仮面ライダーAP
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第4話 もう、あの時とは違う
前書き
◆今話の登場ライダー
◆道導迅虎/仮面ライダーティガー
元プロレーサーでもある警視庁の巡査であり、男勝りなスピード狂。仮面ライダーティガーに変身した後は、懐に飛び込み両腕の爪で斬り裂く「ティガーチャージ」を切り札として、接近戦で戦う。マシンGチェイサーに搭乗する。年齢は24歳。
※原案はただのおじさん先生。
◆翆玲紗月/仮面ライダーパンツァー
元自衛官の戦車搭乗員であり、3年前にはシェードとも戦っていた姉御肌。仮面ライダーパンツァーに変身した後は、助走を付けて水平キックを放つ「パンツァーストライク」を切り札としつつ、射撃戦主体で戦う。迷彩色のマシンGドロンに搭乗する。年齢は21歳。
※原案はゲオザーグ先生。
警視総監・番場惣太の主導により研究開発が進められてきた、「仮面ライダーの戦力を再現する強化外骨格」。そのプロジェクトには日本の警察機関のみならず、自衛隊やアメリカ軍など、多くの勢力が関わっている。
改造人間によるテロ行為への対抗手段。それを確立出来ないまま、「仮面ライダー」という一個人のヒーローに依存していた過去から、脱却するために。彼らは知恵と力を合わせ、ついにその理想に最も近しい「試作機」の開発に漕ぎ着けていたのだ。
「……いつまでも『お嬢』にばかり、良い格好はさせていられないからね。ロールアウトにはちょっと早いが、私達の出番が来ちまったってことだ!」
その開発計画の発端が、「1日も早く愛娘を『仮面ライダー』の重責から解放したい」、という惣太の親心であることを汲んだ上で。
ポニーテールの黒髪を靡かせ、遥花と同じ「マシンGチェイサー」を颯爽と乗りこなしている道導迅虎巡査は、「新世代」達の先頭を駆け抜けている。彼女に狙いを定めたブロンズフィロキセラは、その鋭利な触手を伸ばして首を切り落とそうとしていた。
迅虎はスピードを落とすことなく、咄嗟に頭を低くしてその斬撃を回避する。空を切ったブロンズフィロキセラの触手はなおも、忌々しげに彼女の首を付け狙っていた。
「おおっとッ! ……元レーサーに速さで勝とうだなんて、ちょっと甘過ぎるんじゃない?」
「『贋作』如きがぞろぞろと……。番場遥花の前に、まず貴様らから血祭りに上げてくれる」
「そう簡単に行くかな? 警察を……人間を、甘く見るもんじゃないよ」
「……ふん、新手か」
だが、ブロンズフィロキセラの注意はすぐに迅虎から逸れてしまう。マシンGチェイサーと同じく、警察によって開発された専用マシンであるスーパーカー「マシンGドロン」のエンジン音が響いて来たのだ。
迷彩柄に塗装された特殊仕様であるその車は、元陸上自衛官の翆玲紗月が運転していた。元戦車搭乗員でもある彼女は、その巧みなドライビングテクニックでブロンズフィロキセラの触手をかわし続けている。
「紗月、変身して一気にカタを付けるぞ!」
「了解ッ!」
だが、バイクや車での体当たりで倒せるような甘い相手ではない。それをよく知っている2人は、遠方から頷き合うと颯爽とマシンから飛び降り、腰に巻いた「変身ベルト」を起動させる。
『Ready』
「変身ッ!」
迅虎のくびれた腰に装着されている、「シグナルベルト」。そこから4秒間、レースのカウントダウンを想起させる音の後に、電子音が発生した。
その直後、迅虎の声が戦場に響き渡る。
『Cannonrideball loading!』
「変身!」
戦車を模した専用アイテム「キャノンライドボール」をセットされた変身ベルト「パンツァードライバー」も、流暢な英語音声を発していた。その音声に合わせて叫ぶ紗月の全身が、迅虎と同時に強化外骨格に覆われていく。
やがて完成したのは、生身の人間が装甲を纏うことによって誕生する、新世代の仮面ライダー。
道導迅虎が変身する「仮面ライダーティガー」と、翆玲紗月が変身する「仮面ライダーパンツァー」であった。
「さぁ……私のスピードに、付いて来れるかなッ!?」
ティガーの外観は別世界の仮面ライダー……「仮面ライダー1号」のようにシンプルなものであるが、両腕にはそれぞれ1本の長い爪のような刃が装備されている。
その独特なスタートダッシュのポーズは、ハンミョウを彷彿とさせていた。
「3年前とは違うってこと……教えてやるッ!」
パンツァーのベースデザインも、別世界のライダーである「仮面ライダードライブ」の「タイプワイルド」に近い。その両肩と肘、腿、足首の起動輪とその間の転輪には履帯が巻かれており、ボディはカーキ色で統一されている。
眉間からは戦車の主砲をモチーフとするアンテナが1本伸びていて、複眼部分は戦車の前照灯がモチーフになっていた。絶え間なく引き金を引いているその手には、「パンツァースマッシャー」と呼ばれるレバーアクション式のランチャーが握られている。
「ぬぅッ!?」
「いつまでも人間を舐めてると、足元掬われちまうぜ?」
「さっさと投降しないと、火傷じゃ済まなくなっちまうよッ!」
一瞬にして懐に飛び込み、爪による斬撃の嵐を見舞うティガー。パンツァースマッシャーから連射される、小型ミサイルの嵐。
その両方が同時に襲い掛かり、ブロンズフィロキセラは咄嗟に触手での「防御」に転じてしまう。生身の人間相手に、改造人間が守りに入る。これは、前代未聞の珍事であった。
(そうだ……! あの時の私達とは、もう違う! 非力だった、私達とはッ!)
(一握りのヒーローだけに、全てを委ねはしない……! 「仮面ライダー」を、都合の良い神様になんてさせないッ!)
3年前、仮面ライダーAPと仮面ライダー羽々斬の最終決戦が繰り広げられていた時も。仮面ライダーアグレッサーの暴走により、一度は東京が壊滅した時も。
ただの警察官と自衛官でしかなかった迅虎と紗月は、何も出来なかった。仮面ライダーAPが運命に争う姿を、遥か遠くから見ていることしか出来なかった。
もう、あの時とは違う。
そんな2人の声なき叫びが、ブロンズフィロキセラを圧倒している攻撃の激しさに現れていた。
「調子に……乗るなァッ!」
「あうッ!?」
「迅虎ッ! ……ぐうッ!」
だが。「絶対的な白兵戦能力」という改造人間としてのアイデンティティを揺るがされたブロンズフィロキセラの憤怒は、それすらも上回っていた。
ティガーの爪を絡め取り、動けない状態で腹部に強烈な蹴りを入れた彼は、ティガーの身体を勢い良く放り投げてしまう。咄嗟にスマッシャーを捨てて受け止めに行ったパンツァーも、巻き添えにされる形で吹き飛ばされていた。
「ただの人間に何が出来るかッ! 改造人間とは生身の限界を超越せし『力』の象徴! 単なる強化外骨格で、どうにか出来る程度であってたまるかァッ!」
それまでの冷静さを失い、声を荒げているブロンズフィロキセラの言葉は、まるで自分に言い聞かせているかのようであった。
劣悪な改造人間にされ、何一つ救われないまま悪に堕ちるしかなかった同胞達。その死に様を目にする度に、改造人間であることへのアイデンティティを拠り所として、彼は立ち上がって来たのだ。それ故に、自身の境遇を真正面から認めるわけにはいかなかったのである。
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