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蛙岩

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第一章

                蛙岩
 鳥取県に伝わる話である。
この県はかつて出雲といったがその名前の頃のことである、この国に流れる小鹿川に一匹の大蜘蛛が棲んでいた。
 蜘蛛は川の近くの村々を襲い村人達を困らせていた、それで村人達は一体どうしたものかと悩んでいた。
 ここである村に住む弥六という男が名乗り出た。
「わしが大蜘蛛を退治するぞ」
「そう言うがな」
「あの蜘蛛は普通じゃないぞ」
「普通の大きさの蜘蛛じゃないぞ」
「しかも動きは速い」 
「足が八本もあるからな」
 蜘蛛だからだというのだ。
「それで壁も岩場も水の上も行くことが出来る」
「糸も自在に使うんだぞ」
「おまけに蜘蛛だから毒もあるぞ」
「あんな厄介な奴どうして倒すんだ」
「お前でも無理だぞ」
 大柄で逞しい身体の彼に言った、眉は太く男らしい顔立ちで目もきりっとしている。
「諦めるんだ」
「蜘蛛も何時か何処かに行くだろう」
「それを待つんだ」
「それが一番だ」
「それまでやられっぱなしでいいのか」
 弥六は諦めている村人達に反論した。
「それでいいのか」
「仕方ないだろ、あまりにも強いんだ」
「鬼よりましと思うことだ」
「実際鬼よりましだろ」
「だから諦めろ」
「もうな」
 村人達はこう言うばかりだった、だが。
 弥六はどうしても蜘蛛を退治して難儀を取り除きたいと思っていた、それで村の神社の神主に相談した。
 すると神主は暫し考えてから彼に答えた。
「なら氏神様に願をかけてみるか」
「そうしてか」
「そうだ、そして力を借りてな」
 氏神のそれをというのだ。
「蜘蛛を退治するか」
「そうするといいか」
「うむ、あの蜘蛛は人では勝てぬ」
 神主もこう考えていた。
「だからな」
「わかった、それでは早速な」
 氏神に願をかける、そうすると決めてだった。
 彼は神社の氏神に願をかけた、すると声がした。
「まことに大蜘蛛を退治したいか」
「その声は氏神様ですか」
「如何にも」
 その通りという返事であった。
「我こそが氏神である」
「出て来られましたか」
「そなたの願いがあまりにも強かった故」 
 出て来たというのだ。
「そうした」
「そうですか、何とかです」
「村を荒らし村人を苦しめる大蜘蛛を退治したいな」
「そうしたいです」
 村そして村人達の為にというのだ。
「何とか」
「わかった、その願い適えよう」
 氏神は弥六に答えた。
「そうしよう」
「そうして頂けますか」
「蜘蛛は蛙には勝てぬ」
 氏神はこうも言った。 
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