ペルソナ3 ネクラでオタクな僕の部屋に記憶を無くした金髪美少女戦闘ロボがやってきた結果
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第1話(1/5)
前書き
ペルソナ3の短編の13作目です。(それぞれは全て独立した話ですので、興味のある話から是非 覗いて見てください。)
今回は、初めてオリジナルキャラを主役にしています。タイトルを見れば何をやりたいのかわかりますよね。もう本当にこのタイトルが全てです。よくあるベタな話をアイギスを使って、やってみようと思いました。さて、どうなるのでしょうか・・・
午前0時、今日と明日の狭間の時間。
僕は、その日の帰宅も午前0時を過ぎていた。
政府主導による残業時間短縮の推進もなんのその、ろくに残業代も出ないのに月の残業は100時間を超え、休日出勤もあたりまえというバリバリのブラック労働だった。下請け専門の弱小ゲーム会社の社員に人権は無いのだろう。
発売直前のビッグタイトルのデバック作業で地獄のような日々となり、ここ2日は家にも帰れずに会社に泊まり込みとなってしまった。当然、風呂にも入れず、服も着替えられず、無精ひげも伸びっぱなしで、とても人前に晒せる姿ではなかったが、男性の同僚はもちろんのこと女性社員まで同様の有り様だったので、まあお互い様だから気にする事もない。そもそもそんなことに気をまわすゆとりのある人は一人もいない状況だった。
好きで入った業界とは言え、そのあまりの過酷さにはさすがに限界を感じていた。気づけば同期入社の社員はみんなどこかよそに行ってしまい、ただ一人、不平を言うことも、思い切りよく転職することもできずにモタモタしている僕だけが取り残されていた。
そんな僕ですら、さすがに今度こそは辞めてやろうと思い続けていた。ゲーム製作の仕事に未練はある。だから自分がやりがいを感じられる仕事ならきつくても頑張れる。しかし、僕に不平をいう度胸が無いのを良いことに、ひたすらつまらなくて面倒くさいだけの仕事を無茶な納期でやらされるということの連続では、ただ辛いだけでとても耐えきれない。もうどんな業種のどんな仕事でもいい。ここよりはマシだろう。
今回の仕事の山は、今日、ようやくひと区切りついた。明日は11日ぶりの休日である。しかし安心はできない。次に休めるのがいつになるか、何の保証もないのだ。
ともかくもう頭も働かないし、今後のことはまた後で考えることにしよう。今は少しでも早く布団に倒れ込んで眠りたい。
僕は今話題の影人間のような有り様で、息も絶え絶えになってアパートにたどり着いた。とぼとぼと階段を上り、2階の自分の部屋へと向かう。エレベーターは有るのだが、3~4階の人と違って2階だと階段を上ってしまった方が早いのだ。
部屋のドアを開けると、入り口のたたきにはゴミ袋の山が積まれていた。中に入れずにその場に立ちすくむ。
そういえば、ここのところゴミ出しもできていなかったので、次こそ忘れずに必ず処分しようと玄関に積んでおいたのだ。
改めてカレンダーを頭に浮かべると、明日はちょうどゴミ回収の日。さすがにこれ以上、ゴミを溜めるのも嫌なのでなんとしても出しておきたい。
おそらく明日の朝、早起きしてゴミ出しをするというのは、まず不可能だろう。ゆっくり眠るためにも、今の内にゴミを運んでしまった方が確実だ。
僕は深く溜息をつくと、最後の気力を振り絞ってゴミ袋を外に引っ張り出した。
袋の中はコンビニ弁当やカップ麺の容器など、かさばるが軽いものが多い。
一度に済ますために両手に3つずつ袋をつかみ、一気に階段を下りてゴミ収集所に向かう。ゴミ収集所は僕の部屋から見えている公園の手前だ。
そこには既にゴミ袋が置かれており、朝を待たずしてかなりいっぱいになっていた。
えっちら、おっちら、運んでいくと、ゴミの山にかぶせられたカラス除けのネットの上に、何か白っぽい大きなものが載っている事に気づいた。
(またルール無視の迷惑な奴が粗大ごみでも放り出していったのか。)とも思ったが、近づいていくにしたがってその正体がはっきり見えてきて・・・
どさっ!
僕は両手のゴミ袋を取り落として呆然と立ちすくんだ。
人間だ。 ゴミ山の上に人が倒れている。
慌てて近づいてみると、それは体にぴったりした白い服を身に着けた金髪の若い女性だった。
「あの・・・もしもし・・・」
覗き込みながらおそるおそる声をかけてみる。そして、その女性の表情に気づいて思わず息をのんだ。目を見開き、口を小さく開けたまま、その表情は凍り付いていた。
「ひぃ!。し・・・死んでる・・・。」
僕は自分でもよくわからないうちに尻餅をついていた。体が震えて思うように動かない。鼓動が激しくなり息が荒くなる。この後、どう対応したものか、全く考えがまとまらない。
そのままどのくらい時間が経過しただろうか。しばらく座り込んでいる内に、だんだんと冷静さが戻ってきた。ともかくもう少し状況を把握しようと思い立ち、改めて四つん這いのままじりじりと死体に近づいていく。ごくりとつばを飲み込み、慎重に様子を観察する。
それは見れば見るほど奇妙ないでたちだ。
白いレオタードのような身体にぴったりした服。胸元には大きな赤いリボン。髪は金髪で、見開いた瞳は青い。外国人だろうか。かなりの美少女だった。
奇妙な形の耳当てをしている。それは僕がお気に入りのゲームキャラであるロボット少女を連想させた。
ロボット少女という発想が湧くと、その死体はなんとなく別の見え方をしてきた。肩や脚の関節部に目を止め、思わず首を傾げる。接合部が金属的な造形となっている。
見ればレオタードの右わき腹部分が裂けていて、そこからも皮膚ではなく金属の表面が見えていた。
「え・・・人形?」
試しに金属部分に触れてみる。人間の体ではなかった。
それは恐ろしく精巧にできた等身大の人形のようだった。
(なんだ・・・びっくりした。)
僕は安堵のあまり体の力が抜け、めまいがした。気づけば額が冷や汗でびっしょり濡れている。
思わず膝をつくと、目の前には凍り付いたように固まった、かつて見たことがないほど美しい顔があった。
こんなものがなぜ捨てられたのだろう。かなり手がかかっているはずだ。見れば見るほど精巧にできている。顔はどう見ても人間にしか見えない。何かのゲームか、アニメのキャラなのだろうか。それともアートな芸術作品なんだろうか。
ガレージキットの展示会などを見に行ったこともあるが、ここまで人間の顔をリアルに再現したものは見たことが無い。
あまりの完成度と美しさに魅入られてしまい、しばらく目が離せずにいた。このままゴミと一緒に放置して立ち去るのはあまりに惜しい。誰だか知らないが、廃棄するというなら僕が欲しいくらいだ。
しばし迷った挙句、思い切って部屋に持ち帰ることにした。
ともかく抱えて起こしてみる。顔は硬直しているが関節は動かせるようだ。その体は奇妙に生暖かく、なんだか人間の体温を連想してしまう。少し気が引けるが、これは等身大のフィギュアに過ぎないのだ。
なんとか起こして背負うとしたが・・・
「お・・・重・・・。」
人間の体よりはるかに重い。金属を使用しているから当たり前なのだろうが、これはかなり厳しい。
それでもずるずると引きずりつつ、少しずつ少しずつ前に進む。過酷な労働でヘトヘトになのに、このさらなる苦行はいったいなんなのだろうか。
アパートまで戻り、エレベーターを使用して2階に上げる。こんなにエレベーターをありがたいと思ったことは無かった。
幸い深夜ということもあって、部屋にたどり着くまで誰にも出会わなかった。こんなところを見られたら、怪しいどころの騒ぎではない。
かなりの時間をかけて、なんとか部屋に運び込む。部屋に入ると、全身汗まみれのまま万年床にひっくり返って動けなくなってしまった。そのまましばらく息を整える。下手するとこのまま眠りに落ちてしましそうだ。だが美少女人形のことがどうしても頭から離れない。それだけを支えになんとか起き上がると、冷蔵庫からビールを一本取りだしてグイッとあおる。その冷たいノド越しで活力を取り戻し、人形のところへ戻って、改めてしげしげと観察した。
明るいところで見ると、改めて驚くほど繊細な造形だった。
顔は表情が固まっていることを除けば生きている人間にしか見えない。いや、むしろ人間離れして美しい顔だった。うっとりと見惚れる。恥ずかしい話だったが、その時 僕はこの人形にすっかり一目ぼれしてしまっていたのだった。
そっと手を伸ばして触れてみると、頬は本物の人間のようにみずみずしく柔らかかった。そして今更ながらに、右側の頬が何かで黒く汚れていることに気づいた。
座卓に置かれたPCの横からウェットティッシュを取り、顔の汚れを拭ってみると、案外簡単にきれいにすることができた。
こんなリアルな造形ができるのに、なぜ関節部が金属なのだろうか。そもそも何の為に造ったものなのか、その使用目的もわからない。
(まさか・・・性交用のラブドールとかじゃないよな。)
もしそうなら、体の方をもっと女性的にやわらかく作るはずだ。
それでも、局部がどういう造形になっているのか興味が湧いてきて、脚の間接部から股間の造形を覗き込む。人に見られたら完全に変態の姿だった。
(一度、服を剥いで造形を確認してみるか・・・)
這いつくばって股間を覗き込んでいると、不意に人形の体がピクリと動いた気がした。
「え・・・?」
驚いて体を起こそうとすると、その目の前に人形少女の腕が突き出され、「動くと撃ちます。」という厳しい警告が聞こえた。
思わず体が固まる。
目の前に突き出された指先には、銃口のように穴が開いている。
(撃つ・・・え・・・え・・・まさか・・・)
「あなたは何者で、ここはどこなのですか?」
冷静な女性の声が尋ねてきた。
(誰が?・・・え?・・・この人形がしゃべってるの?)
訳も分からずパニックになったが、銃口が恐ろしくて身動きができない。
声に感情が全くこもっておらず、それがより一層怖い。だって普通、女の子が見知らぬ男に股間を覗き込まれたら、とてもこんな冷静な声は出せないんじゃないだろうか。
「答えなければ・・・撃つであります。」
(これは間違いなく撃たれる)と思って、全身からまたまた冷や汗が噴き出してきた。きっと、この娘は撃つときに躊躇しないだろう。だって彼女は人間じゃないのだから・・・
「まままま・・・待っ、待ってくれ・・・。ぼ・ぼ・僕は怪しいもんじゃない。・・・へ・変なことはするつもりはないんだ。」
僕は取り乱して情けない声でひたすら命乞いをした。
「たたた・・・ただ、興味本位で股間を覗いてただけで・・・。」
充分過ぎるほど「変なこと」だった。変態と言われても反論できない行為だ。変態だとやっぱり撃たれるのかもしれない。撃たれてゴミ収拾所に捨てられるのかもしれない。
「い・・・いや、違うんだ。性的な意味じゃなくて・・・その・・・ぞ、造形技術に興味があったんだ。ぼぼぼ、僕はフィギュアとかの造形に興味があって・・・顔が、あ・・・あんまり美しくて、きれいにできていたもんだから、か・体の方はどんなふうに造っているのかと、興味が出てきて・・・つまり、それは学術的興味というか、技術屋の使命感というか・・・さ・細部の造作のチェックをすることが重要と考えて・・・なんていうか・・・。」
自分でももう何を言っているのかわからないながらも、言葉を切った瞬間に撃たれるような気がして止められなかった。
しかしそんな僕の言葉を彼女は容赦なく断ち切って、立て続けに質問してきた。
「あなたは研究所の方ではありませんね。」
「は・はひ!・・・研究所とか、そういう関連ではなくて、・・・ぼ・僕は小さなゲーム会社の、た・ただのプログラマーだ。」
「ここはどこですか?」
「僕の家だ。」
「なぜ私はここにいるのでありますか。」
「ご・・・ゴミ捨て場に倒れていたんだ。動かないから・・・ただの人形だと思って・・・人間の体じゃなかったし・・・その興味本位で、いや人命救助・・・じゃなくて環境保護の観点から・・・ほんの出来心で拾って来たんだ。」
「私はなぜゴミ捨て場に・・・」
「し・・・知らない。それ・・それは知らない。僕じゃない・・・僕は自分の家のゴミを捨てに行っただけだ。ゴミが出せなくてずっと溜まってたから・・・。仕事が忙しくて・・・出せなかったんだ・・・もう少し溜めておけば・・・ずっと溜めたまんまにしておけばよかった・・・ごめんなさい。ゴミを出そうとしてごめんなさい・・・撃たないで・・・。」
最後はもう言葉にならなくて、すすり泣きになってしまった。
僕のその有り様を見て、害がないと認められたのか、情けない姿にあきれたのか、すっと彼女の手が下ろされた。
後書き
第1話(邂逅編とでも言いましょうか)の終了です。なるべく主人公を情けない奴にしたかったのですが、情けない奴にするほど脱線して余計な描写が増え、話がなかなか進まなくなるので、文字数が必要だということがわかりました。結果的にいつもより少し長い話になりそうです。一方、アイギスは比較的初期の感情に乏しい状態です。この二人で話がちゃんと進むのか、甚だ不安です。
尚、ゲーム会社の労働実態についてはほとんど想像です。ペルソナ3の舞台は2009年です。13年前なら、おそらく今よりももっとひどい状況だったんじゃないかなあ、と思って勝手に書いていますのでご了承ください。
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