イベリス
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第三十一話 男の子の食べものその一
第三十一話 男の子の食べもの
咲は学校に行くとクラスの男子生徒の一人浜崎慎太郎の嘆きを聞いていた、彼は自分の席に緑の葉をうず高く積んでいた。
そしてだ、周りにいる面々に困った顔で言っていた。
「今日中なんだよ」
「それ食わないといけないんだな」
「それだけの柏餅とちまきを」
「大変だな」
「売れ残ったんだな」
「それだけ」
「ああ、売れて店としては黒字だったけれどな」
彼は実家の和菓子屋の話もした。
「けれどな」
「それでもか」
「売れ残りがそこまで出たんだな」
「また難儀だな」
「それだけのものどうしにかしないといけないって」
「大変だな」
「ああ、どうしたらいいんだ」
彼は真剣に悩んでいた。
「一体な」
「どうしたらって食うしかないだろ」
「今日までだったらな」
「ここで売りさばく為に持ってきたんだろ」
「そうだろ」
「先生には内緒だぞ」
彼は友人達にこのことを断った。
「それで親に半額でってな」
「売って来いってか」
「言われたか」
「そうなんだな」
「店でも売るけれどな」
それでもというのだ。
「学校でもな」
「捌けるだけ捌けっていうんだな」
「お店も大変だな」
「そこまでしないと駄目か」
「見せの宣伝にもなるからな」
こうも言うのだった。
「いや、うちの店マジで美味いからな」
「確か老舗の和菓子屋だよな」
「それも享保かそれ位からの」
「それ位からのだよな」
「ああ、江戸時代の中頃から続いてるな」
まさにそこからだというのだ。
「古い店で幕末の地震も関東大震災も空襲も生き残ったんだよ」
「幕末って安政のあれか」
「あれも大変だったらしいな」
「あの地震も凌いでか」
「それで関東大震災も空襲もか」
「火事もあったけれどな」
江戸は火事も多かった、そしてその火事からも復活してきた街であるのだ。
「それでもな」
「生き残ってきたか」
「そうした店でか」
「その味の宣伝もしたいんだな」
「そうなんだな」
「ああ、だからな」
それでというのだ。
「半額で買ってくれ」
「よし、それじゃあな」
「安いし買うな」
「それでどんな味か確かめさせてもらうな」
「そうするな」
「ああ、頼むな」
こうしてだった。
その柏餅とちまきは売れていった、だが彼は男子生徒達だけでなく。
女子生徒のところにも行って言ってきた。
「皆も食ってくれる?」
「いいの?私達も」
「女の子も食べていいの?」
「柏餅とかって男の子が食べるものでしょ」
「端午の節句ってそうした日だし」
「だからね」
「私達もいいの?」
「いいよ、というか食ってもらって」
そうしてというのだ。
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