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改悪

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第一章

                改悪
 ファッションデザイナー三宅夏樹はこの時以来を受けた新作の服のデザインを考えていた、それでだった。
 自分の仕事場であれこれ資料を読んで描いたりして考えていた、しかし。
 自分で納得できるものが出なかった、それでコーヒーを飲みつつ呟いた。
「何かこう」
「いいものが出ないですか」
「うん」
 アシスタントである猪木敦矢に苦い顔で答えた。
「一着ね」
「そうなんですね」
「若い女の子の服を考えているけれど」
 短いパーマにして所々金色のメッシュを入れている、やや面長の顔で四角い眼鏡の奥の目は穏やかなものだ。背は一七〇位で痩せている。見れば服装な彼自身は今は仕事中でお洒落でもなくラフなものだ。
「それでもね」
「これはというものがですか」
「出ないですか」
「そう、とてもね」
 猪木に難しい顔で話した。
「出ていないよ」
「そうですか」
 猪木も三宅の話を聞いて難しい顔になった。切れ長の涼し気な目で顎の先が尖った面長の顔だ。癖のある黒髪をショートにしていて背は三宅より少し高い感じだ。やはり痩せていてすらりとした体格でラフな仕事着だ。
「スランプじゃないですね」
「他の服は順調だけれど」
「それでもですか」
「それだけはね」
 その若い女性用の服だけはというのだ。
「どうしてもだよ」
「いい服が出ないですか」
「そうなんだ、これはどうかな」
 三宅は自分の傍に立っている猪木にその服のラフ画、色鉛筆で色まで入れたそれを見せた。それで彼に問うた。
「とりあえずの草案だけれど」
「正直に言っていいですよね」
「それが一番いいからね、駄目ならね」
 それならとだ、三宅は猪木に返した。
「駄目と言ってくれたら」
「いいですか」
「うん、だからね」
 それでというのだ。
「駄目なら」
「駄目と言っていいんですね」
「それでどうかな」
「駄目かと、軍服みたいで堅苦しいです」 
 その詰襟でくるぶしまでのロングスカートのそのラフ画を見て言った、見れば服の色は上下共ダークブラウンである。
「ドイツ軍じゃないですから」
「二次大戦中のかな」
「はい、これはどうもです」
「よくないんだね」
「ズボンにして若い男性用にするなら兎も角」
「今の若い女の子にはだね」
「二十代の人の服ですか?」 
 猪木は問うた。
「その服は」
「十代の娘を考えてるよ」
「余計に駄目かと。アニメの女性キャラの軍服でもそんなの今頃ないよ」
「そこまで駄目だね」
「はい、どうも」
「そうか、じゃあこれでどうかな」
 それならとだ、三宅はすぐにだった。
 新しいラフ画を描いた、それも猪木に見せて問うた。
「今度はどうかな」
「前よりも駄目ですよ」
「前よりもかい?」
「今度はズボンでしかも黒で赤いネクタイのスーツタイプって」
 今度はそうしたデザインだった。
「ブラウスは白、肩パットも入れてブーツもですね」
「長い黒のね」
「これナチスですよ」
 猪木は顔を顰めさせて言った。
「さっきの以上に駄目ですよ」
「ナチスだと思われたら」
「さっきのは普通に十代の女の子向きじゃないですが」
 それで話が終わるがというのだ。 
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