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SHUFFLE! ~The bonds of eternity~

作者:Undefeat
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第三章 ~心の在処~
  その三

 そして翌日の朝、バーベナ学園校門前。

「やっぱり見られてるよな……」

「普通に予想できたことだろう?」

 自分に向けられた男子生徒達の嫉妬と殺気に満ちた視線とこれから起こるであろう騒動を思って肩を落としながら言う稟に柳哉が返す。そんな二人の傍にはシア・ネリネ・楓の三人に、今日から通うバーベナ学園の制服に身を包んだプリムラがいた。そんな彼ら五人の耳にも『また土見か……』『なんでいつもあいつばかり……』といった舌打ち混じりの囁きが聞こえていた。

「あはは……まあ、リムちゃん可愛いしね」

「稟君、あの……大丈夫でしょうか?」

「多分、大丈夫……だと思う」

「申し訳ありません、稟様。まだ魔力の制御が納得のいくレベルではなくて……」

「……?」

 苦笑いのシア、心配する楓に既に疲れ気味の稟に申し訳なさそうなネリネ。以前柳哉に言われたことを順守しようとしているらしい。プリムラはよく分かっていないようだ。

「ま、しょうがない。今日のところは味方するさ」

 苦笑しつつ柳哉が言った。

「昨日はバッサリ切り捨てたくせに……」

「そんなこと言っていいのかな?」

 そう言いつつちょいちょいと指差した方を見ると、殺気に満ち溢れた男子生徒の集団が。

「申し訳ありませんでした」

「分かればよろしい」

 どうやらあの集団は柳哉が相手をするようだ。

「あの、柳哉さん」

「ん? どうした?」

「あまり、稟様をいじめないでください」

 ネリネには珍しい強めの口調だ。それに驚き、少し考えてから了承する。以前までのネリネなら稟を傷付けようとする者には容赦の無い攻撃を加えていただろう。しかし、そのネリネに柳哉は枷を付けた。ある意味では柳哉の自業自得とも言える。

「あー、そうだな、少しいじめすぎたか」

 ポリポリと頭を掻きつつ言う。

「で、そこの連中」

 歩み寄りながら声を掛ける。

「今回のあの子の件に関しては魔王陛下の決定によるものであって、稟には一切責任が無い。よって稟に当たるのは筋違いだ」

 集団の先頭にいた男子生徒が何かを言おうとするが、柳哉に遮られた。

「それでもなお、稟に当たろうって言うのなら、俺が相手になるが……どうする?」

 その言葉に男子生徒の集団は尻込みしている。柳哉は転校してきてからまだ二週間程だが、既に学園生徒の多くにその存在が知られている。その理由は、神族と人族のハーフであり魔法が使えることや、シアのファーストキス暴露話の時等に見せた高い身体能力などによるものだが、やはり最も大きいのは“あの”土見稟と芙蓉楓の幼馴染である、という事実であろう。

「尻込みするくらいならやめといた方がいいぞ。これでも対集団戦は得意でな」

 シアのファーストキス暴露話の時、柳哉は実際にそれを見せ付けている。しかも、魔法は一切使わずに。その時にそれを見ていた、あるいは実際に味わったであろう数人が集団から離れていき、それを見てさらに数人が離れる。こうなれば、もはや烏合の衆以下だ。先頭にいたリーダー格らしい男子生徒も舌打ちをしつつ、校舎に入って行く。

「……助かったよ」

「一時しのぎでしかないだろうけどな」

「……はあ」

 ため息をつく稟だった。


          *     *     *     *     *     *


 その後。

「……」

 確かに、実力行使は無い。

「………」

 しかし、それ以外は大いにあった。

「…………」

 例えば、授業中。

「……………」

 狙い済ましたかのように投げ込まれる消しゴム弾の雨。

「………………」

 例えば、休み時間。

「…………………」

 廊下で擦れ違うたびに罵詈雑言の合唱を浴びせる男子生徒達。

「……………………」

 それらはまだいい。まだいいのだ。問題は……

「……稟……」

 休み時間ごとに自分の所属する1-Bではなく、稟達のクラスである2-Cに入り浸っているプリムラの存在だ。

「……稟……」

 ちなみに現在、五時限目が終了した所だ。すなわち、プリムラが2-Cを訪れたのは本日五回目になる。そんなプリムラだが、早々に親衛隊が結成されたようだ。この学園でも特殊且つ屈強な男達で結成された、まさに最強の親衛隊、だそうである。樹曰く、『まさか柔道部主将、レスリング部主将、そして二次元美少女愛好会会長の三人が堅い握手を交わすシーンをこの目で見ることができるとは思わなかった』そうである。親衛隊名、プリムラ親衛浪士隊“PPP”――正式名称“プリムラぷりぷりちー”――もはや何でもありである。

「あ、いたいた」

「みなさん勢揃いですわね♪」

 明るく元気な声とおっとりとした声。亜沙とカレハだ。

「どうかしましたか……」

「稟ちゃん、何だかヤサグレ?」

 ぐったりした稟はどこかヤケになったような口調だ。無理もないだろう。

「リムちゃんが転入してきたって聞いて様子を見に来たんだけど……」

「一年生の教室を覗いてみたんですが、プリムラさん、今日はこちらに入り浸っている、とのお話でしたので」

 どうやら三年の方でも話題になっているようだ。

「話題っていうか、黒い噂? まあ、今日一日くらいはコソコソしてるのがおススメかな」

「治癒魔法は得意ですから、必要でしたら遠慮なく(おっしゃ)ってくださいね」

「カレハ、使うならボクがいない時にしてよね……」

「大丈夫ですわ、亜沙ちゃんの前では使いませんので安心してください」

 亜沙の魔法嫌いも相変わらず徹底している。というか俺の身も案じてください、と言いたかった稟だった。

「まあ、それはまず無いでしょう」

「ん? どゆこと?」

「稟のそれは精神的な疲労なんで」

 と、朝の事を話す。その脇で、

「治癒魔法の話が出るようじゃねえ……土見くん、短い間だったけど、あなたはいい友達だったわ」

「やめい、縁起でもない」

 そんな会話が交わされていた。


          *     *     *     *     *     *


 放課後。

「疲れた……」

「お疲れさん」

「というかこんな疲れる日に掃除当番って……」

「運が悪かったと思って諦めな」

 ぶつぶつと文句を言う稟とそれに付き合う柳哉。今日は二人とも掃除当番だった。本来ならここまで時間はかからないが、前述の理由から遅くなってしまった。既に窓の外の風景は赤く染まっている。

「ほれ、ゴミ捨ては俺が行っとくから、お前は帰りな」

「……いいのか?」

「ああ。見た所もうほとんど帰ってるみたいだしな」

 襲われるようなことはまず無いだろう。

「そうか……。ありがとな」

「おう、また明日」

 そう言って柳哉はゴミ捨てに向かい、稟は帰り支度を始める。鞄を持ち、教室を出るが、

(プリムラは……もう帰ったかな。皆が見ててくれたとは思うが……)

 そう思って足を止める。シアやネリネ、楓あたりが連れて帰ってくれたとは思うが……。

(プリムラのクラスは確か……)

 なんとなくだがいるような気がして、一年のクラスへ向かった。


          *     *     *     *     *     *


「……まさかとは思っていたけど」

「……稟……?」

 果たしてプリムラは、そこにいた。茜色に照らされた小さなその姿はどこか(はかな)ささえ感じる。

「……何やってるんだ? こんな時間まで」

「……稟も、何で、まだ……?」

「掃除当番でな。帰り際に思い立って来てみたんだが……皆と帰らなかったのか?」

「……そう……」

 その横顔が少し沈んで見えたのは稟の気のせいだったのだろうか?

「何か用でもあったのか?」

「……今終わった……」

「よし、じゃあ帰ろう。楓もそろそろ夕飯の支度を始めてるだろうし、少しくらいは手伝わないとな」

 こくんと頷くプリムラ。

「……楓のご飯、おいしいから好き……」

「よし。それじゃ、ちょっと急ぐか」

「……うん……」

 そう言って手を伸ばす稟。その手をプリムラは握り返す。信頼を表すようにしっかりと握られた小さな手の温もりに、稟はどこか優しい気持ちを感じたまま、教室を出た。 
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