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レーヴァティン

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第二百三十六話 熊鍋その十二

「だからだ」
「河豚を出せたでござるな」
「伊藤博文は当時第一の人だった」
 日本においてだ。
「初代総理であり元老の筆頭だった」
「まさに日本の柱」
「気さくで飾らず屈託がなかったが」
 そうした性格だったがというのだ。
「しかしな」
「権勢があったことは事実で」
「それでだ」
 その為にというのだ。
「毒があるかも知れないものを出す」
「覚悟がいりました」
「しかし出してもな」
「あたらない」
「その自信があったからな」 
 だからこそというのだ。
「出せた」
「そうだったでござるな」
「そうだった、そして伊藤博文さんは食ってだ」
「あたらず」
「出した者達が謝って処罰を覚悟したが」
 ここからが伊藤博文という人物の真骨頂だった、陽気で気さくでかつ器が大きいからこそ愛されたのである。
「それを笑って許した」
「それどころか河豚を食べることを許してくれました」
「下関と博多でな」
「そしてそれから」
「全国に広まってだ」
「今に至ります」
「面白い話でありだ」
 英雄は謙二に今度は熊の脛の肉を食いつつ話した。
「そして俺もだ」
「手本にしたい」
「そうした話だ」
 まさにというのだ。
「この様にな」
「器が大きく」
「そして気さくにだ」
「ありたいものだと」
「しかもその政はな」
 こちらはというと。
「理に適っている」
「あたるものでも毒を除けばいい」
「それで食えるならな」
 それならというのだ。
「それでだ」
「よい」
「そう考えてのことでもあるからな」 
 だからだというのだ。
「俺もだ」
「手本としたいですか」
「あの人をな、立派だ」
「だからこそ」
「そうしたい、それとだ」
 英雄はさらに話した。
「民には本当にな」
「河豚の食べ方について」
「これまで以上にな」
「知ってもらう」
「そうする」 
 ここまで言ってだった。
 英雄はまた食べた、そうして言った。
「やはり美味い」
「左様でござるな」
「だから全て食い」
「そのうえで」
「汁もだ」 
 残ったそれもというのだ。
「飲むし雑炊にするなりうどんも入れてな」
「食しますな」
「そうする、ではだ」
「最後の最後まで」
「食うとしよう、ではそろそろ」 
 英雄はここでまた言った、その言った言葉はというと。
「掌だ」
「それをでござるな」
「食おう」
「それでは」
 智も頷いてそうしてだった。
 掌が来た、皆でそれを食った。それから鍋は最後の最後まで食ったのだった。


第二百三十六話   完


               2021・12・1 
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