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イベリス

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第四十二話 完成その七

「それこそ」
「例えが凄過ぎない?」
 咲はモーツァルトと聞いて述べた。
「流石に」
「あえてそうしたのよ」
「例えを凄くしたの」
「そう、それでね」
 そのうえでというのだ。
「あの人が幾ら才能があってもね」
「モーツァルト程じゃなくて」
「モーツァルトは何かとあった人よ」
 性格破綻者だったと言われている、生活力は皆無で浪費家でありやたらと下品なジョークを好んだことで知られている。
「けれどあの人はそうしたね」
「奥さんを捨てたりとか」
「邪魔になったと思ったり飽きたりとかでね」
「それはなかったの」
「人間が好きで」
 このことは音楽にも表れている、彼の歌劇では端役がないと言われている。彼の天才は全ての登場人物に素晴らしい音楽を与えているのだ。
「好かれたいことを求めていてね」
「そうしたことはしなかったの」
「ええ、あんなことはね」
「そんな人だったのね」
「だから何だかんだで」 
 当時からその生活やジョークが問題視されていたがだ。
「当時から支える人がいてね」
「お仕事の依頼もあったの」
「皇帝からもね」
 オーストリア皇帝ヨーゼフ二世が彼の音楽を愛していたのだ。
「そうだったのよ」
「皇帝からも」
「そう、最後までお仕事をしていたしね」
「そうだったのね」
「けれどあの人はもう終わりよ」 
 母はそのアーチストをこの上なく冷たい目で語った。
「自分が逮捕されて前科ついてもお金で困っても支えてくれて傍にいた奥さん捨てたのよ」
「最低な行いしてもついてきてくれた人を」
「そうした人にあれ位の才能でお仕事頼むかしら」
「嫌だって人多いわよね」
「だからね」
 それでというのだ。
「あの人はもうね」
「終わりなのね」
「ああした人が幼稚って言うのよ」
「そういうことね」
「モーツァルトはどうだったか」 
 ひいては彼はというのだ。
「幼稚だったかも知れないけれど」
「あそこまではなのね」
「酷くなかったとね」
 その様にというのだ。
「言えるわね」
「そうなのね」
「ええ、幾ら何でもあの人はね」
「酷過ぎるのね」
「あんな人は相手にしたら駄目よ」
「自分の都合で平気で捨てるから」
「責任も感じないし反省もしないから」
 だからだというのだ。
「会ってそうした人だとわかったらね」
「相手にしないこと?」
「世の中大抵な人とお付き合いは可能だけれど」
「ああした幼稚な人なの」
「無理よ、幼稚園児以下の思慮分別の大人なんてどうかしら」
「絶対に付き合えないわね」
「お友達としても」
 母はさらに言った。
「交際相手としてもでしょ」
「絶対にね、奥さん捨てる様なら」
「お母さん咲をそうした娘にはならない様にね」
「育ててくれたの」
「そのつもりだしこれからも自分でね」
「気をつけて」
「そうしていってね」
 こう娘に話した。 
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