| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

癖になる魚

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二章

「食べても死なないわよ」
「毒があるのにかい」
「毒のある部分は食べないわよ」
 そこはというのだ。
「ちゃんとプロの、免許を持っている人が調理をしてね」
「そうしてなんだ」
「毒のある部分は取り除いて」
 そうしてというのだ。
「食べるから」
「だからなんだ」
「ええ、それでね」
 妻は夫にさらに話した。
「何の問題もないから」
「食べていいんだ」
「そうよ」
 こう言うのだった。
「安全よ」
「それは信じられないね」
「あなたはなのね」
「毒があって当たって死ぬのに」
「だから問題ないわよ」
 あくまでこう言う妻だった。
「ここは私を信じてね」
「河豚を食べろっていうんだ」
「自分のパートナーを信じられなくて誰を信じるのよ」
 このことは強い声で言った。
「そうでしょ」
「それは絶対のことだよ」 
 ミシマもワカコに強い声で答えた。
「言うまでもないよ」
「そうでしょ」
「若し信じられないなら離婚すべきだ」
 こうまで言い切った。
「そして僕はそんな気はない」
「なら私の言うこと信じてくれるわね」
「君が僕を信じていることと同じだ」
 こうも言った。
「このことは」
「だったらよ」
「それならだね」
「そう、私を信じて」
 そうしてというのだ。
「河豚を食べましょう、そもそもね」
「そもそも?」
「あなたが河豚を食べて死ぬなら」
 ワカコはミシマに笑って述べた。
「私も死ぬわよ」
「一緒に食べる君もだね」
「同じお鍋同じ包丁で調理したものを食べるのよ」
 それならというのだ。
「だったらね」
「君もだね」
「死ぬわよ、一緒に死ぬなら」
 河豚の毒にあたってというのだ。
「いいでしょ」
「夫婦一緒なら」
「いいでしょ、だったらね」
「これからだね」
「食べるわよ」
「それじゃあね」
 ミシマは遂に強い声で頷いた、こうしてだった。
 二人で共に食べに行った、店は下関でも有名な料亭だった。ワカコはそこに入って夫に笑って話した。
「ここは下関でも特になのよ」
「有名なお店なんだ」
「そうなの」
 まさにというのだ。
「あの伊藤博文さんも入ったね」
「あの日本の初代首相の」
「その人が河豚を食べたお店よ」
「このお店がなんだ」
「ここで河豚を食べて」 
 そうしてというのだ。
「その美味しさに感激して」
「そしてなんだ」
「それまで河豚を食べることは禁じられていたけれど」
「やっぱり毒があるからだね」
「それをね」
 その河豚を食べることを禁じていたことをというのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧