仮面ライダーAP
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第7話 仮面ライダーである前に
前書き
◆今話の登場ライダー
◆明日凪風香/仮面ライダーΛ−ⅴ
若くして警部補にまで昇進しているエリート警官であり、女子高生と間違われることも多い「男の娘」でもある青年。仮面ライダーΛ−ⅴに変身した後は、通常稼働の限界以上に出力を高める「オーバーロード」を切り札として戦う。マシンGチェイサーに搭乗する。年齢は25歳。
※原案はクレーエ先生。
番場惣太主導の元、多岐にわたる技術系統から生み出された「新世代」の試作機達。その中には、稼働時間を犠牲に出力を高めている実験機も幾つか含まれている。
それらは数分にも満たない時間しか戦えないというデメリットと引き換えに、非常に高い戦闘力を発揮していた。
「ぐ、ぬぅッ!」
「忠義ッ!」
「はいよッ!」
仮面ライダーケージと仮面ライダーオルバスも、その高出力シリーズの一つなのだ。2人は互いの隙を補い合うように打撃と斬撃を繰り出し、反撃の隙すら与えぬ連続攻撃で、仮面ライダーニコラシカを圧倒している。
「む……!」
「おおぉッ!」
突き出されたエンジンブレードをジャンプでかわしたニコラシカが、頭上からオルバスを潰そうとした時には。すでにオルバスの背に乗ったケージが、迎撃の鉄拳を放っていたのである。
予期せぬカウンターを受けたニコラシカは後方に宙返りしつつ、再び防戦一方となっていた。
「……人間風情がここまで俺を追い詰めたこと。その一点だけは、褒めておいてやる」
「そんな余裕ぶっこいでて良いのかい!? 俺達は……この時代のために生まれてきた、『仮面ライダー』なんだぜッ!」
行ける。勢いは確実にこちらにある。
そう確信したオルバスは、一気に間合いを詰めながらエンジンブレードを再び突き出していた。
「……ッ!?」
「貴様らが『仮面ライダー』、だと? この程度でか」
だが、「本気」になったニコラシカの実力はまだ、「底」に至ってはいなかったのである。両拳で挟み込むようにエンジンブレードの切っ先を止めてしまった彼は、反撃の回し蹴りでオルバスの体を吹き飛ばしてしまうのだった。
「うごぁあッ!?」
「忠義ッ――ぐぅッ!?」
その光景に気を取られた一瞬の隙を突かれ、ケージも続けざまに殴り飛ばされてしまう。ケージに狙いを定めたニコラシカは、無情な鉄拳の連打を放って来た。
「『仮面ライダー』とは母たるシェードすらも穿つ、真に最強たる戦士にのみ許される称号だ。改造人間ですらない貴様らがその名を騙るなど、言語道断と知れッ!」
「ぐあッ!?」
「穹哉さんッ!」
彼が放つ拳打の嵐は、ケージの反応速度すら上回っている。改造人間と生身との間にある、埋めようのない「差」を見せつけるかのような一撃を受け、ケージも激しく吹き飛ばされてしまうのだった。
高出力と引き換えに稼働時間を犠牲にしているケージとオルバスのスーツは、すでに停止寸前の状態に陥っている。このままではニコラシカを倒す前に、2人が先に力尽きてしまう。
まさしく、絶体絶命であった。
「……それは違うぞ、武田禍継」
「なに……?」
すると。けたたましいエンジン音と共に現れた1台のGチェイサーが、颯爽とニコラシカの前に駆け付けて来る。
ケージとオルバスを庇うような位置に現れたそのバイクには、女子高生と見紛う容姿の美男子が跨っていた。2人の上司に当たる警視庁のエリート、明日凪風香警部補である。
「あ、明日凪警部補……!」
「人類の自由と平和のために戦う希望の闘士……それが『仮面ライダー』だ。その矜持に、改造人間も生身もない」
「ふん……非力な女子のような面構えをしておいて、何を抜かす。仮面ライダーは『力』だ。全てを破壊しうる絶対的な力を指す『概念』なのだよ」
風香が語る「仮面ライダー」という言葉に込められた意味。それを真っ向から否定するニコラシカは、不遜に鼻を鳴らして彼を嘲笑っていた。
だが、風香はそんな彼の態度に怒るどころか、逆に皮肉めいた視線を送っている。
「……さては貴様、『彼ら』を直に見たことがないな? あの背中を一度でも見たことがある者なら、そんな台詞など吐けはしない」
「なんだと……!?」
「だが、知らないというのならそれで良かろう。……ならば今、ここで教えてやる。『仮面ライダー』とは、こういうものだとな!」
彼はその時すでに。手にしていたトランクケースを、強化外骨格へと「変形」させていた。
「変身ッ!」
その叫びと共に、ケース状にされていた外骨格が本来の姿を取り戻し、彼の全身を固めていく。
別世界のライダー「仮面ライダー1型」のロッキングホッパーを想起させる外観だが、装甲は銀色に統一されている。その両眼は、絶えず緑色の輝きを放っていた。胸の装甲に刻まれた、警察の証となる金のエンブレムは神々しい輝きを宿している。
「……このスーツはケージやオルバスよりも、さらに高出力の『大飯食らい』でな。悪いが、早々にケリを付けさせてもらうぞ」
番場惣太の計画から生まれた技術系統の一つである、「Λシリーズ」。その最新作に当たる、「仮面ライダーΛ−ⅴ」が、ついにベールを脱いだのだ。
「明日凪警部補……!」
「鳥海、ウェルフリット、さっさと立て。……俺達の手で奴に叩き込むぞ、『仮面ライダー』とは何たるかをなッ!」
「……はいッ!」
彼の変身に鼓舞されたケージとオルバスも、最後の力を振り絞って立ち上がる。Λ−ⅴも加えた3人掛かりの総攻撃が始まったのは、それから間もなくのことであった。
「ぐぁ、あッ……!? な、なんだこの威力は……! 貴様ら、それで改造人間ではないというのか!?」
「……貴様にとっては不都合だろうが、その通りだよ」
「そう! 知っての通り、俺達は……!」
「ただの、人間だァッ!」
ただでさえ高出力であるΛ−ⅴの強化システムを、さらに限界以上まで作用させる「オーバーロード」。ごく僅かな攻撃チャンスのために全てを投げ打つその力は、改造人間すらも叩き伏せるほどの威力を発揮している。
ニコラシカが「力負け」するほどのパワーで、パンチとキックを矢継ぎ早に放つΛ−ⅴ。その猛攻に乗じて再開されたケージとオルバスの連携攻撃も、さらに冴え渡っていた。
「ぐはぁああッ!?」
「鳥海、ウェルフリット……行けえぇッ!」
やがて、Λ−ⅴの最後の力を込めた回し蹴りが、ニコラシカを吹き飛ばし。その銅色の装甲に、亀裂を走らせていく。
それが決まると同時に、エネルギーがついに底を着いてしまったのか。Λ−ⅴは力無く片膝を付き、息を荒げていた。だが、ニコラシカを倒せる可能性を秘めた「仮面ライダー」は彼だけではない。
「はいッ! ……決めるぞ、忠義ッ!」
「よぉーし……いっちょやっちゃいますか、穹哉さんッ!」
顔を見合わせ、頷き合ったケージとオルバスが、同時に地を蹴り軽やかに跳び上がる。
ケージが空中で身体を捻り、飛び蹴りの体勢に入ると同時に――オルバスは滞空しながら上体を翻し、後ろ回し蹴りの体勢へと移行していた。その足裏にある蹄鉄の意匠が、眩い電光を纏う。
「はぁあぁああーッ!」
「でぇえぇえーいッ!」
ケージの必殺技、「ジャッジメントストライク」。オルバスの必殺技、「FIFTYΦブレイク」。その二つの「ライダーキック」が、唸りを上げてニコラシカに襲い掛かる。
「くッ……スワリングッ! ライダァァアッ! チョォップッ!」
ニコラシカも彼らの蹴撃を迎え撃つべく、右手の手刀に全エネルギーを集中させ、居合い斬りの如く水平に薙ぎ払ったのだが。その一閃を以てしても、2人のキックを跳ね返すことは出来なかった。
「ぐぉ、あ……あぁあぁあーッ!?」
あまりの威力に、ニコラシカの手刀が弾かれた瞬間。直撃を受けた彼のベルトが、粉々に砕け散ってしまう。
スーツを維持する基盤となるベルトが破壊されたことで、武田禍継は強制的に変身を解かれていた。
仮面ライダーニコラシカの敗北。仮面ライダーケージと、仮面ライダーオルバスの勝利。その瞬間を見届けていたΛ−ⅴとG-verⅥ達は、揃って安堵の息を漏らしている。
この場にいる、6人の装着者――もとい、仮面ライダー。彼らの死力を以て、今度こそ武田禍継は完全に無力化されたのであった。
力を使い果たし、もはや戦える状態ではなくなっていた風香は、Λ−ⅴの変身を解くと。同じく元の姿に戻っていた穹哉や忠義と共に、禍継を取り囲んでいく。
「……今さら、命乞いなどせん。ひと思いに殺るがいい」
「貴様は何か勘違いをしているようだな。俺達は、貴様らを殺しに来たわけではないのだぞ」
「なに……?」
否応なしに「敗北」の2文字を突き付けられていた禍継は、潔く散ろうと風香達に「介錯」を求めていた。だが風香はそれを否定するべく、穹哉に目配せして「手錠」を用意させる。
「武田禍継。ノバシェードを先導し、世界各地のテロ行為に関与した容疑で……お前を『逮捕』する」
「た、逮捕だと……!? 貴様ら、気でも触れたか!? 生身の人間風情が、改造人間を拘束することなど出来るわけがないだろう! そんな戯言を吐いてまで、俺を愚弄したいのか!」
穹哉が発したその宣言に瞠目し、禍継は狼狽した様子で声を荒げていく。そんな彼に対し、風香は淡々とした佇まいで言葉を紡いでいた。
「……やはり貴様は分かっていない」
「なんだと!?」
「さっきから聞いていれば、改造人間だの生身だのと……。どうやら貴様は『線引き』がしたくてたまらないようだが、そんなものは存在していないのだよ。少なくとも、現行法においてはな」
「げ、現行法、だと……?」
「分からないなら良いぜ、分かるまで何度でも言ってやる。身体がどれほど化物染みていようが、心まで化物に堕ちようが……それでも、お前らは紛れもなく『人間』なんだ。何を以て『怪人』とするか。その定義が現行法に明記されていない以上、お前らの云う改造人間なんて、どこまで行っても『自称』でしかないんだよ」
風香の説明を捕捉している忠義は、尻餅を付いている禍継に視線を合わせていた。警察官にとっては、改造人間だろうが怪人だろうが、同じ「人間」なのだと訴えるために。
「ふざけるな! こんな身体の……こんな力の人間などいるものか! だから俺達はノバシェードに……!」
「誰しもそう思う。……それでもやはり『人間』だから、俺達はここにいる。本当にお前らが、お前ら自身が思っているようなモンスターだったなら、今頃ここにミサイルでも撃ち込んで終わりにしていたところだ」
「……!」
「貴様らでも新聞くらいは読むだろう? ならば分かるはずだ。俺達のように考えている者は、決して少数派ではない。結城丈二をはじめ、貴様らのような被験者達を救おうとしている者達は大勢いる。ノバシェードというテロリストに堕ち、一線を超えてしまった貴様らは確かに、犯罪者として扱うしかない。それでも俺達人類は、貴様らを『人間』と見做して裁くのだ」
あくまで自分を「人間」として扱おうとしている穹哉と風香を仰ぎ、禍継はわなわなと肩を震わせ、目を伏せる。心の底から本気で言っているのだと、彼らの眼が語っていた。
それ故に、視線を合わせることが出来なかったのである。
「……人間共の施設如きで、改造人間を拘束することなど出来るものか。いずれ必ず、凶悪な脱獄犯が現れる。今ここで殺しておかねば、後悔することになるぞ!」
「その時は、また俺達が捕まえてやるさ」
「何十回でも、何百回でもな」
「貴様らは、それでいいというのか。人間の自由と平和を守る、それが仮面ライダーではなかったのか!」
「そうだとも。……だが俺達は仮面ライダーである前に、1人の警察官だ」
「それが甘いってんなら……その甘さこそが、俺達の誇りさ」
例えこの先、どのような未来が来ようとも。仮面ライダーである前に警察官であろうとする彼らは、決して己の信念を曲げることはない。
直に彼らと戦い、敗れた禍継にはそれが痛いほど理解できてしまった。人間として生きようとする道を早々に諦め、ノバシェードに身を委ねた自分では、どうあがいても彼らには敵わないのだということも。
「……俺の、負けだ。何も、かもッ……!」
絞り出されたその一言に、風香達は目を見合わせ。やがて無言のまま頷き合うと、静かに禍継の両手に手錠を掛けていく。
対改造人間用の特殊合金で製造されたこの手錠なら、禍継の膂力でも引きちぎることは出来ない。だが、もしこれが普通の手錠だったとしても、「信念」で敗れてしまった彼が抵抗することはなかっただろう。
――かくして。ノバシェードの幹部・武田禍継は、組織を率いて多数のテロを起こした容疑で、正式に逮捕されたのだった。
ただの、人間として。
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