お医者さんがいなくなって

「何だかんだ言って」
「支払わない人もいるな」
「そうね、それで特にね」
「村長さんがな」
「百蛇直樹さんね」
　スキンヘッドの強面の還暦程の男である、この村を事実上世襲で動かしている男で村の全てを取り仕切っている。
「あの人がね」
「私達を嫌っているな」
「余所者だから」
「そう思ってな」
「あの、この村でお医者さんが次々に出て行くのって」
「そうらしいな、余所者に冷たくてな」
「村長さんの好き嫌いが特に凄くて」
　それでというのだ。
「追い出されるのね」
「そうみたいだな、けれど村の人も実際にだ」
「診察する人がいないとね」
「どうにもならない」　
　現実としてというのだ。
「だからな」
「あなたも決断したし」
「やっていこう」
「ええ、この村の人の為に」　
　夫婦で話して決意してだった。
　彼等は働いていった、そして土日も祝日もなく働いていったが村人達は冷たいままで特に村長がだった。
　二人に冷たく挨拶もしない、それどころかだった。
「村の人達に言ってるな」
「私達と付き合うなって」
「ものも売ってくれない」
「村のこともお話してくれないわ」
「だから隣町まで行ってものを買ってる」
「村のことは何もわからないわ」
　一切言われないからだ。
「全くね」
「そうだな、しかしな」
「ええ、決めたからにはね」
「最後までやっていかないとね」
　妻も言って二人で何とかだった。
　何をしても冷たくされ村八分にされる中でだった。
　田村は医師としての活動に勤め美里はその彼を妻として支えていった。だが冷たくされるどころかだった。
　嫌がらせまではじまった、家の前にゴミや生きものの死骸が置かれ。
　壁に出て行けと落書きがあった、しかも。
「今日もか」
「そうなの、村の人と擦れ違うとね」
　妻は夫に曇った顔で話した。
「出て行けとか都会に帰れとかね」
「言われたんだな」
「そうなの」
「そうか、実はこの前村長さんに」
　田村も話した。
「余所者はいらないってな」
「あなたも言われたの」
「村のことは全部村の者がやるってな」
　その様にというのだ。
「私も言われたよ」
「そうなの」
「毎日嫌がらせがあって」
「色々言われて」
「感謝して欲しいとは言わないけれど」
「お金を全く払ってくれなくなったから」
　ツケ等と言ってだ。
「生活費もなくなって」
「困ってきたわね」
「これじゃあ生きていけない」　　
　肝心の生活すら出来なくなったというのだ。
「これじゃあな」
「ええ、どうなるのかしら」
　夫婦はいよいよ前途に暗いものを感じだした、嫌がらせはエスカレートしていき自宅でもある診療所の玄関に毎朝ゴミが堆く積まれ。
　石が投げ込まれてガラスが割られ。
　車のタイヤもパンクさせられた、警察に言おうにもだった。
　駐在はいない、それで署に言うと警官は困った顔で田村に話した。
「もうあそこはどうにもならないです」
「警察でもですか」
「あまりに閉鎖的で何かあっても」　
　それでもというのだ。