FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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脱出劇
前書き
地元がまたしてもコロナ感染者数過去最多を更新してしまいました。
第三者side
船の甲板で風に打たれている赤髪の青年と黒装束の人物。彼らは目的を終えたこととある情報が入ったことで自分たちの国への帰路へと着いていた。
「しっかし、シリルたちが天使と遭遇してるとは予定外だな」
「その割には楽しそうだな」
危機的状況にも関わらずそれを嬉々として話すカミューニ。なぜ彼がそのような反応を見せているかが彼には理解できなかった。
「そりゃあ楽しくもなるさ・・・まさかここまで読みが外れるとはな」
彼が嬉々としているのは本当の感情を押し殺すためのブラフに過ぎない。本心は苛立ちと不安で押し潰されそうだが、それを言っても意味がないことを彼は理解しているのだ。
「ならなぜ俺たちが向かわない?」
「何日かかると思ってんだよ!!着く頃にはあいつら死んでるわ!!」
船での移動は莫大な時間を擁する。そのため彼らが向かおうにも間に合うわけがないため、仕方なく予定通りの帰路についているというわけだ。
「あいつに連れていってもらえばよかっただろう?」
「それをやると後々面倒なことになるからな。今はその時じゃない」
対策はあったがあえて今回はそれをしなかった。しかし、それでは手遅れになることすら容易に想像できる。
「今のあいつらでは勝てないんじゃなかったのか?」
「あぁ。それなのに今回の遭遇は誤算だ」
レオンの不調の件は彼の耳にも当然ながら入っている。だからこそ今後のためとシリルと共に行動できるように仕向けたにも関わらず、それを無にされようとしている。
「どうするつもりだ?」
「時間稼ぎにしかならないが、隣国に頼れそうな三人組がいるんだとよ」
「三人組?」
「あぁ、ベストではないがベターな三人だ」
どの三人のことか興味がないのか、彼はそれ以上追求してくることはない。だが、カミューニは不満気に言葉を漏らす。
「できればラクサスかカグラ辺りに行ってほしかったけどな」
「そんな強かったか?」
「ラクサスなら雷神衆、カグラならミリアーナとソフィアが付いてくるからな」
「結局数の問題か」
「仕方ねぇだろ!!今対抗できるとすれば俺とお前くらいのもんなんだから!!」
「お前そんなに強かったか?」
「俺だって強くなってんだよ!!」
カッとした表情で彼を睨み付けるカミューニ。それに黒装束の男は大した反応を示さない。
「その三人がいれば倒せるのか?」
「いや、そりゃあ無理だろ」
ケロッと答える彼に目を細める。その目に殺意を感じたのか、カミューニは慌てて彼を制止する。
「倒せないのは事実だ。だが、あいつらならシリルたちを連れて一時待避はできる」
「待避して解決できる問題でもないだろう」
「それがそうでもないんだよ」
彼が何を言いたいのかわからず首をかしげる男。カミューニはようやく話の主導権を握れたことに満足しているのか、笑みを浮かべながら話し始める。
「一度体勢を立て直せればレオンが本来の力を取り戻す可能性は十分にある。あいつが戦えるなら、勝利は必然だ」
フィオーレ最強の魔導士といって差し支えないレオン。彼ならば今あらゆるところで傍若無人な振る舞いをしている天使たちを抑えられる。そう考えている彼は自信満々だった。
「確かにあいつの力は大したものだ。あの年齢であれだけの力・・・持って生まれたものの違いを感じさせる」
だが、と続ける男。まさかの言葉が耳に入ったため、カミューニは目を見開いてそちらを向く。
「あいつが本来の力を取り戻しても、その天使には勝てんかもしれん」
「そんなことあるかよ。あいつの力はお前もよくわかってるだろ?」
彼の言葉に納得がいかないカミューニは食って掛かる。それを男は制すると、自らの意見を述べる。
「あいつは優れた力を持っている。しかし、それはお前と共に天使の調査に動いている四天王たちよりもか?」
「当たり前だ、あんな老いぼれ共と一緒にするな」
仮に聞かれていればどうなるかわからない発言を平然とするカミューニ。しかしそれは至極全うな答えなのだ。もし本人たちに同じ問いをしても、似たような回答が返ってくることは容易に想像できる。
「四天王たちよりも・・・どの程度上の力なのだ?」
「!!」
そこまできてようやく彼の言いたいことに気が付いた。そのことに全く気が付いていなかった彼に対し、男は首を振りながらタメ息をつく。
「あいつが強いのはわかるが、今回の奴らはイシュガルの最強と言われている連中でも歯が立たない。ましてやまともなダメージを与えた奴も一人だけだったんじゃないのか?」
「お前・・・盗み聞きしてやがったな」
評議院しか知らないはずの情報を知っていることに驚かされる。そして彼の伝えたいことがわかってきたカミューニは、顎に手を当て頭を悩ませる。
「天使たちは俺たちの誰よりも強い。例えレオンでも太刀打ちできるかわからないかもしれないな」
「そうだ。それに今向かってる三人が仮に間に合ったと仮定して、奴らを逃がせるだけの力があるのか?」
一時撤退をするにしてもそれは相手に隙がある場合にしかできない。ただでさえも強い相手からそれを生み出すためには、誰かが足止めしなければならないのだが、それをできる戦力がいないと彼は考えていた。
「いや、それは大丈夫だよ」
彼のそんな不安とカミューニはあっさり否定する。
「その場から脱出するのに適した魔法を使える奴が一人・・・いや、二人いるし」
「だからその魔法をつかって逃げるまでの時間をどうするのか聞いている」
「もう一人いるだろ?そいつがなんとかできるよ」
「そんなに強い奴なのか」
「いや、強くはねぇ」
会話が噛み合っているのか噛み合っていないのかわからず頭を抱える男。カミューニはそんな彼にある質問を叩き込んだ。
「お前って恋したことある?」
「何を藪から棒に・・・」
「いいから」
「いや・・・そういった感情を持ったことはないな」
予想通りの回答だったことでカミューニはニヤリと笑う。なぜ今のタイミングでこんな質問が来たのかわからなかった彼はそれについて問いかけた。
「それが今の話と何の関係がある」
「今回ばかりは大ありなんだ。いいか・・・」
すると突然何かを言いかけて咳き込むカミューニ。それは笑いをこらえようとした結果に起きたものに見えた男は不思議そうな顔をしながらも、茶化すことなく彼が落ち着くのを待っている。
数回の深呼吸の後ようやく落ち着いたカミューニ。そんな彼は真剣な表情で答えた。
「初恋ってのは誰でも忘れられないんだからな」
シリルside
「レオン!!」
致命傷になりかねない攻撃を受けた青年の元へと駆け出すシェリア。それを見てなのか、天使は彼の体から手を引き抜く。
「ぐっ・・・くそっ・・・」
腹部から手刀が抜けたと同時にその場にうずくまるレオン。患部からは止めどなく血液が流れ出ている。
「うまく急所を外したようだね。なかなかの力を見せてくれる」
そういって彼はこちらへと向かってくる。トドメを刺しに来たはずだったのにそれが叶わなかったことなど気にしていないようで、いまだに立ち上がれずにいる俺の前へと仁王立ちした。
「やらせません!!」
「待って、ウェンディ」
動けない俺を守ろうと立ち塞がったウェンディだったけど、それを制する。まだ少しふらつくけど、立ち上がることはできるみたいだ。
「まだやるつもりかい?これ以上手を煩わせないでほしいんだが・・・」
「いや・・・」
戦おうと思えばそれをすることはできる。しかし、俺の視線に入る血まみれの青年とそれを治療する少女。それを見たことにより、俺の考えはあるものへと息つく。
「確認だけど、俺が付いていけばみんなには手を出さないんだよね?」
「シリル!?」
俺が言いたいことがわかったのであろうウェンディが声を張り上げるが、それを手で制して話を続ける。天使は自分の目的を果たせそうになったからか、表情が和らいでいた。
「もちろん。それに、他の世界の天使たちもここには来ないように交渉する」
「・・・ごめん、ウェンディ」
あえて彼女の顔は見ない。というより見れない。見てしまったら今の決心が揺らいでしまいそうで俺は彼女に背を向けたままでいる。
「待ちなさいよ!!シリル!!」
「何言ってるの~!?」
言葉を失っているウェンディとその後ろからずっと一緒にいた友の声が聞こえてくる。その声で心が揺れるが、唇を噛み何とか正気を保つ。
「さぁ、シリル。行こうじゃないか」
右手を差し出す天使。この手を取ればみんなを守れる。危険な状態ではあるけど、レオンもシェリアとウェンディが治癒すれば大丈夫なはず・・・みんなの命が守れるなら、自分が犠牲になることくらい小さなことじゃないか。
そう自分に言い聞かせ彼の手を取ろうと手を伸ばす。その手を取れば全てが解決。そう思いながら手を取ろうとした瞬間・・・
「!!」
その間に割って入るように謎の空間が現れる。
「なんだ?」
それを見て俺も天使も距離を取るように後方へと飛ぶ。離れながらその空間を見ていると、中から腕が伸びてきて・・・
「んっ!!」
天使の顔をガッチリと掴む。
その腕の主は謎の空間から姿を現すとホールドした相手をそのまま押し出すように体当たりをする。
「皆、大丈夫か?」
黒いマントを身に纏った青年が壁まで天使を押し出すと、遅れてチャイナ服を纏った、髪の毛を二つのお団子に纏めている女性が現れ、こちらに視線を向ける。
「ローグさん!!」
「ミネルバさん!?」
天使を抑えているのは影竜ことローグさん。そしてこの空間はミネルバさんの絶対領域だったらしい。
「お嬢!!こっちはもうオッケーだ!!」
すると今度は外から聞き慣れた声が聞こえてくる。今の声はグラシアンさんか?なんで彼らがここにいるのかさっぱり頭が回らない。
「わかった!!グラシアン!!こっちに来てくれ!!」
「了解!!」
ミネルバさんの指示を受けたと同時にローグさんの真後ろに再び同じ空間が姿を現す。つまりグラシアンさんはミネルバさんに変化してこの魔法を使っているというわけか。
「なんだい?せっかく君たちのためを思っての行動だと言うのに・・・それを無為にする気かい?」
「俺たちのため?悪いが余計なお世話だ」
ローグさんの手を引き剥がそうとする彼とそれを防ごうと影竜。二人の力は拮抗しているようで、唾是った状態が続いている。
「お前たち!!早くここに入れ!!ここから離れるぞ!!」
「え!?でも・・・」
「いいから!!」
ミネルバさんから手を引かれその空間の中に入る俺たち。その間もローグさんは天使の動きを封じ込めることに力を尽くしている。
「シリルを渡せば君たちは救われる。だがそれが出来ないようなら、お前たちはほどなくして死ぬぞ」
「あいつを渡すくらいなら、そうなっても構わないさ。俺たちはもう誰も失いたくないんだ!!」
アルバレスとの戦いで何人もの仲間の死を見てきた。特に彼は一度三大竜を結成しているうちの二人の死を見ている。それが彼の今の感情に大きく影響しているのかもしれない。
「後悔するぞ?もう次はないかもしれん」
「覚悟の上だ。俺たちは如何なる困難も乗り越える!!俺たちの力でな!!」
やれやれといった表情の天使。彼は自身の顔を掴んでいるローグさんの手を掴む。
「こうなれば実力行使だ、後悔するがいい」
彼が何をしようとしているのかすぐにわかった。ローグさんの腕をへし折ろうとしているのだ。それに彼も気が付いたが、その手を振り払うことが出来ない。
「幻竜の鉄拳!!」
「「!?」」
しかしそれを許すことはない。ローグさんの後ろに空間を作っていたグラシアンさんがそのまま天使の手を殴る。その反動で握力を維持できなかったのか、あっさりと手を離していた。
「お前・・・俺の腕も折るつもりだったろ?」
「そのくらいの気持ちで行かなきゃ無理だったよ」
「確かにそうか」
ローグさんもその反動で手を離していたが、今回はそれが幸いした。そのまま二人揃って後方の空間へと飛び込むように入っていく。二人が入っていくのを確認すると、ミネルバさんも全員が脱出したのを確認して空間を閉じた。
第三者side
荒れ果てた部屋、そこに一人取り残された天使は今まで活動してきた人間の姿へと変身すると、大きなタメ息をつく。
「やれやれ・・・君たちは最大のチャンスを逃してしまったね」
あと少しで果たせた目的。しかし、それを目前にして妨害されたことで彼はフツフツと怒りを感じていた。
「殺すのはいけないかもしれない。なら、こういうのはどうなんだろうな」
窓から空を見上げる。彼はしばらくそのままの姿勢でいると、再び中に戻りニヤリと笑みを溢した。
「五体不満足にするのは、果たしてご法度なのかな?」
後書き
いかがだったでしょうか。
今回はいつもよりも長く書けました!!
ようやく感覚が戻ってきたのかはたまたイメージができるようになったのかはわかりませんがいい感じだったと思います。
当初あった案の中で一番成長率が高いものを今回は選択して進めることにしました。
今回の章は色んなオリキャラの成長が見込めそうです!!
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