樹木子
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第一章
樹木子
出雲の東の方で奇怪な噂が聞こえていた、ある道を通るともうそこから行方を絶ってしまうのだという。
その話を聞いた山中鹿之助はすぐに眉を顰めさせて言った。
「それは捨て置けぬな」
「性質の悪い追剥でしょうか」
「それかあやかしが出ているのでしょうか」
「それはわからぬ、しかし放ってはおけぬ」
自分に話をした家臣達にこう答えた、若々しい顔であり眉は凛々しく髷も整えている。長身で逞しい身体をしている。
その彼がだ、こう言った。
「わしがすぐにその道に行き」
「そうしてですか」
「そのうえで、ですか」
「そこに追剥がいてもあやかしがいてもな」
何者がいてもというのだ。
「必ずな」
「成敗されますか」
「そうされますか」
「必ず」
「うむ」
その様にするというのだ。
「そうする、ではこれよりな」
「進まれますか」
「そうされますか」
「そしてですか」
「ことを収める」
こう言ってだった。
彼はすぐに自身の同志であり盟友であり腹心達でもある尼子十勇士を連れてそのうえでその道に向かった。その道中だった。
十勇士達はこう言った。
「さて、何がおるか」
「その道には」
「そこを通った者はいなくなる」
「以後姿を見なくなる」
「その道に何かあるのは間違いないにしても」
「一体何があるか」
「何がおっても民を害するならば許せぬ」
鹿之助は十勇士達に強い声で言った。
「ならばな」
「左様ですな」
「それではですな」
「そこに何があろうとも」
「我等はですな」
「成敗する、鬼が出ても怨霊が出ても」
それでもというのだ。
「成敗する、若し拙者一人で足りぬなら」
「はい、その時はです」
「我等がおりまする」
「共に尼子家に忠義を尽くし盛り立てようと誓い合いました」
「ならばです」
「我等はです」
「戦いましょう」
何が出てもとだ、十勇士達も誓った。そうして。
その道に来た、見ればそこには一本の大きな木があったが。
その木を見てだ、鹿之助は。
真っ先に槍を手にした、それに十勇士達も続いて言った。
「あの木、わかるな」
「はい、あの木はです」
「間違いなく何かあります」
「妖気を感じます」
「これ以上はないまでに邪な」
「この木に間違いない」
まさにというのだ。
「ここを通った者がいなくなるのは」
「左様ですな」
「あの木何かわかりませぬが」
「間違いなくあやかしです」
「あやかしの木です」
「若しくは怨霊か、しかしな」
鹿之助は槍を構えたまま言った、そしてだった。
真っ先に木に突進した、そのうえで。
槍を突き立てようとしたがここでだった。
木から無数の枝が伸びてきた、無数の枝達は禍々しい形をしており人の手が歪んだ様であった、その枝達が。
鹿之助に襲い掛かってきた、すると。
鹿之助は槍を縦横に振るいそうして枝達を切っていく、そこに十勇士達も来た。
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