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イベリス

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第三十話 ゴールデンウィークが終わってその五

「そうした文章を読むよりも漫画とかゲームをして」
「わかりやすい本をですか」
「変な哲学書を読んでも時間の無駄だから」
 部長はまたしても言い切った。
「読まなくていいよ」
「時間の無駄ですか」
「無駄だよ」
「そうですか」
「難しいイコール凄いじゃないんだ」 
 部長は咲にこのことを強く言った。
「真理は単純明快でね」
「わかりやすいんですね」
「数学の公式とかと違うから」
「学校の授業でわからないことをわかると凄いですが」
「それは公式覚えるとか問題の解き方理解するだけで」
 そうしたものでというのだ。
「またね」
「違うんですか」
「その公式とかも教え方が上手な先生が教えるとわかりやすいね」
「そうですね、確かに」
「それで哲学書も」
 こちらもというのだ。 
「変な造語とかおかしな文章でわからないと」
「読んでも時間の無駄ですか」
「そう、だからね」
「そうした本を読むよりは、ですか」
「漫画とかライトノベルを読んでね」
「ゲームをした方がずっといいんですね」
「そうだよ、何か戦後の日本の思想家って言っても」
 部長は眉を顰めさせていた、そのうえでの言葉だった。
「ぱっとしないよ」
「そうですか?」
「作家でも大江健三郎なんて」
 ノーベル文学賞を受賞したその作家の名前を出した。
「実は自衛隊全廃言っていて北朝鮮のお話観て感激して泣いたとかね」
「えっ、北朝鮮ですか」
 咲もその国の名前には思わず聞き返した。
「あの国は」
「もう言うまでもないよね」
「漫画か特撮の悪役みたいな国じゃないですか」
「昔はそうは思われてなくてね」
「普通の国って思われてたんですか?」
「むしろいい国だってね」
 その様にというのだ。
「思われていたよ」
「そうだったんですか」
「拉致とか色々やっていたけれど」
「そのことも有名ですよね」
「その拉致はないとか言っていた人もいたしね」
 政党でも存在していた、社会党という政党だ。そして多くの識者もそう言うか知っていても無視していた。
「けれど当時から噂になっていたんだ」
「拉致をしているって」
「うん、もうね」
 それこそというのだ。
「ウルトラマンタロウでも扱われていたよ」
「そうなんですか」
「凶悪な宇宙人が善良な宇宙人を攫おうとする話があってね」
 吊り目で刀を持った宇宙人が垂れ目の宇宙人を砂漠の上でそうしようとしていた、この砂漠が拉致が行われた鳥取砂丘だという。
「それでね」
「そのお話がですか」
「そうとも言われてるけれど」
「北朝鮮って当時から悪いことをしていたんですね」
「だから拉致問題があるんだ」 
 今も尚というのだ。
「そしてその北朝鮮をね」
「大江健三郎は好きだったんですか」
「それで自衛隊は大嫌いで」
「なくせって言ってたんですか」
「そんな人だったしね」
 当時はそうした知識人も多かったのだ、これが戦後知識人のレベルだったのか。 
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