Fate/WizarDragonknight
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煉獄
「セイバー!? なぜここに!?」
トレギアの仮面越しに、彼の驚き様が見て取れる。
可奈美の前に立つ煉獄は、ポキポキと肩を鳴らす。
「うむ! 普通に、樹の根らしきところから来た!」
「違う! どうやってブルトンから脱出できたと言っている!」
ブルトン。
可奈美と美炎が突入した後、トレギアが召喚した敵だろうか。
だがトレギアは、堂々と言い放った。
「呼吸を上手く使えればあらゆる状況に適応できる! あのような摩訶不思議なものでも、例外ではない!」
「何をデタラメな……!」
トレギアが首を掻きむしる。
「地球人ごときが、ブルトンの異空間から逃げられるはずがない!」
「だが! 実際に俺は脱出したのだ!」
煉獄は堂々と言い切った。
すると、トレギアは呪った声を上げた。
「全く、君は本当に私のパズルを滅茶苦茶にしてくれる……! そこまでの私の動きから外れるのは許されないんだよ……!」
「それはどの話かな? 今か? それとも仲間にならないと言ったことかな?」
「両方だ……! やれ!」
「何? 斬っていいの?」
目に光のない美炎が、煉獄へ加州清光を振るう。それを受け止めると、より高い音が地下に響く。
「煉獄さん!」
「案ずるな! それより君は、あの奇怪な蛇の相手をしてくれ!」
煉獄が美炎の剣を受け止めながら指示した。
「で、でも美炎ちゃんが!」
「安心しろ! 安桜少女は、俺が食い止めて見せる!」
煉獄は美炎の剣を受けながら、可奈美に指示した。
可奈美は頷いて、ヤマタノオロチへ向かっていく。だが。
「火之炫毘古!」
美炎のその言葉に、可奈美の足は止まった。
振り返れば、美炎の猛烈な技を放っていた。
それは、煉獄の剣さえも上回り、大きな爆発を引き起こした。そのまま地面を転がる煉獄は、即座に起き上がる。
「なるほど! これは凄い!」
「煉獄さん大丈夫?」
「問題ない! が、思ったよりも安桜少女の洗脳が強い!」
「洗脳じゃないさ」
トレギアが補足する。
「私は、彼女の体内にあるものを刺激しただけだ。この狂暴性は、安桜美炎本来のものだよ」
「これが、美炎ちゃんだって言いたいの!?」
「ああ?」
トレギアは首を傾げる。
「そうだよ。だから言ってるじゃないか。私はただ、彼女の体内の怪物を刺激しただけだ。もともと善性の怪物だったら、そもそも彼女が暴走したりはしないよ」
トレギアは、まだ攻撃を続けるブライのラプラスソードを避けながら言った。やがて彼はブライの腕を抑え、首を締め上げる。
「ぐっ……!」
「今話しているんだ。少し落ち着いてくれないかなあ?」
トレギアはブライの背中を蹴り飛ばし、両手を顔のすぐ傍へ構える。
「キサマ……っ!」
ブライは振り返りざま、紫の拳を放とうとする。だが、すでにトレラアルティガイザーの準備を終えたトレギアの方が、攻撃が速かった。
「さよなら」
紫の雷はそのままブライを壁まで突き飛ばし、爆発させる。やがて彼の姿は、埋もれた瓦礫の中からはみ出るラプラスソードと腕だけになってしまった。
「ソロ……」
「こっちを見てよ! 可奈美!」
気を取られた可奈美へ、美炎の炎が飛ばされる。可奈美は慌ててジャンプして、その炎を避けた。
「美炎ちゃん……!」
美炎は煉獄と距離を取りながら、可奈美を睨んでいる。彼女を無視してヤマタノオロチと戦うのは無理だろうと感じた。
「ふむ……松菜青年!」
可奈美の様子を見た煉獄は、一人でヤマタノオロチと戦うウィザードへ呼びかける。
ウィザードはいつの間にか水から風になり、ヤマタノオロチの頭上で風の銃弾を打ち鳴らしている。
「何!?」
「すまないが、しばらくヤマタノオロチの相手を頼みたい! どうやら安桜少女を元に戻すには、少し骨が折れそうだ!」
「いいけど、なるべく早くこっちも手伝って! 一対八って結構キツイ!」
『エクステンド プリーズ』
叫んだウィザードが、その両手を伸縮させる。緑の回転とともに、接近してきたヤマタノオロチの顔を切り離している。
だが、ウィザードのことを見てもいられない。
瞬時に可奈美との距離を詰めた美炎へ、可奈美は慌てて応戦した。
だが、さらにトレギアが美炎へ加勢してくる。長い爪を活かした攻撃で、剣が主役の戦場でも遠慮なく混じっていく。
「太阿之剣!」
「不知火!」
可奈美と煉獄の刃が、同時に円状に切り払う。互いを中心に描いた円は、トレギア、美炎を切り払う。
だが、即座に美炎の攻撃は再開される。それに対し、煉獄の剣が、その炎を飛ばすことで、だんだんと相打ちに持ち込んでいった。
だが、その中で特に厄介なのがトレギア。彼のもつ遠距離攻撃が、可奈美と煉獄の足を妨害していく。
「トレギア……! 煉獄さん! 美炎ちゃんをお願い!」
可奈美はそう言うが速いが、煉獄の了承を待たずにトレギアへ刃先を向ける。
一方、トレギアも挑んでくる可奈美に対して爪で応戦。
「おやおや? 随分と安桜美炎に遠慮がちじゃないか。刀使とは、荒魂を斬って祓うものだろう?」
「美炎ちゃんは友達だよ! だから、絶対に助ける!」
「なら、あの荒魂の少女は見捨てるわけだ。まあ、人間じゃないしね」
「人だとか人じゃないとか、そんなもの関係ない! 私は、守りたいものを全部守る! 人間でも荒魂でも!」
___それがきっと、姫和ちゃんにも繋がる___
「だああああああああ!」
「何っ!?」
可奈美の叫び声。
深紅の刃が、とうとうトレギアの体を捉えた。刃が閃き、その肉体が地面に撃ち落される。
「ちい……」
舌打ちするトレギア。
だが彼には、すでに煉獄が迫っていた。
「炎の呼吸 玖ノ型 奥義」
「セイバー……!」
だが、それに対してトレギアの手には蒼い雷が宿った。
トレラアルティガイザー。だがそれは、煉獄の頭を掠め、そのままマグマを暴発させた。
「何!?」
「煉獄!」
発生した爆発のエネルギー。
煉獄の頭上で龍の咆哮のごとく駆け上がっていくそれは、やがて煉獄の体内を駆け巡り、日輪刀を経由してトレギアの体内を焼き尽くす。
「ぐあっ……!? こ、これは……!?」
だんだんと、トレギアの声に呻きが混じっていく。
すると、トレギアの体より、だんだん黄色の玉が飛び出してきた。
中心を貫く線から、それはあたかも目玉のようにも見える。
そして、その目玉を中心に、顔が。そして青い体が浮き彫りになっていく。
「あれは……」
「グリムド……!」
可奈美の言葉を、トレギアが引き継ぐ。
それは、トレギアが体内に封じている怪物、グリムド。ガタノゾーアと戦う時の煉獄へ、トレギアが見せつけた自らの力の根源。
グリムドが顔を上げて唸り声を上げている。それを見るトレギアが、明らかに動揺していた。
「貴様……まさか……!?」
「うむ! どうやら理解したようだな!」
煉獄はハッキリと告げる。
「俺の炎の力を、君の体内のみに集中させ、爆発させた。君の中にいる物の怪も、どうやら内部の爆発からは逃れられないようだ」
「なぜ……」
「君が俺に教えてくれた。強固な防壁は、時に逃れられない牢獄となることを」
「何っ……!」
「俺の狙いは……! 君の体内にある、物の怪だ!」
「グリムド……っ!」
煉獄の炎が、グリムドの体を焼き尽くしていく。
やがて、グリムドの姿は炎に包まれ、やがて崩れ落ちていく。
狭い足場から転げ落ちていく邪面魔獣は、爆発とともに溶岩の中に消えていった。
「がああああああああああああっ!」
トレギアが悲鳴とともに吹き飛ぶ。岩石を破壊しながら倒れたトレギアの顔からは、蒼い仮面が零れ落ちていった。
「あれは……!」
零れ落ちた仮面。すると、トレギアから闇色が欠け落ちていく。
そして、残ったトレギアの姿。どす黒い蒼は、綺麗な水色になっている。グローブや突き出た爪などはなくなり、むしろ光の化身といっても過言ではない。
「あ……あああああああっ!」
トレギアは自らの顔を手で覆いながら、転がる。
「見るな! 今の私を……見るなああああああああっ!」
「トレギア……あれが、トレギアの素顔なの……? 何か、弱そう……?」
その姿に、可奈美は思わずそんな感想を漏らす。どす黒い蒼ではなく、清廉な水色になったトレギアは、可奈美の顔を認識し、即座に叫んだ。
「そんな目で、私を見るなああああああああ!」
トレギアの動き。
両手を顔の傍に構えるそれは、トレラアルティガイザーを思わせる。だが、両手に走らせた雷光。その後、十字に組まれた腕より、光線が発射される。
可奈美よりも先に煉獄に届いてしまう。可奈美は迅位を駆使して煉獄の前に割り込んだ。
「迅位斬!」
速度を極めた可奈美の斬撃が、そのままトレギアの光線を叩き落とす。トレラアルティガイザーと比べて威力不足を感じながら、可奈美はそのままトレギアへ迫っていく。
「もう一発!」
そのまま繰り出された迅位斬。それは、トレギアの体を切り裂き、大きく火花を散らした。
「ぐあっ!」
あまりにもあっさり。
これまでの彼の来歴から考えると、信じられないほどに簡単に。
トレギアは地面を転がり、そのまま大の字で壁に張り付いた。
「嘘……? ここまで弱体化しているの?」
「貴様……!」
トレギアはふらつきながら、落としたアイマスクを再び顔に装着させる。見慣れたエフェクトとともにトレギアの姿が闇色に染まっていくが、心なしかこれまで見てきたトレギアよりも弱々しく見える。
「トレラ……アルティガイザー!」
苦しそうな声色のそれ。
これまで何度も聖杯戦争の参加者を苦しめてきたそれだが可奈美の太阿之剣に簡単に両断された。
その事実を認識したトレギアは、自らの両手を見下ろす。
「な、何だこれは……!?」
「炎の呼吸 壱之型 不知火!」
トレギアが茫然としている間にも、煉獄の技が発動する。彼の神速ともいえる早業のそれは、トレギアからすれば慌てて跳びあがらなければならないものだった。
だが、紅の一閃を完全に避け切ることは適わず、その右腕に大きな切り傷を作った。
「がああああああああっ! おのれセイバー!」
叫びながら、トレギアはどんどん戦場を離れていく。彼は、その赤い眼__その仮面の下は、真逆の青い眼だと分かってしまった__で煉獄を、そして可奈美を睨む。
「許さんぞ! 煉獄杏寿郎! 衛藤可奈美ぃぃぃぃ!」
トレギアはそう叫び。
その姿は、蒼い闇の中に消えていった。
「……」
もう、トレギアの気配も感じない。
最凶の敵がいなくなったことで、可奈美は大きく息を吐いた。
だが、即座に可奈美は千鳥を縦にする。直後、美炎の加州清光が、彼女の体重を乗せた斬撃で攻めてきた。
「あれ? あの人、いなくなっちゃったの?」
美炎は可奈美越しに周囲を見渡す。
だが、今可奈美の背後より美炎へ届くのは、トレギアの動きではなく煉獄の刃。
炎を纏った日輪刀が、千鳥より加州清光の相手を受け持つ。
「安桜少女! 目を覚ませ!」
「何言ってるの? わたしは正気だよ?」
それぞれが炎をまき散らしながら、赤の世界により彩りを加えていく。
「煉獄さん! 私も加勢します!」
煉獄が切り離されたタイミングで、可奈美も割り込む。美炎や煉獄のような攻撃性能がない可奈美が秀でるのは、その素早さ。可奈美の千鳥が、美炎の体を包む漆黒の鎧を次々と傷つけていく。
「いいよ! 可奈美! もっと戦おう! もっと、もっと激しく!」
美炎の兜。その下から覗く目が、深紅の尾を引く。可奈美もそれに対応し、迅位を用いて斬り合う。
「うむ! ならば、俺もその速度に追いつこう!」
さらに、煉獄もまたその速度に追いつく。
やがて三人の剣は、音速にも匹敵し、やがて見る者にとっては無数の光のみが輝いているようにもなっていった。
「火之炫毘古!」
美炎の漆黒の刃が、可奈美と煉獄を襲う。
一撃だけでも防御体勢を強いられる攻撃に、可奈美は大きく吹き飛ばされる。その高威力は、可奈美の体に大ダメージを与え、写シを剥がし、生身に戻してしまった。
煉獄も、数発は防御して見せたが、やがてその攻撃を顔に受けた。
「っ!」
「煉獄さん!」
嫌な音が聞こえた。
美炎の刃が、煉獄の右目を潰したのだ。彼の右目は視界を失い、血が顔の大部分を塗りつぶしている。
だが、煉獄は倒れない。美炎の剣を捌きながら、何度も打ち合っている。
やがて美炎は、剣先より炎を飛ばし、可奈美、煉獄を引き離す。そのまま加州清光の剣先を左手で撫で、宣言した。
「これで終わらせる!」
美炎は同時に跳びあがる。
頭上から凄まじい速度で降下してくる美炎。その刃が、可奈美の命を奪おうと迫る。
だが。
「煉獄さん!?」
横から割り込んだ煉獄が、可奈美を突き飛ばす。
そしてそれは、彼が美炎の攻撃を生身で受けることを意味していた。
爆発とともに、地下空間に爆発が巻き起こされる。
「煉獄さん!」
爆炎に向け、可奈美は叫んだ。
やがて爆炎が晴れ、その内側が明らかになっていくと。
「違う。そうじゃない……」
静かな声色でそう言う煉獄の姿に、可奈美は息を呑んだ。
黒い炎を纏った刃の突きは、煉獄の右胸を貫通。
「っ‼」
可奈美は口を抑える。彼の足元の赤。
それは、マグマとも炎とも全く異なる。もっと身近な赤。
「煉獄さん……血が……!」
「気にするな!」
微かに声の張りがないように感じる。
だが、煉獄はそれを振り切るように、次の行動に移っていた。
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」
煉獄の声とともに、彼の体から炎が溢れ出す。さらに煉獄は、美炎を逃さないよう、美炎の両腕を掴む。
「な、何これ!?」
「君の体内に物の怪がいるならば、今はそれを封印しよう! 炎の呼吸、その真髄を! 今こそ見せるとき!」
「放して! 放してよ!」
だが、美炎の訴えを、煉獄は聞くことはない。
そして。
「炎の呼吸 奥義」
そのまま煉獄は、日輪刀で加州清光の動きを封じながら。
美炎の体を抱き寄せ。
「煉獄!」
再び、その技を発動させた。
彼が持つ最大火力のそれは、日輪刀を中心に発生。炎の渦を作り上げていく。
「放して! 放してったら!」
だが、煉獄は放さない。そのまま彼の日輪刀から放たれた炎は、煉獄ごと美炎を焼き尽くしていく。
そして。
漆黒の鎧兜を纏った美炎。その、兜の部分が、焼き切れた。
「……え?」
髪に相変わらず荒魂の目が埋め込まれ、姿も荒魂に乗っ取られたまま。
だが。
その瞳は、可奈美が良く知る美炎のものと相違ない。
そして。
「安桜少女……大丈夫か?」
「煉獄さん……?」
「煉獄さん!」
可奈美は思わず叫ぶ。
加州清光を抜き取った煉獄が、力なく体を傾けたのだった。
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