魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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魔法絶唱しないフォギアG編
ガルドのキッチン
「う~む……」
二課本部となっている潜水艦、その食堂の厨房にて1人の男が食材を手に唸り声を上げていた。
基本日本人で構成されている二課では珍しい、外人の男――――ガルドだった。
ガルドはフロンティア事変後、本来であればアメリカにその身を預ける予定であった。マリア達と同様、武装組織フィーネとジェネシスに与していた男だ。アメリカはマリア達共々、ガルドの事を拘束しあわよくば魔法使いに関するデータ収集の為のモルモットとするつもりだった。
だがそれをみすみす許すようなウィズではなかった。ウィズはアメリカが動き出すよりも前に行動を開始し、様々な手を回してガルドがアメリカ政府に囚われるのを阻止。その際に一緒にマリア達の死刑(今回の一件の責任を取らせる形でアメリカ政府はマリア達装者3人を始末しようとしていた)を回避する為の材料も集め、それを全て弦十郎の兄である八紘に譲渡。これによりアメリカの目論見を木端微塵に砕いた。
結果、マリア達は暫くの拘束期間の後解放される事となった。
で、肝心のガルドだが、こちらは終始ソーサラーと活動していたことが幸いし罪を問う事が出来なかった。フロンティア事変終盤にてマリア達と共に素顔を晒したがその時点で彼はジェネシスと敵対しており、それ以前のソーサラーと彼を結びつけることが出来ずアメリカも手が出せなかった。
さらに前述のアメリカの痛いところを突く証拠の数々を握られてしまった為、ガルドは実質お咎めなしで解放される事となる。
だがガルド自身がそれを良しとしなかった。マリア達が収監されているのに、自分がのうのうと自由を謳歌するなど許されない。何より彼は止むを得ないとは言え、ソーサラーとしてジェネシスらに手を貸した事実がある。
それらの罪を自分なりに雪ぐため、彼は二課への配属を自ら希望した。
ただし、魔法使いとして戦う事はアルドにより禁止された。あの戦いでガルドは無茶をして出撃し、その反動で彼の体はかなり消耗してしまったのだ。
なので今はドライバーも指輪も取り上げられ、こうして本部の食堂でコックとして働いていた。元々彼は食堂の息子として生まれ育ってきただけあり、料理の腕にはそれなりに自信があったのも理由だ。
「ガルドさ~ん!」
「ん? おぉ、ヒビキか」
「ご飯、大盛りでお願いします!」
「あぁ」
時刻は昼近く。一足早くに昼食を取りに来たのは、この日本部で待機していた響だった。
フロンティア事変が終息してから数日。あの戦いでバビロニアの宝物庫は閉じ、ノイズの被害自体は無くなった。
だがあれ以降、ジェネシスの魔法使いによるものと思われる騒動が度々起こっていたのだ。
通常兵器ではなかなか対処が出来ないジェネシスの魔法使いを相手に、対抗できるのはシンフォギア装者と颯人達だけ。なので彼らはあの事変以降も何かと忙しい日々を送っていた。
ガルドは自分が戦いに出れない事に不甲斐無さを感じつつ、以前と違って存分に料理の腕を振るえることに確かな手応えを感じつつ日々を過ごしていた。
「ほら、希望通り大盛りだ」
「わはー! ありがとうございます!」
ここで働く様になって数日。最初こそ敵対していた後ろめたさからどこか硬かったガルドも、最早今はすっかりここの一員となっていた。特に響などは馴染むのも早く、彼と気安く話す事が出来ていた。
炊いた白米が山盛りとなった椀をトレーに乗せ、隣のオカズの貰いに響が向かうとこの日のオカズであるコロッケが二つさらに乗せられた。
「はい、響さん。サービスでコロッケを2個にしておきますね?」
「ありがとうございます、セレナさん!」
ここでこうして働いているのはガルドだけではなかった。セレナもまた、彼と共にここで働いていた。
セレナの場合は長らく寝たきりで過ごしていたと言うのもあり、直接事件に関わっていないという事で罪に問われる事もなかった。暫く病院で療養し、回復したとなるとマリア達より一足先に解放。後遺症の影響でシンフォギアを纏う事も出来ず行き場のない彼女を、保護と言う形で弦十郎が引き取り二課本部でガルドと共に働かせることとしたのである。
以降、セレナはガルドの手伝いとしてこうして厨房で働き、他の職員と共に響達装者や魔法使い達を陰ながら支えていた。
今はまだマリア達は収容所の中だが、何時か解放された時はまた共に過ごす事を夢見ている。
暫くの間は他の職員と共に腹を空かせた本部の職員たちに配膳し、食器を洗い、忙しい昼の仕事をこなしていった。
「ふぅ~……」
粗方の職員たちが昼食を終え、落ち着いた頃を見計らいガルド達も休憩に入る。厨房を出て、食堂の椅子に腰かけ大きく息を吐いた。人々に食事を振る舞うのは好きだが、労働はやはり疲れる。嫌な疲れではないのだが、疲れは疲れだ。溜め息の一つも吐きたくなる。
そんな彼に、セレナがコーヒーを淹れた。
「はい、ガルド君。お疲れ様」
「あぁ、ありがとうセレナ」
笑みと共に差し出されたコーヒーを受け取り、ガルドは湯気を立てるコーヒーを喉に流し込む。コーヒーの温かさと苦みが疲れた体に染み渡り、固まった体を解してくれる。
コーヒーを飲んで今度は満足そうな溜め息を吐く彼に、セレナも嬉しそうにしながら自分の分のコーヒーを口にした。
「……何だか、夢みたい」
「ん?」
徐にセレナが呟いた言葉に、ガルドが思わず首を傾げる。
「こうして、ガルド君と食堂で働くなんて……あの時、ガルド君が死んじゃったと思ってたから……」
ガルドが処分されそうになり、そしてウィズにより連れ去られた後、ナスターシャ教授はガルドを別の施設居送られたとセレナ達に説明していた。だがそれまでの事を知っていたセレナは、それをナスターシャ教授が自分達に気を遣っただけだと思っていた。本当は死んだのを、セレナ達が悲しまないようにと優しい嘘で包んだだけだと思っていたのだ。
だが、ガルドはこうして生きていた。名前を偽り顔を隠し、フィーネとして世界に戦いを仕掛けたマリアやセレナ達を守ってくれていたのだ。
そして今、ガルドは仮面を取り、セレナの隣で得意の料理で人々を笑顔にしている。その隣で彼を手助けで来ている。その事がセレナはとても嬉しかった。
気付けばセレナはガルドに寄りかかり、彼の方に頭を乗せていた。
肩に乗るセレナの重さに、だがガルドも心地良さを感じて彼女の頭を優しく撫でた。
「俺も……こうしてセレナと過ごせるなんて思っても見なかった。ウィズと、風鳴司令には感謝しかない」
「うん……あとは、マリア姉さん達が居てくれたら……」
「きっと来るさ。だから今は待とう」
ガルドの言葉にセレナは小さく頷き、そして彼の顔を見上げた。自分を見てくるセレナの視線に気付き、彼もセレナの目を見返す。
熱の籠った潤んだ瞳。忙しい時間を過ぎ、今この場には他の職員は居ない。
静かな空間が2人の背中を後押しし、徐々に2人の顔が近付いていく。
あと少しで2人の唇が触れ合いそうになった…………その瞬間、食堂の入り口からガタンと言う音が響いた。
「「ッ!?!?」」
「あ、あわわ――――!?」
2人が弾かれるように音の発生源を見ると、そこには顔を真っ赤にしたクリスと透が気不味さと羞恥に体を震わせていた。
今正にしようとしていた事を第3者に見られたことに気付き、今度はガルドとセレナの2人が顔を真っ赤にさせる。
その2人の背後に、下から生える様に颯人が顔を出した。
「へいへ~い、俺も奏とそういう事するのはここでは避けてるんだから2人も我慢しろよなぁ?」
「うぉっ!?」
「きゃっ!?」
何処からともなく姿を現した颯人に、ガルドとセレナは飛び上がる様に驚く。その声に再起動したのか、クリスは顔を真っ赤にして目を回しながら2人を指差して詰め寄って来た。
「そ! そそそそそそそ、そういう事は家でやれッ!?」
「家でなら良いのかクリス?」
「そりゃそうだろ!? 別に家でなら何したって…………ナニ、したって…………」
颯人同様何処からか姿を現した奏の言葉に、最初勢い良く言い返したクリスだったがその声も徐々に小さくなっていった。段々と尻すぼみになりながら顔は赤さを増し、顔には変な汗が浮かび始める。
「ん~? クリスちゃんはな~にを想像したのかな?」
「もしかして、透とそういう事をするのに興味があったり?」
「あ、あわわわわわ――――!?…………ふぅ」
左右を颯人と奏に挟まれ、想像力を掻き立てられたクリスは思考が限界を超えたのか唐突にぶっ倒れた。彼女が倒れると、透が慌ててクリスを抱き起す。
「あちゃぁ、流石にクリスチャンには刺激が強すぎたか」
「まぁ直ぐに起きるだろ」
和気藹々とした雰囲気の4人。いや今が4人と言うだけで、普段はもっと人数が多い。
ガルドとセレナは今その中に居るのだと実感し、そしてその中にはいずれマリア達も含まれるのだと思うとその時が来るのを楽しみに思わずにはいられないのだった。
後書き
ここまで読んでいただきありがとうございました。
今回は主にフロンティア事変後のガルドの処遇がどうなったかについての話になります。
あのままだとアメリカ政府に貴重な魔法使いのサンプルとしてモルモットにされてもおかしくない所でしたが、それはウィズが許しません。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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