プロレスラー相手は無理だ

　　　　　　　　　　　　　　　　プロレスラー相手は無理だ
　小宮山敦夫は身体を鍛えることが趣味である、特に空手と骨法が好きで空手は極真流の四段である。一七三位の背で黒髪を上だけ伸ばして左右は刈り上げていて不敵な感じの目で痩せた顔に鍛えているだけあって引き締まった身体をしている。
「やっぱり人間強くないとな」
「駄目なのね」
「ああ、身体鍛えてな」
　交際相手の田宮遥にも話した、遥はやや垂れ目で短いセットした豊かな量の黒髪で艶やかな紅の唇を持っている。背は一六六程で胸も腰も艶やかである。
「強くないとな、いざって時に困るからな」
「それで空手と骨法してなのね」
「いつも鍛えてるんだよ」
「そうなのね」
「当然暴力は振るわないな」
　小宮山はそれは否定した。
「暴力なんてのは弱い奴が使うもんだよ」
「自分より弱い相手に振るうものね」
「そんなの振るうなんてな」
　それこそというのだ。
「身体鍛える意味ないんだよ」
「じゃあ意味があるのは」
「自分が強くなっていざって時にな」
　遥に真剣な顔で話した。
「何かを、誰かを護る為に使うもんだよ」
「その為になのね」
「ああ、だから今も働きながらな」
　職業はサラリーマンである、遥はスマートフォンの店の店員で大学の頃からの関係である。
「毎日トレーニングもしてな」
「道場にも通っているのね」
「そうなんだよ」
　遥に笑って話した、そうしてだった。
　小宮山は日々自分を鍛えて強くなっていた、彼には自信があったし事実空手も骨法もかなりのものだった。だが。
　ある休日の夜だった、彼は遥と共にバーで飲んでいた。朝早く起きて日課のトレーニングをした後で彼女とデートに出てその帰りだった。
　インターネットで評判のバーに入ってそこで飲んだ、その後で。
　二人で店のことを話しながら帰路についていた、だが夜の街でだった。
　大柄なブロンドの髪の女、一九〇は優にある白人でも女性では規格外の大きさのジーンズにジャケット姿の彼女がだった。
　奇声をあげて騒いでいた、小宮山はその彼女を見て顔を顰めさせた。
「まずい、スーザン＝アンドレだ」
「確か女子プロレスラーの」
「ああ、これまでチャンピオンベルトを一ダース獲得してるな」
「物凄く強い人よね」
「女人間山脈って言われてるんだ」
　小宮山は自分より遥かに大柄な彼女を見て言った。
「洒落にならない大きさとそこから来るパワーでな」
「滅茶苦茶強いのよね」
「ああ、お前早く安全な場所に逃げろ」　
　小宮山は遥にこう言った。
「いいな」
「えっ、敦夫君どうするの？」
「俺はこれを使う」
　こう言ってスマートフォンを出して応えた。
「そうするな」
「スマートフォン？」
「警察呼ぶな、警察でも十人は来ないと無理だな」
「敦夫君は戦わないの」
「俺じゃ絶対に勝てない相手だよ」
　小宮山は言い切った。
「だからな」
「でも空手四段で骨法もやってるのに」
「プロレスラーで酒乱で勝てる奴なんかそうそういるか」
「いないの？」
「警察に協力しても俺一人じゃ絶対に取り押さえられない」
　暴れる寸前の彼女を見て話した。