仮面ライダーAP
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第16話 若獅子達の矜持
前書き
◆今話の登場ライダー
◆天塚春幸/仮面ライダー炎
1年目の新人警察官であり、警察学校時代からスーツのテストに協力していた几帳面な青年。仮面ライダー炎に変身した後は、炎を纏った飛び蹴り「爆炎脚」を中心とする接近戦で戦う。マシンGチェイサーに搭乗する。年齢は20歳。
※原案はピノンMk-2先生。
◆山口梶/マス・ライダー
春幸の同期であり、最も量産性を重視した試験機「マス・ライダー」のテスト装着者を務めている新人。マス・ライダーのスーツを装着した後は、拘束用ワイヤーネットガンを駆使してサポートに徹している。マシンGチェイサーに搭乗する。年齢は19歳。
※原案は秋赤音の空先生。
絶対的な疾さと破壊力を以て、ボクサー達を瞬く間に打ち倒した仮面ライダーマティーニ。その脅威を前にしている遥花の窮地にGチェイサーで駆け付けて来たのは、2人の新人警官だった。
「南警部、一二五巡査部長ッ! こんなところで寝てる場合じゃないですよ! しっかりしてくださいッ!」
「日高、おい、日高ッ! ……くそッ! 遥花さんは動けますか!?」
「私は大丈夫……! あなた達は早く、義男さん達を安全なところへ!」
まだ1年目の新米でありながら、試作機のテスト装着者に選ばれるほどの素養を持っている、天塚春幸と山口梶。彼らは同期のtype-000こと栄治や、警察学校時代の教官だったボクサーこと義男の負傷に強く胸を痛めている。
「……天塚!」
「あぁ!」
そんな中でも自分を気遣おうとしている新人達を死なせまいと、ライダーマンGはパワーアームの右腕を構え、マティーニに立ち向かおうとしていた。彼女のそんな勇姿を目にした春幸と梶は、互いに頷き合うと一斉に立ち上がり、ライダーマンGを庇うように前に立つ。
「……え? 天塚さん、山口さん! あなた達だけじゃ危険過ぎるわ! 私だって少しは戦えるんだから、無理をしないでッ!」
「無理でもなんでも、どの道あなた独りに戦わせているようじゃあ、俺達は警察官失格ですよ!」
「俺達だって、伊達に南警部にシゴかれてきたわけじゃありませんからね……!」
仮面ライダーボクサーこと南義男でさえ敵わなかったマティーニの力に、元教え子の2人が対抗出来る望みは薄い。それを頭で理解していながらも、彼らは弱きを助け強きを挫く警察官として、引き下がるわけには行かなかったのである。
少なくとも義男をはじめとするテスト装着者達は皆、遥花の救援を目的に動いて来たのだから。
「……このスーツでも、出来ることはあるはずだ。それを証明するためにここに来た以上、俺は逃げるわけには行かないんです!」
梶はすでに、「Masked Rider Mass Product type Test edition」――通称「マス・ライダー」のスーツを装着している。
これは数ある試作機の中で最も、生産性、生産コスト、整備性等を追求した「万人向け」のスーツなのだ。新人警官の梶でも難なく運用出来ている現状に、その成果が現れている。
――「ライダープロジェクト」とも呼ばれる、番場惣太主導による新型強化外骨格開発計画。その計画に干渉・参入した勢力が有していた技術は数多の高性能試作機を生み出したのだが、それらはいずれも装着者を選ぶピーキーな仕様ばかりであり、いわゆる「量産型スーツ」のモデルとしては不向きなものが大半を占めていた。
自らの勢力に帰属する「仮面ライダー」を求める、自衛隊。アメリカ軍。技術を提供した企業群。それらを後押しする様々な政治勢力。地方自治体。その全てが仮面ライダーという絶対的英雄の名声を、我が物にしようとしていたのである。
しかしそれでは、仮面ライダーを普遍的な存在とする未来を目指した、計画の理念を成し遂げることはできない。そこで惣太は彼らから得た叡智のみを結集させ、最も「使いやすく、増やしやすい」スーツを完成させた。その雛形が、今まさに梶が装着している「マス・ライダー」なのである。
現場で即座に「変身」出来る機構を取り入れ、携帯性の高さを得た「第2世代」のメリットを犠牲に。マス・ライダーのスーツは、最初期に開発された仮面ライダーEXをはじめとする、事前に装着して現場に向かう「第1世代」の運用方法を採用していた。
「奴を仕留め切れるかは分からない……だけど、『全力』を叩き込む準備だけは万端だッ!」
そんな梶ことマス・ライダーの隣に立つ春幸も、簡素な外観の赤い変身ベルトを装着している。悪用を防ぐための認証コードを「詠唱」し始めたのは、その直後だった。
「地の底に眠りし炎よ、我に仇なす者どもを打ち砕く力を――変身ッ!」
大仰な詠唱を終えた春幸が、地面に拳を叩き付けた瞬間。そこから噴き上がる炎の如き閃光が彼の全身を飲み込み、強化外骨格を形成して行く。
警察学校時代から義男に才覚を見込まれ、秘密裏にテスト運用を続けてきた「相棒」のスーツが炎の中から現れたのは、それから間もなくのことであった。
「仮面ライダーシノビ」を想起させる、忍者をモチーフとする外観。その全身は猛炎の如き真紅に統一されており、「和製」のスーツであることは火を見るよりも明らかであった。
EXが第1世代の第1号なら、この「仮面ライダー炎」は第2世代の第1号。それ故にシンプルな強さを追求していたこのスーツには、剣や銃に相当する武装がない。だが、徒手空拳でも十分なほどの出力があるのだ。
その開発目的は、仮面ライダーという存在に対する、ステレオタイプな英雄像の実現にあるのだから。
「……遥花さん。南警部達まで倒した奴の力は、恐らく……いや間違いなく、俺達の理解を遥かに超えています。それでも俺達は何としても、奴を止めなきゃならない」
「俺達の全力攻撃で、奴の注意を引き受けます。その間に遥花さんは懐に飛び込んで、奴のベルトを破壊してください。奴の変身機構も仮面ライダーに通ずるものであるならば、その要はベルトにあるはずです」
「確かにそう、かも知れないけど……いくら何でもあいつは危険過ぎるわ! あいつ相手に陽動なんてしたら、天塚さんと山口さんは……!」
静かに腰を落として拳を構える、仮面ライダー炎。拘束用のワイヤーネットガンを手に、マティーニを見据えているマス・ライダー。両者はライダーマンGの制止を耳にしていながら――否、耳にしたからこそ、彼女を守らんと眼前の巨悪に突撃していく。
警察官でもなければ正規のテスト装着者でもない、番場遥花という1人の「市民」が、それほどまでに危険な相手に挑もうとしているのであれば。なおのこと、引き下がるわけにはいかないのだから。
「危険過ぎる……か。だからこそ俺達は、今行かなくちゃならないんですよ!」
「死地に飛び込み『市民』を守る。それが警察官であり、仮面ライダーなんですからッ!」
「くッ……!」
2人の特攻を止められなかったことを悔やみながらも、ライダーマンGも彼らに続いてパワーアームのハサミを構え、マティーニのベルトを狙って走り出して行く。せめて彼らがこれから作り出す絶好のチャンスを、無駄にしないために。
「未熟な若造達だけで一体何が出来るというのですか。……いいでしょう、好きにやってご覧なさい。その心が折れるまで、ね」
一歩、若さ故の熱意を武器に挑んで来る者達を嘲笑うマティーニは、仮面の下で冷たい笑みを浮かべていた。その慢心が招くことになる結末など、知る由もなく。
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