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幻の月は空に輝く

作者:国見炯
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贈り物



 カツン、カツンと絶え間なく鉄を打つ音が響く。
 最近…といっても結構前かな。砂の里から帰ってきた後に父さんが私専用の工房を作ってくれたんだよね。父さんの工房と隣同士になってるから、見学したりアドバイスを受けたりするのは今までと然程変わらない。
 変わらないけど、自由度は増したかな。
 今も設計図を床一杯に広げてるけど、私だけの工房だと思えばこれも気にならない。そんな設計図に囲まれた状態で、打っていた刃を特殊な液体へと漬けた。
 父さんにつくり方を教わったりしてるんだけど、宵闇族は裏人柱力が居るという以外にも特殊な一族だと思う。物作りに特化している一族で、先を視る力がなくても十分な脅威といえる。
 だからといって、滅ぼされたっていうのは納得出来ないけど。



《どうだ?》

「あぁ。時間をかけただけはある、と思いたい」

 銀色に輝く刃をテンに見せると、テンが満足気に頷く。随分と時間があいてしまったけど、これでイタチへの中忍就任おめでとうの贈り物が完成した。
 間が空きすぎてちょっと間抜けにならないかだけが心配だけど。
 父さんに頼んであった鞘に小刀を収め、風呂敷で包み込む。ちなみに、この風呂敷は母さん作。
 それを鞄の中に入れた後はお風呂。汗が凄くてね。外からそのまま風呂場に直行して、ササッと汗を流していつもの服に着替える。
 ボタンは多いし、顔はバンダナや垂らした布で見えにくくなっている父さんの意匠の結晶というか努力の結晶。



「イタチさんは何処にいる?」

《……うちは…にいるみたいだ。弟と一緒か》

「サスケとか」

 また手合わせを申し込まれそうだなぁ。まぁ、いいんだけどさ。
 鞄を背負い、私は軽く地面を蹴る。うちはまでの道のりはすっかり慣れて、今だったら瞬身を使わなくてもそんなに時間をかけずに到着出来るようになった。
 慣れってすごいなぁ。ここに生まれた当初はこんなにうちはに通うとは思わなかったし。
リズム良く枝から枝へと飛び移ってどんどん先へと進んでいく。態々人に会わないルートを選んでいるからかなり快適。
 見慣れたうちはの家紋入りの門が見えて、既に顔パス扱いになった門番の人に頭をぺこりと下げて通らせてもらう。
 いつのまにか顔見知りで顔パスになっちゃったんだよね。
 後はチャクラを読んで、イタチのいる場所に行くだけ。
 何か色々とサスケからつっ込みが入りそうな気もするけど、軽くスルー出来たらいいなぁ。
 チャクラを読んで向かった先には案の定イタチとサスケ二人の姿。とりあえず手合わせが終わるまで待とうと思ってたら、イタチの視線が私の方を向く。流石イタチ。サスケはまったく気が付かなかったんだけどね。

「ラン」

 サスケの一撃を軽く受け流し、微かにだけど笑みを浮かべて私に向かって手招きを一つ。私の名前に反応したサスケは、ぐるりと勢いよく後ろを振り向きいつものように睨み付けてきた。
 …それが基本だよね。サスケの。

「……俺との手合わせか?」

 イタチに振り下ろしていたクナイをホルダーへと戻し、サスケは弾んでいた呼吸を整える。油断すると弾かれたクナイが飛んできたり、火遁の熱にやられたりするから気をつけなきゃいけないんだけど、二人が腕を下ろした状態なら大丈夫。
 
「いや。今回はイタチさんに用事だ」

 軽く首を横に振り、さてどうしようかとばかりにイタチに視線を向ける。ここで渡しても構わないかな。移動するとサスケが拗ねるだろうし。
 既に手合わせじゃないと言い切った時点で拗ねているような気もするけど、気にしない気にしない。どうせ明日はアカデミーでサスケとずっと一緒に居るしね。

「俺にか?」

「遅くなり過ぎたけど、お祝い。これなら、上忍になっても大丈夫」

「……あけてもいいか?」

 イタチの言葉に、こくん、と一回だけ首を縦に振る。
 強度や出来については父さんのお墨付き。この状態にするまで何十本という失敗を積み重ねた。生半可なものをあげるよりマシなんだけどね。
 ゆっくりとだけど確実に腕はあげている気がする。
 ある意味今回のは自信作で、イタチが風呂敷を開きのをジィッと見ていたらサスケに笑われた。すごく必死そうな表情をしていたのかもしれない。
 自信作だからね。
 それに残念そうな表情を浮かべられたらホントへこんじゃうからね。
 まぁ、父さん程上手くないから、それも覚悟しとかなきゃならないんだけどさ。そんな私の覚悟を知ってか知らずか、イタチの手は妙にゆっくりと焦らす様に動く。
 ドキドキと心臓が飛び跳ねているんだけど、それを表に出すわけにいかない。気を使わせたくないし。今更だけど。

「……ふむ」

 あけた直後のイタチの一言。

「………」

 イタチの表情を下から伺ってみるけど……。

 まったく読めない。表情筋が私並みに動いてなくて、無表情。けれど視線はしっかりと小刀に注がれてはいるんだけど、喜んでいるのか残念がっているのかまったくわからない。
 あぁ、無表情ってこんな時に周りが困るんだね。
 気をつけようにも、私の表情筋も豊かではないから気をつけようが無いんだけど。

「チャクラ刀になってる」

「そうか」

「お守り代わりでも」

「そうか」

 ………。
 どうしよう。泣いてしまいそうだ。

「イタチさん。気をつけて」

「あぁ」

 いい年した大人が内心半泣きという情けない状態に陥りながら、なんとか見守っているサスケとイタチに軽く頭を下げる。
 それじゃあまたねー、という挨拶代わりだけど、どうやら意味が通じたらしい。

「テン」

 枝の上から優雅に状況を見ていたテンに声をかけてから、私は来たばかりの道を引き返す。
 とりあえず。そうとりあえず。これから工房に篭ってなんか作ろう。
 そうだ。そういえばネジがクナイを欲しがってたよね。手が少し大きくなったみたいで、前に使っていたものが使いづらくなったとか。
 うん。今度はイタチが吃驚するぐらい喜ぶものを作って贈ろう。そうすればきっと、今日の事も懐かしい思い出になるはず!
 ……と、思いたいなぁ。
 
 
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