歪んだ世界の中で
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第二十一話 与えられた試練その四
「貴方は毎日です」
「毎日、ですか」
「この娘のところに行き」
そしてだというのだ。ここでだった。
姫は十二単の袖の下から何かを出してきた。それは。
壺だった。日本の小さな陶器の壺だった。色は緑だ。
その緑の陶器の壺を出してだ。姫は希望に答えた。
「そうしてです」
「そのお薬をですか」
「あげ続けて下さい。毎日です」
「毎日ですか」
「はい、貴方自身がです」
こう言うのだった。
「そうされればです」
「千春ちゃんは元に戻るんですね」
「木の傷が癒えます」
雷に受けたそれがだというのだ。
「そうなります」
「何時治るかはわからないんですね」
「そして毎日です」
姫の言葉はここでは厳しいものになった。希望の心に問うものだった。
「それはできますか」
「若し一日でも休めばですね」
「はい、この娘は助かりません」
千春はだ。決してだというのだ。
「そうなります」
「そうなんですか」
「一度でも忘れたり諦めれば終わりです」
姫は厳格な現実を告げた。
「それでもいいですか」
「けれどなんですね」
希望はその厳しい現実を確かに聞いた。だが、だった。
それでもだった。こう言ったのである。
「僕がそれをすれば千春ちゃんは」
「何時か絶対に助かります」
「そうですよね。それじゃあ」
「されますか?その娘に毎日この薬をあげられますか?」
「どうしてあげるんですか?」
具体的なことをだ。希望は姫に問うた。顔を上げたまま。
「千春ちゃんの木にどうして」
「木の場所はわかっていますね」
「はい、多分ですけれど」
希望はわかった。直感的に。
千春はあの木だったのだ。彼が真人と共に山に登った時に蔦を払ったあの木だと。それで姫に対して確かな顔でこう答えることができたのだ。
「千春ちゃんのことは」
「そうですか。ではです」
「そのお薬をどうすれば」
「根本にふりかけて下さい」
「根本にですか」
「はい、この娘の根本に」
木である彼女の本体にだ。そうしろというのだ。
「そうされて下さい」
「わかりました。それでは」
「それでいいですね」
「一日も欠かさずにですね」
「それは絶対のことです」
何があってもだ。それはだという姫だった。
「いいですね。この娘が再び元気になるその日まで」
「その日は何時になったらわかるんですか?」
「その日になればこの娘は元通りになります」
千春であるその木がだ。雷を受ける前の姿に戻るというのだ。
「そうなりますので」
「その時にわかるんですね」
「はい」
まさにだ。その通りだというのだ。
「そうなりますので」
「わかりました。じゃあやります」
「それでいいのですね」
「千春ちゃんがそれで助かるのなら」
毅然としてだ。希望は姫に答えた。
「僕はそうしますので」
「では」
「はい、今日から」
こう話してだ。そのうえでだった。
希望は姫からその壺、薬が入った壺を受け取った。壺を両手に、自分の腹の高さで持っている希望に対してだ。姫はまた声をかけたのだった。
「そのお薬は減りません」
「幾らふりかけてもですか」
「はい、減りません」
量は変わらないというのだ。
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