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歪んだ世界の中で

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第二十一話 与えられた試練その二

 一つ目だった。顔の真ん中に大きな目がある。この妖怪は。
「一つ目小僧かな」
「希望も一つ目小僧知ってるんだ」
「有名な妖怪だからね」
 だから知っているとだ。希望は千春に答えた。
「知ってるよ」
「そうなんだ」
「うん。そうだよ」
 また言う希望だった。
「あの妖怪のこともね」
「そうなんだ」
「うん。ただね」
「ただ?」
「この目で見たのははじめてだよ」
 もっと言えば妖怪を見たこと自体がはじめてだった。
「いや、本当にね」
「そうだったんだ」
「妖怪っているんだね。けれどだよね」
「皆心は同じだよ」
 違うのは姿形だけだというのだ。その心はというのだ。
「同じだからね」
「そうだね。じゃあ怖くないよね」
「怖いのは心がどうかだよ」
 姿形の問題ではないというのだ。恐怖というものもまた。
「その問題だよ」
「そうだよね。だから僕も怖くないよ」
 こう千春に言う。自分よりも二十五センチ以上は小さな彼女を見下ろして。
「大丈夫だよ」
「そうだよね。この二人の他にもね」
「うん、そうだね」
 見ればだった。彼等の他にもだった。
 様々な妖怪や精霊達がいた。彼等はというと。
 舌の長い老婆もいれば座敷童子と思われる子供達もいた。筆や皿が意識を持ち手足が生えたものや河童もいる。そうした妖怪達が大勢いた。
 その彼等がだ。希望を見て口々に言うのだった。
「で、そこの人間さんいいかな」
「ここにどうして来たのか言ってくれるかな」
「千春ちゃんと一緒にいるのはわかったけれどね」
「千春ちゃんの恋人だよね」
「そうだよね」
「うん、そうだよ」
 彼等のやたらとせわしない身振り手振りを交えての問いにだ。希望はこう答えた。
「僕は千春ちゃんの恋人だよ。そしてね」
「そして?」
「そしてっていうと?」
「千春ちゃんを助ける為にここに来たんだ」
 このことは自分から言った。希望自身の口から。
「そうしたんだ」
「千春ちゃんまさかと思うけれどさ」
「危なくない?」
「今身体悪いよね」
「そうだよね」
「うん。雷に当たったらしいんだ」
 このこともだ。希望は彼等に答えた。
「それで今弱っていて。このままだと消えるから」
「だからここまで来たっていうんだね」
「僕達のところに」
「そして姫様の御前に」
「来たっていうんだね」
「そうだよ。来たんだよ」
 ここでは毅然として言う希望だった。胸を張っている。
 その彼を見てだ。妖怪達はこう言い合った。
「ううん。恋人を助ける為にってね」
「まさか今時こんな純情な人がいるなんてね」
「ちょっと思いも寄らなかったね」
「だよね。立派だよね」
「千春ちゃんの恋人だけはあるね」
 まずはこのことを褒める。しかしだった。
 彼等は同時にだ。こうも話すのだった。
「けれど僕達じゃどうにもできないからね」
「そうそう。僕達の出来ることじゃないから」
「千春ちゃんを助けられるとなればやっぱり」
「お姫様だけだね」
「あの方だけだね」
 こう言ってだ。そのうえでだった。
 彼等は上座、御簾の向こうを見た。そこは畳が敷かれていた。 
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