英雄伝説~西風の絶剣~
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第66話 決意
前書き
闘気を武器に流したりするのはオリジナルの設定です。まあでもなんか軌跡シリーズの達人なら出来そうですし……
side:エステル
「う~ん……」
微睡のような気怠さから目覚めたあたしは頭をかきながら体を起こした。
「えっと、何をしていたんだっけ……?」
あたしはさっきまで何をしていたのか思い出そうとする。確か猟兵が襲撃してきて……
「そ、そうだわ!戦いはどうなったの!」
あたしは辺りを見回してみるが先程まで戦っていた場所じゃない事に気が付いた。
「あっ、目が覚めた?」
すぐ側にはフィーがいてあたしが目を覚ましたのを見て駆け寄ってきた。
「フィー、ここは?」
「ここはアイゼンガルド連峰の洞窟、エステルを連れて逃げてきたの」
「そうなんだ……リィン君は?」
あたしはフィーしかいないことに疑問を抱きリィン君はいないのかと聞いた。
「リィンはわたし達を逃がす為におとりになってそのまま……」
「あっ……」
悲しそうにそう話すフィーを見てあたしは自分のせいでこんな状況になってしまったと悟った。
「ごめんなさい!あたしのせいで……」
「ううん、エステルのせいじゃない。敵は予想以上に強かった、見誤ったわたしにも責任がある。それに全員が捕まってしまうよりはまだマシな状況、ここからどうするかが大事」
あたしは頭を下げてフィーに謝罪をする。だが彼女はあたしだけのせいじゃないとフォローしてくれた。そしていまするべきなのは謝ることではなくこの状況を打破する方法を考える事だ。
「そうね、今は嘆いている場合じゃないわね」
「ん、そういうこと」
あたし達はこれからどう動くべきか話し合うことにした。
「エステルはどうするべきだと思う?」
「そうね……」
前なら迷うことなくリィン君を助けに行くべきだと主張したが、遊撃士としての経験と西風の旅団に鍛えてもらった経験両方を活かしてもっと深く考えてみる。
「……リィン君を助けるにしても状況は全く把握できていない。今するべきなのは敵の数と味方の状況の確認ね」
「そうだね、二人じゃ危険だし敵の数と味方の状況確認、可能なら接触して情報の交換をするべきだね」
「ならまずは襲撃された西風のアジトに戻りましょう。何かわかるかもしれないわ」
あたしとフィーはまず襲撃されたアジトの様子を見に行くことにした。
―――――――――
――――――
―――
「……ここまで魔獣しか見なかったわね」
「油断は禁物。死角から襲ってくる可能性もあるから全方位に意識を集中させて」
「分かったわ」
あたし達は身を潜めながらアジトを目指していた。道中には魔獣しかいなくて敵の猟兵の姿は未だ確認していない。フィーの言う通り全方位に意識を集中して注意深く進んでいく。
「そろそろだね……ッ!よけて!」
フィーの叫びと共にあたしは横に跳んだ。するとあたし達のいた地面に銃弾がめり込んだ。
「狙撃された!」
「隠れて!」
あたし達は岩壁に身を潜めて様子を伺おうとする。すると二人の猟兵がブレードライフルから銃弾を放ってきた。
「待ち伏せされていたみたいだね」
「どうする、これじゃ近づけないわ」
道は広く身を隠せる物は無い。このまま出て行ったら蜂の巣だろう。
「わたしが相手の気を引く。エステルはその隙に相手を攻撃して」
「分かったわ!」
フィーが囮になってくれるというのでここは下手に反対せず彼女を信じて任せることにした。危険なのは分かってるがあたしではどうしようもない、ここは自分にできる事を全力でするだけだ。
「行くよ!」
「ヤー!」
あたしは猟兵流の合図をして猟兵達に向かっていく。猟兵達も直ぐにあたし達に銃口を向けたがフィーが分け身を使って5人に分裂してかく乱する。
「今だ!」
あたしはお父さんから習った闘気を使って肉体を強化する術を使った。そして強化された膂力で棍を猟兵目掛けて思いっきり投げつけた。
「なっ!?」
まさか武器を投げてくるとは思っていなかったのか猟兵の一人が一瞬動きが止まるが、直ぐに立て直して投げられた棍をかわす。
「ファイアボルト!」
予めチャージしておいたアーツを発動して猟兵に向かって火球を放った。猟兵はそれすらも回避したが螺旋脚で加速したあたしはそのまま格闘戦に持ち込んだ。
猟兵は素早くブレードライフルをしまうとナイフを取り出して斬りつけてきた。あたしはその攻撃をかわして相手に組み付いた。そして重心を利用して前方に投げ飛ばした。
「舐めるな!」
だが体勢をすぐに立て直した猟兵はブレードライフルを取り出して斬りかかってきた。あたしは直ぐ近くに落ちていた根を拾い攻撃を受け流す。
根とブレードライフルがぶつかり合い大きな衝撃が生まれた。本来大型の武器であるブレードライフルに幾ら頑丈な鉄を仕込んだ根でも直接ぶつければ折れてしまう、でもあたしはお父さんにならった闘気のコントロールで根に闘気を流して強化している。
(よしっ!上手くできたわ!)
あたしは心の中で自分をちょっと称賛した。というのもムラがあって上手くできるときとそうじゃないときがあったからだ。でも漸くコントロールが安定してきた。
「金剛撃!」
勢いを付けた振り下ろしを放つ。相手はブレードライフルで防御しようとしたが予想以上の衝撃に体勢を崩したようだ。
「今だ!」
あたしは自身の必殺技である桜花無双撃を放つ。だが相手は初撃を喰らいこそしたがその後の連打を全ていなして転がるように動いて回避した。
「まだあんなに動けるなんて……」
あたしは少し油断があったことを反省しながらも相手の出方を伺う。いくらダメージを与えたとはいえ相手はプロの猟兵だ。閃光手榴弾や隠し武器を警戒しないといけない。
「……」
だが相手の猟兵は素早く逃げ出した。あたしは追いかけようとするが罠があると思い止まった。
「エステル、大丈夫?」
「うん、あたしは平気よ。フィーは?」
「わたしも大丈夫。敵は引き際が上手かった、まんまと逃げられちゃうなんて……」
フィーは悔しそうにそう呟いた。
「どうする?敵が逃げた以上増援を呼ばれるわ」
「アジトは直ぐ近くだし様子だけ確認しよう。最悪アイゼンガルド連峰から逃げる事も視野にいれて」
「分かったわ」
フィーと話し合いアジトの様子だけ確認することにした。
―――――――――
――――――
―――
西風の旅団のアジトに着いたあたし達は警戒しながら中の様子を探ることにした。
「そこまで荒らされていないわね」
「そうなるとやっぱりわたし達を狙ったのかな?」
「んー、まだそうと決めつけるのは早いんじゃないかしら」
あたしは二階に上がろうとしたが殺気を感じたので根を構える。すると二階から誰かが降りてきた。
「ええ反応やったで、エステルちゃん」
「ゼノさん!」
二階から降りてきたのはゼノさんだった。あたしは嬉しくなって彼に駆け寄った。
「無事だったのね!」
「当たり前や、西風の旅団の看板背負っとる俺がそない簡単にやられたりはせんわ」
「ゼノはどうしてここに?」
「お前達と同じだ。個々の様子を確認しに来たんだ」
「あっ、レオさんも無事だったのね!」
あたしは背後から現れたレオさんを見て更に喜んだ。二人とも無事で良かったわ。
「再会のハグ……とでもいきたいんやけど今はそんな状況やあらへん。早速情報交換といこうか」
そしてあたし達はお互いの情報を交換する事になった。
「なるほど、リィンははぐれたっちゅう訳やな。そうなるとあの情報は正しかったんか」
「あの情報ってなんですか?」
「リィンが敵の部隊に捕らえられたと情報があったんだ」
「そんな……!?」
ゼノさんとレオさんから貰った情報であたしはリィン君が敵に捕まってしまった事を知った。
「あたしのせいだ……あたしが気絶しなければこんな事には……」
「エステル、落ち着いて……リィンは無事なの?」
「分からん。だがもし殺す目的なら捕らえたりせぇへんわ、その場で殺した方が楽やからな」
「なら尋問する気?」
「かもしれないな。だがどの道時間が長引けばリィンが危険なのは変わりない」
慌てるあたしをフィーは優しく諭してくれた。そして落ち着いた様子で情報を話していく。最初は凄いな……って思ったんだけど触れたフィーの手が震えている事に気が付いた。
フィーだってまだあたしより年下の女の子だ。いくらあたしよりもこういった状況に慣れているとはいえ大切な家族、ましては好意を抱く男の子の危機となればいくら気丈に振る舞おうとしても恐ろしくてたまらないはずなのに……
(あたしのバカ!今は落ち込んでる場合じゃないでしょ!)
あたしは頬をパンと叩いて気合を入れなおした。ヨシュアがいなくなって落ち込んでいたけど本来前向きなのがあたしの取り柄だ!
「ごめん、取り乱したりして。でももうあたしは大丈夫だから」
「……ん、分かった」
フィーはあたしの目を覗き込むとコクリと頷いて離れた。
「エステルちゃん、フィー。俺達はリィンを救出しに向かう。二人も協力してくれ」
「いくらゼノ達がいるとはいえ4人で大丈夫なの?」
「団長や姐さんが部隊を率いて敵の本陣とぶつかっている。敵の目がそちらに向かっている以上救出するなら今しかいない」
レオさんの話だと敵はこの辺りにある古い砦を根城にしているらしい。敵の大多数はルトガーさんたちが引きつけてくれているのであたし達でリィン君を助けるしかないらしい。
「なら直ぐに行こう。こうしてる間にもリィンの身に危険が迫っているかもしれないからね」
「ええ、行きましょう!」
あたし達はリィン君を救出するために敵の潜む砦に向かった。
―――――――――
――――――
―――
「あそこが敵のアジト……」
アイゼンガルド連峰の一角にある切り立った崖、その崖をまるで城壁のようにして立つ古い砦……あそこにリィン君が捕らえられているのね。
「見張りが多いね……14人か」
フィーの言う通り砦を囲むように猟兵達が警備している。このままでは接近も出来ないわね。
「どうする?崖を登って降りて侵入する?」
「いやそれは危険だ。道具もないし万が一見つかれば蜂の巣にされるだけだ」
フィーは崖を登って上から侵入することを提案するがレオさんに却下される。まあかなり大きな崖だし専用の道具も無しに上るのは危険すぎるわね。
「ここは定番の囮作戦で行こうやないか」
「囮……誰が行くの?」
「当然俺達や。二人と違ってこういう経験は多いからな、慣れとるわ。それにフィーは侵入する方が得意やろ?リィンの事は任せたで」
「ん、了解」
ベテランの二人に囮を任せてあたしとフィーで砦内に侵入する事になった。
「ゼノさん、レオさん……気を付けてね」
「大丈夫やで、エステルちゃん。俺らは西風の旅団やからな」
「そういうことだ。お前達も気を付けてな」
あたしは二人にそう言うと二人は笑ってそう返した。そしてゼノさんが爆弾を投げて作戦が始まった。
「敵襲か!?」
「向こうから狙撃されたぞ!」
「数人で確認しに行け。残りはこの場の警護に残れ!」
猟兵たちはゼノさん達がいる方に向かっていく。その場に残ったのは4人ほどだった。
「あれなら警備の目をかいくぐっていけそうだね。いこう、エステル」
「うん……!」
あたし達は見張りの猟兵達に気が付かれないように砦の側に回り込み窓から侵入する。
「……内部に敵の気配がするね。数は少ないけど気が付かれないようにね」
フィーが小声でそう言ってきたのであたしはコクンと頷いた。そして猟兵達に気が付かれないように砦の内部を進んでいく。
しばらく行くと二人の猟兵が見張っている扉を見つけた。
「フィー、もしかしてあそこに……」
「リィンがいるかもしれないね」
あたし達はあそこにリィン君がいるかもしれないと思いあの部屋に侵入することにした。その為にはあの見張りの二人をどうにかしないといけない。
「やあっ!」
「があっ!?」
あたし達は隙を伺い二人同時に猟兵に飛び掛かった。そして急所を攻撃して猟兵を気絶させる。
「やった、上手く行ったわ」
「鮮やかだったね、エステル。猟兵としてもやっていけるんじゃない」
「流石にそれはちょっと……」
遊撃士なのに猟兵でやっていけると言われても複雑な気分ね。でも技術としては凶悪な犯罪者を気絶させることも出来そうだし覚えて後悔はしていないわ。
「じゃあ中に入るよ」
「ええ……」
フィーは少しだけ扉の中を開けて様子を伺う、そしてゆっくりと中に入っていった。あたしもそれに続くと部屋の中は結構広くて者が乱雑に置かれていた。
「倉庫かしら?」
「多分そうかも……!ッエステル、あそこに……」
「リィン君……!」
倉庫の天井にリィン君が縄で縛られて吊るされていた。どうやら気を失っているみたいだ。
「早く下ろしてあげないと……」
『そこまでだ』
すると突然背後から声が聞こえた。後ろを振り返ると大柄の猟兵が立っていた。今までの猟兵と違いマスクから変な声が聞こえる、恐らく身元がバレないように声を変える加工がされたマスクなんだろう。
「さっきまで気配も感じなかったのに……」
「手練れだね」
あたしはともかくフィーにすら気が付かれないのは間違いなく手練れの猟兵なのだろう。でもなんでわざわざ声をかけてきたのかしら?そのまま攻撃すればよかったのに……ううん、今はこんな事を考えている場合じゃないわね。
『お前ら、そいつを助けに来たのか?』
「そうだよ、お前の目的は何?」
『ただの復讐さ。俺達は西風に手痛い目に合わされたことがあってな、だから襲撃した』
「そう、まあケンカを売る相手を間違えたね。リィンを傷つけたこと後悔させてやる」
フィーは珍しく殺気だってそう言った。大事な人を傷つけられて怒っているのね。
『威勢がいいな、小娘。なら新型の武器で遊んでやろう』
猟兵はそう言うと大きな大剣のような武器を取り出した。
「あれって剣?それとも槍かしら?」
「気を付けて、エステル。猟兵の武器はあらゆる状況で戦えるように何かしらのギミックが搭載されている。あれも何かあるかもしれない」
「分かったわ!」
あたしは得体の知れない武器を警戒しながら根を構えた。
『行くぞ!』
猟兵は自身の背より大きな武器を軽々と振るい叩きつけてきた。あたしとフィーはそれぞれ左右に跳んでそれをかわす。
『フンッ!』
猟兵はあたしの方に向かって横なぎに武器を振るってきた。咄嗟に根で受け流そうとするがあまりの衝撃に後ろに吹き飛ばされてしまった。
その隙をついてフィーが背後から銃弾を放つが武器を盾に防がれた。そして一瞬でフィーに接近すると彼女の足を掴んでこっちに向かって投げつけてきた。
「噓でしょっ!?」
あたしはフィーを受け止める。すると猟兵の持っていた武器の刃の部分が左右に分かれてそこから銃口が現れた。そしてあたし達に向かって銃弾の雨を放ってきた。
「わっ!とっと!!」
フィーを担いで物陰に隠れる。あ、危なかったわぁ……
「銃弾が止んだ?」
音が鳴らなくなりあたしはそっと相手の様子を伺おうとした。でも猟兵の姿はいつの間にか無くなっていた。
「いない?」
「エステル、上!」
「へっ……」
フィーの叫び声を聞いて上を見ると、いつの間にか跳躍していた猟兵が武器を叩きつけようとしている光景が目に映った。
「嘘でしょっ!!?」
気配はおろか攻撃時に出る殺気すら感じなかった。あたしとフィーはなんとか攻撃事態はかわしたが巻き起こった衝撃に吹き飛ばされて壁に叩きつけられてしまった。
「がはっ!」
あたしは叩きつけられたがフィーは咄嗟にワイヤーを伸ばして天井に引っ掛けて上から猟兵を攻撃する。
「クリアランス!」
フィーは先程のお返しと言わんばかりに銃弾の雨を浴びせるが猟兵は武器を振るって銃弾を全部叩き落してしまう。とんでもないことするわね!?
しかも武器を振るった際に放たれた飛ぶ斬撃がワイヤーを斬ってフィーを落とす。その隙を狙おうとするがあたしが邪魔をする。
「させないわ!金剛撃!」
思いっきり棍を叩きつけてやったが大したダメージにならなかった。そして着地した際の隙を突かれて蹴り飛ばされてしまう。
「げほっ……つ、強い……!」
お腹を押さえながらあたしは相手のあまりの強さに絶望しかけた。でもヨシュアの事を想いなんとか踏みとどまる。
「諦めないわ……あたしは必ずヨシュアに会うんだ……!」
『……だが実力の差は歴然。どうするつもりだ?』
「それは……」
『むっ?』
すると猟兵が大きく後ろに跳躍する、そこにフィーが武器を構えて突っ込んできた。猟兵はフィーのスカッドリッパーを察して回避したんだわ。気配の察知能力も群を抜いているわね。
「一人では勝てなくても力を合わせれば勝てる。そうでしょ、エステル」
「フィー……ええ、そうね!あたしは一人じゃない、仲間と一緒ならどこまでだってやれるわ!」
フィーの言葉に勇気を貰ったあたし、そして根を構えてフィーと一緒に猟兵に向かっていった。
『フンッ!!』
猟兵の振り下ろした武器を混で受け止めた。腕が吹き飛びそうなくらいの衝撃に肺の中から空気が一気に出ていった。
でもあたしはお腹に力を込めて必死で踏ん張った、そして何とか猟兵の動きを止めることが出来た。
「スカッドリッパー!!」
フィーは武器を構え相手を斬りつける。しかもただ斬り付けたのではなく武器を持つ手を重点的に狙った一撃だった。
「金剛撃!」
その隙をついてあたしは猟兵の持っていた武器を弾き飛ばした。手を抑えて無防備になる猟兵、今がチャンスよ!
「フィー、行くわよ!」
「ヤー!」
あたしは相手の周りを取り囲むように回転して闘気の渦に閉じ込めた。そこに5人に分け身をしたフィーが突っ込んで相手を切り裂いていく。
「おりゃあっ!」
そこにあたしも加わって相手を上に吹っ飛ばした。そして最後にフィーと共に上昇して相手を同時に攻撃した。
「必殺!『太極風花輪』!!」
地面に着地したあたしとフィーは錐揉み回転しながら地面に落下した相手を注意して様子を見る。コンビクラフトをまともに受けたんだからできればこれで終わってほしいんだけど……
「噓でしょ……」
今日三回目となるこのセリフだがそりゃ言いたくもなるわよ。だってあの一撃をまともに受けたのに猟兵は立ったんだから。
「どんだけタフなのよ、まるでルトガーさんみたいだわ」
猟兵のタフネスを見てあたしは修行中のルトガーさんを思い出した。だって攻撃を受けても平然としながら反撃してきたしあのタフネスは異常よ。
『……ふふふ』
「何がおかしいのよ?」
『いや、案外気が付かねぇもんなんだなって思ってよ』
「はぁ?」
猟兵の意味の分からない言葉に思わず素でそう言ってしまった。すると猟兵は顔を覆っていたマスクをはずして……ってええッ!?
「ル、ルトガーさん!?」
マスクを外したらその猟兵はルトガーさんだったのだ!一体どうなってるの!?
「あら、終わったのかしら?」
「マリアナさん?……ってその恰好はなんですか?」
「貴方を眠らせたのは私よ」
「ええッ!?じゃああの時戦った猟兵ってマリアナさんだったの!?」
ますます訳が分かんなくなって来ちゃったわ!?
「この襲撃は全部俺達西風の旅団が起こした自演自作や」
「エステル、お前の仕上がりを試すための最終試練だったって訳だ」
「ゼノさん、レオさん……それに西風の皆も……全部嘘だったって訳なの?」
続々と集まってきた西風の旅団のメンバーを見て、あたしは安心なのか呆れたからなのか自分でもよくわかんないんだけど大きなため息を吐いた。
「もしかしてフィーも知っていたの?」
「ごめんね、今回の襲撃は実際にそういう場面になったらエステルがどう行動するのかテストする物だったの。だから言えなかったんだ」
「はぁぁ……あたしの緊張感や心配を返してほしいわよ……」
フィーもグルだったわけね。思えば不意打ちを仕掛けてこなかったり罠も危険なものがなかったりと変に思った場面もあったのよね。疲れて怒る気も起きないわ……
「まあそう気を落とすなって。テストは問題なく合格だ。なあフィー」
「ん、むやみに突っ込んだりしなかったしちゃんと状況を把握して的確な動きをしようとしてた。まあ多少危ない所もあったけどわたしは合格で良いと思う」
「そうか、まあこの短い期間でそこまでやれるようになったのなら上出来だ。これなら結社って奴らとも何とかやっていけるだろう」
「本当ですか!?」
ルトガーさんの言葉にあたしは嬉しくなってはしゃいでしまう。だって漸くヨシュアを探しに行けるんだから!
「とはいえ油断はするな。俺も俺なりに結社の事を調べたがやべぇ連中なのは間違いなさそうだ。得体が知れないってのもあるが剣や武術、魔術などを極めた奴らもいるらしい。一筋縄ではいかないだろう」
「そんな……」
「だからこそそういう時は仲間を頼れ、一人では無理でも仲間がいれば突破できる。俺も一人ではここまでやってこれなかったからな」
「ルトガーさんでもですか?」
「そうだ。俺もカシウスさんも実力は大陸でも最強クラスだと自負している、だが一人がどんなに強くても出来ない事だってあるんだ。だからこそ人は誰かと協力する、どれはエステル、お前が一番よく知ってるんじゃないか?」
「あっ……」
あたしはシェラ姉やアネラスさん、クローゼやティータ、ジンさんやアガットなど前に沢山力を貸してくれた人たちを思い出した。
「勿論わたしも一緒に行くよ、エステル。だって友達でしょ?」
「フィー……」
そしてあたしが心を折りそうになった時に支えてくれた一番の友達がいる。そう思うと勇気が湧いてきた。
「ルトガーさん、それに西風の皆さん。今日まで鍛えていただいてありがとうございました。あたしは必ずヨシュアを連れ戻して見せます!」
「良く言った!お前みたいないい女捨てて行っちまった男なんざ一発ぶん殴ってやれ!」
「はい!」
ヨシュア、待ってなさい!アンタが何処に逃げようとあたしは絶対に追いかけてやるわ!そしてもう逃げられないくらいに抱きしめてやるんだから!
「よっしゃあ!なら今日は前祝いとしてパーッとやるか!用意しておいた食材も酒もドンドン使え!今日は無礼講だァ!!」
『うおおぉぉぉぉぉぉぉ!!』
ルトガーさんの一言に西風の旅団の皆は嬉しそうに叫んだ。そしてその日は夜遅くまで騒いでしまった。まあ今日くらいはいいわよね。
明日からまた頑張ろうっと、仲間と一緒にね。
「……皆、完全に俺の事を忘れているよね」
その後宴会にリィン君の姿が無かったことを知ったあたしとフィーは直に彼を助けに向かった。流石のリィン君もちょっと拗ねちゃった、本当に悪い事しちゃったわね……
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