Fate/WizarDragonknight
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
”radiant force”
「ラプラス!」
ブライのその声に、その手に灰色の電波体が現れる。
彼が使役する謎の生命体、ラプラス。それは、即座にその姿を変質させ、剣となる。
ラプラスソードとなったそれを構えると同時に、美炎は駆け出す。
「だああああああああああっ!」
振るわれる、加州清光。何度もラプラスソードと激突し、やがて引き離される。
「この前はいきなりでやられちゃったけど……今回は、そうはいかないよ!」
そのまま、美炎とブライは打ち合う。
何度も金属音を響かせながら、戦いは続いていく。
「まだまだああああっ!」
横薙ぎの斬撃を、ブライは背中を大きく反らして回避。
さらに、それでブライが目を奪われている間に、響が一気にブライへ攻め入る。
「はああああっ!」
「ッ!」
響とブライは、同時に拳を放つ。
響のガングニールと、ブライの紫。それぞれが激突し、衝撃が黄昏の世界に轟いていく。
「我流 空槌脚!」
足のジョッキが伸び、そのまま響のかかと落とし。
大岩さえも破壊するその威力は、流石のブライもまともに受けることは出来ないのだろう。ラプラスソードで流し、地面に落下させた。
「こっちも行くよ!」
美炎の全身を、赤い炎が包んでいく。
美炎が加州清光を振るうと同時に、炎もまた揺れ動く。
「神居!」
美炎の主力技。これまでも多くの敵を薙ぎ払ってきたその紅蓮の刃は、悲しいかなブライには効果がない。彼は美炎の太刀筋を正確に見切り、もっとも有効なところで受け止めていく。
「甘い!」
それどころか、ブライは反撃に転じる。
美炎が知らない、ムーの剣術。それは、あっという間に美炎を追い詰めていく。
「美炎ちゃん!」
だが、追い詰められていく美炎に代わって、響がブライへ挑んでいく。
徒手空拳。ほぼ互角にも思われた戦いも一瞬で不利に転じる。
ラプラスのリーチの長さにより、接近しかできない響は一気に地に伏せられる。
「響ちゃん! このっ!」
逆に、ブライと同等の攻撃範囲をもつ美炎。
だが、そうなればブライは打って変わってラプラスではなく、素手で対応する。一気に美炎の懐に入り込み、格闘技で攻めてくる。
「うぐっ!」
剣での戦いを許さないブライ。
さらに、連続蹴りからのブライナックルで、美炎と響を一気に薙ぎ払う。
「これ程度か……聖杯戦争の参加者共……」
ブライはそう言って、トドメを刺そうと刃を向ける。
「マスターだのサーヴァントだの、他者の力を借りるから弱くなる……」
「え? あなたも、参加者なんじゃないの?」
「オレはキサマたちとは違う……命を賭けた戦いに、他の誰かを頼るようなことはしない」
ブライはそう言って、右手を見せつける。
紫の炎が溢れる手の甲。そのなかに、薄っすらとムーの紋章が見えた。
「あれって……令呪? でも……」
「オレは一人だ。誰も助けないし、誰も信じない。だからこそ、オレは強い」
「……うん。確かに、あなたは強いよ。……でも」
それに対し、響は立ちあがりながら、胸の赤いパーツを取り外す。
赤い結晶のような部品。それを掲げると同時に、響はもう一度スイッチを押す。
すると。
『ダインスレイフ』
電子音が、そのパーツより流れた。
「でも……わたしだって、負けない! 負けられない! 未来が言ってくれた、もっと多くの人と手を繋ぐために! わたしはッ! まだッ! 倒れるわけには、いかないんだッ!」
そして響は、それを上空へ放る。
上空で変形していくそれ。刺々しさが増していくそれは、やがて迷いなく、響の心臓部へ突き刺さる。
「うおおおおおおおおおッ!」
白と黄のガングニールが、漆黒に染まっていく。
白と黄色の、明るいコントラストが印象的だった武装は、黒一色に、さらにその体には、淡く黄色の光が包んでいく。形を作っていくのは、赤黒い物質。
それは、強大な攻撃、瞬発能力を持つシンフォギア。イグナイトモジュールの黒い装備が、ブライの頭上へ躍りかかった。
そして響の歌が、始まった。
___始まる歌 始まる鼓動___
静かに目を開けた響。
それに対し、ブライもまたラプラスソードを構える。
「え? 何? 何でいきなり歌ってるの?」
___響き鳴り渡れ 希望の音___
「来い……ランサー!」
「この状況、ついていけないのわたしだけ!?」
より速度を上げた響の動き。
だが、それでもまだブライの方が速い。
___生きる事を諦めないと___
響の拳と、ブライの拳が激突する。
空気を震わす振動に、高架が揺れた。
___示せ___
響は拳を振り抜き、
___熱き夢の 幕開けを___
解き放つ。
___爆せよ___
そのまま伸ばした腕で、
___この 奇跡に___
ハッケイ。
___嘘はない___
そのまま放たれた勢いに、ブライは大きく突き飛ばされる。
足で踏ん張ったブライ。
美炎は、そんな響に並んだ。
「響ちゃん! わたしも!」
美炎もまた、加州清光を携えて攻め入る。
一つだけではなく、様々な剣術を織り交ぜた独自の剣。
ブライもまた、ラプラスソードで美炎へ応戦した。
幾度となく鳴り渡る刃の音。
その音もまた音楽として、響は唄い続けた。
____その手は何を掴むためにある?___
それに、響の体術も加わる。
だが、ラプラスソードを振るうブライは、二人を圧倒する。
一太刀で美炎と響の二人をまとめて薙ぎ払った。
___たぶん待つだけじゃ叶わない___
さらに、ブライが投影したラプラスソード。それは回転しながら電波体ラプラスとなり、響へその刃を突き立てていく。
___その手は何を守る為にある?___
「危ない!」
響の盾となった美炎は、ラプラスを上空へ弾き返す。
すると、ラプラスは美炎を先に排除すべき敵と見定めた。
___伝う 熱は 明日を 輝かす種火に___
「響さん! こっちは私が!」
美炎へ、響は相槌を打つ。
ラプラスの刃と加州清光が響き合う一方で、響はブライとの格闘戦にもつれ込んだ。
___さあ新時代へ銃爪を引こう___
「はあっ!」
美炎の閃き。それは、ラプラスの反物質の体をも大きくのけ反らせた。
さらに、続けざまの斬撃とともに、回転蹴り。それは、どんどんラプラスへの攻撃を重ねていく。
___伝説の未来へと___
「カウントダウンッ!」
一方の、拳へ鋭い歌声を乗せた響。
それは、ブライの蹴りを弾き。そのまま体を殴り飛ばす。
___羽撃きは一人じゃない___
「ッ……」
舌打ちをしたブライは、バク転で響から離れていく。
着地と同時に、ブライは紫の拳を発射した。
「響ちゃん!」
だが、ラプラスとの戦闘を切り上げた美炎が、響の頭上から割り込む。
「神居!」
炎の刃が、一気にブライナックルを切り落とす。
響は手短に「ありがとッ!」と礼を言い、歌を続ける。
___過去を 超えた 先に___
「邪魔だ!」
怒りの表情を見せたブライが、掌底で美炎を叩く。さらに、地面をなぞった拳の波が、一気に美炎を襲った。
加州清光を弾かれ、打つ手のない美炎は、そのままブライの連撃の前に膝を折った。
___創るべき歴史が 咲き燃えてる___
そのまま倒れる美炎。
「集中力切れた……ごめん、響ちゃん!」
「へいきへっちゃら! だったら後は、わたしに任せて!」
響は自らの拳を突き合わせる。
そして。
___絆 心 一つに束ね___
イグナイトの爆発的なエネルギーが、ブライへ攻め立てる。
ブライは紫の拳を放つ。飛行能力を有するそれは、跳び上がった響を狙って放たれた。
___響き鳴り渡れ希望の音___
だが、響は人知を超えた運動能力でその全てを蹴り飛ばす。
爆発していくブライナックル。それは、響の姿を爆炎により覆い隠すほどだった。
___「信ず事を諦めない」と___
「チッ」
ブライは一足先に、結果を理解した。
足を前もって回転させ、接近した響へかかと上げで反撃。響の拳と相打ちとなる。
___唄え 可能性に ゼロはない___
「チッ……ラプラス!」
ブライの命令に、ラプラスが再び宙を舞う。
だが、それがブライの手に届くことはない。
孤高の刃は、持ち主に届くよりも先に蹴り弾かれる。
弾き飛ばされていくラプラスソードに、ブライは舌打ちした。
さらに、響は駆ける。
同時に、ブライの拳も更なる紫の光が集中していく。
___飛べよ この 奇跡に___
「ブライナックル!」
「光あれええええええええええええええええええッ!」
黒と紫。
近しい、だけれども対局。
二つの拳は、それぞれのエネルギーを互いへ放射。
「あああああああああああああああああああッ!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
そして。
「うわわッ!?」
「グッ……!?」
暴発。
響のガングニールはイグナイトごと解除され、その生身を地面に転がすこととなった。
「響ちゃん! 大丈夫?」
「へ、へいきへっちゃら……」
一方、ブライもまた変身を解除し、ソロの姿で膝を折ることとなった。
「バカな……有り得ん……!」
ソロは響を恨めしい目で睨んだ。
「キサマたちに……ムーの力が……!」
「違うよ……」
美炎の肩を借りながら、響は言った。
「私は……ムーを、恨んではいないよ。そりゃ、あの時は他に選択肢もなかったし、私がムーの仇みたいにはなっちゃったけど……でも……」
響は、静かにソロへ手を伸ばした。
「わたしは、ソロ。あなたとも手を繋ぎたい」
「キサマがどう思おうと関係ない……言ったはずだ。今のお前を倒さなければ、オレはムーの誇りを取り戻せないと」
ソロはそう言いながら、響へ背を向ける。
足を引きずりながらも、そのままその場を去ろうとしていた。
「覚えていろ。ランサー。キサマは必ず、オレが倒す。その時まで、その命は取っておけ」
「待って!」
思わず、美炎は呼びかける。
足を止め、背を向けたままのソロへ、美炎は続けた。
「どうして……どうして、コヒメを狙うの?」
「……」
だが、美炎への返答は、無言の返答だった。
彼は静かに振り向きながら。
「あの荒魂は……鍵だ」
「鍵?」
ソロは静かに美炎を、そして響を睨んだ。
「……古来のムーの敵……神が産み落とした、毒蛇のな」
「毒蛇?」
ソロは頷いた。
「キサマたちも、名前くらい聞いたことあるだろう。この国にも伝わる邪悪……ヤマタノオロチ」
「え!? それって……」
ついさっき、コヒメが見ていた本の蛇。
絵本に描かれていたイラスト。子供向けにデフォルトされていながらも、不気味さを感じさせたものが、脳裏に蘇る。
ソロは続けた。
「かつて、ムーの敵としてこの世界を破壊した大荒魂。奴が、この見滝原で蘇ろうとしている」
「え?」
ソロの言葉に、美炎は耳を疑った。
「この世界を破壊した大荒魂? でも、荒魂が現れたのって、そんなに昔だったっけ?」
美炎も、荒魂について、それほど詳しく知っているわけではない。
だが、荒魂と、それが生まれた原因である御刀の歴史は、五百年も経っていないというのは間違いないはずであった。
ソロは鼻を鳴らす。
「御刀……キサマたちが使う、その剣を生み出すためには、同時に荒魂も生み出すらしいな」
「うん……」
美炎は、加州清光を掲げる。
「珠鋼って金属から御刀を精製すると、どうしても荒魂が生まれてしまうってのは、わたしでも分かるけど……」
「原初の荒魂……御刀が作られるよりもはるか前の荒魂だ。この見滝原は、元々封印の地脈が強い土地だ。あの怪物は、出雲で退治された後、ムー信仰が深い民族がここに封印した。見滝原の八か所で、奴の封印を司る要石が設置されていた。だが、キサマと戦ったあの場所を含め、すでに六ケ所の封印が剥がされている」
「封印?」
「セイバーのマスター。キサマと最初に戦った、あの隠世だ」
その時、美炎は思い出した。
セイバーのサーヴァント、煉獄杏寿郎。彼と出会った、神社の形をした場所を。
「あの場所にあった、要石。そして、地下深くにある要石もまた、フェイカーに壊されたらしい。これで、残る封印は六つだ」
「フェイカー?」
その一単語に、響が強く反応した。
「フェイカーってまさか……あの、蒼い仮面を付けた人?」
「キサマも知っていたか、ランサー」
ソロは、口を歪めさせながら、
「奴は、ヤマタノオロチの復活を企んでいる。ムーの敵を手招くなら、奴はオレの敵だ!」
「フェイカーのサーヴァントってことは、トレギアだよね?」
響が身を乗り出す。
ソロは頷いた。
「だが、長い年月の経過で、ただ封印を破っただけでは、おそらく奴は、少なくとも完全体としては復活しないだろう。だが、大荒魂である以上、大量のノロがあれば動く」
いくら頭がいい方ではない美炎でも、そこまで言われれば合点がいく。
「もしかして、その、フェイカーって人……それに、あなたがコヒメを狙う理由って……」
「オレは、あの荒魂の排除および、討伐。そして、フェイカーの目的は……」
「コヒメのノロを使って……大荒魂、ヤマタノオロチの復活……!」
美炎の顔が、自然とコヒメを残してきた方向へ向く。
一方、響は少し美炎を心配そうな顔で見たあと、ソロへ話しかけた。
「ねえ。わたしたち……えっと、この前のムーで一緒に戦った皆も、トレギアとは結構苦しめられているんだ。今、戦い合う理由もないでしょ? だったらわたしたち、一緒に手を取り合って」
「何度も言わせるな」
響の言葉を遮って、ソロは言い放った。
「オレは、ムー以外の絆全てを否定する。他の者とは、決して馴れ合わない。キサマも……」
ソロは、手にしたラプラスソードを響へ向ける。
その刃は、美炎が見慣れた御刀とは全く違う趣向のデザイン。
日本刀は、斬る他にも神具や祭具としての役割などもあるが、それは敵を徹底的に切り裂く役割しかない。
「今回は、たまたまフェイカーの方が優先というだけだ。奴を倒したら……次はランサー。キサマだ!」
ページ上へ戻る