仮面ライダーAP
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番外編 彼らを真に救う者達
前書き
今回はちょっとした番外編になります! ノバシェードの3人のちょっとした過去話になりますぞ〜(о´∀`о)
「きゃあぁあっ!」
「た、助けてぇえっ!」
――2016年、10月某日。
東京都内のとある廃工場の中で、幼い少年少女達が悲鳴を上げていた。彼らを狙う漆黒の影が、その小さな身体を飲み込むように伸びている。
「ア〜ビアビアビィッ! 泣けど喚けど無駄だガキ共ッ! こんな辺鄙な場所なんざ、誰も来やしねぇよォッ!」
「……」
逃げ惑う彼らを悠然とした足取りで追い回している、シェードの新型改造人間――「シオマネキング」は、独特な笑い声を響かせながら厭らしい笑みを浮かべていた。彼に付き従う3体のフィロキセラ怪人は、そんな上司の背を黙って追い続けている。
この廃工場近くにまで遊びに来ていた子供達は、偶然にもその地下に隠されていたシェードのアジトを発見してしまったのである。そのタイミングでシオマネキングに見つかってしまい、今こうして付け狙われているのだ。
都心から遠く離れたこの廃工場では、子供の叫び声など誰にも届かない。それを知るが故に、シオマネキングは子供達の無垢な抵抗すら楽しみながら、じわじわと迫るように彼らを追い詰めているのである。
「アビアビィ〜……そろそろこの追いかけっこにも飽きちまったなァ。おいお前、その触手で1匹刺し殺せ。逃げても無駄だって現実が理解できりゃあ、ちったァ諦める気にもなるだろ?」
「……シオマネキング様。やはり子供相手に、こんな真似は……ぐァッ!」
「て、天峯ッ!」
彼の意向に逆らったフィロキセラ達の1人は、その場で即座に殴り倒されてしまった。屈強な怪人がたった1発の殴打で転倒する光景に、子供達はますます震え上がっていく。
「アビアビィッ! なァ〜にを甘っちょろいこと抜かしてんだアビィッ! ノータリンな人間共の猿真似で生まれてきたお前らに、シェードという居場所をくれてやったのはこの俺様なんだぜェ!?」
「待ってくだせぇ、シオマネキング様ッ! 俺達ァ、こんなことするためにシェードに入ったんじゃあ……ぐわァッ!」
「蛮児ッ! シオマネキング様、お鎮まりください! こいつらはただ……ぐうッ!」
「てめぇらも口答えする気かァ!? おいおい明智ィ、上杉ィ、武田ァッ! てめぇらここで通用しねぇようなら、どこに行ってもおしまいだぜェ!? 何せそんな姿じゃあ、人間として生きていけるわけがねーんだからよォッ! アビアビアビィッ!」
他の怪人達も続けざまに、シオマネキングの左腕にあるハサミで殴り倒されていた。
金、銀、銅。3色のフィロキセラ怪人達は、実はシェード製の改造人間ではなかったのである。他国の政府によって怪人にされてしまった彼らは、居場所を求めてシェードによる「実地研修」を受けている最中だったのだ。
彼らは生きるためならば悪に堕ち、人類と戦う覚悟を決めていたつもりだった。しかし彼らに「最初の任務」として突き付けられたのは、シオマネキングと共に子供達を殺せという内容だったのだ。
警察や軍隊を相手に戦うのならまだしも、泣いて怯えて逃げ惑う子供を殺すなど、この時の彼らには出来るはずもなかったのである。
「……も、申し訳ありません、シオマネキング様。しかし、私達はッ……!」
「アビィ……もういい。だったら特別に、この俺様が『お手本』を見せてやるぜぇ。てめぇら、目ん玉ひん剥いてよぉーく見てなァッ! ちょろちょろ逃げてるガキってのはなァ、こうやって殺すんだよォッ!」
そんな彼らを蹴り付けながら、シオマネキングは不遜な鳴き声を漏らすと。逃げ場を失い、廃工場の隅で震えている子供達に向けて――大量の泡を噴き出そうとしていた。
無論、それはただの泡ではない。触れた箇所から発火し、対象を焼き尽くすシオマネキングの「必殺技」なのだ。生身の人間が浴びれば、骨も残さず消し炭になる威力がある。
「アビアビアビィッ! さぁ、跡形もなく消え去っちまいなァ! 今まで俺様に消されてきた、バカ共のようによォッ!」
「わ、わぁあぁあッ! だ、誰か……誰かぁあっ!」
当然、子供達がそんなものを浴びせられたらひとたまりもない。今日も彼の手で、不幸な犠牲者が生まれてしまう。
この場にいる誰もが、そんな未来を夢想してしまった――その時。
「待てぇいッ!」
「……アビィッ!?」
けたたましい怒号が廃工場に響き渡り、シオマネキングは思わず泡の発射を中断してしまう。後光のように外の日差しを浴びながら、2人の戦士がこの廃工場へと駆け込んで来たのは、その直後であった。
この「Gの世界」においては「1号」に相当する、仮面ライダーG。そして、「2号」に当たる仮面ライダーAP。
「き、貴様らッ……がはぁッ!?」
「ぐはぁあッ!」
「トォ、トォッ!」
「トゥッ!」
彼らという「ダブルライダー」は見張りの戦闘員達を瞬く間に薙ぎ倒し、肩を揃えてここへ駆け付けて来たのだ。
その勇姿を目の当たりにしたシオマネキングは悍ましい者を見るような目で悲鳴を上げ、子供達は歓声を上げる。
「アビアビィッ!? か、かか……仮面ライダー!?」
「ラ、ライダーだぁ!」
「わぁ……ライダーが来てくれたんだぁっ!」
「あれが、仮面ライダー……!?」
彼らを初めて目にした3体のフィロキセラ怪人達も、咄嗟に立ち上がり臨戦体制に突入する。人間の自由と平和を守る希望の戦士にして、シェードの天敵。その生ける伝説達が、ついに目の前に現れたのだから。
「君達、よく頑張ったな! 後は僕達に任せてくれ!」
「さぁ、早く逃げるんだ! ここは俺達が引き受けるッ!」
「う、うんっ!」
「ライダー、頑張ってねっ!」
一方、素早く子供達の側にジャンプしたダブルライダーは、笑顔を取り戻した子供達に避難を促していく。仮面ライダーの到来に勇気付けられた彼らは、足を震わせながらも廃工場から走り去ろうとしていた。
「アビアビィッ! 明智、上杉、武田ァッ、ガキ共を逃すなァッ!」
「くッ……やるしかないのですかッ!」
そうはさせじと、シオマネキングもフィロキセラ怪人達に指示を飛ばす。怪人達は躊躇いながらも言われるがままに、子供達を追い掛けようとするのだが――先回りしてきた仮面ライダーAPに、行手を阻まれてしまった。
「お前達の相手は俺だ! 来いッ! シェードの改造人間ッ!」
「ええい……退きなさいッ!」
「このクソッタレ野郎がァアッ!」
「おぉおおッ!」
仮面ライダーGとシオマネキングが組み合うと同時に、フィロキセラ怪人達も触手を振るい、APに襲い掛かっていく。だがAPはかなりの近距離であるにも拘らず、3人掛かりの触手攻撃を巧みに捌いていた。
銅色の怪人――ブロンズフィロキセラが飛ばした刺突も、片手であっさりと掴まれてしまう。力任せに引き寄せられた怪人の顔面に、肘鉄が入ったのはその直後だった。
「な、なにィッ!? これが仮面ライダーの力なのか……ぐぉあッ!」
「禍継ッ! ……の野郎ォッ!」
仲間を倒された銀色の怪人ことシルバーフィロキセラは、怒りに任せて右腕を振りかぶる。だが、その腕が振り下ろされるよりも遥かに速く、鳩尾に足刀蹴りを突き込まれてしまった。
「あッ……が、がァッ……!」
「……なんだ? こいつら……いつもの連中とは、手応えがどこか違う……?」
あまりに強烈な一撃を急所に受けてしまい、シルバーフィロキセラは悲鳴を上げることも出来ずにうずくまっている。一方、これまで戦って来たシェード製の怪人達とは「手応え」が違う彼らに、APは違和感を覚え始めていた。
「禍継! 蛮児ッ! くッ……やはり私達のような紛い物の失敗作が、本場のシェード製ですら敵わない仮面ライダーに勝てるはずがッ……!」
「紛い物? 本場……? どういうことだ! お前達はシェードの改造人間じゃないって言うのか!?」
戦慄を覚えるあまり近寄れずにいる、金色の怪人ことゴールドフィロキセラ。彼の呟きに反応したAPは、構えを解いて戦闘を中断してしまう。
それを、「お前達などいつでも始末できる」という「侮り」と受け取った怪人は、怒りのままに声を荒げていた。
「私達はシェードの改造人間などではありませんッ! 彼らに対抗出来るからと政府に唆されて……その誘いに乗ったばかりに、肉体も居場所も失い! こんなことまで、やらされているのですよッ!」
「な、なんだって……!?」
「今まさにあなたがそうだったように! 外の人間達からすれば、私達もシェードの怪人と同類なのですッ! どこに行ってもそうとしか見られないのなら……いっそ、本当にシェードに入ってしまうしか、ないじゃないですかッ!」
「……」
その発言内容に動揺するAPは、暫し逡巡した後、意を決したように顔を上げる。それは明らかに、敵対者に対する姿勢ではなかった。
「じゃあ……こんなこと、今すぐにでも止めるんだ。今からでも遅くはない! 怪人であることを拒みたい気持ちが少しでもあるのなら、お前達はまだ人間だ!」
「何を……何を言うのですかッ! 今さら……今さらそんな話、信じられるはずがないでしょうッ!」
「頼む、信じてくれ! 俺の仲間に、改造人間を生身に戻せる女の子が――ぐッ!?」
しかしそんな姿勢を見せることこそが、最大の挑発になってしまったのである。手を差し伸べようとしたAPに返って来たのは、やぶれかぶれの触手攻撃だった。
その全てを的確に受け流しながらも、予期せぬ反撃を受けたAPは思わず後ずさってしまう。
「そんな世迷言を抜かしてまで……私達を愚弄するのですか! そんなに私達が、惨めに見えるのですかァッ!」
頼れない人々から距離を置きたいがために、怪人になろうとしていたゴールドフィロキセラ達にとって。今さら、差し伸べられたその手を取ることは叶わなかったのである。
よりによって、その相手が人類の希望とされる仮面ライダーだったのだから。なおさら、受け入れるわけにはいかなかったのだ。
怪人にならなければ生き延びることはできない。その結論に、2人の同胞を巻き込んで来たのだから。
「ダメだ天峯、こいつには到底敵わねぇ! ここは一旦退くぞッ!」
「死んで花実が咲くものか! そうだろう!? 天峯ッ!」
「蛮児、禍継……そうですね。やはり私達は、シェードになど与するべきではありませんでした。私達が生きる道は、別にあるッ!」
力任せに触手を振るい続ける彼を見かねてか、シルバーフィロキセラとブロンズフィロキセラは彼の両脇を抑え、引き摺るように撤退を促していく。そんな彼らの説得でようやく我に返ったゴールドフィロキセラは、冷静さを取り戻すと仲間達と共に、足早に廃工場から逃げ去ってしまった。
「あッ……!? ま、待ってくれ! 話はまだ……!」
「アビビィッ!? おいちょ、待てよコラお前らァアッ! この土壇場で逃げるとかなんでそんな酷いことすんのォォッ!?」
子供達とは真逆の方向に逃げ去ったことや、シオマネキングを躊躇いなく置き去りにしていく様子も、彼らの言葉に信憑性を与えている。やはり彼らはシェードの改造人間ではなかったのだと、APは改めて確信していた。
彼の後ろでは部下達に逃げられたシオマネキングが、自身の非道さを棚に上げて喚き散らしている。APはそんな彼の泣き言など意に介さず、何も得られなかった自分の手に視線を落としていた。
「……ッ!」
「アビビィッ!」
差し伸べた手は、空を掴むのみだった。彼らを救うことは、出来なかった。だが、今は立ち止まっている時ではない。
せめて今は、今の自分に出来ることを成し遂げていくしかない。APはその決意を新たに勢いよく振り返り、シオマネキングに渾身のパンチを叩き込む。
「吾郎さんッ!」
「あぁ! 行くぞサダト君! トォオッ!」
「トォオッ!」
激しく転倒した彼はすでに、Gとの戦いで消耗し切っているようだった。偉大なる先輩の隣で力強く拳を握り締めたAPは、彼と共に地を蹴り宙に飛び上がる。
そして空中でベルトのワインボトルを捻り、同時に身体を回転させながら飛び蹴りの姿勢に入るのだった。
「スワリングゥッ!」
「ライダァアァッ! ダブルッ! キィィックッ!」
「アビビ、ビビィイッ!」
シオマネキングは必死に泡を吹き付けて迎撃しようと試みるが、急速に回転する2人のキックはそんな攻撃など容易く弾き飛ばし、怪人の胸目掛けて突き進んでいく。
やがて容赦なく炸裂したその一撃が、シオマネキングの身体を激しく吹き飛ばしたのだった。世界の平和を守り抜くために戦い続けて来た男達にとって、発火性の泡など児戯にも値しないのである。
「アビビビィ……ァァァァアッ!」
それから間もなく、怪人は奇怪な断末魔と共に爆散してしまう。その光景を見届けたGは、あの3体の怪人を逃してしまったAPをじっと見つめていた。
「……彼らから感じていた違和感。君も、気付いていたようだね。サダト君」
「えぇ……すみません、吾郎さん。俺の言葉では、彼らを説き伏せることは出来ませんでした。俺達の他にも、彼に手を差し伸べられる仮面ライダーがいれば……」
「そうだね……でも、それは僕達のような改造人間を増やしてしまうということでもある。僕は、せめて君が最後の1人であって欲しいと願っているよ」
「……はい」
強化外骨格による仮面ライダーの再現を目指す、「ライダープロジェクト」の基礎概念すら生まれていなかったこの当時は、「仮面ライダー」という戦士は改造人間であることが前提となっていた。
(それでも……俺は信じたい。彼らにも人として手を差し伸べてくれるような……そんな仮面ライダーが、いつか現れると)
それ故にGとAPは、共に肩を並べて戦う仲間を求めたくとも、求められなかったのである。
――この後。逃げ出した3人のフィロキセラ怪人達は同じ境遇の被験者達と身を寄せ合い、共に生きていくための自助組織を創設したのだが。
その組織がやがて「ノバシェード」と呼ばれる業魔の軍団と化すことになろうとは、彼らすら知る由もなかったのである。
そして。そんな彼らに真の救済を齎すことになる、「新世代」の仮面ライダー達の登場は。もうしばらく、先のことになるのだった。
後書き
最後まで読み進めて頂きありがとうございました! 共に戦う仲間は欲しいけど自分と同じ境遇の奴が増えるのは嫌だ、というジレンマは改造人間ライダーならではの問題なんですよねー。そこをあっさりクリアしてくる「装着系」の新世代ライダー達の登場は、きっとサダトが1番喜んでたんじゃないかなーって思ってます(о´∀`о)
Ps
新世代ライダーの多くがサダトより歳上? 問題なし! 筑波洋と沖一也然り、葛葉紘汰と泊進ノ介然り、天空寺タケルと宝生永夢然り! 後輩の方が歳上だったなんて、ライダーではよくあることなので!(*´꒳`*)
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