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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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G編
  第106話:手向けのお節介

 
前書き
どうも、黒井です。

今回でG編もラストとなります。尚後書きにちょっとしたお知らせがありますので、最後までご覧くださると幸いです。 

 
 爆散するネフィリムの姿を、ワイズマンが遠見の魔法で見ていた。仮面で顔が隠れているので表情は伺えないが、握り締められた拳を見る限り不愉快に思っている事だけは察する事が出来る。

「……ふん、まぁいい。まだ終わりではない」

 視線が動くその先に居るのは、ガルドに追い詰められているメデューサの姿。
 ワイズマンはウェル博士を操り次の行動を起こそうとした。

 その時、足元で倒れていた弦十郎が飛び起き、ワイズマンに殴り掛かった。

「ぬん!」
「おっと」

 完全に不意を打ったと思った弦十郎だが、ワイズマンはそれを余裕を持って回避。攻撃を空振った弦十郎にお返しの蹴りを見舞い吹き飛ばした。

「ぐぉっ?!」

 蹴り飛ばされた弦十郎は壁に叩き付けられるも、直ぐに体勢を立て直し拳を握り締める。それを見てワイズマンは少し感心したような声を上げた。

「ほぉ、まだ動けるか。流石に伊達ではないようだな」
「甘く見て貰っちゃ困る!」

 再び殴り掛かる弦十郎をワイズマンが迎え撃とうとする。だがその時、ワイズマンの動きが縫い留められたようにピタリと止まった。

「ん?」

 何事かとワイズマンが視線を足元に向けると、自分の陰にクナイが刺さっているのが見えた。視線を動かせばそこにはこちらも何時の間にか意識を取り戻していた慎次の姿があった。彼の得意とする忍術、影縫いだ。

「児戯が…………フン!」

 ワイズマンは慎次の忍術を鼻で笑うと、全身から魔力を放出させ迫る弦十郎を吹き飛ばす。吹き飛ばされたのは弦十郎だけでなく、自分の動きを拘束しているクナイも吹き飛ばし影縫いを破った。

「くぅっ!?」
「小癪な真似をしてくれるな」

 拘束から逃れると、とりあえず再び同じ事がされない様にと慎次に迫り腹を蹴り飛ばした。

「ぐはっ?!」
「緒川ッ!?」

 身構えるよりも早くに腹を蹴り飛ばされ、壁に叩き付けられた慎次はダメージで再び意識を手放した。

 これで邪魔者は弦十郎のみ。さっさと始末してしまおうと赤い光の刃を出し迫るワイズマンを前に、弦十郎は拳を握り身構えていた。

 そのワイズマンの背後から、ウィズが飛び出し後ろから斬りかかった。

「ふん!」
「むっ!?」

 今度はウィズからの奇襲に、ワイズマンは一瞬反応が遅れ回避するも僅かに攻撃が掠った。ウィズはそのままワイズマンに攻撃を続け、ハーメルケインを縦横無尽に振り回す。

「くっ!? 流石に戦えるまでには回復したか、ウィズ?」
「流石に寝ている場合では無かったんでな。風鳴 弦十郎!」
「応ッ!」

 ウィズが参戦した事で流れが変わった。持ち直した弦十郎とウィズが揃ってワイズマンに立ち向かう。振るわれる拳と刃を、ワイズマンは両手の光刃で捌くがその勢いは先程に比べて明らかに悪い。

「くっ、流石にこの2人が相手だと厳しいものがあるな」

 弦十郎だけであれば圧倒する自信があった。肉体的には化け物でも魔法に対しては無力に等しい。やりようは幾らでもある。
 またウィズだけであれば、ウィズには戦いに制限が掛かっているので勝てる自信があった。

 だがこの2人が同時に向ってくるとなると途端に厄介になる。魔法はウィズに防がれ、振り下ろされる拳はワイズマンの防御を容易く抜いてくる。

 それでも簡単には倒せない辺り、ワイズマンも十分に化け物だ。

「そこぉっ!」
「甘いな」

 振り下ろされたウィズのハーメルケインを、ワイズマンの光刃が弾き飛ばす。弾かれたハーメルケインはウィズの手を離れ、天井に向け飛んでいく。

 それこそがウィズの狙いであった。

「今だ!」
〈チェイン、ナーウ〉

 剣が弾かれた瞬間、ウィズは予め指にはめていた指輪をハンドオーサーに翳した。発動した魔法により頭上から伸びた魔法の鎖は、弦十郎に巻き付き彼を上へと連れ去っていく。

 突然引っ張り上げられた事に、しかし弦十郎は慌てる事は無かった。この瞬間、弦十郎はウィズの思惑に気付いたからだ。

 弦十郎が引っ張り上げられた先には、今し方ウィズの手から離れたハーメルケイン。引っ張り上げられた事で一気に接近したそれを、弦十郎は掴み降下しながらワイズマンに向け振り下ろした。

「おぉぉぉぉっ!」
「なっ!?」
〈バリヤー、ナーウ〉

 まさか弦十郎が剣を使う事になるとは思っていなかったワイズマンは、意表を突かれた事もあり回避ではなく防御を選択してしまった。障壁を頭上に張り、弦十郎の斬撃を受け止めようとした。

 普通であれば戦車砲の一撃をも余裕で耐える障壁。だが弦十郎の膂力で放たれた斬撃は、僅かな拮抗の後にワイズマンの障壁を砕きその下にあった鎧を切り裂いた。

「ぐぅっ?!」
「よし!」

 漸く叩き込んだ一撃。確かな手応えに弦十郎は拳を握り、ウィズにガッツポーズを向けハーメルケインを投げ返した。
 ウィズは、弦十郎のガッツポーズに手を軽く上げ応えると返されたハーメルケインに異常がないかチェックした。仕方が無いから弦十郎に貸したが、正直彼に貸して無事に返ってくるか不安だったのだ。握力で柄が握り潰されたり、刀身が折れたり歪んだりしていないかと念入りにチェックする。これでもし破損するような事があれば、アルドに冷ややかな目で見られてしまう。

 一方胸部を強かに斬られた部分を押さえながら数歩下がった。

「ふ……やるではないか」
「まだやるか?」
「油断するな。こいつは何を仕出かすか全く分からない」

 ここでワイズマンと決着を付けようとする弦十郎と、ワイズマンがまだ何かをすると確信しているウィズ。
 それでも徐々にワイズマンを追い詰める2人だったが、だからこそ彼らは気付かなかった。

 ワイズマンにまだ操られているウェル博士が動いている事に……。

「くくく……」
「?……何が可笑しい?」
「いや? 随分と暢気だと思っただけだ。爆弾はまだこちらの手の内にあるというのにな」

 最初2人はワイズマンが何を言っているのか分からなかったが、ウィズはその言葉の意味に気付いた。
 彼がしまったと思った時にはもう遅かった。

「まさか――!?」

 ウィズが振り返った先では、ウェル博士が何かを操作している。何を操作しているのか? そんなの、考えるまでも無かった。

「ワイズマン! 貴様何をした!!」
「どうした?」
「あいつ、この期に及んでネフィリムに何かを命じた。だが倒されたのではなかったのか?」
「そんな訳が無いだろう。やられたのは外側だけで肝心の部分はまだ無事だ」
「くっ!」
〈ヴィジョン、ナーウ〉

 一体今どうなっているのかとウィズが遠見の魔法で今の颯人達の様子を見ると…………そこではもはや残骸となっているネフィリムにメデューサが取り込まれつつある光景が広がっていた。

「こ、これは――!?」
「では私はそろそろ失礼するよ。流石にそろそろ疲れたのでね」
「逃げるのか!?」

 遠見の魔法で見える光景に気を取られている隙に、ワイズマンは逃走の用意を整えていた。弦十郎が取り押さえようとするが、それより早くにワイズマンはその場から姿を消してしまう。

「ではな。もし君らが生き残れたらまた会おう」
〈テレポート、ナーウ〉

 ワイズマンは一方的にそう言って転移の魔法でその場から去っていってしまった。ワイズマンがこの場から消えたからか、ウェル博士に掛けられていた魔法も解け彼はその場に崩れ落ちた。

 後に残されたのは博士同様意識を失った慎次と、弦十郎とウィズのみである。

「クソッ!? やられた……ウィズ、俺達も――」
「バカを言うな。お前があれに飛び込んでも無駄死にするだけだ。私も完全ではないから足手纏いにしかならん。今は颯人達に任せるしかない」




***




 颯人達は困惑していた。漸くネフィリムを倒せたと思ったら、爆炎の中から心臓と骨だけと言っても過言ではない、残骸となったネフィリムが飛び出したかと思ったら一直線にメデューサの方へと向かって行ったのだ。肝心のメデューサは、ガルドに追い詰められており反応が遅れた。

「――――ん?」
「Gaaaaaaaaa!!」
「なっ!?」

 突然襲い掛かってくるネフィリムの残骸。味方だと思っていたネフィリムが明らかに敵意を剥き出しにして襲い掛かってきた事に、メデューサは混乱して動きを止めてしまった。

 それが彼女の命取りとなる。メデューサに襲い掛かったネフィリムは、そのまま全身でメデューサを取り込み始めたのだ。

「何を、止め――!? ぐ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」

 ネフィリムに取り込まれるメデューサの叫び声が辺りに響き渡る。

 今の今までメデューサと対峙していたガルドは、突然の事態に訳が分からずその場で立ち尽くす。そこに颯人達も合流した。

「おいおい、一体何がどうなってるんだ?」
「こっちが聞きたい。ネフィリムは倒したんじゃないのか?」
「大方あの博士が悪足掻きしたんだろうよ」

 颯人とガルドが話している間に、ネフィリムはメデューサを完全に取り込んでしまった。

 姿形は大体ネフィリムのそれだが、先程と違ってメデューサの様な蛇の髪に近いものを持っている。大きな口はそのままだが、頭にもメデューサの名残が見受けられる。

 それは言うなればメデューサネフィリム。ワイズマンによりネフィリムがメデューサを取り込んだ新たな姿であった。

 その時、本部から通信が入った。相手は了子だ。

『皆、聞こえる?』
「了子さんかい? バッチリだよ」
「了子さん! なんかネフィリムが変な事になったんだけどあれ大丈夫?」

 颯人と奏の質問には若干の希望も混じっていた。どうかこれ以上厄介な事にならないでくれと言う。

 だがその希望は容易く砕かれた。

『大丈夫なんかじゃないわ。今観測したんだけど、ネフィリムにどんどんエネルギーが集まっているの。恐らくネフィリムの特性を制限なしで最大限働かせているみたいね。このままだとフロンティアのエネルギーも全て吸収しつくして、強大なエネルギーを有する存在へと昇華してしまうわ。そのエネルギー、実に一兆度よ!』

 途方もなさすぎる数字に一瞬理解が追いつかなかった颯人達だが、とにかくヤバい事になるだろう事は分かった。

「ちょっと数字が大きすぎて想像つかない。どれくらいヤバいの?」
『地球丸ごと蒸発するほどのエネルギーよ!』
「オーケー、何とかしないとやばい事はよく分かった。後は俺らに任せな」
「任せろったって、颯人どうする気だよ?」

 どうするかと聞かれれば、颯人も迷ってしまう。今のネフィリムは現在進行形でエネルギーを溜め込んでいる爆弾だ。倒すにしても、無策で倒したらそれは地球を消滅させるほどのエネルギーを解き放つことを意味する。つまり地球消滅のスイッチを押す事になるのだ。

 どうしたものかと悩む颯人に、メデューサネフィリムが襲い掛かる。

「ウィザードォォォォォ!!」
「うおっと!? 何だ、あいつネフィリムの癖に意識あるぞ。メデューサを取り込んだからか?」

 颯人の予想は概ね当たっていた。一度は倒されエネルギーの大半を失ったネフィリムは、メデューサを取り込んだことで消滅を免れるだけのエネルギーと同時にある程度の自我を得てしまったのだ。

 颯人への攻撃に失敗したメデューサネフィリムは、次の標的に透を選んだ。

「裏切リ者ォォォッ! 殺スゥゥゥゥッ!!」
「コイツ!? いい加減しつこいんだよ!!」
「調!」
「うん!」

 透に襲い掛かるメデューサネフィリムを、クリス・切歌・調の3人が迎え撃つ。苛烈な弾幕と飛び交う刃に、思わず足を止めるメデューサネフィリム。

 それを見て颯人はピンときた。

「そうだ! あるじゃねぇかよ、アイツが思いっきり吹き飛んでも誰も困らない場所が!」
「何処?」
「ノイズの巣窟があるだろうがよ!」

 颯人の目に入ったのはクリスの腰にぶら下がっている畳まれたソロモンの杖。あれはバビロニアの宝物庫とこの世界を繋ぐ謂わば鍵。
 あれを使えば、逆にこちらからバビロニアの宝物庫への穴を開ける事も可能なのでは?

「クリスちゃん! そいつでバビロニアの宝物庫を開けるって出来るか?」
「! なるほど、その手が!!」

 クリスはソロモンの杖を展開し、メデューサネフィリムの背後に向ける。

「人を殺すだけじゃないって、やってみせろよ! ソロモォォォォン!!」

 クリスの手により、バビロニアの宝物庫が開かれた。虚空に開いた大穴の向こうには、無数のノイズの姿が見える。

「よっしゃ! あそこにアイツを突っ込め! そうすりゃアイツはノイズ共と勝手に心中してくれる!」

 颯人の言葉を合図に、その場の全員が一斉にメデューサネフィリムに向けて攻撃を仕掛ける。

「今まで私達を小馬鹿にしてくれた……」
「お返しデェェェェェェス!」

 調と切歌の丸鋸と大鎌が切り裂く。切り裂かれたメデューサネフィリムは、叫び声をあげながら蛇の髪を伸ばして反撃しようとする。

「させるかっ!」
「ハァッ!」

 それを翼とマリアの剣が細切れにした。鋭い斬撃が切歌と調に向けて伸びていた蛇の髪を切断し、ついでとばかりにバビロニアの宝物庫へ向けて蹴り飛ばした。

「ヌアァァァァッ! サセルカ、サセルカァァァ!?」
「もういい加減、お前との縁もうんざりなんだよ!!」

 それでも抵抗して、前に進もうとするメデューサネフィリムをクリスのアームドギアのビームが更に押し込む。
 メデューサネフィリムとバビロニアの宝物庫の入り口との距離はあと少し。

「行くぞ響!」
「はい! おりゃぁぁぁぁぁっ!!」

 最後の一押しをと、奏と響のガングニールコンビが突撃する。奏はアームドギア、響は腕に作り出した槍で、メデューサネフィリムを突きその勢いで一気にバビロニアの宝物庫の中へと押し込んだ。

「入った!」
「いや、まだ浅い! 透、ガルド、やるぞ!」
「!」
「あぁ!」

 颯人は構えを取り胸のドラゴンの口内に炎を宿し、透は剣を構え魔力を剣にチャージする。
 そしてガルドは、右手の指輪を4色の物に変えるとそれをガンランスのハンドオーサーに翳した。

〈クアトロマジック、ブラストストライク!〉

「こいつでぇぇ!」
「終わりだ、メデューサ!」

 颯人のドラゴンの炎、透の飛ぶ斬撃、そしてガルドの魔法の砲撃がメデューサネフィリムをバビロニアの宝物庫の奥へと吹き飛ばそうとする。
 だがメデューサネフィリムもやられてばかりではなかった。3人の魔法が直撃する寸前、メデューサネフィリムは再生させた蛇の髪に魔力を集束し、それを一斉に颯人達に向けて放った。

 強力な魔力弾。ネフィリムの特性により片っ端から吸収したフロンティアのエネルギーも上乗せしてのそれは、一発一発がバニッシュストライクを超える威力となっていた。それが雨霰と降り注ぐのだから溜まったものではない。

「うわぁぁぁぁぁっ!?」
「がはぁぁぁっ?!」

 強烈な弾幕が辺り一面を吹き飛ばす。その威力は颯人達は勿論、エクスドライブモードの装者達ですら大ダメージを追うほどのもの。爆炎が晴れた時、そこには全身ボロボロで倒れ伏した装者と魔法使い達の姿があった。

「あんの、野郎!? 最後の最後で……」
「だが、無駄な抵抗だ。奴はバビロニアの宝物庫で滅びる」

 ガルドの言う通り、メデューサネフィリムは颯人達の最後の一撃によりバビロニアの宝物庫の彼方へと飛んでいく。

 その時、メデューサネフィリムから何かが剥がれて宝物庫から飛び出してきた。

「ぐぅぅぅ……」
「め、メデューサ!?」

 それは何とメデューサ。皮肉な事に、颯人達の最後の攻撃がメデューサとネフィリムの繋がりを絶ち分離を可能にしてしまったのだ。
 しかしメデューサはこの時点で既にボロボロ。分離に際してかなりの無茶をしたのか、もう戦える状態とは言い難かった。あれではそう長くはもつまい。

「ま、まだだ……せめて、お前達を道連れに……」

 覚束ない足取りでメデューサが向かう先には、ソロモンの杖。先程の砲撃でクリスから離れて飛んでいったのだ。

「やべぇ、あいつソロモンの杖で宝物庫を更に大きく開けるつもりだ!?」
「それじゃ、ネフィリムの爆発がこっちに来ちまう!?」
「そんな、駄目!? それじゃ、地球まで――!?」
「おい、誰か止めろ!?」

 阻止したいところだが、先程の砲撃で全員ボロボロだ。立ち上がる事すら難しい。このままでなメデューサの最期の悪足掻きにより、颯人達どころか地球が消し飛んでしまう。

 その時だ、彼方からこちらに走ってくる人影があった。懸命に足り寄ってくる、その相手の正体は響が誰よりも信頼しているあの少女――――

「未来!」
「響ぃっ!」

 駆け寄ってくる未来。状況は見たままにしか理解できないが、それでも今自分が何をすべきなのか、何が出来るのかは直感で分かるらしい。迷う事なく真っ直ぐソロモンの杖へと駆けていく。

 だが悲しいかな、メデューサと比べてスタート地点が絶望的に離れ過ぎている。どう頑張っても未来が辿り着くよりもメデューサがソロモンの杖を手に取る方が早い。

 その状況に、颯人がいち早く立ち上がった。もう体が限界なのを、気合で堪えて立ち上がったのだ。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 野郎共気合入れろぉぉっ!! ここが男の見せ所だぁぁっ!!」

 とは言え自分1人では不安が残る。故に颯人は、この場に居る同じ魔法使いにして男である透とガルドに発破を掛けた。ここで気張らねば男ではないと、らしくなく熱い声を上げた。

「くっ、ぬあぁぁぁぁぁっ!」
「!!!!」

 颯人の檄に触発され、透とガルドも立ち上がった。互いに相手の腕を掴み、引っ張り合う事で互いの体を引き揚げる。

〈〈チョーイイネ! キックストライク、サイコー!〉〉
〈イエス! キックストライク! アンダスタンドゥ?〉

 立ち上がった魔法使いの3人は同時にキックストライクを発動するち、颯人はコートの裾を翻し、透はクラウチングスタートの体勢を取り、ガルドはその場に膝をついて地面を叩く。

「「ハァッ!!」」

 そして3人は同時に飛び蹴りを繰り出す。各々右足に魔力を溜め、それをメデューサに叩き込む。メデューサはソロモンの杖に意識を集中していた事と、そもそも体が既にボロボロなのもあって回避は不可能だった。

「――ハッ!?」
「「ハァァァァァッ!!」」

 放たれた3つの飛び蹴りが同時にメデューサに直撃し、ソロモンの杖を飛び越えてフロンティアの外へと蹴り飛ばされていく。

「うあぁぁぁぁぁぁぁっ!? おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 フロンティアの外に蹴り飛ばされたメデューサは断末魔の叫びをあげながら爆散した。
 これで未来の障害となるものは存在しない。

 一方バビロニアの宝物庫の中では、もう今正にネフィリムが臨界点に達し爆発する寸前となっていた。もう時間はない。

「未来ちゃん! その杖あの中に放り投げて!!」
「はいっ!」

 言われるままに未来はソロモンの杖を拾いあげ、バビロニアの宝物庫へ向けて投擲する。あの位置からではどう考えても届かないだろう距離だが、未来は全力で投擲した。

「お願い、閉じてぇぇぇぇぇっ!」

 投擲されたソロモンの杖は信じられない事に放物線を描く事なく真っ直ぐバビロニアの宝物庫へと飛んでいく。まるでバビロニアの宝物庫がソロモンの杖を引き寄せているかのようだ。

「もう響が、誰もが戦わなくていいような……世界にぃぃぃぃぃぃっ!!」

 そしてソロモンの杖が突入すると同時に、バビロニアの宝物庫が閉じた。直後、臨界点に達したネフィリムが一兆度の熱量を放出しながら爆発した。颯人達には知る由もないが、その爆発によりバビロニアの宝物庫の内部に居たノイズは根こそぎ焼き払われた。

 これによって今後、世界がノイズの脅威に晒される事は無くなったのである。颯人達は二重の意味で世界を救ったのだ。

 だが颯人達にそれを喜ぶ余裕はなかった。

 今はとにかく、疲れた。




***




 その後、夕日に照らされるフロンティアの上にまだ颯人達は居た。

 エネルギーを根こそぎネフィリムに吸い取られたフロンティアは海に着水し、自衛隊やマスコミが上陸している。

 その事後処理の様子を、颯人が奏と共に遠巻きに見ていた。響を始めとした他の装者や魔法使い達は、ここから少し離れた所に居る。

「…………お」

 ぼんやりと事後処理の様子を眺めていた颯人の目が、連行されるウェル博士の姿を捉えた。
 ウェル博士は明らかに意気消沈した様子だ。無理もない。今回の騒動で彼は徹底徹尾利用された形になるのだ。間違った形ではあるが英雄になる事を目指し、ひた向きに進んできたその活躍を横からジェネシスに掻っ攫われ、最後にはワイズマンの操り人形としてネフィリムを使い潰された。自分のやってきた行動が全て妨害ではなく利用と言う形で第3者の手により崩されたのだ。
 流石に堪えたのだろう。

 そんなウェル博士に颯人は近付いていった。

「よっ、博士。景気悪い顔してんなぁ?」
「…………何の用ですか? 体のいい傀儡だった僕を、笑いにでも来たんですか?」
「あ~ぁ、完全にへそ曲げてるよ。どうする颯人?」

 今までの様子が見る影もないほどやさぐれた様子のウェル博士に、奏は少し意外そうな顔をした。彼ほど英雄となる事に拘り続けた男なら、死んで英雄として語り継がれる事を頼みの綱にでもするかと思ったのにそれすらしないのだから。

「……安っぽい理想だなぁ」
「何ですって?」

 そのウェル博士に対する、颯人がとった行動は挑発だった。

「安いって言ったんだよ。あれだけ英雄英雄って豪語してた奴が、ちょっと失敗しただけで簡単に折れてさ。こんな奴に散々振り回されてたかと思うと逆に情けなくて仕方ねえよ」

 それは挑発としてはとても安いものだった。学生同士がやるような、目に見えて相手の痛い所を雑に突く陳腐な挑発。

 だがウェル博士はそれに食い付いた。元より知能はともかく、精神的には英雄と言う子供っぽいものを求める性格からして本質的には子供な部分が残っているのだろう。颯人の挑発は効果覿面だったようで、言葉にならない喚きを上げながら颯人に迫る。勿論それを自衛隊員が見逃すはずもなく、直ぐに肩を左右から掴まれた。

 動きを押さえられたウェル博士に対し、颯人は不敵な笑みを向けた。

「悔しかったら、お前も男の一つも見せてみな」
「あなたなんかに言われるまでもありません! なってやろうじゃありませんか! あなたの度肝を抜くような英雄に!! 今に見てなさい、僕はなってやりますよ!!」

 吠えるウェル博士は、そのまま自衛隊員に連行されていった。

 連れて行かれるウェル博士の背中を見送る颯人と奏。彼の姿が見えなくなると、奏が颯人の脇を肘で小突いた。

「いいのか? あんな風に発破かけたりして?」
「あのまま獄中自殺されたりするよりはマシさ」

 ハッキリ言って先程までのウェル博士は、失意のどん底でそのまま何の情報も吐き出さずに衰弱死してしまいそうだった。そうなる位なら、多少今後に危険が残るが精神的に元気づいてくれた方が良い。少なくとも颯人はそう考えた。

 とりあえずこれで直近の問題は粗方解決だろう。ジェネシスには逃げられてしまったが、彼らは今回の騒動で戦力の大半を失った筈だ。次に何かをするにしてもそれには長い時間が掛かる筈だ。

「あ~、終わった終わった!」
「帰るか…………あ! そう言えば颯人?」
「ん?」
「さっき言ってた、『とっておきの呪い』って何だ?」
「え? あ、あ~…………また、後でな」
「何だよ、気になるだろ!」

 颯人が何を隠しているのか気になる奏はしつこく問い掛けるが、颯人は頑なに答えようとしない。

「もしかして嘘だったのか?」
「嘘じゃねえよ。ただあれだ、ここは雰囲気じゃなさすぎる。だからまた後で。もうちょっと落ち着いたらな」

 そう言って颯人はそそくさとその場を歩き出す。その先には、仲間達と喜びを分かち合う響達の姿があった。

「おい待てって! は~や~と~!」

 颯人の後に続く奏。

 背に奏の声を受けながら、颯人は懐に手を突っ込みそこにある”一つの指輪”の存在を確かめるのだった。 
 

 
後書き
と言う訳で第106話でした。

今回でG編は終了となり、次回からは数話ほどしないフォギアを挟んでGX編となります。

なるんですが、ここでちょっとしたお知らせ。

GX編はちょっとストーリーを凝りたいというか、やりたい事があるんで構成を少しじっくり練りたいと思っています。それと同時に、並行して現在連載しているオリジナルライダー物がもうじき完結まで書けると言う事で年内完結に向けて全力を注ぎたいと考えています。
ですので勝手ながら年内は今回で最後とさせていただきたいと思っています。そんなに長くお待たせするつもりはありませんが、次の更新は年明けからとなります。年が明けてからは再び更新しますので、それまでどうかお待ちください。

年明けの更新をどうかお楽しみに!それでは。 
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