな」

「何言ってるんだ。俺を殺すまでこの雨は止まないし、お前らの勝ちはありえないぜ?」

「そうかよ。ならお望み通りトドメを刺してやる。"黒龍の咆哮"!」


安い挑発だが、乗ってやる。アーサーや倒された魔術師たちの分も、たっぷりと仕返ししないと気が済まないところだった。この灼熱のブレスを喰らえば、二度とその減らず口を叩けなくなるだろう。

これで、この無益な争いに終止符が──


「──あーあ。残念だけど、その攻撃は俺と相性が悪いんだよ」

「何っ!?」


しかし、雨男は右手を振るっただけでそのブレスを相殺してしまった。腕を振った風圧なのかそれ以外の要因か、どうやったかは定かではないが、影丸に驚きという隙を与えたのは事実。


「驚いてる暇はないぜ? ほら、お返しだ」

「これは……水?」


雨男から放たれたのは、いくつものシャボン玉のような水の球。それらは影丸を囲うように宙に浮かんだ。
手品でも見せられているのか。その不可解な物理現象に眉をひそめた、その瞬間だった。


「じゃあな、"黒龍"」

「──がはっ!?」


雨男の合図と共にその水滴1粒1粒が形を変え、鋭い針のようにになって影丸を突き刺したのだ。
その数およそ数十本。全身に針が突き刺さり、抉れた皮膚下から血が溢れてきた。


「ぐ、あ……」


針状の水は空中で固定されたかのように浮かんでいるため、刺された後も影丸は倒れることができない。磔のようにその場で血を流し続ける。


「これで"聖剣"と仲良く逝けるな」


そう言って、雨男は楽しそうに笑っていた。あまりに惨い行ないをしたのに、どうしてそんなに笑っていられるのか。


「影丸さん!!」


その様子に気づいた晴登の悲痛な叫びに、影丸が応えることはなかった。

 
 

 
後書き
1ヶ月ぶりですこんにちは。どうも波羅月です。更新が遅くなった理由は文字数を見れば明らかですが、最近文字数のインフレが止まりません。これでもだいぶ文量削ったはずなんですけど、どうしてこうなってしまうんでしょうか? 書きたいことがいっぱいあって、もはや文がめちゃくちゃになってますが、内容がわかればOKの精神でよろしくお願いします。

ということで、時間的には全然進んでないんですが、雨男無双が始まってしまってえらいこっちゃという状況です。そろそろ彼の能力について少しずつ考察が進むとは思いますが、本質はまだまだ見せません。魔導祭編、あともう少しだけお付き合いください。

今回も読んで頂き、ありがとうございました! 次回もお楽しみに! では! 
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