展覧会の絵
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第二話 吸血鬼その七
「それでどうしてね」
「神を信じられるのか、かな」
「ええ。どうなのよその辺りは」
「そうだね。確かに世界には邪悪も満ちているよ」
「ほら、あんたもそう言うじゃない」
「けれど」
だがそれでもだとだ。十字は雅の否定に否定で返した。
そのうえでだ。こうその雅に告げた。
「神は全てを見ておられて」
「その悪い奴は?」
「必ず裁かれるよ。神は見ておられるからん」
「何ていうか教会の人の話ね」
「うん。僕は神の僕だから」
「僕、ね」
「神は万能にして唯一の善」
その神の僕であることを自覚しての言葉だった。そしてだ。
その自覚を意識しつつだ。雅だけでなくだ。
猛も見てだ。そのうえで述べていくのだった。
「君達も見ているよ」
「じゃあさ。若しもだよ」
雅とは少し違いだ。猛はだ。
十字を肯定する感じでだ。こう彼に問うたのだった。
「僕達に何かしようとする奴がいたら?」
「それが邪悪ならね」
その場合はだと。十字は淡々として猛に話した。
「必ず裁かれるよ」
「そういうものなんだ」
「神の目はあらゆるものを御覧になられ」
そしてだというのだ。
「その剣はあらゆる場所にあるから」
「剣って?」
「そう。この町にも来たしね」
その剣が誰なのかはあえて言わない十字だった。だが、だ。
その彼の話を聞いてもだ。雅はだ。
相変わらずの調子で十字を見据えてだ。そして言うのだった。
「どうかしら。もっとも私はね」
「そうした悪い奴はっていうんだね」
「そうよ。そんなのがいてもね」
どうかというのだ。やはり十字の言うことを信じていない。
そしてそのうえでだ。ばっさりと切り捨てて述べた。
「私がやっつけるわよ」
「そういえば君は」
「そう、宮本雅よ」
自分の名前をだ。十字に述べたのだった。
「知ってるかしら」
「空手部の人だよね」
「そうよ。猛と一緒にね」
「空手部で一番強い人だったかな」
「一番強いかどうかはわからないけれど」
謙遜はする。しかしそれでも言うのだった。
「悪い奴がいてもね」
「それでもなんだね」
「私が懲らしめるわ。もっとも」
ここでだ。雅はだ。
猛を見た。そして今度はこんなことを言ったのだった。
「猛がね。ちょっとね」
「御免、僕はそういうことは」
「腕はそこそこなのに」
申し訳なさそうな顔の猛に言う。
「それでもそういうことはからっきりだから」
「喧嘩とかそういうこと苦手なんだよ」
「喧嘩やそういうことじゃないの」
「悪い奴をやっつけるってこと?」
「それは武道家の務めでしょ。しっかりしなさいよ」
「う、うん」
その弱い声で応える猛だった。表情もそうなっている。
そんな猛も見てだ。十字はまた言うのだった。
「大丈夫だから」
「神様がいるから?」
「そう。だから安心していいから」
十字の言葉は変わらない。その声もだ。
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