僕は 彼女の彼氏だったはずなんだ 完結
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13-⑹
それから、又、数日後、面接にやってくる人がいたのだ。今度は、他のレストランで働いている30才少し手前の女の人だった。今のお店が移転することになったので、今度は遠くなるから、通えなくなるのでという理由だった。一方的に、辞めてくれと言われたらしい。
私は、そんな事情には興味なかったのだが、見た目、上品そうなのでウチの店には、いいかなって思って面接していた。星田京子さんという人だ。
「勤務時間は、8時から午後の2時までお願いしたいのですが、10時に途中15分の休憩ありますが・・ほぼ、ぶっ通しなんです。大丈夫ですか?」と、聞いたのだが
「8時ですかー 15分前位に入らなきゃあダメですよねー」と、しばらく考え込んでいた。今までは、9時半から5時まで働いていたらしいかった。
「あのー 子供たちが7時半に、家を出るんです。せめて、送り出してやりたいんで、それからだと、ここまで20分かかると思うんです。だから、ギリギリで、雨の日なんかだと、ご迷惑お掛けすると思って・・」
「いいんです それくらいなら・・ お子さんおられるんでしたら、大変ですものね でも、学校のお休みの時は、大丈夫なんですか?」
「はい 年寄りも一緒に住んでいるので・・ それは、今までと同じですから・・」
「わかりました 基本的には、8時からですが、多少の遅れは構わないです」
私は、なんか、この人には来て欲しいと感じていたのだ。雰囲気的にも、真面目で丁寧な人だと伝わってきていた。
「それで いつから、来れますか?」
「えぇ 今のシャルダンが9月 いっぱいでお店を閉めるんで できましたら、10月からじゃぁダメでしょうか」
「えー シャルダンにお勤めですかー」私は、しばらく、声が出なかった。閉めるんだー あそこが・・。頭の中を・・昔のこととか、あの上野のこととか、もちろんお父さんとか高井さんの顔も浮かんでいた・・一気に、思いが駆け巡っていた。
「あのー ダメでしたら・・ 出来るだけ、早く、来られるようにしますが・・」
「あっ ごめんなさい いいんです 10月からで・・ シャルダンは今のお店を閉めるって言っているんですか?」
「はい だから、パートの私達には、辞めてもらうって」
「そうですか 私ね 星田さん お会いしてて ウチにとても、来て欲しいって思ったんです だから、お待ちしています 10月からでも、いいんですよ」
「そうですか 良かった ナカミチは評判いいので、私、本当は、早くから移りたかったんです 店長さんが、とっても優しくて、気の付く人だって聞いていましたから」
「そんなことないですよー でも、おそらく、接客のやり方が他とは少し違うので、最初は、戸惑うかもしれませんけど、一からのつもりで、お願いしますね」
「わかりました 教えてください 頑張ります」
その日の夕方5時のオープン早々、堤さんがやってきた。
「堤さん いらっしゃい お仕事帰りですか? この時間珍しいですね 私ね・・」
「店長 伝えたいことがあってな」と、堤さんは、私が何か言おうとしているのを遮って・・
「シャルダンのこと」私が先に聞いた。
「そう そのこと 店長も、何か聞いたのか?」
「うん 昼間 シャルダンに勤めている人が面接に来た」
「そうか 俺も、少し前に聞いたけど、確かなんか 情報集めていたんだ 公式的には、店舗移転ということなんだけど、移転先が離れているから、実質、撤退だよね 納めているお絞り屋に言わすと、この1年以上、ずーと数が減る一方だって言ってから、売り上げも減るばかりで、もう、回復出来ないって、見切りつけたんだろう」
「さすが 堤さん 顔が広いですね 情報屋みたい」
「しがない工務店だよ みすずファンのな でも、やったな 夢叶ったな 頑張ったものな」
「堤さん それは、秘密 他では、言わないでよ でも、堤さんのお陰 感謝してます あのね 私 堤さんだから言うけど さっきから ヤッターって叫びたい気分なの」
「だろうな あっちに向かって 叫べば良いじゃぁ無いか 今までの苦労考えたら それぐらい許されるんじゃあないか」
「うふっ 堤さん 奥さんいなかったら 私 今、抱き着いていたかも知れない えへっ 何か、食べていく?」
「おいっ からかうなよー 嫁さんが、夕飯用意してるから、このまま帰るよ 又、今度食べに来る」
「そうだよね 愛妻が待ってるから 本当に、いつもありがとうね 助けてくれて 奥様にも、よろしく お待ちしてますので、ごゆっくり来てくださいって」
堤さんが帰った後、私は、晋さんにそのこと伝えて、松永さんとホテルの進藤さんに報告していた。冷静なつもりだったんだけど、少し浮かれているのかも知れなかった。清音にも、そのこと伝えたんだけど、その時清音は
「お姉ちゃん 良かったね 目標だったんでしょ・・ でもね なんか、悲しいよね 昔のウチ等の家庭・・戻らないし・・ それと、ウチなぁー お父さんの世話を何にもしてなくて、偉そうなこと言えたもんちゃうねんけど・・ お父さんの夢って、そのことちゃうと思うねん ごめんね、お姉ちゃん 偉そうなこと・・」
電話を切ったあと、清音の言っていたとおりだと・・。私、意地になっていたので、勝手に目標決めてしまっていた。あの子の方が大人になっているのかも・・。
だけど、私は、一応、区切りだからと思って、少し、夕ご飯を豪華にしておいた。そして、その夜も、白いナイトウェァを着て
「もう、私 全て 蒼のものになったわ」と、蒼の胸に飛び込んでいった。
清音はああ言っていたけれど、わたしの中では、もう、中道美鈴は居ないの、三倉美鈴なのよと・・
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