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幻の月は空に輝く

作者:国見炯
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課外授業に行こう・1



 突然、にっこにことした機嫌の良さそうな父さんが近づいてきた。
 ナルトと居る時は気をつかってあんまり近づかないんだけどね。

「ラーン。アカデミーの授業はどうかな?」

「……」

 アヤシイ…。
 アカデミーに通いだしてからというもの機嫌が悪そうだったのに、どうしてこんなに上機嫌なんだろう。
 思わず無言のまま後ろに下がったら、逃がさないとばかりに肩をガッチリと掴まれた。 事の成り行きがわからなくてナルトは傍観してるんだけど、どうやらナルトも訝しんでいるらしい。
 そうだろうね。今の父さんは本当にあやしいよね。

「きっと、既に教わってる事が大半だから、退屈しちゃってるよな? な?」

「………」

 確認というよりは断定してくる父さんを、目を細めて見ているんだけどどうやら答えるまで離す気はないらしい。
 痛くはないんだけど、ガッチリと掴まれているから身動きが取れなくてすごく不便。

「別に。再確認出来て…」

 勉強になる。と言おうとしたんだけどね。再確認という言葉を聞いた瞬間父さんの眼が輝いた。輝いたというか、待ってましたとばかりににんまりと笑う。
 だからすっごくあやしいんだけど、一体何を企んでるのかがまったくわからない。アカデミーの授業は確かに暇だけど、人間関係を構築するには良い環境だし。
 それは母さんからの説得でわかっているはずなんだけど、今の父さんは何だろうなぁ。

「そうかそうか。ランは勉強熱心だな! 流石俺とセイカの子供だ!」

 いつもだったら娘だって言うんだけど、ナルトが居るから子供にしたらしい。

「じゃ、課外授業に行こっか!」

「は?」

 今度こそ首を傾げる私に、父さんは続ける。

「課外授業だよ。今の所アカデミーを休んだ所で授業に遅れる事はなさそうだしな。折角の機会だ。俺の外の仕事についておいで」

「外の仕事って…」

「今から出発するぞー。荷物はセイカが準備してくれてるから大丈夫だ」

 何が大丈夫なのかまったくわからないんだけど。
 そして今はナルトとデザインを考えてたんだけどね。折角……折角ナルトが工房まで来てくれたというのに、ここで一方的にまたねー、なんて言って家に帰したくなんかないんだけど。ご飯も一緒に食べようって思ってるし。
 私の戸惑いに気づいたのか、父さんは笑みを濃くする。
 …嫌な予感しかしないんだけど。
 そう思ってナルトを見ると、肩を竦められた。
 どうやら、ナルトも雲行きがあやしいと感じてるらしい。

「大丈夫大丈夫。ナルトも一緒に行くからなー」

「「……」」

 父さんのこの言葉には、ナルトも眉間に皺を寄せて口を噤んだ。
 
「父さん。ナルトもアカデミーが」

「大丈夫だ。手回しは済んでるからな」

「「………」」

 だから何が大丈夫なんだと言いたいけど、今の父さんに通じるとは思えない。それに、里の外に興味がないわけじゃないし。
 私の興味に気づいたのか、ナルトは諦めたように息を吐き出した。

「いいぜ。暇だし、付き合ってやるよ」

「ナルトはいい子だなー。じゃ、行くかー」

「……」

 ナルトって、父さんや母さんの前だと猫かぶり止めるよね。









 外套を深く被り、口元には布を巻く。
 露出する肌を極端に少なくしつつ、目元にはゴーグル。私の場合はバンダナを巻いてるから、肌はほぼ出ていない状態だったりする。
 ナルトや父さんも似たり寄ったりだけど。
 しかし風も木ノ葉より強いし砂も凄い。
 木ノ葉とはまったく違う景色に目を奪われている私の手を、ナルトが引っ張って歩いていく。こうしてると、どっちが年上なのかわからなくなってくるんだけどね。

「砂隠れは相変わらずだな」

 ぼそり、と呟く父さん。
 しかし、木ノ葉以外にも顧客がいるんだね。初めて知ったよ。
「ここが砂隠れか。本じゃ見て知ってたんだけどな。実際見ると本当に砂が多いな」
「あぁ」
 景色は漫画と変わらないんだけど、やっぱり自分の眼で見ると違うよね。そんな砂隠れの里の景色を堪能しながら、私とナルトは父さんの背中を追って歩く。
 それから少しの間歩いてたんだけど、突然父さんが立ち止まった。その勢いのままくるり、と後ろを振り向くと、何処から出したのかウエストポーチを手渡される。
 何だろうと思いながら受け取ると、父さんが木ノ葉で見た時より爽やかな…いつもの表情で笑う。
 うん。そっちの方がいいよね。
 なんていうかさ。あの時の表情はやっぱり色々と含んでそうで怖いというか、なんと言うか…。
「少しこの辺りで遊んでてくれるか? 俺は依頼者と会ってくるから……そうだな。二時間ぐらいか?」
 考え込むような表情は仕事の時の顔。
 私とナルトに確認するように言うんだけど、特に異論があるわけじゃなく二人揃って頷いた。
 父さんの仕事を見るのは好きだけど、依頼人との会話を聞きたいわけじゃないし。ナルトも父さんに付いていくより、砂隠れの里を探検する方に興味があるのか、既に視線は四方八方に飛んでいる。
「くれぐれも怪我をしないようにな。怪我したら…」
「大丈夫。父さんも気をつけて」
 何か凄い恐ろしいものを背後に登場させた父さんの言葉を遮るように、私は言い切る。それにナルトも頷いたかと思うと、追い払うように手を振った。
「早く行かないと、ランと合流するのが遅くなるぞ」
「…それは仕方な…」
「そうだったな。じゃ、行ってくるからなー」
「……」
 あっという間に父さんの姿が掻き消えた。
「チッ。やっぱ速いな」
 しかもナルトが不満気だし。
 父さんは速いけどね。カカシと比べても遜色ないんじゃないかな。私との実力差が離れすぎている所為か、父さんの実力は強いとしかわからないんだけどね。



 
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