Fate/WizarDragonknight
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協力はしない
『封印の場所を見つけたから、先に行ってるね』
可奈美からその連絡を受けてから少し遅れて、ハルトもまたマシンウィンガーを降りた。
「封印の場所ってどこ……?」
湖が特徴のこの公園。ランサー組である響や、もう一人の魔法使いが生活の拠点を置いていたり(来るとき軽く確認してみたが、今はいないようだ)、ハルトが良く曲芸の披露場所に選んだり。
だが今は、様々なサーヴァントとの主戦場になることが多い。
そして今回、訪れた見滝原公園はいつもと大きく異なっていた。
見滝原公園全体が、蒸気で包まれており、視界のほとんどは白く包まれている。そして、その原因。
「湖が……干上がってる……!?」
今人がいないのは、誰もが眠る深夜の時間だからに相違ない。
以前姉妹対決が行われた湖は完全に干上がっており、湖畔だった場所にボートが打ち捨てられている。普段ならば湖底である場所が茶色の地表をむき出しになっており、見慣れている光景と比べれば違和感があった。
『ガルーダ プリーズ』
ハルトが使った指輪から生み出される、お馴染み赤いランナー。空気中に出現したそれが組み合わさっていくのにも意に介さず、ハルトは出来上がった素体に魂たる指輪を入れる。
完成したガルーダが、ハルトの頭上へ飛び上がった。
「ガルーダ。この公園に、荒魂が封印されているみたいなんだ。探すのを手伝って」
だが、ガルーダは首を振って否定する。
最近なかなか自分の言うことを聞いてくれないことに悩みながら、ハルトはまた頼む。
「頼むよ。可奈美ちゃんがピンチなんだ!」
すると、ガルーダは打って変わって大きく頷く。
脱兎のごとく猛スピードで見滝原公園の奥へ進んでいくガルーダを見送りながら、「そんなに可奈美ちゃんがいいなら可奈美ちゃんの子になりなさい」と小声で叫ぶ。
すると。
「あいだっ!」
ガルーダの嘴って、こんなに痛かったんだ。
Uターンしてきたガルーダの嘴が、ハルトの脳天を突き飛ばす。
「が、ガルーダ!? 何で戻って来た……の……?」
振り向けば、その理由は即座に判明した。
数時間前にも見た、灰色の剣。現在に伝わるいかなる剣の形とも異なる、複雑な造形が、ハルトの目の前を横切って地面に突き刺さっていた。
「これって……」
剣はすぐさま電子データとなって消滅する。
そして、そんな代物を持つのは、この時代には一人しかいない。
「ソロ……!」
その名をハルトが口にすると同時に、その姿が目の前に着地する。
「ウィザード……キサマ、なぜここに」
ソロは手にしたラプラスソードをハルトに向ける。
ハルトもまた反射的にコネクトの指輪を使用、ウィザーソードガンの刃先をラプラスソードに合わせる。
「お前、その体……」
剣を合わせながらもハルトはソロの異変に気付く。
やがて、ふらりと揺れ付いたソロは、そのまま倒れ込んだ。
「お、おい!」
思わずソロを抱き留めるハルト。
全身に火傷を負っている彼は、痛みに反しながらもハルトを突き飛ばした。
「……ぐっ……」
「ソロ、お前大丈夫か?」
「触るな……! 戦え!」
ソロはスターキャリアーをハルトに見せつける。
そのまま彼は、その古代の電子端末でムーの紋章を描き出す。
「お前、今は無茶だろ!」
「敵であるキサマには関係ない!」
傷だらけの体なのに、その目は強く輝いている。
その迫力に、ハルトは思わず後ずさった。
「お前……何でそこまで?」
「ムーの敵は、オレの敵だ。だからこそ、オレはムーの誇りにかけて奴を倒す!」
「そうじゃない。お前はどうなんだよ? お前自身がムー人だから、そこまで八岐大蛇に拘ってるわけじゃないだろ?」
だが、一度ふらついたソロは、敵意の眼差しをハルトに向けたまま揺るがない。
「黙れ……今すぐ、オレと戦え!」
「ここで俺と戦っていていいのか!? お前、八岐大蛇を止めたいんだろ!?」
その言葉に、ソロはラプラスソードを下ろした。
「ああ。そうだな。キサマは後回しだ。今は奴だ……!」
「奴……やっぱり、その八岐大蛇ってやつか」
ソロはハルトの前を通過する。
ラプラスソードを放り投げると、その刃は不気味な影を持つ電波生命体、ラプラスとなった。
「ラプラス。門を開けろ」
ソロの命令に、ラプラスは不気味な声で答えた。
干上がった湖の真上に立ち、ラプラスはその両手の刃をクロスさせる。
すると、湖底だったところにムーの紋章が刻まれる。それはやがて、紫の光とともに夜を彩っていく。
「あれが、門?」
ハルトがその疑問を抱くと同時に、ムーの紋章が大きな穴となっていく。
ブラックホールを連想させる大穴が穿かれ、やがてそこには地底へ通じる大穴となった。
「行くぞ。ラプラス」
ソロは吐き捨てて、ラプラスが作り上げた門に足を踏み入れようとする。
だが。
「甘い甘い。チョコレートよりも甘い」
その声に、ハルトとソロは体を固めた。
見滝原公園の深い茂みの中より現れた、白と黒のピエロ。髪の一部に入った青メッシュが特徴の彼は、板チョコをパリッと口にした。
「もう間に合わないよ。すでに封印は半分が剥がされている」
「トレギア!」
その姿に、ハルトは警戒の眼差しを見せる。
「おいおい。この姿の時は、霧崎と呼んでくれと言ったじゃないか」
トレギアの人間の姿である霧崎は、「やれやれ」といった様子で首を振った。
「やあ。ムー人君。ハルト君と仲良くやっているようじゃないか」
「キサマ……っ!」
ソロが怒声を上げると同時に、ラプラスが動く。
瞬間移動にも等しい速度で、ラプラスは霧崎の背後に回り込む。そのまま不気味な電波生命体は霧崎の首を切り落とそうと刃を走らせた。
「おいおい。いきなり危ないじゃないか」
薄気味悪い笑みを浮かべながら、霧崎はトレギアアイでラプラスの刃を受け止める。
「せっかく要石がなくなったんだ。復活はもう確定なんだからさあ、今はもう少し楽しもうよ」
「黙れ!」
その言葉とともに、ソロが蹴りを放つ。
霧崎は体を回転させながらそれを避けた。
「はははっ! 君も中々に短気だねえ」
霧崎はそう言いながら、トレギアアイを取り出す。すでに解放済みの蒼いアイマスクを、霧崎は顔に被せた。
そこから湧いて出る、闇。それは霧崎の姿を黒く染め上げ、その姿を仮面の邪悪、ウルトラマントレギアへ変質させていった。
「電波変換!」
それに合わせて、同じく変身するソロ。
ムーの戦士ブライは出現と同時に、その手にラプラスソードを握り、トレギアへ斬りつける。
だが、両手を腰に合わせてそれを避けるトレギアは、一笑みのもとに一蹴。
「無駄だよ。トレラアルティガイザー」
「いけない……! 変身!」
ハルトは急いで土のウィザードに変身。防御の魔法とともにトレギアの前に立つ。
だが、トレラアルティガイザーはウィザードの防御を貫通し、ウィザードとブライを爆発させる。
変身解除させられたハルトとソロは転がった。
「ぐっ……!」
「キサマ……! 何のつもりだ!」
「トレギアは共通の敵だし、それにお前は色々教えてくれたし。俺も手を貸す」
「ふざけるな……」
ソロはハルトの襟首を掴み上げる。
「オレはオレ以外の全てを否定する。ムー以外の全てはオレの敵だ! キサマも、ランサーも、フェイカーも! オレは、この聖杯戦争の参加者すべてを、オレ一人で倒して、ムーの強さを証明する!」
「今はそっちじゃないだろ!」
ハルトは言い返す。
「俺は敵でもいいし、ムー大陸の敵のままでもいいよ! でも、今アンタが倒すべき敵は俺じゃないでしょ!」
ハルトはソロの腕を払いのけた。
「俺は、この町を守りたいから八岐大蛇を倒したい。アンタは、そもそもムーの敵である八岐大蛇を倒したい。今の俺たちが敵対する理由なんてない!」
「オレは、ムーの全てを一人で倒す。キサマの協力などいらん」
「……協力なんてしない」
ハルトは、そこに冷たく言い切った。
「アンタは、俺の力を……ウィザードの力を利用すればいい。俺はアンタの敵なんだから、敵をうまい具合に利用すればいい」
「……」
「間違えないでよ。今、俺たちは八岐大蛇って大荒魂を止めたい。それが達成できれば、アンタが俺を倒そうとしたって構わないんだから」
「キサマ……」
数秒、ソロは黙っていた。
やがて。
「もういいかな?」
トレギアの声に、ハルトとソロは同時に彼を向く。
「待ちくたびれたよ。私と戦うんだろう?」
「そうだね。行くよ……! ソロ!」
「ッ……勘違いするな。キサマと手を組むのは今回だけだ」
ソロがスターキャリアーを取り出す。その中より現れたラプラスが、ソロの隣に並んだ。
「それでもいいよ。今だけでも……他の誰かを助けるために、お前の力を借りるよ!」
「フン」
ハルトがドライバーオンの指輪を使い、再度ウィザードライバーを出現させる。
『ドライバーオン プリーズ』
月明りに照らされて、鈍く光る銀のベルト。それはやがて、魔法詠唱を始めた。
『シャバドゥビダッチヘンシーン シャバドゥビダッチヘンシーン』
魔法の詠唱が流れる中、ハルトは再びルビーの指輪を左手中指に付ける。そのカバーを下ろし、ルビーの指輪を、ウィザードの顔をモチーフにしたものとなる。
そして、ソロの前に描かれるムーの紋章。
ムー大陸、ラ・ムー。そしてブライ。これまで幾度となく敵として現れたムーの紋章は、今回だけは味方として肩を並べるという事実に、ハルトは少し高揚した。
そして。
「変身!」
「電波変換!」
『フレイム プリーズ ヒー ヒー ヒーヒーヒー』
ハルトとソロの前に現れる、赤い魔法陣。同時に、ハルトとソロの姿を、ムーの紋章とともに紫の柱が包んでいく。
やがて、そこで行われたのは、二人の変身。
指輪の魔法使いウィザード。そして、ムーの戦士、ブライ。
『コネクト プリーズ』
「ラプラス!」
ウィザーソードガンとラプラスソード。
それぞれの武器を手に、トレギアへ向かっていった。
だが。
『その勝負、ちょっと待った!』
横やりの声。
脳内に直接響いた声に、ウィザードは足を止めるのだった。
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