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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第115話『遅延』

 
『鮮やかに勝利をもぎ取ったのは、【日城中魔術部】三浦選手です!』

「「「わあぁぁぁぁ!!!!」」」


ジョーカーの驚き混じりの実況と共に、熱狂する観客の喝采が会場中を飛び交う。


「勝った……のか?」


その賞賛の中心、フィールドの上で、場外に背中を向けながら肩で息をしている晴登。まだ信じられないが、殴った衝撃で痺れる右手を握りしめて、ゆっくりと勝利を実感する。

怒涛の逆転劇。傍から見れば、そう映って然るべき決着だった。彼は風香の攻撃を全てあしらいつつ、回避を許さない会心の一撃を叩き込んだのだから。


「何なんだ、この力は……」


しかし、晴登が実際にやったことと言えば、勝利が確定した未来をなぞっただけに過ぎない。そこに晴登の実力は半分も関与していなかった。
その目にはもう、さっきみたいに未来を映す風は視えない。どうやら試合が終わったから、なりを潜めてしまったようだ。

未来予知というあまりに強力な力。これが本当に自分の力であるならば、それはとても素晴らしいことだ。
その一方で、卑怯ではないのかと罪悪感もある。相手の奮闘を嘲笑うかのように、予知は淡々と晴登を勝利に導いているのだから。


「それなら、素直に喜べないかも……」


さっきまで枯渇寸前だった魔力もなぜか回復しているし、一体晴登の身に何が起こったというのか。その真相はまだ闇の中である。


「うっ……」


そんな新たな力に葛藤していると、背後から唸り声が聞こえた。振り向くと、地面の上で尻もちをついている風香の姿があった。


「あ! ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか……?!」

「……うん大丈夫よ、怪我はないから。それにこれは勝負なんだから、別に謝らなくてもいいのに」

「いやでも……」

「私が女子だからって手加減しなかった証拠でしょ? 君は間違ってないよ」


そう言って、服についた砂を払いながら風香は笑って流してくれた。
勝負とはいえ、女子に手加減なしの裏拳を叩き込んだことは申し訳なく思っている。しかし気にしすぎてもいけないと思い、晴登はそれ以上の追及は諦めた。


「それにしても、君はやっぱり凄いね。まだ奥の手を隠してたんだ」

「え!? ま、まぁそうですね」

「動きが見違えるように変わってた。一体どういう理屈なの?」

「あー何と言うか、集中することで反応速度が上がる……みたいな?」


「未来予知」だなんて堂々と言える訳もなく、それっぽい理由で言葉を濁す。
ちょっと無理やりだった気もするが、風香は「ふーん」と一応納得はしてくれたようだった。誤魔化せたということでいいのだろうか。


「初見とはいえ、全然対応できなかった。私は師匠失格だね」

「そ、そんなことないですよ! 猿飛さんのおかげでここまで来れたんですから!」

「ありがとう。でもほとんど君の実力だと思うな。羨ましいよ」


そう言って、風香は少し寂しそうな表情をする。そこには色々な感情が渦巻いているようで、晴登には推察できなかった。

それでも、晴登がこの場に立っているのは間違いなく彼女のおかげであり、彼女に教えてもらった成果でもある。だから、この言葉だけは伝えないといけない。


「……また、特訓してもらってもいいですか?」

「いいの? 私は君に負けたのに……」

「それでも、猿飛さんが俺の師匠なんです! たった数日じゃ満足できません!」


その晴登の真っ直ぐな瞳を見て、風香の表情も明るくなる。同時に、彼女はずっと持っていた疑問を口に出した。


「どうして君はそんなに強さを求めるの?」

「──大切な人を、守るためです」

「大切な人、か。いいね、そういうの。私は好きだよ」


風香は何かを察したようにそう言った。きっと結月のことだと思ったのだろう。
それも間違いではないのだが、大切な人というのには家族や友達、魔術部のみんなも全て含まれている。守るための力を持っているのだから、使わなければ損というものだ。


「うちの大将は強いよ」

「こっちだって負けません」


最後に握手を交わしながら、お互いにそう伝え合う。
勝負は全て、3本目の勝負に持ち越された。勝っても負けても、どちらかの決勝進出が確定する。一体、どんな戦闘(バトル)が見れるのか──







「これは驚いたね……」

「どうなってやがんだあのガキ。あそこから勝つかよ普通」

「まるで主人公みたいだ」


観客席の一角、アーサーと影丸が試合の結果を見てそう零す。
誰がどう見ても形勢は晴登が不利だったというのに、突然人が変わったかのように動きを変え、あっという間に風香に勝利してしまった。それを成し遂げたのも全て──


「実際に見てみてハッキリした。あいつの能力(アビリティ)に"未来予知"があるのは間違いない」

「そうだね。それに類するものと考えていいだろう。加えて精度も中々高そうだ。まだ使いこなしてはいないようだけど」


相手が技をどう受けて、どう避けるまで知っていたかのように見切ったあの洞察力は、中学生にしては秀ですぎている。魔術によって補強されてると考えるのは自然だ。


「面白ぇ。決勝で当たるのが楽しみだな」


不気味なくらいに口角を上げ、対戦を楽しみにする影丸。前日までの態度とは打って変わって、今となっては彼は晴登の力を評価している。やはり、最初見た時に働いた勘は正しかったらしい。


「気が早いよ影丸。まだどっちのチームが勝つか決まってないだろ?」

「けど、あの黒い雷使うガキはそれなりに戦えるぞ。女相手にゃ負けねぇだろ」


1回戦にて相手を一撃で倒した終夜の活躍を知っている影丸は、次の試合は彼に分があると考えている。
しかし、アーサーはそうではないといった様子だ。影丸の発言を聞いてふっと笑うと、


「わからないよ。──彼女、"組み手"で1桁の順位だから」







「……あ」


次の試合への期待を胸に自陣に戻ろうとした晴登の目に、グッと親指を立てて満面の笑みを浮かべている終夜の姿が映る。
そんな無邪気な笑顔に釣られて、晴登も笑顔で終夜の元に駆け寄った。


「部長!」

「よくやった。本当によくやったよお前」


晴登が何かを言うよりも先に、感極まる終夜が背中をバンバンと叩いてくる。その加減のなさが、彼の喜びを何よりも如実に表していた。


「いや〜最初に吹っ飛ばされた瞬間はヒヤヒヤしたぜ」

「それは俺もですよ……」

「それでもお前は勝った。それで十分だ」


これ以上ないくらいの喜びようの終夜を見て、晴登も嬉しくなってくる。自分が誰かの役に立てたというのは、とても達成感があった。



「──後は俺に任せろ」



終夜の目の色が変わる。後輩の勝利を喜ぶ先輩の顔から、チームの命運を担う部長の顔へと変わっていた。

相手は強い。舞や風香を見て、そう思わない訳がない。その上、次は相手のリーダーが出てくる。今までで最も過酷な戦闘(バトル)になるだろう。

それなのに、今の終夜を見てると不思議と負ける気がしなかった。


「っしゃあ、行ってくるか──」


『え〜っと、ここで緊急の連絡です! 次に予定されております、【日城中魔術部】対【花鳥風月】の3本目の試合の開始時間を、19時に変更するとのことです!』


「「……え?」」


予想外の連絡に、2人の呆気にとられる声が重なった。






詳しい説明もないまま、魔導祭は一度お開きとなった。19時に再び会場に集合するまで、晴登たちはホテル待機を命じられる。

しかしホテルに戻ってきた晴登は、自室に帰るよりも先にある部屋の扉をノックしていた。


「はーい」

「結月、体調はどう──」

「ハルトー!!」

「おわっ!?」


中から返事を聞いてドアを開けた瞬間、勢いよく結月に飛びつかれた。いきなりの出来事で受け止めきれず、晴登はそのまま後ろへ尻餅をついてしまう。


「いてて……って、身体は大丈夫なの?! 安静にしてなきゃダメなんじゃ……!」

「何かよくわかんないけど平気だよ!」

「よくわかんないけどって……」


医者が余程優秀なのか、はたまた結月の自然治癒力が高いのか。どちらにせよ、回復したならば良かった。
飛びつくほど元気が有り余ってるのは考えものだけど。


「それよりテレビで観てたよ! やっぱりハルトは強いよ! 凄い! 好き!」

「ちょ、ちょっと落ち着いて!?」


感情の昂るまま力いっぱい抱きしめてくる結月。晴登の勝利する姿を見て、大興奮冷めやらぬ状態だ。
でもまだ病み上がりなのだから、はしゃぐのはやめて欲しい。


「それで、何で試合が中断したの? 時間を遅くする意味って?」

「あ〜それは……」


結月は首を傾げ、頭上に疑問符を浮かべていた。それは晴登の目下の疑問でもあり、答えはこれから得るつもりである。


「俺にもわかんなくて……。後で部長に訊いてくるよ」

「じゃあボクも一緒に──」

「結月はダメ。まだ休んでないと」

「そんなぁ……」


何度も言うが、結月はまだ万全の体調ではない。万が一に備えて、今日一日は安静にしてもらおう。

……すると、露骨に寂しそうな表情をするので、恥ずかしいけど頭を撫でてみる。


「ま、また後で来るから」

「えへ、えへへへへ」

「な、何だよ」

「なんでもなーい」


隠そうともしないにやけ顔に、こちらまで照れてしまう。何だこの可愛い生き物は。無性に抱きしめたくなる。

しかし、そこは心を鬼にして結月をベッドに寝かせると、晴登は部屋を後にするのだった。






時刻は18時。今度は晴登の部屋にて、簡易的なミーティングが行なわれることになった。内容は先程結月が気にした通り、なぜ試合が遅延したのかが主だ。


「部長、いい加減教えてくださいよ。遅くなった理由わかってるんですよね?」

「まぁな。推測の域は出ないけど」


晴登が終夜を問い詰めると、彼はようやく口を開いた。会場では先送りにされたが、これでようやく理由が聞ける。
終夜はどこから話したものかと、少し悩んでから話し始めた。


「まず、俺と星野先輩の能力(アビリティ)は知ってるよな?」

「えっと……部長が"夜雷"で、星野先輩が"星夜"でしたっけ?」

「あぁ。ここで注目して欲しいのが、どちらにも"夜"という属性が含まれていること」


属性、というのは能力(アビリティ)が持つ性質のことだ。主属性と副属性の2種類があり、それらは能力(アビリティ)名の2文字で表されると、入部したての頃に教わっている。
ここでの問題は、終夜と月が同じ属性の能力(アビリティ)を持っているということだ。しかし、どんな効果かは未だに知らない。彼の雷が黒い理由ではあるはずだが……。


「あれ、教えてなかったっけか? 実はこの"夜"という属性は『夜間に強化される』という効果を持つんだ」

「へぇ……ということは、部長は夜の間の方が強くなるんですか?」

「そういうこと。いつもより2倍は強くなるぜ」

「お〜!」


ここに来て終夜の能力(アビリティ)の知らない一面を知り、少しワクワクしてきた。
思い起こせば、ずっと夜だった裏世界での彼の魔術は一味違ったような気もする。それ以外はあまり見る機会がなかったから確信はない。


「それで、その効果が今回のことと関係があるってことっすか?」

「あぁ。俺も星野先輩も夜間の方が強い。そのことを知ってるはずの運営が、試合の時間をわざわざ夜にしたってことに因果関係がないはずがない」

「実力を十分に発揮できる舞台を整えたってこと? 運営もやってくれるじゃない」

「全くだ。これじゃ無様な戦闘(バトル)は観客に見せられないな」


伸太郎の問いと緋翼の言葉に終夜はそう結論づける。つまるところ、運営側の"粋な計らい"というやつだ。


「さて、ちょっと外で身体動かしてくるわ」

「わかりました」


試合時間が近づいているため、そろそろ会場に戻らないといけない。それに合わせて終夜は準備運動をと、先に部屋を出ていった。





「"夜"かぁ」


終夜に続いて伸太郎も緋翼も部屋を出た後、晴登は1人残って考え事をしていた。

終夜の能力(アビリティ)の副属性である"夜"の効果は至ってシンプル。それに比べて、"晴風"の副属性であるはずの"晴"の効果が全くわからない。今まではなあなあにしてきたが、もしかすると"未来予知"は"晴"に由来するのではなかろうか。
でもそうなると、明らかに副属性の範疇を超えている気がする。これではもはや主属性だ。一体、どうなっているのだろうか。


「そのうち、わかるかなぁ」


疑問は尽きないが、考えてわかることじゃない。誰か詳しい人に教えてもらえたら楽なのだが、知っている人は身近にはいなそうだ。頭の片隅に入れておくくらいで、今は片付けておこう。






場所は変わって魔導祭会場。日は沈み始め、あと数分で日没といったところか。
フィールドではジョーカーが腕を大きく広げて挨拶をしていた。


『皆様、突然の時間変更、誠に申し訳ございませんでした。しかし、彼らの戦闘(バトル)は必ずや皆様の期待に応えてくれることでしょう! それでは準決勝第2試合3本目、選手の入場です!』


ジョーカーの声に合わせてフィールドの両側から終夜と月が上がってくる。それに呼応するように、観客の歓声が大きくなった。


『【日城中魔術部】黒木選手対【花鳥風月】星野選手! お互いのチームのリーダーのぶつかり合いです!』


「ったく、プレッシャーかけすぎだろ実況」

「いいじゃん。あたしたちは"全力"で戦うだけだし」

「そうですね……久々に先輩の本気が見れそうで楽しみですよ」


頭を掻きながらため息をつく終夜に、月は不敵な笑みを浮かべながらそう言った。
能力(アビリティ)を最大限生かすことのできる環境は整っている。こんな機会はそうそうない。終夜も心の中では戦闘(バトル)が始まるのを今か今かと待ちわびていた。


『それでは──試合開始!』


ついに試合が始まった。泣いても笑ってもこれで決着。一瞬たりとも目は離せない。

開幕の合図と同時、いつものように終夜が指鉄砲を構えた。その一方で、なんと月も同じ構えをしており──


「弾けろ! "冥雷砲"!」
「輝け! "キラキラ星"!」


2人の指から放たれた漆黒の雷の弾丸と眩い光の弾丸がぶつかり合い、火花を散らして相殺する。
なんということだ。あろうことか、月は終夜とほぼ同じ技を使ってきたのだった。

……いや、違う。同じ技を使っていたのは月の方ではなく──


「なに終夜? まだ私のパクリ続けてたの?」

「人聞きの悪いこと言わないでください。これはもう立派な俺の技です!」


そういえば、終夜は月のことを師匠のようなものだったと言っていた。つまり"冥雷砲"は、彼女の技を模倣して生まれた技だとしても不思議ではない。本人は全然認めてないけど。


「こっちから行きますよ! "黒雷鳴"!」

「当たんないよ〜」


黒い稲妻が空から迸る。雷ということもあって、その発生は見切れたものではないはずだが、彼女はそこに落ちてくるとわかっていたかのように軽々と避けた。


「そらっ!」

「ほっ」


続いて黒雷で薙ぐような攻撃も、月は上体を反らして避ける。その身のこなしの軽さは風香に匹敵しているだろう。
だがそれだけじゃない。そもそも月は終夜の技を知っているはず。だからこそ、こんな初見殺しの発生速度を誇る技を避けることができるのだ。


「次はあたしの番よ! "星屑マシンガン"!」

「うおっ!?」


月が両手を前に構えると、彼女の周囲にたくさんの光の粒が浮かび上がり、その全てが終夜に向かって射出される。
星の力と聞いていたが、伸太朗と同じ光属性なのだろうか。


「……なーんて、対策してますよ! "夜の帳"!」

「へぇ、やるじゃん」


しかし、終夜は黒雷で作ったマントをたなびかせると、それを纏うように被って防御した。光の粒はその帳に触れると、バチバチと音を立てながら弾かれる。
なんてスタイリッシュな防ぎ方。あんな使い方ができるなんて、終夜の能力(アビリティ)の"制限"が少ないからこその芸当だろう。とてもかっこいい。


「……よしよし、準備運動したところで、そろそろ本気出しちゃおっかな」

「いいですね。なら俺も本気でいきますよ」


と、ここで驚きの発言。どうやら2人はまだ本気を出していなかったらしい。終夜の技はド派手すぎて、いつも通りなのか強くなってるのかよくわからなかったのだ。

だがちょうどこの時、日は完全に地平線の彼方へと沈んで空が暗くなり始める。そして会場をナイターが照らし始めた。


──"夜"が、来る。


フィールドに向かって放たれたその光の中で、2人の様子が一変する。


「「"能力(アビリティ)──解放"」」


黒と白の閃光がフィールドに迸った。
 
 

 
後書き
メリークリスマス。今年もクリぼっちな波羅月です。自分もサンタさんが来そうな時間に更新するという粋な計らいをしてみました。はい、すごく眠いです()

いや〜何とか更新が今年中に間に合って安堵しています。1ヶ月に1回更新という自分ルールを早速破っている訳ですが、まぁ2日3日は誤差みたいなもんでしょう。だからヨシ!

さてさて。そんな訳で執筆時間はたっぷりあったのですが……なんか忙しない文章ですね。今回は場面転換が多かったので、ちょっと雑になってしまったかもしれません。大切な場面なのにもったいないですね……後で修正するんでとりあえずこれで更新します(せっかち)。

ということで、次回は待ちに待った3本目。終夜 対 月のリーダー勝負です。序盤だけじゃなんかよくわからないと思いますが、次回でしっかりとバトルしていくので大丈夫でしょう(たぶん)。

今回も読んで頂き、ありがとうございました! 次回もお楽しみに! では! 
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