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下馬評を覆し

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第十一章

 そうして第五戦に赴いたが。
 ヤクルトは先発は原樹理、オリックスはもう一人の山崎だった。
「そっちの山崎か」
「後がないから山本で勝つと思ったんだがな」
「第六戦まで温存するか」
「というと今日絶対勝つつもりか」
「そうするつもりか」
 ファン達は中嶋の考えをこう解釈した、そのうえで試合を観た。
 ヤクルトは二回裏サンタナが四球を選びそこから中村がここでもヒットを放ちサンタナは好走し三塁まで進み。
 オスナーは併殺打を打ったがここで貴重な先制点を手に入れた、この先制点にヤクルトナインもファン達も日本一を観た。
「今日で決めろ!」
「決めてくれ!」
「そうしてくれ!」
 総立ちにならんばかりになって願った、ヤクルトのその意気は高く同点に追い付かれてもそのすぐ後の四回裏にだった。
 先頭バッターの村上宗隆がソロアーチを放って突き放す。

ヤクルトは2回裏、サンタナの四球と中村の左前安打で無死1,3塁のチャンスを作ると、オスナの併殺打の間に1点を先制する。対するオリックスは4回表、2死から吉田正が右二塁打で出塁すると、続く杉本が中前適時打を放ち同点に追いつく。しかしヤクルトはその裏、先頭の村上が左中間越ソロを放ち、すぐさま勝ち越しに成功する。
 オリックスが三点を奪い勝ち越してもだった、ヤクルトナインの士気は高く八回裏にノーアウト一塁二塁の絶好のチャンスを逃さず。
 バッターボックスに入った山田はバットを一閃させた、そうして白球をオリックスファンの絶望と悲嘆の声の中レフトスタンドに叩き込んだ。山田は高らかにガッツポーズを掲げてグラウンドを回った。
「やった!同点だ!」
「ここで取れなくてもサヨナラだ!」
「東京で日本一を決めるんだ!」
「高津監督に誕生日での胴上げをプレゼントするんだ!」
 ヤクルトファンもナインも色めきだった、だが勝利の女神も野球の神もヤクルトにまだ試練を与えた。
 九回この試合もストッパーとしてマウンドに上がったマクガフが打たれた、それも先頭バッターである代打のジョーンズとやらにだった。打球はレフトスタンドに入ってしまった。
 このホームランが痛恨の一撃となってだった。
 ヤクルトはこの試合を落とした、九回裏はあえなく無得点に終わった。
 ヤクルトの敗北にオリックス側は喜んだ。
「やった、神戸に帰られる!」
「神戸で日本一だ!」
「神戸に帰ればこっちのものだぞ」
「こっちには山本がいるからな」
「山本が打たれる筈があるか」
「山本で一勝、それでタイだ」
「そこでまた一勝して日本一だ」
 オリックス側の多くはもう日本一になったつもりでいた、まだ勝負は決まっていないというのにだ。
 高津も彼等を見たが全く動じなかった、ナイン達にミーティングの時に言うだけだった。
「神戸は寒い、そのことを気をつけていけ」
「寒いですか」
「そのことに気をつけていけばいいですか」
「身体が冷えない様に」
「そうして戦っていけ、絶対に大丈夫だ」
 高津はここでもこう言った。
「勝つのは俺達だからな」
「寒くてもですね」
「敵地でも」
「山本が投げても」
「それでもですね」
「それでも勝つのは俺達だ」
 言葉は揺らいでおらず目も泳いではいなかった、高津はここでも全く動じていなかった。そうしてだった。 
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