ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね(お試し版)
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十四話「告白」
「しかし、あの時は本当に緊張したなぁ」
俺の意識は記憶を船出より更に遡り、砂浜のある海辺へたどり着いたところまで戻る。
「ポップ、私の記憶ではあちらの方角に漁村があったと思いますので、走りこみがてら確認してきなさい」
そう、不審に思われることない理由で兄弟子を遠ざけるのもおそらくは師匠の気遣いだ。
(ポップと言えば、弟子入り直後は歓迎されてないの明らかだったけど、あれも怪我の功名って言うのかなぁ)
俺が何かやらかして凹むのを繰り返していたせいか、態度も軟化して時々慰めてくれたりするぐらいに人間関係は改善されている。代償としてポップから見た俺の評価はことあるごとに失敗して凹み続ける落ちこぼれとかそんな感じだろうが。
(ま、まぁ、どうせ主人公の故郷、魔物達の住む南海の孤島で俺はフェードアウトするわけだし)
若干モヤモヤはするが、ここは割り切ろう。そも、今は兄弟子との人間関係や自身への評価について考えて居る場合じゃない。
「さて」
俺が黙ってまごついていたからだろうか、促すように口を開いた師匠にびくりと震えた俺は頷いて落ちて居た枝を拾い浜辺の砂へ先端を近づける。
(決めた筈だけど、だからって緊張しない理由にはなんないもんな)
信用してもらえるだろうかという不安と、真剣なまなざしを向けてくることで感じるプレッシャー。
「俺はもともと人間で、気が付いたらこんな姿であの森に居ました」
緊張に強張りそうになりつつ腕を動かし、最初に書いた文は作り話にも事実にもつなげられるモノ。
「なる程、メラゴーストにしては敵意も殺気も向けてこなかったのはそう言う理由でしたか。元が人間だったというなら、私達についてきたのも得心が行きます。では、呪文の知識も人の時のもので?」
俺は師匠の問いに頷くと、更に文字を書き出す。厳密に言うならそれは物語の中に出てきたモノで、自分はどうやらこの世界とは別の世界の人間であったこと。
「別の世界、ですか。にわかには信じられませんが」
そう言うアバンに俺も頷きつつ、同感ですと砂に書く。
「自分の身に起こったことで無ければ俺も信じられなかったと思います。それでも、これが現実で、日を跨いでもこの身体は師匠の言うメラゴーストのままでした」
「『日を跨いで』ということは、メラゴースト君も現実ではないのではないかと疑っていたのですね?」
すぐにはいと砂に描いた俺は、夢なのではないかと思いましたと続けた。
「ですが、起きても精神力が回復こそしたものの、姿は相変わらずで」
今に至ると説明した上で、俺は人だったころの出身地や、好物についてアバンに話した。作り話と言うモノは精密にじっくり作らなければ、矛盾点からボロが出たりするが、事実を基にした場合はその逆だ。予想だにしない質問をされたとしても、現実だからこそすぐに対処できる。
「確かに聞いたことのない国の名、町の名前。そして、貴方の好物のざるそばという料理も聞いたことのないものですね。料理の方は後学のためにも一度食べてみたいなとは思いましたが」
ファンタジーな世界だからこそ、和食を挙げたがこれも正解だったのだろう。アバンはこちらの話を信じてくれたようであり。
「それより気になるのは、メラゴースト君の呪文の知識の元となった物語の方ですね。その故郷を仲間と旅立ち、魔王そして大魔王を討ち世界に光を取り戻した勇者のお話には興味があります」
食い付いてくることは予想と覚悟ができて居た方の申し出については、兄弟子の修行の妨げにならないのであればと条件付けしたものの頷いておいた。
「俺が無理を言って弟子にして貰った分、あの人の修行時間が短くなってますよね。その分の埋め合わせをしたいぐらいなんですけど」
「更にポップの修行の時間が減っては本末転倒、と。なるほどなるほど」
俺の言い分に理があると思ったのか、師匠は条件についても納得してくれ。
「では、ポップが戻ってくるまでなら何の問題もありませんね。それから、貴方にはここで待っていてもらいます」
流石に村までメラゴースト君は連れていけませんからねぇと言われれば、こちらも納得するより他なく。俺は俺の知るドラクエⅢの物語を砂に書き出しながら兄弟子を待つことになったのだった。
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