月よ永遠に
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第三章
「残念だけれどね」
「これまで沢山の人が撃沈していますね」
「気付かれないでね」
堂々と言ってもというのだ。
「相手を傷付けない人だけれど」
「気付かない人なので」
「これまで誰もがね」
「告白して撃沈されて」
「駄目だったと泣き笑いで言っているわ」
こうした人間が多く出ているというのだ。
「残念だけれどね」
「では私も」
「応援はするわ」
伊東はそこから先はあえて言わなかった、ただこう言うだけだった。
「頑張ってね」
「わかりました、では」
池端は伊東に応えた、そしてだった。
八条にビアホールでビールを飲みながらそのうえで仕事の打ち合わせをしようと言った、そうしてだった。
八条からいいと言われて第一関門はクリアーした、首相である伊東の秘書として彼と話したいと言うと成功したのだ。
「よかったわね、実際にお仕事のお話もするわね」
「はい、防衛大臣であるあの方と」
日本のこの役職に就いている彼と、というのだ。
「総理の私設秘書として」
「そうね、こうした時に役職を使うのはね」
「いいですか」
「悪用は駄目だけれど」
それでもというのだ。
「実際にお仕事のお話をするならね」
「いいですね」
「ええ、だからね」
それでというのだ。
「この度はね」
「いいですか」
「では後はね」
「はい、八条さんとお話をして」
「ビアホールだから夜空も見えるし」
「そこで言わせてもらいます」
「漱石の言葉ね」
池端に微笑んで応えた。
「それをなのね」
「言わせてもらいます」
「わかったわ、では頑張ってきてね」
「そうさせてもらいます」
伊東に戦いに向かう声で応えた、そうしてだった。
池端は八条をあるビアホールに案内した、そこはビールもおつまみも美味しいと評判の店で実際にだった。
ビールもそちらも楽しめた、ソーセージもフライドポテトも枝豆も唐揚げも実によかった。二人で飲んで食べつつ仕事の話をして。
それが一段落した時にだ、池端は勝負に出た。
夜空を見上げてだ、八条に言った。
「月が奇麗ですね」
「あの」
八条は飲んでも乱れない、それで落ち着いた顔で応えてきた。
「今夜は月はないですが」
「えっ・・・・・・」
「星が多いです。天の川があります」
「あっ、それはそれの」
「天の川を言い間違えられましたか。同じ夜空にあるものなので」
空振りを確信し戸惑う池端に優しい笑顔で述べた。
「そうしたこともありますね、ですが」
「星空、天の川がですか」
「とても奇麗です、ではお仕事の話も一段落しましたし」
完全にペースを崩した池端にさらに言った。
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