DOREAM BASEBALL ~夢見る乙女の物語~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
乱打戦
前書き
花粉症がキツくなってきました…
莉愛side
「「「「「お願いします」」」」」
中央に集まった両校の選手が一礼してフィールドへと散っていく。最初に守備に着くのは桜華学院。そのマウンドに登るのは銀色の長い髪をした少女。
「あれ?日本人?」
「いや、フランスからの留学生らしいです」
「そういえば桜華は去年も留学生いたよね?」
「あのキャッチャーがそうですよ」
先輩たちが守備に着いた面々を見ながらそんなことを話している。でも、私の頭の中にはバッテリーにいる二人のことしかない。
「どうしたの?莉愛も瑞姫も」
「何かあった?」
口数が少なくなっている私と瑞姫を心配してか紗枝と翔子が声をかける。ただ、さっきのことを伝えてもなぜそれが気になっているのかと突っ込まれると答えられないので苦笑いしておくことしかできない。
「ねぇ。なんか球速くない?」
質問に答えられずにいると後ろにいた若菜が私たちの肩を叩く。言われるがままにマウンドを見ると、投球練習をしている少女の手から放たれたボールに目を奪われる。
「ホントだ!!速ッ!!」
「陽香さんと同じくらい?」
「いや……もっと出てるかも」
まだ力を入れて投げているような感じには見えない。それなのに遠目から見ても球速が出ているように感じるのは相当速いのだと思う。
「あれ?陽香さんのMAXって……」
「123kmだよね?」
「女子野球の最速って何kmなの?」
確か陽香さんと東英の後藤さんは相当速い分類だったはず。それなのに目の前の投手はそれよりも速いなんてことはあるのだろうか?
「日本だと129kmが最速だと言われてるよね」
「でもアメリカだと137kmを女子高生が投げたらしいよ」
「137km!?」
日本の最速でも速いのに本場ではそれを優に越えてくるスピードが出ていることに驚きが隠せない。それが私たちとそう変わらない年齢の選手が投げているとなればなおさらだ。
「さすがに130kmは出てないと思うけど、十分速いよね」
「これを日帝大がどう打ってくるのか、見物だね」
ほぼデータのない投手相手に優勝候補の一角である日帝王大付属がどのような攻めを見せるのか、注目していると葉月さんと莉子さんが何やらコソコソと話しているのが目に入る。
「どうしたの?莉子」
「いや……ちょっとな」
栞里さんの問いに歯切れ悪く答える莉子さん。その理由が何なのかわからないまま、投球練習が終わったらしく試合が始まろうとしていた。
『一番・ショート・宮川さん』
左打席に入るショートヘアの少女。ボーイッシュな印象を与える彼女は足場を作ると高い位置にトップを作る。
「日帝大は攻めに重きを置いているチームだからね。おまけにエースの吉永まで先発させてるから今日は本気も本気だよ」
準決勝まで3日空くこともありエースである吉永さんも出てきてのフルメンバーとのこと。けたたましいサイレント共に投球に入る銀髪の少女。その初球、力のあるストレートを振っていきバックネットへのファールとする。
「あのストレートに初球からタイミングが合うんだ」
日帝大付属は初球からガンガン振ってくるチーム。それも多少のボール球でもお構い無しとのことで、初見の投手でも打てると判断すればすぐに食い付いてくる。
カキーンッ
続くボールもストレート。わずかに浮いてきたそれを打ち返すと打球は深めに守っていたライトが後退し捕球するほどの大飛球となった。
「これは打たれるのも時間の問題かな?」
莉子さんの予想通り続く二番打者は初球をフルスイング。力のあるストレートに振り負けることなく打球はセカンドの頭の上をライナーで越えていく。
「1アウト一塁……ここからはクリンナップだけど……」
「三番打者はあいつだもんね」
右打席に入る背番号4。身長も高く体格的に恵まれている彼女は小さく息を吐くと構えに入る。その姿には無駄な力は一切入っておらず、まるで隙がない。
「すごい人なの?」
「日帝大付属は《三番打者最強説》を提唱してるからね。この高い打撃力を持ってるメンバーの中で一番いいバッターってことになるから」
瑞姫に聞いてみたらやっぱりすごい人だったみたい。前の二人を見ただけで打力が高いのはわかるけど、それよりもいいバッターって言うのは想像ができないんだよね。
「百聞は一見に如かずだよ」
「それもそっか」
これからそのバッターの打席が見られる。一体どんなバッティングをするのか注目が集まる。
「ボール」
初球は外角へのストレート。際どいところだったけど微動だにせず見送る。
(初球は見てくるタイプなのかな?でも前の二人はそんな感じじゃなかったし……)
カキーンッ
注目のスラッガー桜井さん。彼女の分析をしていたところ甲高い打球音が鳴り響く。高々と描かれた放物線は失速することなくスタンドへと放り込まれた。
第三者side
「相変わらずよく打ってきますね」
「本当ですね」
こちらは本部席。アウトカウントは1つのみでランナーは一塁。スコアには既に3と数字が入っており、優勝候補の力を遺憾なく発揮していた。
「それにしても……なんか印象変わるなぁ」
「そうだな」
右の横手から放たれるストレート。そのスピードは日本の女子野球ではなかなかお目にかかれないほどのボールではあるが、それだけでは抑えられない。この回六人目の打者なのにここまでストレートしか投じていない少女を見て彼らはタメ息を漏らしていた。
「去年の聖エスポワールって言えば、あの変化球投手の印象が強いんだよなぁ」
「投げ方が似てるから同じタイプかと思ったけど……」
「ストレートでのゴリ押しとはね」
唸りを上げるストレート。低めに集まってはいるものの日帝大付属の打撃陣はそれにキッチリタイミングを合わせている。三番桜井の2ランホームランの直後に右中間を破る2ベース。その次の打者にもセンター前ヒットを打たれて3失点。それなのに頑なに変化球を使わないバッテリーに苛立ちすら覚えていた。
「どうやら警戒するほどでもなかったみたいだな、俊哉」
「だといいんですけどね」
真田の言葉に苦笑いで返す町田。しかし、彼は手元にある資料を見ながら目を細くしていた。
(予想していたタイプの投手とは確かに違う。だが、この投手がストレートだけじゃないことはよくわかった)
追い込まれてからの内角のボールに詰まりゲッツーで3アウトになった日帝大付属。しかし初回に先取点を取った彼女たちはベンチから元気よく飛び出してきた。
(ここまで三試合全て先発完投しているソフィア・バルザック。チームもコールドで全て勝ち上がっているからイニング数は15回だが、失点は合計で7点。それも全試合初回に失点しているから完封での勝ちがない)
これだけ聞くと大したことない投手のように聞こえる。しかし、各試合のスコアを入手した町田はあることが気になっていた。
(初回以外は失点がないということは立ち上がりに問題があると思っていたが、こんなストレート一辺倒じゃ打たれて当然だ。逆にどうやって他のイニングを抑えたのか疑問になるレベルだ)
試合の日程の関係で桜華の試合に偵察を送ることができなかったためデータが一切ない。そのためこの試合で情報を収集しようと考えたが、それも無意味に終わると肩を落とした。
(無難に日帝大が勝ち抜いてくるか。波乱が起きてくれた方が面白かったが、それはそれで戦いやすいからいいか)
莉愛side
「ストライク!!バッターアウト!!」
快速球に振り遅れ空振り三振。これにより一回の裏の桜華学院の攻撃は早くも二つの赤いランプが点灯していた。
「いいボール投げるね、菜々は」
マウンドにいるのは日帝大付属の絶対的エースと言われる吉永さん。彼女の投げるボールはスタンドから見ても一級品であることがよくわかるほどにキレていた。
「あの人も日本代表ですか?」
「候補には入ってたよ」
「最終選考で漏れちゃったけどね」
実力は申し分ないってことみたい。打席にはマウンドを任されている銀髪の少女が入る。
「この感じじゃコールドで決まるかもね」
「日帝大の強さを確認するだけになりましたね」
初回の攻防で有り余る実力差が目に見えている。彼女たちの売りである打撃力とエースの力を確認するだけの展開に気が抜けていた私たち。
カキーンッ
気が抜けていたところで響き渡る快音。慌てて打球を探すと左中間のフェンスへと白球が突き刺さっていた。
「なっ!?」
「弾丸ライナー!?」
二塁ベースに楽々到達している少女。打った瞬間をほとんどのメンバーが見ていなかったため、何が起きたのか訳がわからず慌て呆けていた。
「何々!?何を打ったの!?」
「すみません!!見てませんでした!!」
優愛ちゃん先輩の問いに頭を下げる。私たちがあわてふためいている中、場内アナウンスと一緒に歓声が巻き起こった。
『四番・キャッチャー・リュシー・バルザックさん』
一塁側スタンドから沸き起こる歓声。それまで流れていた応援歌が霞むほどの歓声に圧倒される。
「何々?」
「人気者?」
「確か去年のベスト8まで勝ち上がった時の立役者のはず」
情報通の紗枝がそんなことを言う。この歓声は期待の現れということか。
「ここまでの成績とかわかる?」
「いや……さすがにそこまではーーー」
カキーンッ
再び響き渡る打球音。打ち上げられた打球はバックスクリーンへと吸い込まれ、球場は先程を上回るほどの歓声に包まれた。
後書き
いかがだったでしょうか。
以前つぶやきで書いていたオリジナルキャラクターたちを別作品で使っていくというのを今行ってます。
この三人が波乱を巻き起こすことになると思います。
ページ上へ戻る