ペルソナ3 ネクラでオタクな僕の部屋に記憶を無くした金髪美少女戦闘ロボがやってきた結果
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第5話 (5/5)
前書き
いよいよ最終話です。一応、なんとか思っていたところまでたどり着きましたが、主人公が自己主張し過ぎた反動で、後日談がやけに長くなってしまいました。まあ、出来過ぎな話になりましたが、根気よく頑張っている人のその頑張りが、無駄にならない世の中であって欲しいとは思います。それでは物語の締めくくりを見届けてください。
さて、この後のことはあまりに不思議であり、どこからが夢だったのかもよくわからない。
僕はどうしても寝つけずに、布団の中でただただじっと我慢していた。1日歩き回って疲れているはずなのに、アイナのことが頭の中でぐるぐると廻っていて止まらなかった。
あのゲームでは、ロボット少女のアイナは最後に主人公のところに戻ってくる。自分に同じ奇跡が起きることをひたすら願っていた。
アイナはもう再起動に入ったのだろうか。
やがて、ついに耐えられなくなって、僕はがばっと起き上がった。
真っ暗闇なはずなのに、不思議と周りが緑色に霞んでいる気がした。アイナは先ほどと同じように壁にもたれたまま座り込んでいる。僕が起き上がっても全く身動きしない。
もう再起動に入っていて、意識もないのだろう。
僕のアイナは消えてしまった。
何か取り返しのつかないものを失った気がして、抑えきれずに僕はアイナに抱きついた。涙があふれて止まらなかった。
その時、「どうしました?」と、耳元でアイナが静かにささやいた。
彼女はもう意識が無いものと思っていたので、僕はひどく動揺した。みっともなくて恥ずかしかった。しかし同時に、まだアイナでいてくれたことが無性にうれしくなって、普段の僕なら絶対にしない、したくてもできない行動に出た。
アイナの口に自分の口重ねたのだ。
アイナは抗わなかった。しばらく二人でそうやってじっとしていた。
やがて僕は唇を離すと、今度は急に湧き出してきた罪悪感に苛まれて「ごめん」と謝った。
それに対し、「今のはキスですか?」とアイナが静かに訊いてきた。
「・・・うん」と僕が小さく答える。
しばし沈黙が訪れた。
その時だった。窓の外で何かが激しく光り、大きな音がした。
「なんだ?」
驚いた僕はアイナから離れると、窓に移動してカーテンを開ける。
窓の外の風景は、異様な変化を遂げていた。街灯も窓のあかりも全て消えて真っ暗になっている。それでも妙に視界がはっきりしていて、どことなく緑色に霞んでおり、月だけが不自然に明るく輝いている。
まるで街全体が異界に落ちたかのようだ。窓から見える道路には、真っ赤な血をぶちまけたような跡が広がっていて、見るからにおどろおどろしい。こんな奇妙な風景は見たことが無かった。
再び何かが輝く。
そちらに目を向けると、あのゴミ捨て場の裏の公園に、何か大きな異形のものがいた。
「なんだあれは・・・。」
真っ赤な体をしていて、奇妙な白い仮面をつけた巨人のように見えた。身の丈は3メートル以上ありそうだ。
そのまわりに数人の人間が、刀や弓などの武器を持って取り囲み、怪物に戦いを仕掛けている。
ポロニアンモールで見かけた高校生カップルや、牛丼屋で見かけた赤べストと帽子の男の姿が見えたような気がした。
「影時間!・・・シャドウ!!」
不意に僕の後ろに立ったアイナがそう叫んだ。
何事かと驚いて振り向くヒマもなく、彼女はガラッと窓を開け、次の瞬間そこから外に飛び出した。
「アイナ!」
僕は叫んだが、アイナは振り向きもせず、地面に軽やかに着地すると、そのまま公園に駆け込んいく。
ダダダダ・・・
銃声が鳴り響く。
しかし銃撃をものともせず、怪物は周囲に、稲光をまき散らした。
何名かがその攻撃に巻き込まれて倒れる。ピンチのようだ。
思わず手を握りしめる。
アイナが彼らをかばうように、怪物の前に立ちはだかった。
「ペルソナ レイズ・アップ!」
アイナの声が響き渡る。
その声に呼び出されたかのように、彼女の背後に槍を構えた女神の姿が現れた。そしてその女神が怪物に向かって突進していった。
はっと気づくと朝だった。
僕は布団から飛び出して、窓際に転がって寝ていた。カーテンも窓も開けっぱなしであり、明け方の冷え込みで寒くて目が覚めたのだ。季節はもう秋に差し掛かっている。
それにしても、いったいいつの間に眠ったのだろう。ともかくおかしな夢だった。・・・果たしてどこからが夢だったのだろうか。
起き上がって見回してみたが、アイナはもう僕の部屋にはいなかった。
昨日、アイナと二人で過ごしたのは夢ではなかったはずだ。・・・でも、もしかするとやはり夢だったのかもしれない。
金髪美少女の戦闘ロボ。そんなものがこの部屋に転がり込んでくるなんて、笑い話にしてもあまりに陳腐すぎる。限界を超えて疲れ果てた僕の脳みそが生み出した妄想だと思った方が、はるかに説得力がある。
確かなことは一つ。もう彼女が戻ってくることはない。
それから何週間か経った。季節は秋から冬に代わろうとしていた。
あの日、古本屋で買った本は、ちゃんと僕のカバンに入っていた。それが、少なくともアイナは実在したという心の支えになった。
僕はまだあの会社にいた。
実は、あの直後に「会社を辞めたい」という話を上司に持っていった。
普段の僕の行動力ではありえない事だったが、アイナを失ったことで心の中の何かが折れてしまい、仕事を続ける気力を失ったのだ。
すると上司の報告を聞いた社長が、驚いたことに直に僕のところにやってきた。まあ、小さな会社だから有り得ないことではないのだが、コミュ障な僕は社長と直接話したことがほとんどなかった。
社長は何が不満でやめるのかを丁寧に聞いてきた。これまで他人にはろくに物も言えなかった僕だったが、その時はやけくそな心境だったこともあって、これまでため込んでいた不満やこの会社の問題点を全て吐き出した。前日、アイナを相手にいろいろと説明しまくったことがウォーミングアップになっていたのか、自分でも不思議なほど自然に言葉が出てきた。
話を全部聞いた後で、社長がこんなことを言った。
「うちは小さな下請け会社だ。給料と労働時間は徐々に改善したいと思っているが、今すぐにはどうしようもない。それが辞める理由なら、やめて状況が改善するというのなら、やめてくれてかまわない。
しかし君の話を聞いたところでは、むしろ仕事にやりがいを感じられない、ということが一番の理由のように聞こえた。
そこで提案なんだが、今、うちの会社は他社の下請けではない自前のゲームの製作を計画している。そのプロジェクトの企画チームに入ってみる気は無いか?
君の上司の話では、技術的には申し分ないが、自分の意見をはっきり言えないところが問題だ、とのことだった。しかし今日、話を聞いたところでは、申し分ないほど自分の考えをきちんと言えているように思える。もし君にやる気があるのなら、もう少し頑張ってみないか。」
それは予想もしていなかった提案で、結果的に僕はもう少し会社に残ることにした。
最初に参加した企画会議では、初期案を見せられて意見を求められた。どうせやめるつもりだったのだから何も遠慮はいらないとばかりに、言いたい放題言わせてもらった。みんなを怒らせるかもとも思ったのだが、何故か「面白いやつだ」と評価されることになった。その後は、よく話をする同僚も少し増えてきて、僕の会社生活は徐々に変化してきた。
仕事自体は楽にはなっていない。むしろ厳しくなったかもしれない。不満は相変わらずある。しかし以前より「自分でゲーム作成をしている」という実感が出てきて、あまり辛くはなかった。
「人が喜ぶのは良い仕事ですよね。」というアイナの言葉が常に胸の中で繰り返されていた。「お客さんのうれしそうな顔を見ると、まだまだ頑張ろうと思うんじゃよ。」という古本屋のおじいさんの言葉も思い出した。病院暮らしのあのピンクのワニの男性のことも頭に浮かんだ。
僕はまだ頑張れる。そして自分の作ったゲームで、みんなを楽しませたかった。
その日もいつも通り、夜遅くの帰宅となった。
あの公園の前を通りかかると、立ち入り禁止の表示が全て取り除かれて、中の遊具やベンチや花壇の修復工事が完了したことに気づいた。
アイナが去った日、公園に行ってみると、遊具はひどく破損しており、ベンチの板も真っ黒に焦げていた。花壇もぐちゃぐちゃに荒らされていた。それは前夜の戦いが夢ではない証拠のように思えた。
僕がしばらく呆然とそれを見ていると、どこかのおじいさんが近づいてきて話しかけてきた。
悪ガキが夜中に単車を乗り回して、公園を荒らしていったということだ。公共の場所を傷つけたと、おじいさんはひどく憤慨していた。
どうしてそういう話になったのかがさっぱり分からずに不思議に思っていると、その後すぐに公園は立ち入り禁止となり、間もなく修復工事が始まった。
何故だかわからないが、桐条という企業グループがお金を出して、修復工事の手配をしたのだという話を聞いた。
なんとなくその公園に入ってみると、そこは以前よりもきれいなくらいにきちんと修復されていた。中を見回していると、暗闇の中のベンチに誰かが座ってることに気づいた。
人影は静かに立ち上がって、こちらに近づいてくる。
「相変わらず遅くまで仕事をしているんですね。」
彼女はそう声をかけてきた。
「・・・アイナ。」
そこには水色のワンピースを身に着けた、あの金髪の少女が立っていた。
「アイギスです。」
「アイギス?」
「私の名前です。」
「そうか思い出したんだね。良かった。それにしても、なんだか強そうな名前だ。」
僕は笑顔を浮かべたが、少し悲しかった。分かってはいたのだが、僕のアイナはもういないのだ。
「仕事は辞めなかったのですか?」
「もう少し頑張ってみようかと思って・・・。」
「そうですか。良かったであります。」
アイギスと名乗った少女が納得したようにうなずいた。
「どうしたの? 僕のところに帰ってきたわけじゃないよね。」
「今日は、お礼に言いにきました。あの夜、私は戦闘でエネルギー切れとなり、そのまま回収されてしまいましたので、あなたにお別れも言えませんでした。」
「そうか。やっぱりあれは夢ではなかったんだな。あの夜、君は何かと戦っていたね。あの怪物はいったいなんなの?」
「見えたのですか、あれが・・・。」
アイギスは少し驚いたように言った。以前より感情が顔に出ているように思える。正常な状態に修復されたからだろうか。さらに人間に近づいているように見えた。
それが余計に、自分の知っているアイナとは違うのだ、と感じさせられた。
「あれはシャドウ。」
「シャドウ?」
「人類の敵です。」
また突拍子もない言葉が出てきた。この奇妙な感覚も懐かしい。
「つまり君は人類の敵と戦う為に造られた戦闘用ロボットなのか。」
「概ね、その理解で間違いないであります。」
僕は思わず笑ってしまった。しばらく笑いが止まらなかった。
僕が毎日、遅くまで仕事に追われて過ごしている間に、世界のどこかで人類の敵と美少女戦闘ロボが戦っているというのだ。こんな夢のある愉快な話があるだろうか。
現実は無味乾燥ではない。僕が愛する荒唐無稽な世界は、この現実の中にも確かにあるのだ。
アイナがいなくなった寂しさはもうどこかへ行ってしまった。彼女は、僕とはもっと次元の違うところで戦っているのだ。
「何年か経って、まだ世界が何事も無く平和なままだったら、君達が勝利したということになるのかな。」
「そうですね。そのはずです。」
「じゃあ、毎日世界の無事を確認して、その度に君に感謝することにするよ。だから気をつけて、頑張ってね。」
「はい。」
彼女は素直にうなずき、僕はそれを満足して見守った。
「あのとき、あなたは親身になって私に協力してくれました。おかげで非常に助かりました。ありがとうございました。」
今更ながらに彼女が頭を下げる。
「気にしないで。僕にとっても夢のように楽しい1日だったんだ。あの1日のおかげで、僕はまだ頑張れているんだ。」
「そうですか。それは・・・大変うれしいであります。」
彼女がにこりと笑った。可愛かった。そういえば彼女の笑顔を見たのはこれが初めてじゃないだろうか。
「ちゃんと笑えるんだね。」
「私、笑ってましたか?」
彼女が不思議そうに言う。
「いい笑顔だったよ。・・・可愛かった。」
それは、人間の女性には絶対言えない、彼女が相手だからこそ言える気障な言葉だった。
これで本当にお別れだと思うからこそ言える言葉だった。
彼女に対する自分の気持ちを全て込めた言葉だった。
それを彼女が理解できるとは、全く思っていなかった。
彼女はしばし僕の顔をじっと見つめ、そしておもむろに口を開いた。
「あの・・・」
「なに?」
「あれは私のファーストキスだったであります。」
「えっ?」
次の瞬間、彼女の姿は消え失せた。
飛び跳ねたのだと気づいて慌てて見上げれば、そのシルエットは月をバックに家の屋根を越え、そしてそのまま見えなくなったのだった。
後書き
以上で終了です。私の書いてきた短編の中では長めの話となりました。毎回そうなのですが、この後何か月かかけて少しずつ書き足していきますので、最終的にはもうちょい長くなるかもしれません。今回、最後に一瞬アイギスではない感じになっていますが、オタクな主人公の見た幻かもしれません。
ということで、また何か思いついたらペルソナ3の別の話も書いてみたいと思っています。
それではまたいつか。
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