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アンフェアなボール

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第一章

                アンフェアなボール
 村山実は極めて勝利に貪欲であった、ただ勝つのではなくバッター一人一人に全力で向かい勝とうとする男だった。
 それでだ、彼はある記者に語った。
「もう何があってもや」
「勝ちたいですか」
「そう考えてな」
 そのうえでというのだ。
「わしは投げてな」
「勝負をされますか」
「いつもな」
 こう言うのだった、真剣な顔で。
「そうしてる」
「そうですか、ではです」
 記者は自分に語る村山に尋ねた。
「もうどんな手を使っても」
「それでもやな」
「勝たれますか」
「当然や、卑怯なことをしてもな」
 それでもとだ、村山は答えた。
「絶対にや」
「勝たれますか」
「そうしたい」
「では巨人にも」
「当たり前や、巨人は特にや」 
 このチームにはというのだ、球界を壟断し邪悪の限りを尽くしたうえで盟主を僭称するこのチームに対しては。
「勝たなあかん、その中でもな」
「ミスター、長嶋さんには」
「あの人には一番や」
「勝たれたいので」
「もう何があってもな」 
 それこそというのだ。
「あの人には勝ちたいからな」
「卑怯なことをしても」
「勝つ、絶対にな」
「そうされますか」
「死ぬ気でな」
「そうですか」
「わしは何があっても勝つ」
 村山は真剣な顔のままだった、その話を記者から聞いてだった。
 野球関係者達は口々に言った。
「まさかビーンボールとかか?」
「アンフェアなこととか言うと」
「村山さんそうしたボール投げるつもりか?」
「それは幾ら何でも駄目だろ」
「スポーツマンシップを守らないとな」
「まして長嶋さんにぶつけたら」
 球界を代表する選手である彼にというのだ。
「やばいだろ」
「そこまでして勝ちたいのかね」
「どうしてもとか言うのなら」
「ちょっと人格疑うな」
「そうだな」
 多くの者がこう考えた、そのうえで村山の野球を観たが。
 村山は必死に投げ続けた、兎角練習し相手を研究し投球術も磨いていった、そして危険なボールはというと。
「コントロールいいしな」
「デッドボール殆どないぞ」
「何が何でも勝ちたいってな」
「そう言っていても」
「卑怯なことをしてもと言っても」
 それでもとだ、彼等は気付いた。
「全然な」
「そうしたことしないな」
「誰でも真っ向勝負で」
「全力で向かって」
「全身全霊で投げてるな」
「速球もフォークもシュートも」
「三つのフォームを使って」
 村山の特徴だ、彼はオーバースローにスリークォーターそれにサイドスローを使って投げているのだ。
「投げてるけれどな」
「ビーンボールとか投げないな」
「バッターに凄い気迫で向かって」
「誰でも力で勝とうとして」
「卑怯なことしないな」
「特に」
 誰もがここで思った。 
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