我が子を抱いて
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第二章
「奪い返せばいいです」
「そこまで、ですか」
「宋の領土はそこまでなので」
「それが出来ればいいですが」
「必ず果たします」
韓世忠は文官に強い声で語った、そうしてだった。
金と果敢に戦い続けた、その傍らには常に梁紅玉がいて彼を支えていた。その中で彼だけが出なければならず。
妻に守っている城の留守を任せた、ここで彼は妻に言った。
「よいか、城にだ」
「私達の子もですね」
「守ってくれ、いいな」
「はい、必ずや」
「ここには金軍は来ないが」
彼等がいないからだ。
「しかしな」
「近頃この辺りは賊がいます」
「その賊が来てもな」
それでもというのだ。
「城を守ってくれ」
「そして民も」
「子もな、頼めるか」
「必ず」
梁紅玉は夫に微笑んで答えた。
「果たしてみせます」
「それではな」
「はい、そして賊の征伐もです」
これもというのだ。
「して宜しいですね」
「そなたに任せる」
これが夫の返答だった。
「城を護るのならな」
「それでは」
「宜しく頼む」
妻にこう言ってだった。
韓世忠は軍を率いて城を出た、城に残った兵は少なく守りに不安があったが梁紅玉は常に我が子を背負ってだった。
兵達を率いて城を万全に守っていた、その中で。
「今あの城には兵が少ないという」
「しかもあの手強い韓世忠もいない」
「いるのは女房だけだ」
「これだけ攻め時はないぞ」
「では攻め落とそう」
「そして城の中にあるものを全部わし等のものとしよう」
賊達は城の話を聞いてだった。
「では攻めよう」
「女で戦えるものか」
「しかも兵が少ない」
「我等の敵ではないわ」
「簡単に攻め落とせるわ」
城を確実に陥落させられる、そう言ってだった。
彼等は城を取り囲んだ、その状況になり城の民達は仰天した。
「賊の数は多いらしいぞ」
「それに対して今城を守る兵は少ない」
「これは負けるぞ」
「城を攻め落とされるぞ」
「わし等はどうなるんだ」
民達はこの状況に慌てた、だが。
梁紅玉は彼等に対してこう告げた。
「慌てることはありません」
「いや、けれどです」
「敵の数は多いですよ」
「それに対して城の兵は少ないです」
「もう完全に囲まれていますし」
「危ういですよ」
「確かに戦において数は大事です」
それはというのだ。
「まさに。ですが質もです」
「それもある」
「だからですか」
「それで、ですか」
「戦えますか」
「敵を退けられますか」
「そうです、だから落ち着くのです」
こう民達に言うのだった。
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