Fate/WizarDragonknight
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閲覧注意! 食事中は気分悪くなるかも
「……本当に来たのね」
そんな不機嫌、綺麗な顔が台無しだよ。
そんな気の利いた言葉を、ハルトは言うことができない。
リゲル。
この見滝原にて行われている、願いをかけたバトルロワイアル___聖杯戦争に参加している一人。ガンナーと呼ばれるクラスの彼女は、以前ムー大陸と呼ばれる場所で協力してもらったことがある。
可奈美が言っていた、情報を持っていそうな人。見滝原の住宅街にある七階建てマンション、その五階。その中間の一室に、ハルト、可奈美、そして紗夜は訪れていた。
「久しぶり。えっと……」
「あんまり気軽に来てほしくないんだけど。分かってる? 私達は敵同士よ」
その言葉に、ハルトは否定しきることが出来なかった。
聖杯戦争は、体内に魔力を抱擁する人物がサーヴァントと呼ばれる英霊を召喚し、最後の一人になるまで戦う儀式。勝ち残れば何でも願いが叶うと言われている聖杯を求めて争う以上、リゲルの意見は正しいのだろう。
ハルトはその事実を振り切りながら、続ける。
「そうだけど……マスターから聞いてない?」
「聞いてるわよ。納得いかないから言ってるの。それに貴女は……セイヴァーのマスターね」
リゲルは、ハルトの隣にいる可奈美を見ながら言った。
ハルトの記憶が正しければ、二人の接点は二回。
復活した古代大陸、ムーにおける共闘と、ココアの姉、モカが来た時。
「うん! 覚えてくれてて嬉しいな! リゲルちゃん!」
「ちゃんはやめて」
リゲルはばつの悪い顔をして、もう一人の来客へ目を向けた。
「……貴女は?」
「初めまして。氷川紗夜と申します」
氷川紗夜。
この中で唯一の非参加者である彼女へ、リゲルはより一層険しい顔を見せた。
そのまま表情を変えないまま、リゲルは耳に手を当てた。すると、彼女の目に筒状のゴーグルが発生した。
「氷川紗夜……貴女、元参加者よね? フェイカーとの戦いに深い関わりがあったそうだけど」
半分確信を持った口調だった。
紗夜はどことなくぞっとしている表情だが、ハルトはその前に立つ。
「まあ、元だからね、元。もう令呪もないし。ほら紗夜さん。手だして」
「は、はい……」
ハルトに促されて、紗夜は両手を差し出す。
ハルト、可奈美の手に刻まれている、黒い紋章。それぞれ異なる形として、ハルトは三画、可奈美には二画残っているものは、紗夜の手には完全に消失していた。
「……まあ、いいわ。もともとマスターが招いたのだし。上がりなさい」
リゲルはそれ以上の言及を避け、玄関ドアを大きく開け、三人を迎え入れた。
「ねえ、リゲル」
マンションは、2LDKのファミリー用の部屋だった。
リビングリームに通されたハルトたちは、ソファーに腰かけ、リゲルがマスターを呼ぶま待つこととなった。リゲルが戻って来たころには、ハルト、可奈美、紗夜の三人は肩を抱えて震えていた。
「何?」
「この部屋、ちょっと寒すぎない?」
「寒い寒い寒いよぉ!」
ハルトの言葉に続いて、可奈美も猛烈な勢いで同意する。
その言葉に、リゲルは深く頷いた。
「それは私も同意するわね」
「同意するなら止めたら?」
「とっくに何度も止めたわよ。ウチのマスターはそんなことを気にするタイプじゃないのよ」
「あはは……」
「っくしゅん!」
ハルトが微笑していると、紗夜がくしゃみをした。
「……ごめんなさい」
「仕方ないよ。でも、まだ春先だよ? 室内でここまで冷房利いてると、風邪ひかない?」
「私はそもそもゼクスだからそんな問題ないわ」
「ゼクス?」
「……忘れなさい。あ、来たわ」
リゲルが廊下を見た。
廊下の側にある部屋から、こちらにやってくる少女。白い上着とボブカット、そしてなきぼくろが特徴の少女は、静かにリビングルームに入って来た。
「えっと、確か……柏木……名前なんだっけ?」
「鈴音ちゃん!」
「鈴音です」
彼女はばっさりと可奈美の腕を下ろす。
そう。
柏木鈴音。
聖杯戦争の参加者、ガンナーのマスターにして、以前可奈美にも接触してきた少女。
逃げ専を自称し、聖杯戦争にもなるべく関わりを持とうとしない彼女は、やってきた廊下へ手招きした。
「準備はしてきました。行方不明の元参加者の捜索ですよね」
「うん。ごめんね、いきなり押しかけて」
「いいえ。貴方たちに借りを作ることは重要ですから。それで、彼女が?」
鈴音は紗夜に目を向けた。
ハルトは頷き、紗夜へ手を向ける。
「氷川紗夜さん。こっちも元参加者で、今回その蒼井晶を探してくれって依頼してきたんだ」
「あえて元参加者を探そうとするなんて、ハルトさんも物好きですね」
「まあ、そもそも参加者としてではなく、単に行方不明の生徒を探しているわけだからね」
ハルトの言葉に、鈴江は頷いた。
その時。
カサカサ……
「ん?」
その音に、ハルトと可奈美は同時に顔を下げた。
無数に散らばる鈴音の私物。その合間にそれはいた。
「お……」
「「うわああああああああっ!」」
可奈美と紗夜は驚いて、ハルトに飛びつく。
「うぎぃ……」
両側から首を締め付けられて、ハルトが短い悲鳴を上げた。
だが、ハルトに構わず、左右の二人は遠慮なく大声を発する。
その、黒光りする物体に向けて。
「g……○○○○!」
「なんでこんなところに〇〇〇〇が!?」
「耳がっ! 二人とも、離れて!」
「そりゃいますよ。生活しているんですから」
鈴音は虫を一瞥しながら冷蔵庫を開ける。
中からコーラのペットボトルを取り出し、キャップを外している。
何となくこの原因を察したハルトは、さらに可奈美の悲鳴を浴びた。
「生活してるだけで出てこないよ普通!」
「ぐあああ耳が……っ! あと首がッ! 折れるっ! 可奈美ちゃん、俺たちそもそも飲食店で働いているんだし、見たことなかった?」
「ら、ラビットハウスにもいるんですかっ!?」
「見てない見てない見てないいないいないいない!」
可奈美と紗夜がさらに全身の力でハルトの体にしがみつく。だんだん頭に血が行かなくなってきた。
可奈美の体が少し床に近づくのと同時に、例の虫がこちらに近づいてきた。
「う、うわーっ! 来た来た来た! ハルトさん! 燃やして飛ばして! 魔法使いなんだから、出来るでしょ! 速く速く! フレイムでもコネクトでもキックでもいいから! こっちに来たから!」
「い、いやっ! 来ないで! 助けて日菜!」
「分かった分かったから! そもそも可奈美ちゃんの部屋も結構汚いし、結構いると思うんだけどっ!」
「いない! 絶対にいない! ってうわああああああ近づいてきたっ!」
そして。
黒光りする虫は翼を広げ、飛翔。
同時に、その背後から増殖してくる。一匹ではない。二匹も、三匹も。
「「いやあああああああああああっ!」」
「ぐ、ぐるしい……」
「うるさいですね。気にしなければいいじゃないですか」
鈴音は無視しながら、ハルトたちを廊下へ案内しようとする。やって来た彼女の個室だろうか。
だがこちらは、それどころではない。あれをどうにかしない限り、話を進められない。
「いやっ! いやっ!」
「こ……こうなったら……」
『コネクト プリーズ』
ハルトはほとんど(これもしかして、今まで戦ったどんな敵よりも強い拘束ではないかと思いながら)動きを封じられながら、指輪を発動させた。
魔法陣から丸めた新聞紙を取り出し、飛んできたそれをホームラン。
壁に張り付いた形で動かなくなった虫。だが、今更それで数を減らしたところで焼け石に水。
「つ、次!」
『コネクト プリーズ』
再び魔法陣を発動。
次に引っ張り出したのは、殺虫剤。
「ほら、可奈美ちゃん! これでやっつけられる奴はやっつけて!」
「いや! 無理! ハルトさんがやって!」
「いつも荒魂やらファントムやらと戦ってる刀使が何を言ってるの!?」
ハルトはツッコミながら、可奈美の頭に殺虫剤を乗せる。
だが、そうこうしている間に、すでに対峙している一団が迫っている。
可奈美には頼れないと、ハルトは殺虫剤で応戦。白い霧吹き状の液体が霧散し、何体かの脚を止める。
そして。
うち二体が、接触した。
正確には、ハルトの左右。
可奈美と紗夜の頭上に。
「「ヒッ……」」
「……この状態から入れる保険があるんですか……?」
「「いやあああああああああああああああああああああああああっ!」」
耳元だということを忘れた少女二人は、遠慮なく大声で叫んだ。
数秒間、ハルトの聴力が完全になくなった。耳から脳に直接伝わって来た二人の少女の振動は、軽い脳震盪を起こし、ハルトの意識を半分刈り取っていく。
「話よりも先に掃除しましょう!」
ようやく聴力が回復した時。
それは、可奈美が迅位の速度で殺虫剤を撒いた後で、紗夜が主張した時だった。
「あ、やっと耳が治った……」
「ウィザード、平気?」
そんな今。
可奈美はまさに人並外れた素早さで虫たちを駆除していく。放っておけば、ソファーに置いてある御刀、千鳥まで動員してきそうだ。
「ありがとリゲル。……っていうか、あの二人にももう少し俺のこと心配してほしいんだけど」
「ウィザード以上に、あっちが気になるのね……まあ、私も同感だけど」
腰を曲げるリゲルへ、ハルトは「あはは」と薄ら笑いを浮かべた。
リゲルより遥かに関わりが深いはずの二人がすっかりと自分よりも虫退治に夢中になっている二人へ、ハルトは少し涙目になった。
「可奈美ちゃんも、俺と同じくらい旅とかやってきたらしいし、ああいうの慣れるものだと思うんだけどな?」
「掃除しましょう!」
紗夜の主張がもう一度響く。
「他人のことにそれほど干渉するつもりはありませんが、これでは話ができません!」
「そうだそうだーっ!」
紗夜の背後で、可奈美が手を上げる。
すると、リゲルの顔にみるみるうちに輝きが溢れていく。
「柏木さん。今から、掃除させてください!」
「そうだよ! だからハルトさん!」
「はいっ!?」
いきなりの指名に、ハルトはびくっと背中を震わせた。
可奈美は紗夜を飛び越えて、ハルトに迫る。
「ハルトさん! コネクト!」
「コネクト? はい……」
可奈美に圧され、ハルトは腰のホルスターからコネクトの指輪を取り出した。可奈美は即座に指輪を取り上げ、彼女の右手中指に差し込んだ。
『コネクト プリーズ』
コネクトの魔法。
ハルトの魔力を消費して発動するものだが、その接続場所は指輪の持ち主の意思を反映する。
ハルトが知らない魔法陣の行先。可奈美が手を突っ込むと、彼女はその中から雑巾を取り出した。
「はいハルトさん!」
「う、うん……え? 俺もやるの?」
「紗夜さんも!」
「ええ、是非!」
「ほら、鈴音ちゃんも」
「わたしは別に……」
「いいから! リゲルも」
「……衛藤可奈美……!」
リゲルは、可奈美の肩をがっしりと使う。一瞬、ハルトは可奈美が怒られるかと思った。
だが予想とは一転、リゲルは顔を輝かせていた。
「ありがとう……! そうよ! そうよ‼ 私が何回言っても聞かないの! この部屋、少なくとも私が来てから一回も掃除したことないのよ! さあ! マスター! いい機会よ! この際、色々と掃除してしまいましょう!」
「リゲル……?」
だが、何かが切れたリゲルはもう止まらない。
鈴音を抱え上げ、あらゆる電子機器から引き離し、窓際に立たせる。
「マスター! あなたも掃除よ!」
リゲルは鈴音の手にモップを握らせる。
鈴音は露骨な嫌な顔を浮かべるが、リゲルは聞かない。
「これまで私は、何度もマスターに言ってきた! その度に断られてきたけど、その都度シミュレーションしてきたのよ!」
「ムーの解析もできた能力の何て無駄遣い……」
「その努力が、ついに報われるときが来たのよ!」
「リゲル、アンタそれでいいの!? 英霊なんだよね!?」
ハルトのツッコミにも関わらず、リゲルはすでに戦闘態勢に入っている。頭巾を被り、叩きを掲げた。
「さあ、ウィザード! 衛藤可奈美! 氷川紗夜! 状況開始!」
もうリゲルを止めることなどできない。
ハルトは「了解した」と、雑巾がけを開始した。
可奈美はその素早さを活かし(そのために、常に千鳥を左手に持つ)部屋の隅済みへごみを片付けていく。
「……可奈美ちゃん」
「何?」
「そのモチベーションを普段の生活とか自分の部屋とかにも注いでくれるといいのに……」
「うっ……」
ハルトの言葉に、可奈美はばつの悪い顔を浮かべた。
「だ、だって……あんまり、頑張ろうって続かないんだもん!」
「剣だったらずっとやっていられるのに?」
「当たり前だよ! だって、剣術はとっても楽しいんだよ! 相手と打ち合うと、その力とか力量とか……」
「そもそも家事って、君の剣術以上に才能とか必要ないものでしょ? やらない人って、単純に面倒だからやってないだけだよ」
「うっ! ハルトさん、その言葉は私がこれまで受けてきたあらゆる剣術よりも刺さるよ!」
「刺さるように言ってるからね。……聞いてる? ガンナーのマスターさん」
「聞こえてません」
右手にバケツ。左手にモップ。
いざこれから掃除以外のことをするのに不向きな姿だというのに、彼女は掃除以外をしたいと顔が訴えている。
鈴音を横目で見ながら、リゲルは窓を拭く紗夜へ語り掛けた。
「感謝するわ。氷川紗夜。ウィザードと衛藤可奈美の上、もう一人来てくれるとはね」
「これくらいなら、いくらでも」
紗夜は、にっこりと自らの長い髪を束ねた。ポニーテールとも呼ばれるその髪型だと、ハルトは彼女へ普段とは別の印象を抱かせた。
その時。
「あああああああ……」
体を震わせる鈴音が、声にならない悲鳴を上げた。バケツとモップを放り、右手を突き上げる。彼女の袖が落ちると同時に、彼女の右手に青い光が溢れ出した。
「令呪を持って命じます。リゲル! 掃除を終了! 終了してください!」
「「「え?」」」
「リゲルだけじゃありません! 可奈美さんもハルトさんも氷川さんも! 今すぐ!」
「ええええええええええええええええ!?」
「ちょ、体が勝手に……!」
言うが速いが、リゲルの体が令呪によって動かされていく。彼女の意思とは関係なく、リゲルの体が動きを行っていく……と言えばおどろおどろしいが、やっていることは掃除の中断。ハルトの雑巾を取り上げ、可奈美の手から箒を叩き落とした。
「り、リゲル何やってるの!?」
「私じゃないわよ! 令呪で体の自由が奪われてるの!」
令呪の命令はそれに済まない。紗夜の雑巾もまとめて掴み、窓を開く。
そのままリゲルは、掃除用具を外へ放り投げる。
「な、何をするの私の体!?」
リゲルは自身の体に驚きながら、その右腕に青い光を発生させた。装備されるランチャーで照準を定め、青い光が発射される。
悲しいかな、ラビットハウスより拝借(無言)してきた掃除用具は、聖杯戦争の一環たるリゲルの攻撃によって命中、爆発して消失した。
「「「ああああああああああああっ!?」」」
「……やりました!」
唖然とするハルト、可奈美、紗夜、リゲル。
ただ一人、勝ち誇った顔の鈴音だけが、胸を張っていた。
後書き
ココア「う~ん……眠い」
チノ「ココアさん、起きて下さい」
ココア「起きてるよ」
友奈「チノちゃん! ココアちゃん! 来たよ!」
ココア「友奈ちゃん! いらっしゃい! ツケ溜まっていますぜ……」
友奈「ええっ!? わたし、お茶一杯分のお金しか持ってないよ!?」
チノ「ココアさん! ツケなんてないじゃないですか。友奈さんも信じないでください」
友奈「えっ、冗談? な~んだ、安心した」
ココア「ユーモアは大事だよ? お姉ちゃんの大事な要素なんだから!」
チノ「モカさんには及びません。いっそのこと、友奈さんをお姉ちゃんって呼んだ方がいいと思います」
ココア「(`0言0́*)<ヴェアアアアアアア!」
友奈「ココアちゃんが白目を剥いて倒れたよ!?」
チノ「フッ」ドヤァ
友奈「チノちゃん、すっごいどや顔!」
チノ「今の私なら、なんだって出来る気がします! そう、たとえばメインキャラではないとしても、今回のアニメ紹介を一人で占領することくらいは!」
___好き好き大好き!! 世界一好き!! ホントは大声で叫びたいよ___
チノ「俺が好きなのは妹だけど妹じゃない、通称いもいもです!」
ココア「妹!?」
友奈「えっと、2018年の10月から12月までのアニメだよ!」
チノ「ライトノベル作家を目指す主人公、永見祐くんが、ひょんなことから新人賞を取っちゃった妹、涼花さんと、二人三脚で永遠野誓っていうペンネームで頑張っていくお話です」
ココア「妹! 可愛い!」
友奈「何かココアちゃんが壊れた! あと、それってゴーストライターって言うんじゃ……」
チノ「独特なペンネームのイラストレーターや、同じ高校に通うラノベ作家など、あちこちに出版業界の方がいらっしゃいますね」
友奈「意外とみんなの回りにもいるかもね!」
チノ「他にも、中々独特な画が魅力です」
友奈「そ、そこ多分ファン的には触れちゃいけないやつ!」
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