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歪んだ世界の中で

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第二十話 災いの雷その七

「それはしなかったよ」
「だから偉いよ」
 千春は水槽の中だけでなく自分の隣にいる希望も見ながら話した。
「そうしたことがちゃんとできるのはね」
「だといいけれど」
「ザリガニさんも幸せだったと思うよ」 
 その希望に育てられて。そうだったからだというのだ。
「希望はいいことしたよ」
「有り難う。じゃあ今度はね」
「今度は?」
「千春ちゃんと一緒に何かの動物を飼ったら」
 その時にだというのだ。
「その動物をね」
「ザリガニさんみたいになのね」
「ちゃんと育てるよ」
「そうするのね」
「うん。けれどその時は」
「希望一人じゃないよ」
 千春から言ってきた。このことを。
「千春もいるからね」
「じゃあ二人なんだ」
「そう。二人だよ」
 一人ではないというのだ。ザリガニを育てた時と違って。
「二人だからね。その時はね」
「そうなんだ。それじゃあね」
「その時も楽しみにしておこうね」
「うん。あとね」
「あとって?」
「その飼ってたザリガニだけれど」
 最後の最後まで育てただ。そのザリガニの話に戻った。
「死んで終わりにしなかったから」
「お墓作ってあげたの」
「そうしたよ。けれどね」
「けれどって?」
「前のお家には作らなかったよ」
 あの家にはだ。そうしなかったというのだ。
「今のお家に。おばちゃん達に頼んでお庭に作ったんだ」
「どうしてそうなったの?」
「あの人達が駄目だっていうから」
 希望の両親、二人については『あの人達』だった。彼等からはもう完全に心を離している希望だった。そうした意味でもう親子の関係はなかった。
「それでもちゃんと葬ってあげたかったから」
「それでなの」
「うん、そもそも僕がザリガニ飼うのも嫌ってたし」
「いい生き物なのに。どうしてかな」
「あの人達は自分、それぞれ以外の皆が嫌いだったんだ」
 だからだというのだ。
「それも大嫌いだったんだ」
「自分しかないってこと?」
「二人共ね」
 一方がそうであるのではなくだ。両方がだというのだ。
「そうだったんだ」
「だからお庭にもお墓を」
「死体なんか庭に埋めるなって言われたよ」
「酷いね、それって」
「結局そうした人達だったんだよ」
 自分の生物学上の両親にはだ。希望は辛辣だった。
「だからなんだ」
「おばちゃん達は許してくれたの」
「いいことだって言ってくれたよ」
 おばちゃんだけでなくぽぽちゃんもそうだったというのだ。
「だから。今のお家のお庭に埋めたんだ」
「そのお墓今でもあるのね」
「何年も前にそうしたけれどね」 
 だがそれでもだというのだ。
「あるよ」
「そう。よかったね」
「そう思うよ。あの人達が駄目って言った時はどうしようかって思ったよ」
「そういうのも思いやりだよね」
「そうだよね。あの人達にはそれがないんだ」 
 しかもだ。全くだというのだ。 
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