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ウルトラマンカイナ

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特別編 ウルトラカイナファイト part2

 ――その頃。怪獣軍団に破れ、壊滅状態に瀕しているBURKの基地内では。半壊したブリーフィングルームの中で、駒門琴乃が声を荒げていた。

「そんなっ……弘原海隊長、本気なのですか!」
「俺が冗談でこんなことを言うと思うか? ……もはや、手段を選べる状況ではないんだ。情けないことにな」

 彼女の抗議を受けている弘原海も、沈痛な面持ちで自嘲している。2人の視線は、基地の屋上にあるアンテナと繋がっている、とある「装置」に向けられていた。

 ――かつて人類はウルトラマンを「捕獲」し、その存在を「生物」として解析した上で、「兵器」として運用しようと目論んでいた。
 それで万が一、ウルトラマンを敵に回すような結果を迎えれば、地球そのものが取り返しのつかない末路を辿ることになる。人道的見地以前の問題を抱えた、禁忌の研究であった。

 そして、その計画が必然的に頓挫する直前。ウルトラマンという英雄――イカロスの「翼」を焼き、地に落とすために開発された「太陽」があった。
 それが人工ウルトラサイン発信装置、通称「イカロスの太陽」なのだ。

 本物に極めて近しい精度で偽造されたウルトラサインで、標的とするウルトラマンを地球に誘き寄せ、捕獲する。そのために生み出された、悪魔の産物。
 ウルトラマンという救世主の存在を巡る、人類の闇そのものであった。

 弘原海は封印されていたその装置を使い、「カイナからの救援要請」を装って他のウルトラマン達を呼び寄せようと考えていたのである。

 カイナの窮地とあらば必ず駆け付けるであろう、彼の「後輩達」を。

「こいつの力で『彼ら』を呼び戻す。それ以外にもう……ウルトラマンカイナを救う手立てはない。お前にだって分かっているはずだ」

 ――ウルトラマンカイナが初めて地球に降り立ち、恐竜戦車との死闘を繰り広げた日から6年。それまでの間、地球は絶えず怪獣や異星人の襲撃を受け続けていた。
 安息など与えられない、闘争の日々。それでもBURKが一度も屈することなく、地球の守手としての使命を全うして来られたのは、「ウルトラマン」という存在が常に支えとなっていたからなのだ。

 1年経つごとに、任期を終えたとばかりに地球を去っては。入れ替わるように新たな巨人が現れ、BURKと共闘して侵略者達を退けていく。
 カイナの登場を皮切りに、それが6年間にも渡って続いてきたのである。かつては新米だった彼の5人の後輩達も、今や1年間地球を守り抜いた歴戦の猛者なのだ。

 そして、カイナに続く地球の守手として戦ってきた彼らならば。自分達の先輩に当たる彼の窮地に、動かないはずがない。
 彼らがこの地球で戦ってきた怪獣達も恐竜戦車と同様に、テンペラー軍団によって「追い立てられた」存在だったのであれば。これは彼らにとっても、真の最終決戦となるはず。

 弘原海は、そこに賭けているのだ。彼ら自身にも、戦うに値する理由はあるはずだと。

「そんなことは分かっています! しかし『彼ら』はもう、十分過ぎるほど戦いました……! それなのに、またこのような戦場に引き摺り込むなんてッ!」

 琴乃としても、弘原海の主張が理解できないわけではない。それでも彼女はあくまで、反対の立場にいる。
 その理由は、カイナの後輩達が地球で活動するための依代(パートナー)として選んだ、この星の青年達にあった。

 彼らは全員、ウルトラマンとしての1年間に渡る任期を終えた現在では、ごく普通の人間として暮らしているのである。地球を救った救世主としての名声よりも、ウルトラマンになる前と変わりない、当たり前の日常を望んでいるのだ。

 カイナの後輩達を「イカロスの太陽」で呼び寄せるという判断は、依代である彼らを再び戦場へと巻き込むことにも繋がりかねない。身命を賭して地球を守らねばならないBURKの隊員として、それだけは看過できなかったのである。
 かつてはウルトラマンと共に戦った英雄であるとはいえ、名誉よりも安寧を求めた青年達を、この期に及んで戦いに駆り出すなど。

「……安心したよ、駒門。お前のような奴が1人でもいる限り、BURKは安泰だ。例え、俺がいなくなろうともなッ!」
「た、隊長ッ!」

 それが人として、BURKの隊員として最も正しい見解であることは、弘原海自身も承知していた。その上で彼は、牽制のために琴乃の足元を光線銃で撃ち抜きながら、発信装置に駆け寄って行く。

 ――弓弦が搭乗していたBURKの戦闘機が、バードンの火炎放射に焼かれ墜落する瞬間。2人は、カプセルを掲げた彼がカイナへと変身する場面を目撃していた。
 今まさに命懸けで戦い、死に瀕している巨人が自分の部下なのだと知ったからこそ。弘原海は隊長として、是が非でも隊員を守らねばと覚悟を決めてしまったのである。

 琴乃は阻止する暇もなく、装置への接近を許してしまうのだった。

「この装置を起動させるということは、軍の禁忌に触れることにも等しい。俺は今回の戦いを最後に、BURKから退くことになるだろう。……後はお前に任せたぞ、駒門ッ!」
「待ってください隊長! 隊長ォッ!」

 敬愛する隊長が下した、悲壮なる覚悟を伴う決断。その瞬間を目の当たりにしていながら、琴乃はただ手を伸ばすことしかできずにいる。

「これが罪だというのであれば! その罰は全て、この俺が引き受けるッ! だから頼む……どうか、頼むッ! かけがえのない俺の部下を、お嬢様の夫になる男を……救ってくれえぇーッ!」

 そして、弘原海が装置のレバーを勢いよく倒した瞬間。

 そこから伝播するようにアンテナへと駆け上がっていく青白い電光が、宇宙の彼方を目指して解き放たれていくのだった――。

 ◇

 「イカロスの太陽」から発信された、人工のウルトラサイン。カイナの窮地を報せるその閃光は、東京にいるカイナとテンペラー軍団も目撃していた。

『……!? あ、あのサインは……!』
『あの救難信号は……地球人類共の紛い物か。ふん、なんという杜撰な作りだ。あのような信号に反応するウルトラマンがいるとすれば、よほどの馬鹿か……偽造を承知で駆けつけて来るような、酔狂者であろうな』
『……ッ!』

 弓弦も、「イカロスの太陽」という禁忌の存在は弘原海から聞かされていた。それを使えば、BURKからの永久追放は免れないということも。

(弘原海隊長ッ……!)

 そして今、その装置を管理出来る人物は弘原海しかいない。そこからこの現象の背景を汲み取ったカイナは、彼の覚悟を悟り拳を震わせる。
 彼の献身に報いるためにも、必ず勝たねばならないと。

 ――そんなカイナの闘志に、呼応するかの如く。霧散していく信号の向こうから、光り輝く五つの星が現れた。

『……! あ、あれはッ!』
『ほう……どうやら我の見立て以上に、酔狂者は多かったようだな』

 否、それは星ではない。人の形を持った、希望の輝き――ウルトラマンであった。

 彼らは皆、弘原海という男を知るが故に。自分達に向けて発信されたサインが「イカロスの太陽」によって生み出された偽物であると知りながら、その覚悟に報いる道を選んだのである。

「お、おい見ろよ、あれ……!」
「あぁっ、ああ……ウ、ウルトラマンだ……! あの時、地球を救ったウルトラマン達だぁっ!」
「すげぇ……! こんなことあんのかよッ! 今まで地球を守ってきたウルトラマン達が……今度は、全員纏めて来てくれるなんてッ!」

 両手を広げ、空の彼方から飛来する5人の巨人。この星に暮らす誰もが知っている、その勇姿が再び露わにされた瞬間――絶望に包まれていた人から、爆発的な歓声が上がるのだった。

「あれは……!? カ、カメラ! カメラ向けて、早く! せ、世界中の皆様、この中継をよくご覧ください! あの5人のウルトラマンが……皆様も私も、よく知っているあのウルトラマン達が、帰って来たのですッ! この地球の希望は、ウルトラマンカイナだけではなかったのです! 我々はまだ、絶望するには早過ぎたのですッ!」

 BURKの完敗。
 カイナの窮地。
 その光景をただ映像で見ていることしか出来ず、滅びに向かうしかないのかと打ちひしがれていた世界中の人類は、かつて地球を救った救世主達の再来に希望の光を見出している。

 聞こえずとも、その歓声を肌で感じていた5人のウルトラマンはやがて、半壊した東京の戦地に勢いよく着地するのだった。衝撃によって噴き上がる土砂が天を駆け上り、大空に巨人の来訪を報せている。

『お、お前達……!』

 未熟だった6年前のカイナよりも、さらに若い5人の後輩ウルトラマン。その背中は「1年間の地球防衛」という大役を経て、カイナの想像よりも遥かに逞しく成長していたのである。
 今この場に集結した6人のウルトラマン達の中では、最年長であるカイナも思わず息を呑んでしまう。それほどまでの「進化」が、「後輩達」のオーラに現れているのだ。

『数だけ揃えて、互角に持ち込めたつもりか。……やはり若造だな、実に浅はかだ』

 そんな若獅子達の気迫を前にしても、テンペラー軍団を率いる首魁は全く動じていない。彼が従える5体の怪獣も、美味そうな獲物が増えたと喜んですらいる。

 ――6対6。この状況に至り、地球の命運を賭けた最後の死闘はようやく、第2ラウンドへと移行したのだった。
 
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