展覧会の絵
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第二話 吸血鬼その五
人が描かれているがそこには生気がない。心が病んだ感じのその絵を見てだ。
猛はだ。こう言ったのだった。
「怖いね」
「そうね。この絵は」
「何処かで見た感じだけれど」
「誰の絵かしら」
二人でその絵の前にいて考えているとだ。ここでだ。
十字が何時の間にか二人のところに来てだ。こう言ってきたのだった。
「吸血鬼だよ、この絵の題名は」
「吸血鬼?そういえば」
その題名を聞いてだ。猛は。
少し気付いた顔になってだ。そのうえで言うのだった。
「そんな感じかな。血を吸ってる」
「そうね。首筋からね」
雅もだ。その絵を見て述べた。
「そういう風に見えるわね」
「うん、そうだよね」
「吸血鬼、血を吸う」
「それがこの絵なのね」
「ムンクの絵だよ」
描いた画家の名前もだ。十字は二人に述べた。
「彼の作品なんだ」
「ムンクっていうと」
「あの」
「ムンクのことは知ってるよね」
このことは一般常識という前提でだ。十字は二人に尋ねた。
「有名な作品もあるし」
「ムンクっていうと確か」
猛がだ。その名前を聞いて考える顔になりだ。
そのうえでだ。こう述べたのだった。
「ノルウェーの画家で」
「そうだよ。出身国はそこだよ」
「それに確か」
さらにだ。猛は考えながら答えていく。
「代表作は叫びだったかな」
「その絵は知ってるよね」
「うん、凄く有名な絵だから」
教科書にも出ている。そこまで有名な絵だ。
だからだ。猛も応えて頷けたのだ。
「あの人の絵なんだ」
「どうかな。叫びに似てるかな」
「絵の感じはそれだよね」
その叫びに似ているとだ。猛も感じ取った。
それであらためて目の前のその不安なものを感じさせずにはいられない絵を見てだ。彼は十字に対して眉を少し顰めさせてだ。こんなことを言ったのである。
「後ろから襲われて絡め取られた様な」
「そう見えるね」
「うん、何か」
「ムンクの絵は人の心理を描いていると言われているんだ」
ここで十字はムンクの絵そのものについて語った。
「そうね」
「人の心理を」
「そう、それをね」
まさにだ。それをだというのだ。
「それがムンクなんだよ。けれどね」
「けれど?」
「けれどっていうと」
「僕はこうも思うんだ」
猛だけでなく雅にもだ。十字は話した。その話はというと。
「この絵に限ってだけれどね。不幸、吸血鬼として描かれているけれど」
「それはなの?」
「そう、不幸は音もなく後ろから忍び寄ってね」
そしてだというのだ。
「人を絡め取ってしまうものなんだよ」
「それが不幸」
「そうだというのね」
「うん、そうだよ」
そういうものではないかとだ。彼は言ったのだった。
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