髭を剃れ
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第一章
髭を剃れ
アレクサンドロスはマケドニア王になるとすぐに軍の全ての者に告げた。
「髭を剃れ、以後生やしてはならぬ」
「えっ、剃るのですか」
「髭を」
「そして生やしてはいけないのですか」
「以後は」
「そうだ、私もだ」
その神の様に端整な顔で語った、精悍であり身体も逞しく引き締まっていて香りさえ漂っており事実神の様だ。
「この通りだ」
「髭を剃られていますね」
「そして以後はですか」
「生やされませんか」
「そうされますか」
「そうするのだ、よいな」
こう告げてだった。
王は自ら髭を剃り兵達にもそうさせた、そして軍の誰にも髭を剃らせなかった。するとマケドニア軍の者達は。
髭がない分迫力がなかった、その彼等を見て彼等を警戒しているギリシアの者達はこぞって笑った。
「どうして髭を剃る」
「髭を剃れば迫力がないであろう」
「事実随分迫力がなくなった」
「マケドニア軍は随分強く見えたものだ」
髭がある為にというのだ。
「そうだったがな」
「髭がないので随分弱い」
「そう見えるな」
「今度のマケドニア王はおかしなことをする」
「アリストテレスが師だったというが」
「あの賢者の話は彼の耳に入らなかったらしいな」
「あれではマケドニアは大きくならぬ」
父王フィリッポの時は随分怖かったがというのだ。
「マケドニア恐れるに足らずだな」
「あちらは安心していい」
「では問題はペルシャだ」
かつてギリシアを脅かしたこの国だとさえ言っていた、だが彼の師アリストテレスはマケドニアに赴いて王に語った。
「まさかそうされるとは」
「驚かれていますか」
「はい、私の考えなぞです」
こう王に言うのだった。
「及びもつきません」
「戦いに勝つにはどうすればいいか」
王は自身が子供の頃の師、見事な茶色の髭と髪を生やした理知的な顔立ちの彼のその顔を見て述べた。
「そう考えまして」
「それで、ですね」
「あの様にしました」
「左様ですね」
「そして戦いの先のことも考え」
そうもしてというのだ。
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